180 この世界は弱肉強食だ。
ここから、主人公の有栖根郁呂に戻ります。
3つに分かれた物語は飛び飛びになってしまいますが、
どうか、どうかよろしくお願いします。
ギィとアリスに通信を送った後に帰って来た返信は危機的状況にあるという内容だった。
すぐにでも助けに行こうと考えたが、今の自分は満身創痍だった。
それでも何とかしないと思って何度か通信を送ってみたが、返信は1度も返ってこなかった。
「ギィ、アリスどうなっているんだよ。お願いだから返信してくれ」
必死で願いを込めて薄ぐらくなった空に向かって叫んでいた。
ふと、空を見て気がついたことがあった。
それは、暴風雪はすでになかったが、雪が振り続けていて、周囲は薄ぐらいだけでなく視界も減っていた。
「雪が降っている。戦いの前まで明るかったのに、今は森全体が薄い闇に包まれているみたいだ」
辺りを見回して、雪が降っているせいで遠くが見えないことにも気がついた。
「もしかして・・・・方向を見失っているのか!?そして、返信が来ないのは、返信出来ないんじゃなくて、通信が届かないんじゃないのか!?」
こんな巨大杉の森の中でバラバラになってしまったら、どうやって居場所を確認すればいいんだ?
右を向いても、左を向いてもギィやアリスがいるヒントが全くなかった。
「今、確実な情報は最後に伝えた『道に向かえ』と言った言葉だけか・・・」
仕方がないので、今いる場所から見える道に向かってゆっくりと移動を開始した。
自分の体の傷もかなりの深手だったので、移動中に何か口に入れられるものがないかを探した。
しかし、周囲は真っ白で、巨大杉の幹すら紛れてしまうほどだった。巨大杉は木の上部にある緑でようやくわかる程度だった。
「辺り一面真っ白だな。これこそ、銀世界っていうんだろうな。それにしても、何か口に入れられるものは無いのかな?」
自分の体力の無さに食べ物を探していたが、ギィも同じくらいのダメージを受けていたことを思い出した。
「ギィはアリスと合流したはずだから、何とか口にするものがあったのかな。それにしても、あいつらは何を食べたんだろう。それとも、何も口にしないままなんだろうか!?」
アリスはダメージを受けていないからまだしも、ギィはかなりダメージを受けていて満身創痍に近かったはずだったのを思い出してかなり心配になった。
「あいつらはあいつらで何とかするだろう。仕方ない、雪でも食べて水分だけでも取っておこう・・・・・うゎ、つべたい」
雪は周囲にたくさんあったので、とにかく雪を食べて若干の飢えをしのいでみた。
ギィとアリスが敵に襲われているのは間違いないので、出来るだけ早く体力回復に努めたかった。
一方で、約束の道がある場所まで早く進まないといけないというはやる気持ちで一杯だった。
「もしかして、道のどこかで敵と遭遇している可能性もあるから急いでおかないといけない」
この異世界でモンスターである自分の体はゲームと同じように少しづつ時間でHPが回復していく。
そして、緑エノキなどの回復できる食べ物があればその効果を速めてくれる。
しかし、移動しているとHPの回復スピードは遅くなるのだ。
その理由は分からない。
それでも、治癒スピードは人間と較べると圧倒的に速かった。
ここら辺はゲームと同じような感覚といってもいいだろう。
ステータスが見えるからこそこんな感覚になるのかもしれない。
そうすると、この感覚は自分だけのものであると言える。
だからといって、今すぐにHPが簡単に回復するかといえば、そんなことはない。
こんな状態で敵と遭遇したとしたら非常にやばい。
ゲームなら画面が赤く点滅しているはずだ。
それでも、自分は約束の道に向かってひたすらに移動した。
道のある巨大杉の無い場所がだんだんと近づいてくる。
遠くに道が見えていた。
この巨大杉の森は進んでも進んでも予想した通りに進まない。
巨大杉が大きすぎて見た目と、実際の距離がかなりかけ離れていた。
予想外にあの道は遠いな。
遠くを眺めながら1人つぶやいていた。
すると、今移動している場所のすぐ近くで白いトラに襲われているように見える2匹のウサギが見えた。
あっ、ウサギが襲われているが・・・。
この世界でウサギが弱いかといえば、そうとは限らない。
この世界は弱肉強食だ。
弱いものは倒される。
ウサギがトラを倒すかもしれない。
今見えているウサギがトラを倒すかもしれない。
もしも、倒せなくても逃げることが出来る。
きっと、逃げることが出来る。
それに、もしもトラが倒さなくても、自分が倒すかもしれない。
分かっているんだ。
この世界ではそれが当たり前。
でも、でも・・・ここから見えるうさぎは明らかにトラに倒されようとしている。
それに、ウサギはなんだか、だれかに助けを求めているように見えた。
自分だけの独りよがりかもしれない。
ウサギは自分なんかの助けなんか求めていないかもしれない。
でも、日本人である僕はこの瞬間を見逃すことはできない。
「待ってろ!助けてやるっ!」
自分はジャンプで一気に距離を詰めて、トラから2匹のウサギを奪い去った。
ウサギは意識がなく見た感じ、かなりダメージを受けているようだった。
後ろを向くと白いトラが自分を追いかけて来た。
「あのトラに勝てはしないが、逃げることはできるから安心するんだ!」
聞こえているとは思えないがウサギに声をかけた。
読んでいただきありがとうございます。