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185 アイーダさんとアナベルさんの秘密

「なんじゃ誤解があったようじゃな。わしもむやみな殺生はしたくなかったんでな。主を殺さんでよかったわい。はっはっはっ」


 白いトラのトレールさんはよく見たらかなりの年齢を重ねているように見えた。


 あの強さは本物だったんだ。


 そりゃあ、勝てるわけないか。


 そうしたら、何をしていたんだろう。


「トレールさん。あの時自分はこのウサギ達を食べようとしているように見えたんです。でも、そうじゃないとすると何をしていたんですか?」


 この発言にウサギのアイーダさんとアナベルさんの口撃が来るかと思いかまえていたが、うつむいて口を開こうとしなかった。


 白いトラのトレールさんも同じように黙っていた。


 あれ、なんかやばい事聞いちゃったのかな。


 どうしよう。


 何か返事をした方がいいのかな。


 どうしたらいいか悩みながら、しばらく沈黙が流れた後、トレールさんが口を開いた。


「だまっておっても状況は変わらんからの。こんなところで、なんじゃから。若いの・・あぁ、名前は何じゃったかの?」


「名前はないんです。名前を付けられる前に親が死んでしまって・・・。仲間からは師匠と呼ばれていましたが・・・」


「何じゃ師匠か?面白いのう。まあ、何でもよい。じゃあ、師匠君わしについてこい。それからお前らもじゃ」


 白いトラのトレールさんはそういうとゆっくりと歩きだした。


 ウサギのアイーダさんとアナベルさんもトレールさんについてゆっくりと歩きだした。


 自分も歩き出そうとすると、体中の痛みを感じた。


 そうだった。


 もう、死にかけといっていい位、体中が傷だらけだったことを思い出した。


 まあ、殺されに行くわけではないから、ゆっくりとついていくことにするか。


 一つの心配が心に引っかかっていた。


 ギィとアリスである。


 それは最後のメッセージがとても心配させる内容だったからだ。


 いずれにしてもこんな状態では足手まといにしかならないのはわかっている。しかし、連絡が取れないままというのも落ち着かない。


 『”通信”ギィ、アリスもし聞こえたら返事をしてくれ!』

 

 トレールさんの後をゆっくりと歩きながら返事を待ってみたが届いていないみたいだった。


 無事を祈りながらゆっくりと進んだ。


 ※     ※     ※


 30分位の間、皆黙ったまま歩き続けると、木に隠れて見えにくくなった洞窟が見えた。


 普通に移動していても絶対に見つからないように、巨大杉がその場所だけ密集していたのだ。


 トレールさんにアナベルさんとアイーダさんが続き、最後に自分が洞窟に入った。


 洞窟の中を100m位進むと非常に大きな広場があらわれた。

 正面を見ると、洞窟を取り囲むように300m位の高さの断崖絶壁になっていて、天井はヒカリゴケで明々と照らされていた。

 奥には川が流れていて、集落があったような住居が立っていた。

 しかし、その住居には生き物が生活している様子が全くなく、まるで廃墟のような集落だった。


「師匠君、ご覧の通りここは以前隠れ村があった場所じゃ。しかし、今は誰も住んでおらん。かなしいことじゃ」


 白いトラのトレールさんはどこか遠くを眺めて思い出すようにゆっくりと語った。


 そして、さらに奥に進み、そこには小さな住居の様になった場所があった。


「わしは今ここで暮らしておる。わし以外は誰もおらんがな」


「トレールさん。私たちも初めて来ましたけれども、よかったのですか?」


「かまわんよ。どうせ、お前たちは・・・・」


 トレールさんは悲しい目をして、話すのをやめた。


 ここで、理由を聞いたら何かの問題にかかわりそうで迷っていたが、ここは聞いておくべきところだろうと考えた。


 きっと、ここでの経験がきっと何かに役に立つような気がしたのだ。


「差し支えなければ、理由を聞いてもいいですか?何か困ったことがあるように見えます。もしも自分が力になれることがあれば協力したいのですが・・・」


 勝手に種族の問題にかかわるのもよくないと思ったが、それでもトレールさんを見ていると何か手伝えることがないかを伝えずにはいられなかった。


「はぁ~!あんた、何言ってのよ。これは私たちの種族の問題なんだから口を出す権利なんてあんたに全くないんだよ」


 それに対して、アイーダさんは相変わらず、敵対心まる出しで答えて来た。


「何言ってのアイーダ。勝手に私たちの問題にしないでよ。あなたにはあなたの種族の問題で、私は私の種族の問題ですから、勝手に一緒にしないでっ!」


 以外にも、アイーダさんに向かって、アナベルさんが文句を言っていた。


 この2匹は仲良しなのかと思っていたが、種族が違っていがみ合っていたのかな。


「まあまあ、お前たち喧嘩をするなよ。この師匠君は事情を何も知らんのだから仕方がなかろう」


「フンだ」

「へんだ」


 アイーダさんさんもアナベルさんもむくれて反対側を向いてしまった。


「やれやれ、すまんのう。師匠君。この二人は別々の種族からの代表なのじゃ・・・・・だたし、生け贄(いけにえ)じゃがの」


 トレールさんから伝えられたのは生け贄という衝撃的な言葉だった。


「そんな、生け贄なんてどうしてそんなことに・・・」


 


「話せば長くなるんじゃが・・・」


 こうしてトレールさんは、ウサギの2匹がどうして、生け贄にならないといけないのかを説明してくれた。


 簡単に言うと、昔は同じスノウラビットという種族だった。そして、この集落で暮らしていて、当時から、定期的にやってくるグレートリザードにいけにえを出す習慣はあった。

 しかし、ある日突然、どこからか白熊がやってきて、種族を無差別に襲うようになった。このままではいけないと考え、部族の中で白熊を討伐しようとするグループ(白熊討伐派)とむやみに戦って死者を増やすよりも白熊とグレートリザードそれぞれに1匹づつ生け贄を出そうと主張するグループ(犠牲享受派)に分かれてしまった。そして現在もそれぞれ敵対関係が続いていて、しかも、今はこの場所を捨てて、別の場所にそれぞれ住んでいるということだった。

 そして、今回それぞれの生け贄であるアイーダとアナベルは別のモンスターに攻撃を受けていたところをたまたま通りかかった馴染みのあるトレールさんに助けてもらっていたということだった。


 そして自分はというと、たまたま出くわして、かってな正義心でもって、助けたわけである。


 それでも、この話を聞いて、生け贄ということがどうしても不憫ふびんでならなかったこともあり思わず口に出てしまった。


「生け贄なんて・・・あの白熊を倒せばいいじゃないか?」

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