15 水弾丸(改)網!!
「いる、何かがいる。きっとモンスターに違いない。でも、なんだよ全く見えないじゃないか。何か中を確認する手段があればいいんだが・・・」
現在使用可能な魔法では、中を確認する手段はまったくなかった。それに、この暗闇の中を何の準備もなく突入することはできない。相手からは自分のことが見えているのに、自分は相手のことがわからない。そんな状態では確実に死亡確定だ。
「きっとこの中のモンスターは、暗闇の中でも攻撃することが出来るんだろうなぁ。間違いないよねぇ。どうしようかなぁ。でも、この暗闇は必ず通らないといけないんだ。そうしないと先に進めないしな」
暗闇の洞窟の前で、ぶつぶつと独り言を話し続けた。もしかすると、1匹か2匹位偵察に中から出てくるかもしれないと、ほんのちょっと期待したのだ。しかし、結果はまったく反応がなかった。しかし、相手は完全に待ちの体勢でいるということは分かった。
「この入り口から、水弾丸をむやみやたらに打ち込んでみるのはどうかな。でも、どこにいるかわからない敵に対して、こちらの手の内をさらすのも危険だしなぁ。そうだ、頭を隠して防御態勢で突入し、相手の攻撃力や攻撃方法を調べるってのはどうかな?今の防御力なら何とかなるかも・・・」
今の防御力でどうにもならない攻撃を食らってしまうことを想像してゾッとした。
「いやいやいや、無理無理無理。くそ~。見えない敵、これほど怖いものはないな、それに、やっかいだなぁ~。敵の攻撃力が弱いことが前提ならいいのだが、今は、強いか弱いかもわからない、まったく情報がないんだよなぁ」
何か情報の欠片でもないか、周りを見回してみた。そこには何の変哲もない洞窟が続いているだけ、そして、今通ってきたのは、ありんこの大群がいる洞窟だけだ。
「ここで分かっているのは、ヒカリゴケに、洞窟、緑エノキはないし、後ろのありんこ達の死骸だけだ。・・・うまいけど。あっ!いや、そういえば・・・、情報がないわけじゃない、ありんこ達がいた!」
ありんこの存在に気が付いて、ありんこも生きている以上生活圏があるはずだから、そこから何か導き出せるものはないかと必死で考えてみた。
「ある。あった。そうだ、やつらは、この暗闇の洞窟をきっと通過しているはずだ。住処の洞窟側でありんこの姿を見たことがない、つまり、ありんこ達はこの暗闇の洞窟の方に進んでいるはずだ。であるとすれば、この暗闇の洞窟のモンスターから攻撃を受けずに通過できるはずがない。スライムや毒蝶々ですら、生活圏に敵が侵入したらすぐに攻撃を仕掛けてきていたことでもわかる」
ありんこの特徴を思い出してみた。移動する際に高さは無い。後あの硬い皮膚に鋼外殻の魔法。洞窟の壁でも天井でもどこでも移動できる。
「ありんこの特徴から考えると、もしかすると、ありんこの鋼外殻は敵の攻撃を防ぐだけの防御力があるのかもしれないな。そうすると、自分はこの暗闇の洞窟のモンスターの天敵のスキルを持っていることになる。よし、いける!鋼外殻のランクも上がっているし、何とかなるかも・・・」
自信をもって、解決できたと喜んでいたが、本当にこの推理があっているのかだんだん不安になってきた。
「しかし・・・、いや、これしかない!頭を守って致命傷を受けなければ・・・。まあ、受けなければ何とかなる。・・・ことにしようかなぁぁ・・・」
命の危険がある以上、気軽に決めることはできない、しかし、冒険に危険はつきものだ。これを越えなければ、先には進めない以上ある程度の危険は覚悟の上だろう。仮に、予想外の攻撃を食らっても、暗闇の洞窟の外に出てくれば逃げ切れるだろう。逆に相手が外に出てくることがあれば、それこそこちらの思うつぼだ!
