17 決着でかこうもり
「なんだあの爪はっ、注意しないと危険だ」
連続ジャンプで回避はできるが、水弾丸(改)5連撃だけでは心もとない。
こうなったら、ポイズンファングを試してみるか。
「次の急降下に合わせて・・・ポイズンファング!!」
でかこうもりの急降下・爪攻撃をジャンプで回避した。
連続ジャンプで後ろに回り込み、隙をついて攻撃を合わせた。
「ポイズンファング!ついでに、パラライズニードルも・・・どうだ!?」
毒の牙をでかこうもりに食い込ませた。
そしてほぼ同時に、尻尾の先のパラライズニードルを刺し込んだ。
でかこうもりの体を土台にしてジャンプして距離をとった。
「よし、うまく入った!」
しかし、でかこうもりはまるで攻撃など食らっていないとでもいうように上空を旋回していた。
だた、先ほどよりも少し警戒していて、むやみやたらに急降下をせずにこちらの出方を伺っているかのように思えた。
「よし素早さはこちらが上のようだ。1度でだめなら、効果があるまで何度でも繰り返してやる!」
しばらくすると、先ほどの警戒はなかったかのように急降下・爪攻撃を繰り返してきた。
しかし、こちらの攻撃には警戒していて何度も失敗させられた。
ようやく3度目のポイズンファングとパラライズニードルの連続攻撃が決まった所で、少し変化が見られた。
それは少しづつであるが飛行状態に乱れが見えてきたのだった。
「よし効いてる!このまま攻撃を続ければ何とかなりそうだ!」
攻撃の目途が立ってきたと思ったら、でかこうもりに今までにない動きが現れた。
何かを口ずさんでいるのだ。
しかし飛行状態の乱れは変わらずに続いていた。
「なんだこんな時に!戦闘中だろう。もしかして負けを認めて許してもらおうとしているとか!?まさかな」
でかこうもりは話しかけてくる動作をやめた直後、ふたたび急降下・爪攻撃を放ってきた。
「やっぱり闘いをあきらめていないか?それならポイズンファングだ!」
あの動作は何だったのだろうかと疑問に思った。
だがそれは後で考えればいい、今出来ることは避けて反撃を入れるだけだ。
そして、でかこうもりの攻撃を避けて、ポイズンファングを撃ち込むためにジャンプをした。
「あれっ!うまくいかない。なぜだ!」
しかし、なぜだかわからないが、イメージ通りに動けずに急降下・爪攻撃の直撃を食らってしまった。
「えっ、何が起きたんだ!普通に避けれたはずなのに・・・どうして、急に!?」
思った動きが出来ていなかったことに動揺していた。
しかし、でかこうもりの攻撃は止まらない。
こちらをにらみつけて急降下・爪攻撃を放つ体勢になった。
それに合わせて回避するために体を動かそうとした時に気がついた。
動作がゆっくりとなっていたのだ。
ダメージを食らってゆっくりとなったのではなく、明らかにスローモーションになっているかのような印象を受けた。
「やばい、さっきのは魔法か!?素早さを奪うって事か。何のんきに負けを認めてもらっているだ。ばかか」
自分の愚かさを非難しながらも、どれくらい素早さがダウンしたのかステータスを確認しようとした。
しかし、でかこうもりはその隙すら与えてくれず急降下してきていた。
とにかくジャンプで回避しようとしたが、ジャンプすらもゆっくりとなっていた。
仕方なく水弾丸(改)網を3枚掛けにしてトラップを仕掛けてみた。
でかこうもりは、このトラップ自体の攻撃よりも、急に現れた障害物に危険を感じたのか緊急回避を行った。
おかげで、若干であるが、時間稼ぎが出来た。
「ステータス出ろ!素早さはと・・・」
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【素早さ】 154(-77)
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ステータスを確認して驚いた。
素早さが半分になっていたのだ。
このままでは、でかこうもりの急降下・爪攻撃を避けられない。
遠距離攻撃魔法も危険だと思ったが、一旦距離をとることにして連続ジャンプを行った。
予想通り距離をとった後、間を置かずに遠距離攻撃に切り替えてきた。
回避が難しいのは変わらなかったが、頭の直撃だけは避けないといけないと考えた。
