187 無理よ
スノウラビット族
アナベルさん・・・白熊討伐派(かつて白熊と何度も戦ったが、その都度惨敗してきた)
アイーダさん・・・犠牲享受派(グレートリザードと白熊にそれぞれ生け贄を出す)
トレールさん・・・年老いた白いトラ(双方のスノウラビット族とも共存している)
「はい、もしもよければ教えてもらえたらと思います!」
これは絶対に教えてもらっておくべきだと思って元気よく返事をした。
「トレールさん、こんなやつに大事な身体強化魔法を教える必要なんてないよ」
しかし、アイーダさんから横やりが入った。
折角、良いところまで来ていたのに、このウサギさんはすぐに突っかかってくるんだから・・・。
「アイーダ待つんだ。この師匠君は思ったより強いぞ」
「こんなやつのどこが強そうに見えるんだよ。ただデカいだけじゃないか!」
本当にこのウサギのアイーダさんはムカつくな。
「お前は話を聞いていたのか?師匠君は白熊と戦って生き残っているんだ。それに、私に身体強化魔法を使わせたこともそうだ。お前達スノウラビット族が束でかかって行ってもおそらく勝てないじゃろう」
トレールさんがアイーダさんをいさめるように説明してくれた。
「うちらだけじゃ無くても、トレールさんが手伝ってくれれば、こんな奴を倒すのは簡単じゃないか」
それが悔しかったのかアイーダさんは強がっていた。
「アイーダ、そんなに強がるもんじゃない。お主もわかっておろうが・・」
「だって・・・・・」
「アイーダ!」
トレールさんが念を押すようにアイーダに伝えるとアイーダもしぶしぶ納得していた。
「・・・でも、そんなことしたら、また・・・」
アイーダさんはどうしてそんなに自分が強くなるのを嫌がるのだろう。
そんなことを考えていると、アナベルさんがゆっくり顔を上げた。
「いいじゃない。教えてあげてよトレールさん」
「アナベル!何勝手なことをいってるんだ。そんなことをしたら、また、あの悲劇が始まるだけじゃないかっ!」
悲劇ってなんだよ!
1つの部族が2つに分かれたことか!?
でも、それと、自分が強くなることはやっぱり関係ないように思えるんだけど・・・・。
いいや、聞いちゃえ!
「あの・・、聞きたいことが・・・」
「それなら、条件をつければいいじゃないの」
アナベルさんは勝ってに話を進めて来た。
だから、自分の話をどうして聞いてくれないんだろう。
本当に凹んじゃうよ!
「どんな条件よ」
アイーダさんはアナベルさんに強めの口調で伝えた。
あ~あ、自分の事なのに勝手に話を進めてるよ。
もうすきにしてくれ。
「教える代わりに、白熊と戦ってもらうの」
「「えっ」」
自分とアイーダさんは同時に声を上げた。
あ~それ、自分には条件になってないんだけど・・・。
もともと、白熊とは必ず決着をつけてやるつもりだったし・・・。
でも、そんなことが条件なら、都合がいいな。
「無理よ」
アイーダさんは静かに答えた。
あの~無理じゃないんですけどっ!
「あの白熊と戦って、今回無事に切り抜けたこのデカ蛇が、もう1度戦うなんて絶対にありえないわ」
「それでもっ!・・・・いゃ・・・・それでも・・・」
アナベルさんは力強く反論してみたが、次第にその声は小さくなっていた。
「ごめんなさい・・・無理な条件を言ってしまったようね・・・」
アナベルさんはあっさりと反論することをやめてしまった。
ちょっと、今までのさんざんな発言を考えたらそんなに簡単にあきらめないでよ。
「・・・わたし・・・私たちのね・・・・今の境遇からすると、このデカ蛇が戦おうが戦うまいが関係ないの。でも、もしもこのデカ蛇がトレールさんが言うように強いなら。私たちの部族の念願がかなうかもって、少しだけ期待しちゃったのよ」
アナベルさんは今までにない位、やさしい笑みを浮かべていた。それに、瞳は涙が今にも零れ落ちそうになっているのもすぐにわかった。
「アナベル・・・あなたの気持ちもわかるけど、私は今のままでいいと思うの。数少ない仲間が犠牲になるだけで・・・すべてがうまくいくのよ。そう・・・これまで、上手くいっていたじゃない・・・ね」
アイーダさん少し元気がなくなったように静かになった。
なんだ!?犠牲って!?
・・・・あっ、そうか。
この2匹は白熊とグレートリザードの生け贄になるんだった。
スノウラビット族はこうして、生け贄を出しながらこの世界でうまくやっているんだ。
自分が簡単に口出しできることじゃなかったんだ。
・・・・反省だな。
「戦っていいですよ」
静かになった2匹に向かって優しく声をかけた。
アイーダさんもアナベルさんも一瞬理解が出来ずにポカーンとしていた。
「だから、私が白熊と戦いますよ。どうせ、戦うつもりだったしね」
「戦うって・・・せっかく、生き残ったのにどうして命を粗末にするような生き方をするつもりなの?」
アイーダさんがなぜか少し優しく声をかけてくれた。
「一応、勝算もなく戦うつもりはないですけどね」
アイーダさんもアナベルさんも自分の発言が予想外過ぎて驚いていた。
勝手に話を進めておいて、今更驚くなんて忙しいウサギさんだね。
「勝てる見込みがあるっているの!?・・・あの白熊よ!」
固まっていた氷が解けるように先に声を発したのはアナベルさんだった。




