152 洞窟の入り口
ありんこ洞窟の奥にあるキルアント族の隠れ洞窟を後にして、自分とギィとアリスはポイズンバットのいる暗闇の洞窟へ向かって歩みを進めた。
ギィとアリスはいつも変わらず色々の話題で盛り上がり笑いあっていた。よく話が尽きないものだと感心する。
毎日毎日往復していたころは何にも感じなかった暗闇の洞窟までの道のりが今日は何だが特別の雰囲気を出していた。
まるで何かを語り掛けてくるのではないかと感じざるをえなかった。
それが何なのか気になり耳を澄ましてみた。しかし、そこから聞こえてくるのはギィとアリスの談笑のみだった。
なんだ気のせいか。
そう考えてそのまま進んでいく。暗闇の洞窟を目の前にして一粒の涙が落ちてくるのに気が付いた。
何の変哲もないいつもの洞窟が語り掛けてきているのではなくて、これまで普段の生活と変わらないように進んできて、その場所場所で聞こえてきたギィやアリスの足音、キルアント族のレベリング時の行進の振動、回収部隊の軍隊然としたかけ声、ラクーングレートリザードの鳴き声ですら・・・その時々の記憶の音が思い出されてきていたのだった。
何だろうなぁ。少しセンチメンタルになっているのかなぁ。
まさか、このモンスターであふれる異世界でありんこの生活に触れてこんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。
もしも、普通の高校生だったらどうだったのだろうか。その時の生活と今の生活を比べると、もしかして天秤はほんの僅かこちらに傾くのかもしれない。
ほんの数か月前は、突然この異世界に連れてこられて状況もわからず生き延びることに精一杯だった。それが、こんな生活を懐かしむようになるなんて、ある意味、強くなった事で余裕が出てきているのかもしれない。
少しセンチメンタルになっていたが、気が付くと目の前には暗闇の洞窟の前に立っていた。
ここにはいつもと変わらずポイズンバットがうようよしている。負けることはないと思うが油断してはいけないと考え、気を引き締めることにした。
「ギィ、アリス。しばらくこのポイズパッド討伐も仕納めになるかもしれない。まあ、ラージバットはまだいないかもしれないが、一応、気を入れて戦うぞ」
「はいっす。師匠っ!」
「わかっておりますわ。師匠」
ギィもアリスも気合は十分だった。あっという間に暗闇の洞窟を抜けた。そのままラージバットの住処に進んでみても、予想通り復活はしていなかった。
自分達は歩みを止めることなくギィの卵のあった場所まで行くと、地下2階に向かう洞窟の入り口が見えてきた。そして、その先にうっすらと草むらの洞窟と少し小さくて薄暗い洞窟が口を開けていた。
「自分達がこれから向かうのは、左側にある少し小さくて薄暗い洞窟の方だぞ。これからは、極寒の地であり、スノウラビットやスノウキャットといったスピード系統のモンスターがいるようだ。そして、それだけではなく、これまで以上に強力なモンスター達もいるはずだから気を引きしめていこうな」
ギィもアリスも黙ったまま集中しているように見えた。おそらく、ギィもアリスも寒さには弱いはずだ。かくいう自分も寒さの中ではおそらく素早さが低下するのは否めないはずだ。
先ほど、サーチをかけておいたが、周囲にモンスターの気配はなかった。しかし、このサーチがどれほど効果があるのかは不明だ。ポイズンバットには効果的だったが、これからのモンスター達に関しては検証が必要になるだろう。
「ねぇ、師匠。右の洞窟のドブネズミ達はどうなったっすかね?」
「この短期間で復活は考えにくいから、現状ではいないと考えられるな。ただし、今思うとあれほどチームで組織だって攻撃できることを考えると、もう復活はしない可能性もあるな」
「えっ、なんで復活しないっすか?スライムもポイズンバタフライもポイズンバットも復活するっしょ!」
ギィは敵がすべて復活すると思っているようだった。隣にいるアリスの存在のことは完全に忘れているようだった。
「アリスは復活しないだろう!アリス、お前は復活できるのか?」
「何を言っているんですの!師匠、出来るはずがありませんわ」
「そうだ!アリスちゃんは復活出来ないよね。あれ!?なんでだ!?どういうこと!?」
「そのままだよ、ギィ。この世界では、意思もなく復活する存在と復活できないが意思がある存在の2種類があるんだ」
「つまりどういうことっすか?師匠」
ギィの目にはてなが並んでいるように見えた。そうだった。ギィに難しい事を言っても分からないので、もう少しわかりやすく言わないといけなかったことを思い出した。
「話しが出来るモンスターと話が出来ないモンスターいるって事だ」
「なら、お話が出来る相手はみんなお友達になれるっすね」
ギィは素直に話が出来れば、誰でもわかり合えると理解していた。
『この世界でそれはないだろう』と柔軟に考えられない大人のような考え方で訂正しようと思った。
しかし、そうすることはやめた。
まずはわかり合うことから始めることが大切な時もあるのではないか?
もしかすると、この世界ではそれが出来るのかもしれないとここではギィの考え方を尊重することにした。
「うん・・・そうかもしれないな。たくさん友達作ろうな」
「この先にはどんな友達ができるっすかね」
ギィは嬉しそうにしていた。
もしかすると蛇だから表情に出ていなかったかもしれないが、自分も心が温かい気持ちになっていた。




