169 (sideアリス)木の根が回復薬!?
「ギィちゃん。あそこの道の見えるところまで行きますわ、ですが少し休んでからの方がいいかもしれませんわね?」
アリスはギィの傷の多さが気になっていた。
傷だけでなく、これから向かう先が森の奥だということも心配の一つだった。
ついさっき戦った敵である白熊のスピードが圧倒的に早いことを考慮に入れた。
だとすると、これから先の敵もかなり強いと考えておいても悪くはないと予想していたからだ。
「そうだね。少し休んでからにしようか」
ギィは緊張の糸が切れたように力を抜くと、いきなりその場で眠り込んでしまった。
「あれあれ、やっぱり疲労と怪我の為に弱っていたんですのね」
アリスは眠り込んでしまったギィに落ち葉をかぶせて周りから見えなくした。
まわりから隠すだけでなく、すこしでも体温を上げることが出来ればと思ったのだ。
「これで良しと、すぐにでも師匠と合流場所に行きたかったけれども、仕方ありませんわね」
アリスはその場を離れてゆっくりと周囲を見て回った。
緑エノキみたいなものが何かあるかもしれないと考えたのだ。
「見た感じ、何もありませんわね。少し雪をのけてみましょうかしら」
アリスは牙を使って雪かきをして周囲の雪を取り除いた。
「へぇ、ここら辺は雪の下に土がありますのね。あら、あれは何かしら?」
雪かきをしたときに、土も少し取り除いていた。
その場所に木の根らしきものが見えた。
「木の根ですか。これは食べられるモノですの?」
アリスは初めて見る木の根に食べられるはずがないと首をひねっていた。
しかし、周辺に合って口に入れることが出来るものは他に見あたらない。
食べるかどうか迷っていた。
しかし、このままギィがゆっくり休んでいたとしても、自然に治癒するにはこの寒さがかなりの障害になると思った。
「口に出来るものならかまいませんわ。今は選んではいられませんもの。えいっ!」
アリスは思い切って、木の根に噛み付いて、少しだけ食べてみた。
木の根の周りは土がついていて黒くなっていたが、噛み付いたところは白くなってとろ~りとなっていた。
「あらら。食べれないことはありませんわね。コリコリしていますわ。よく噛むと少し甘みもあるようですわね。これならいいかもしれませんわ」
アリスは周辺の土を牙で掘りながら木の根を取り出した。
取り出した木の根を雪を使って、少し土を落とした。
木の根の周りには短い毛のようなものがあったが、土を取り除くと少し薄茶色になっていた。
「ここら辺にはたくさんありますわね。何本かもっていってもいいですわね。ふふぅ」
アリスは木の根を数本抱えてギィの側に戻ってきた。
「ギィちゃん。ギィちゃん・・・起きてっ!」
アリスはギィに声をかけて体をゆすってみた。
「う~ん・・・むにゃ・・・むにゃ・・・もう少し寝せてよ・・・ありすちゃ・・ん」
「ギィちゃん。食べ物ですわ。少しだけでも口に入れてもらえませんの?」
「・・・にゃあに・・食べものがあるの?わかったよアリスちゃん」
ギィは眠そうにしていたが、食べ物があると伝えるとゆっくりと起き上がってきた。
しかし、目が開いていない。
眠くて、目が開かないのだろう。アリスは丁度いいと思った。
「ギィちゃん。口を開けますの!」
「なあにアリスちゃん。口をあけれ・・・・・むぐぅわん・・・コリコリ」
アリスは眠そうなギィの口に先ほどの木の根を突っ込んだ。
ギィは驚きながらも口を動かして食べていた。
そして、目がカッと開いていた。
「ちょっと、アリスちゃん。何を入れたの?」
「これですわ」
アリスはギィに木の根を見せた。
「えっ。今のは木の根だったの?」
「そうですわ。おいしいでしょ!」
「うん、コリコリして、噛んでるととろ~りとなって、次第に甘みも少しあって・・・・それに、なんだか力が湧いてくる気がする」
アリスは何気なくギィの傷を見た。
すると、小さな傷がみるみる治っていたのだ。
「ギィちゃん。これは回復薬みたいですわ」
「ぇぇえええっ!こんな木の根が回復薬なの・・・・あっ!でも、体の傷が少し良くなっている気がするよ。アリスちゃん」
「まだありますの。全部食べてもいいですわよ」
ギィは持ってきた木の根をあっという間に全部食べた。
それでも、傷の深いところは簡単には治らないようだった。
「ありがとうね。アリスちゃん。でも、もう少し休んでもいいかな」
「そんなに長くは休めないかもしれないですわ。だけれど、体力を回復するのも必要ですもの。いいですわ」
そう伝えるとギィはあっという間に眠りについた。
アリスは先ほどと同じようにギィに落ち葉をかけてあげた。今度は雪の上に直接寝るのではなく、落ち葉を集めてその上で眠っていた。
「まあ、これでいいですわね」
アリスは師匠の方をみた。暴風雪は変わらず中の様子は分からなかった。暴風雪はゆっくりとではあったが、行ったり来たりを繰り返していた。
アリスはどんな戦いをしているのだろうかと暴風雪に意識を集中していた。
そんなアリスを暴風雪の陰から見ている存在がいたが、アリスは気づいていなかった。