188 約束と心配
随分と久しぶりの投稿です。
続きが進まなくてすみません。
出来るだけ頑張ります。
スノウラビット族
アナベルさん・・・白熊討伐派(かつて白熊と何度も戦ったが、その都度惨敗してきた)
アイーダさん・・・犠牲享受派(グレートリザードと白熊にそれぞれ生け贄を出す)
トレールさん・・・年老いた白いトラ(双方のスノウラビット族とも共存している)
「そんなのどうせ嘘でしょ。身体強化魔法を教えてもらうだけもらって、後は逃げればそれでおしまいよね。あなたなんか信用できないわ」
あーーこれまでの流れからすると当然の返事かあ。
ただ、アナベルの口からは信用できないと言っていても、潤んだ瞳からは何か期待の様なものが見えなくもなかった。
どうしたら信じてもらえるかな。
何か・・・何か気持ちを動かせる事があればアナベルを納得させられるかもしれない。
アナベルについてのこれまでの会話を思い出してみた。
・・・・・そう言えば、アナベルの所属するスノウラビット族は白熊と戦ったけれども、勝てなかった部族の方だったな。
このことは使えるかな。
アナベルにこのネタを使うと、もしかすると逆に怒らせてしまうかもしれないけど・・・。
・・・いいや、怒らせたらなら、その時にまた考えても差しつかえないだろう。
「信用できないのはわかってるが、もしも身体強化魔法の見返りとして白熊を倒したら、お前たちの部族の念願がかなうんじゃなかったか?」
「うっ、それは・・・」
おっ、思った以上に効いてる。
アナベルは自分の方を直視して何か言おうとしていたが、何も言えないでいた。
そもそも白熊を倒すのは決めていたことだし、先ほどの戦いから勝算が全くないわけではない。今ここで話していることは嘘でも何でもないんだ。
本当の事だから・・・決して身体強化魔法を手に入れる為だけの口車ではない。
何となく相手の弱い所を攻めるのは少し罪悪感を感じざるを得なかった。
しかし、この先身体強化魔法の有効性を考えるとそんなことは言ってられないと自分に言い聞かせるように話を続けた。
だから・・・だから、あと一歩何かだめ押しを・・・・。
「アナベル、約束しよう。必ず白熊を倒すから」
アナベルの真っ赤な瞳が一瞬で潤んだかと思うと、大粒の涙がどんどん零れ落ちてきた。
「・・・倒せるの・・・」
アナベルは弱々しい声で自分に向かってつぶやいた。
「間違いなく!」
確実に倒せるかどうかは自信はなかった。
それでもアナベルの不安を取り除くには弱気なところを見せてはいけないそう考え、力強くうなづいて返事をした。
「ちょっとっ!デカ蛇っ!私は騙されないわよ。私たちの部族がようやくたどり着いた今の状況をあなたはぶち壊そうとしているのよ。分かってるの!」
何とかアナベルの信用が取れたと思った時、当然のように横からアイーダが反論してきた。
しかし、これまでのようにとげとげしい話し方ではなかった。
もしかするとアイーダも信用させてほしいという願いが詰まっているんじゃないかと感じたのだ。
アイーダの部族はアナベルの部族よりも先に、わずかな命を貢ぐことで大きな被害を防ぐことを受け入れていたことを思い出した。
そして、今、アイーダ達はその代表であった。
もしかすると自分が白熊と戦えば、アイーダの同族の犠牲を無駄にしてしまう問題があると心配しているように思えた。
普通に考えればそうだろう。
余計なことをして、トラブルを起こしてしまうことは絶対に避けたいことだ。
弱肉強食の世界では弱い種族であれば、少しの犠牲を払っても、生き延びることを優先させるのは間違っていない。
アイーダさんが心配しているのはそういうことだろう。
さらに身体強化魔法がスノウラビット族固有のものである可能性を忘れてはいけない。
もしも自分がその魔法を使うと、それだけでスノウラビット族のせいだと誤解を受ける可能性もある。
アイーダさんが考えていることがどこまでなのかはわからないが、ここで信用させておかないといけない気がした。
不安に思っているアイーダさんを信用させるには、ここで不安を解消してあげればいいのではないか?
何となくであるが、そんな気がした。
「アイーダさん、何をそんなに心配しているんですか?」
「普通だったら、心配するでしょうが!あんな化け物を簡単に倒せるようなことを言われて、それを簡単に信用しろといったって難しいでしょうが!」
「アイーダさんは心配性ですね」
「ちっ、違うわよ。心配性ではなくて、本当に心配しているのよ」
これまで自分に刺さるように目を合わせてきていたアイーダさんが突然目をそらすようにして返事をしてきた。
これまで強気に話していたのは、心配性の裏返しだったのかもしれなかった。それを指摘されて少し動揺しているように見えた。
動揺しているアイーダさんは少しかわいく見えた。
見た目がウサギなので、普通にかわいい動物なのに少し動揺しておろおろしている様子が愛らしく感じた。
心配性のアイーダさんを納得させるには、その心配を取り除けばいいのだろう。
「アイーダさん。実は自分は白熊から逃げたのではないのですよ。ギリギリだったけど白熊からの猛攻撃をしのぎ切って追い返したのです」
「追い返した!?あの、白熊を・・・」
先ほどトレールさんとの会話では攻撃をしのぎ切ったことは伝えていない。