痛みに耐えながら、ゆっくりとした移動スピードであったがなんとか回避を続けて、避けられない攻撃は体で受けた。
かなりダメージを受けたと感じたが、しだいに素早さが戻り、いつものスピードが出せるようになった。
「スピードが戻ったから、少し警戒しているな」
でかこうもりはスピードが戻ったことで、警戒するかのように距離をとっていた。
そのため、追撃してこずに遠距離攻撃のみに専念してくれた。
おかげで一度、洞窟の隅に隠してあった緑エノキのところまで戻ることができた。
途中、HPを確認したところ半分くらいまで減っていたが、緑エノキのおかげて3割くらい回復することが出来た。
このまま、ゆっくりさせてくれるとは思わないが少し状況を見直すことにした。
スピードが戻ったことで、この距離なら何とか攻撃を受ける回数は少なく出来ていた。
「あのつぶやきは危険だ。素早さを減らされる。それに、ダメージだけでなく、麻痺攻撃を受けていて、あんなにフラフラなのに遠距離攻撃魔法は衰えを知らないじゃないか!どうなっているんだ!?」
攻撃を受ける回数が減ったといっても、あれほどの高威力の遠距離攻撃魔法を受け続けていたら勝てるものも勝てなくなる。
「あの素早さを減らされるつぶやきは危険だが、勝機の見えない長距離戦闘よりもましか!」
ジャンプででかこうもりに近づくため1回目のジャンプから次のジャンプに入ろうとした。
すると待ってましたと言わんばかりタイミングを合わせて遠距離攻撃魔法をしかも連射で放ってきた。
「ちょっと、ちょっと魔法打ちすぎじゃないの!」
素早さの低下していない今のスピードでは何とか最初の1撃目は回避できた。
次撃目は回避した後のポジションに狙ってきていたので回避できずに直撃した。
「次はどっちだ?」
遠距離攻撃魔法とでかこうもりの居場所を確認するために顔を上げた。
目を上げた瞬間、でかこうもりはすぐ目の前にいた。
そして、厄介なあのつぶやきをしていた。
「やばい、素早さが減ってしまう」
でかこうもりの魔法をよけないとと思いあわてて体を動かした。
しかしすでにスピードがスローモーションになっていた。
「くっぅ!」
【ウルトラソニックを獲得しました】
この距離であの魔法はやばいと強い危機感を感じた瞬間に、メッセージさんの声が聞こえてきた。
今の状態ではっきりと聞き取ることはできなかったが、ガンバレとまるで応援してくれているような気持ちにさせてくれた。
「一人で戦っているわけではないと思うと、元気が出るよ。メッセージさん、ありがとうね」
メッセージさんに感謝を感じていると、遠距離攻撃魔法の3連撃が飛んできた。
避けられないっ!
とにかく防御しないと・・・考えても、出来ることは一つだけだ。
水弾丸(改)網ぃぃぃぃぃーー!!
今の自分で魔法防御が出来るのは水弾丸(改)網しかなかった。
この距離で何とかなるか!?
とにかく、ゆっくりとしか動けないので少しでも何とかなればと今できる最大の5重で放ってみた。
そして同時に、回避行動をとってみた。
素早さが低下している状態では回避は難しいとわかっていたが、それでも、水弾丸(改)網に期待した。
この距離では、でかこうもりの遠距離攻撃魔法を1発すらも対応できなかった。
結果、3発とも直撃を受けてしまった。
でかこうもりはここぞとばかりに遠距離攻撃魔法を打ちまくってきた。
それでも、ゆっくりと回避行動をとりながら、水弾丸(改)網を最大の5重で放ちまくってみた。
そして、なんとか隙をついてステータスを確認した。
「HP残り約3割か!どうすればいい?とにかく逃げて逃げて逃げまくるしかないよな」
ゆっくりのスピードでは避けれるはずもなく、水弾丸(改)網で目隠しをしてダメージを受けつつ、さらに回避行動を続けた。
【ウインドカッターを獲得しました】
不意にメッセージさんの声が聞こえた。
回避行動しつつ水弾丸(改)網を連射して、ダメージを受まくっている中ではメッセージさんがなんと言っているかはっきりと聞き取ることは困難であった。
それでも、その口調は何だか心配しているような印象が残った。
「ウインドカッターと聞こえた。新しい攻撃魔法か?ウインドということは風系統の魔法って事だな。同系統の魔法なら何とかなるかも・・・よし、これから反撃の時間だ」
ウインドカッター!!
