149 リルの失踪事件解決
~~~ アリス ~~~
休養日と思っていたが、アリスにとっては命がけの2日間となった。幼馴染のサリールが困っていて、強くなった自分なら何とかなると過信していた部分もあった。グリーンマンティス戦では、2対1で余裕だったので周りの状況に気を配ることをおろそかにしていて、結局、師匠に助けられたことを目が覚めた時に聞かされていた。
アリスはカッコつけた自分がいたことに気恥ずかしさがあったものの、それを素直に表現することも出来なかったのでギィが側にいる手前、師匠に少し強がってみた。
「師匠!師匠のおかげで生き延びることが出来ましたの。しかも、弱点に対する耐性まで出来たことは本当にうれしく思いますわ。お礼を言っておきますの」
「ははっ、アリス、恥ずかしいのか!?そんなことは気にしなくていいぞ。自分も進化後の能力がどう活用できるかを試したかったからな。それにしても予想以上に能力が向上していたんだ」
「気にしていませんわっ!」
アリスは師匠にカッコつけているのが、バレバレだったのが気恥ずかしさを倍増させてその場から走り去っていった。
「師匠!アリスちゃんはなんで恥ずかしかったっすか?」
「そうだなぁ~。まあ、思春期というやつかな?」
「シシュンキ!???ギィにはよく分からないっす。それよりも、アリスちゃん待ってよぉぉおお。ラッシュウォークッ!」
「おお!そんなことで魔法使うのかよ」
ギィは『思春期』という言葉の意味を分かっていなかったが、別にどうでもいいかという感じでアリスの後を追って行った。
「アリスちゃん、アリスちゃんってば!」
「なんですの?ギィちゃん」
「アリスちゃんって思春期なの!?」
「えっ、あの・・それ・・えっと・・・師匠が言ってましたの?」
「うん、そうだよ」
「違いますわよ。思春期ではありませんわ」
アリスは目が覚めてから聞いた状況が恥ずかしくてその場から離れたかったため、すぐにサリールの家から師匠にお礼を言いに行っていた。しかし、師匠にはバレバレだったため、とりあえずサリールの家に戻ることにした。
そして、走りながらギィが放った言葉が予想外過ぎて走るのをやめて立ち止まった。
「うぉおっ、ちょっ、急にどうしたのアリスちゃん?」
「サリールの家でその話を続けられたら、今よりももっと恥ずかしいから、ギィちゃんには伝えておきますわ」
「あ~~わかったよ」
ギィはなんでアリスが恥ずかしがっているのかますますわからなくなった。しかし、アリスが話そうというので黙って聴くことにした。
「実はね、ギィちゃんがリルを助けに走り出した後、私が追いかけようとしたの、でも、サリールに毒耐性がない事を言われて引き留められましたの。でも、きっとギィちゃんは大洞窟の所でどうするか迷っているだろうと思ったからサリールに言ったの」
「アリスちゃんやっぱり私があそこで迷うのわかっていたんだね。さっすがっ!!それで、サリールちゃんになんて言ったの?」
「ありがとうね、ギィちゃん。今もう一度言うのは恥ずかしいんだけど・・・・『私は強いから大丈夫ですわ』って言ったの。サリールは少し驚いた顔で『そう』と一言だけいうと黙って私を行かせてくれましたの、なのに、死にかけて戻ってきて・・・あーーー本当に恥ずかしいですわ。なんであんなことをいたのかしら?まあ、無事だったからよかったと言えば、よかったわけですけれども・・・」
アリスは顔を真っ赤にして、後ろを向いてしまった。
「ふ~ん。それで、アリスちゃん!どこが恥ずかしいのかい?だって、アリスちゃんが強いのは間違ってないよ」
ギィは今の話のどこに恥ずかしいところがあるのか分からずに、まっすぐにアリスを見つめていた。
「いや、だから・・・・って、ギィちゃんからしたらそうでしたわね」
ギィからすると、友達に見栄を張って偉そうに言った結果、失敗したことなどどうでもよかったのだろう。サリールの妹を助けて、みんな無事で戻ってきたことが大事だと考えていたようだった。
「ギィちゃんに話をしてよかったですわね」
アリスは友達に見栄を張ったことよりも、無事にミッションが成功したことを喜ぶべきだったと改めて認識しなおしたことに、胸に引っかかっていたものがスーとしたような気がした。
「うん、いつものアリスちゃんに戻ったね」
アリスとギィは走るのをやめて、ゆっくりと歩きながら師匠が黒から白に変わったこと、新しい魔法を使えるようになったこと、自分達の耐性が増えたことを驚きながら笑顔でサリールの家に向かった。
「アリスちゃん、戻ってきたね。急に出て行ったからびっくりしたけど・・・どうしたの?」
サリールの家に入ると、すぐにサリールが出てきた。どうして急に出て行ったのか分からずに頭にはてながたくさん浮かんでいる顔をしていた。
「ううん。大したことないの。でも、リルが無事でよかったね」
アリスから不意にリルの事を言われて、サリールは泣き続けて緩くなっていた感情がもう一度あふれて出てきた。
「・・・・うん。そうなの。本当にありがとうね。アリスちゃん・・・」
「だけど、私もいっぱい心配かけちゃったね」
「ふふふっ、本当だね。あんなこと言っていたのに、帰って来た時は死んでるかと思ったんだよ」
「ごめんなさいね。あんなこと言ったのに心配かけちゃったね・・・」
アリスはあれほど恥ずかしかったことが、何ともなくなり素直に受け入れることが出来ていた。その後はアリス、ギィ、サリール、リルで女子会を開き楽しいひと時を過ごしていた。
「さあ、みんな。リルが無事だったお祝いだよ。食べておくれ」
「うわぁ、ありみつの飴玉だ!祝国式の日以外にも食べていいの?」
リルがありみつの飴玉と同じくらいの大きさに目を見開いて喜んでいた。ありみつの飴玉はありみつとイエローサンライズの茎から出てくる固め液を混ぜて作るキルアント族伝統のお菓子だった。しかし、ありみつ自体が貴重なため、1年に1度だけ祝国式の日に食べれるものだった。キルアント族の子供たちにとってはとても楽しみなお菓子だった。
「今日はリルが生きて帰って来た日だからね。それくらいは祝ってもいいんだよ」
ギィは初めて食べるありみつの飴玉を食べて涙を流しながら喜んでいた。
こうして、リルの失踪事件も無事に解決したのだった。
※ ※ ※
休養日をゆっくりと過ごして、いよいよラクーン大洞窟地下2階に向けて出発を考えていた。
「メーベル女王には挨拶しておかないとな」