「とにかく、頭をやられなければ、体はかなりダメージを受け切れるはずだ。ならば、どうすればいいか。とにかくとぐろを巻いてみよう」
体の太い部分を前にしてとぐろを巻き、頭を守る為に、頭を体の下に潜り込むように体の中に入れてみた。
「あっ、これだど、後ろを向いているので、前が見えない、それなら・・・・」
体をぐねぐねと動かし、ぐるぐる回りながら、ああじゃない、こうじゃないと、とぐろを巻いたり、折りたたんでみたり、なかなか、うまく体を扱えないながらも、しばらく、四苦八苦していた。
そんな中、ピーーンッときた!!
「そうだ、クリップだ!」
イメージができると、今までの苦労が嘘のようにスーッと体が動き出した。
「体を壁にして、頭を体の方にまげて・・・、よし!、この状態から頭をさらにもう一周まわしてみよう。」
グイッ!!
「よし、頭をまわして前に向けたら、カーブしたからだを壁にして、その下に頭を潜ませるっと!おっ!、うまいく行った。しっかし、動きにくいな!」
前方に3段に体が重なっているので、地面に接地している体を動かそうとすれば、その上に乗っかている体ももぞもぞなりどうにもちぐはぐな動きになっていた。
「重なっている部分を動かさないように、一番下の地面に接地している所だけ動かして・・・・あ痛っ!」
一番前にある体の部分が引っかかり、その上に体全体がのしかかってつんのめってしまった。しばらく練習してみて、かなりゆっくりであれば無理して前にすすむことが出来るようになった。
「なんだこれ!まるで重戦車のような感じになったぞ!カッコいいなあ。動きは遅いけど・・・。まあ、慣れてきたら、前後左右への移動もできるし、頭の上に尻尾を載せて、水弾丸を発射したら、まさに重戦車そのものだ!」
自分で、キャラキャラキャラなんて、声に出しながら戦車ごっごをしてみた。ちょっと恥ずかしいかも・・・。
「ああ、思い出すなぁ、子供のころ。戦車カッコよくて、乗りたかったんだよなぁ。パンツァーフォー!なんつって!!それにしても、こんな形で、子供のころの夢?の一つが叶うなんて、でも・・・これ叶ってるのかな・・・まあ、いいや」
ある程度、移動の訓練を行うことで、ゆっくりであるが、思い通りに移動することが出来るようになり、これなら、暗闇の中を進めると思った。
「鋼外殻!、隠密!」
防御態勢をあれこれ考え、出来上がった重戦車形体での移動訓練をしていると、約1時間位経過していた。鋼外殻の効果がそろそろ切れるので、再度2つの魔法を唱えて、戦闘準備を更新した。
そして、重戦車形体で移動しながら、ゆっくりと敵モンスターを警戒しながら暗闇に近づいた。
前回と同じように、暗闇に近づき頭を少し入れようとした瞬間、やっぱり同じように背筋が凍り付くような寒気を感じた。
「3つ目の瞳も開いて、全方位視界のまま、最大限、敵モンスターに警戒しよう!」
暗闇洞窟を10m位進んだところで、洞窟の奥から、ものすごいスピードで何かが向かってきているのに気が付いた。しかし、それは何かわからない・・・!
暗闇に視界が慣れていないせいか、全方位視界にもかかわらず、それが何かわからなかったのだ。しかも、すれ違いざまに、何か刃物のようなもので、切られたように思った。
「なんだろう、自分の気配に気づいて、何か遠距離魔法で攻撃してきているのか?とにかく、このままだと、単なる標的のままだ!」
何らかの方法で相手に自分の位置が知られていると感じ、右側に移動を開始した、そして、洞窟の壁ギリギリまで横に進み、視界を敵に集中した。
それにもかかわらず、再度、同じような攻撃を仕掛けてきた。やはり、同じように切られてしまった。左の端によけみても、後ろに下がってみても、相手はこちらの場所を正確に把握しているかのような攻撃を仕掛けてきた。
ただし、不思議なのは敵モンスターは自分に攻撃を直撃させることが出来ていなかったことだ。
まあ、直撃がなければ、自分は鋼外殻の魔法をかけていたので、ほとんどダメージを受けることなく攻撃を受け切れていたことは分かった。
「やはり鋼外殻は天敵のスキルだった!よかったぁ~」
ありんこ達と同じように、自分には高さがない分、敵モンスターは自分の攻撃を直撃させることが出来てなかった。自分の分析が当たっていたことがうれしくて、もろ手を挙げて喜んだ。上げる手ないんですけど・・・。蛇だから。
そんな風にはしゃいでいる間にも、複数回切られてしまった。
【ポイズンファングを獲得しました】
「あっ、メッセージさんだ、なんだか声が色っぽいな!」
「♪、♪、♪!」
メッセージさんをほめると、言葉ではないが、喜んでいることがわかるような情報が返ってくるのだった。明るくなったよなメッセージさん。
そして、そのメッセージさんの言葉で、敵の大まかなイメージが見えてきた。
「ポイズン?って・・・毒!?」
重戦車形体なので、もともと、移動がゆっくりだった、その上、視界に意識を集中しすぎていたので、毒を受けていることに気が付かなかった。毒耐性(中)の効果もあったのかもしれなかった。
「そうすると、遠距離毒魔法か?いや、ファングって言ってたな!ファングは牙だから・・・そして、地上すれすれには攻撃できない。とすると、答えは一つだ。やつは、飛行形体で攻撃してきている、暗闇で攻撃してきているとしたら、う~ん・・・・・・・そうだ、こうもりか何かだろう」
メッセージさんナイスな情報サンキュウな!