素早さの回復はまだできていないが、魔法を放つことはできる。
そう考え、さっそく同じ魔法を放ってみた。
でかこうもりは突然自分と同じ魔法で反撃されたことに、状況を見失って戸惑っているように見えた。
もう一発、ウインドカッターを打とうと尻尾を構えると、自分の素早さが戻っているのを感じた。
これならともう一つ試したいことがあったので、一気に連続ジャンプででかこうもりとの距離を詰めた。
距離を詰めたことで、でかこうもりはつぶやきつまりウルトラソニックを再度唱え始めていた。
ここで、こちらもウルトラソニックを唱えれば相殺もしくはお互いにかけあうことで優位性をなくすことが出来ると考えた。
ぶっつけ本番だが、色々試してやれ!
ウルトラソニック!
どうだ!とでかこうもりの様子を見たが、素早さが下がっている感じはしなかった。
耐性があるのか、もしくは自分のランクが低いからか、相手の素早さを奪うことはできなかったようだった。
にもかかわらず、自分の素早さ半分になってまたもやゆっくりと動く羽目になった。
「やっばいわ。近すぎる!どうしよう」
そして、次に来るのは予想通りウインドカッターだろう。
この距離で今の体力では非常に危険だ。
とっさに水弾丸(改)網を思いついたが、近距離では効果がなかったのは先ほど証明されていた。
それなら、イチかバチか、目には目を歯には歯をだ!
ウインドカッター!!
キィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
でかこうもりのウインドカッターにウインドカッターで対抗した結果、高音ではじけるような音の後、衝撃波が飛んできてお互いにダメージを受けていたことがわかった。
「うぉぉおお、今度は何とか相殺出来たぁああ。これまで、でかこうもりもかなりの魔力を使っているはず。こうなったら、後は魔力のガチンコ勝負だ。魔力量の多い方が勝つ!!」
でかこうもりも自分と同じように考えているのか、ウインドカッター勝負が続いた。
キィィィィンという高音と衝撃波が繰り返し続いた。
10回までは数えたがそれ以降は数えれなかった。
でかこうもりは、あとどれだけ魔力が残っているのか?自分よりも魔力量が多いいのではないか?とそんな心配で、自分の心臓はバクバクしていた。
ウインドカッターを放ちながらも、ステータスを確認を確認した。
「残りHP1割、MP1割。もう・・・だめか」
半ばあきらめかかった時に、でかこうもりからのウイングカッターが止まった。
そして、自分の放ったウインドカッターはそのまま進んで直撃していた。
でかこうもりは魔力切れを起こして地上に降りてきた。
そのまま地上に降りてくるかと思ったが、再度大きな羽を広げて飛び上がろうとしていた。
「よし、勝ちはもらった!」
でかこうもりは必死に自分の攻撃から逃れようとして急速に後退していったが、ウインドカッターはもともと長距離攻撃だ。
残りの魔力を全部使いきるつもりで、でかこうもりに対して、ウインドカッターを打ちまくった。
数発は避けていたが、それでも3発目のウインドカッターがでかこうもりに直撃したところで動きが止まり落下してきた。
【レベルが5上がって8になりました】
いつものメッセージさんの力強い声ではなく少し震えているように聞こえた。
心から心配していたが無事だったことにほっとしたと言っているように優しく響いてきた。