「それなら、これまでのことが納得できる。しかし、今現在では、反撃するための攻撃手段がないな!一度、暗闇の洞窟から出て対策を考える必要があるな」
そう考えて、次の攻撃に合わせて、重戦車形体を解き、後方ジャンプで一気に暗闇の洞窟から抜け出した。
敵モンスターは明るい場所には出てこないので、この場所で反撃方法を考えることにした。
「今わかっているのは、暗闇のため、自分からは敵モンスターの姿が見えない、しかし、敵モンスターからは自分の姿は丸見えで、しかも、やつは高速で飛んでいる。攻撃は平行だが、飛行モンスターとすると、上からの攻撃の可能性もある。重戦車形体では相手の攻撃を受けても、大したダメージを受けないっと、これくらいかな」
防御力の高さがあるからこそできる情報収集だったなぁと今更ながら自分の防御力に感心した。それに、アナウンスさんの情報から敵の情報がわかるなんて思わなかった。やっぱり感謝っすね。アナウンスさん!!
「見えない相手に攻撃するには・・・高範囲に攻撃できる方法だよなぁ。それに、むやみやたらに、攻撃しても、あのスピードなら当たらない可能性の方が高いしなぁ。そうすると、残った方法は水弾丸(改)しかないんだよなぁ。でも、水弾丸(改)って攻撃範囲が狭いんだよな~。う~ん、もっと、広範囲で包み込んで、取り込むような攻撃がいいんだけど・・・・・」
ダメージを与えなくても、罠みたいなものでもいいんだけど。何かないかな。
「あっそうだ、蜘蛛の巣がある。うん、蜘蛛の巣みたいなものがあるといいんだよね~、でも、今の俺にはそんなの無理だよな。う~ん、どうしようか?そういえば、水弾丸(改)槍は普通水弾丸(改)を細くしてみたんだった。なら、逆も出来るんじゃないかなぁ。とにかくやってみよう、イメージ!イメージ!」
水弾丸(改)になってイメージで形状を変更させることができるので、蜘蛛の巣のように複雑な形は難しいかもしれないが、何かヒントになればと色々やってみた。
「まずは、水弾丸(改)を太くしてみる・・・う~ん、マントのように広げてみる・・・う~ん、板は・・・・う~ん、蜘蛛の巣に似たもの・・・・・似たもの・・・・・あっ網!そうだ、網のイメージ・・・・うん、まさに、捕獲用の網のイメージだ!」
網なら、格子状の為イメージしやすかった。ただ、太くする、細くするといった単純な形ではなかった為、なかなか形になりにくかった。
最初は四角、そして、その四角に新たな四角を足して、大きくしていく。これをを繰り返して最終的に網らしいものになった。
「いくぞ、新しい形!水弾丸(改)網!!」
ブァッ!サ~
3m×3m位のサイズの四角い網が目の前に広がった、そして、5秒くらい上空に漂った後、消えていった。
「これなら、飛行モンスターを捕獲可能だ!、この水弾丸(改)網がどの程度の威力なのかは・・・使ってみないとわからないか」