145 グリーンマンティス
「もしも、ここでポイズンバタフライに襲われたとしてどこへ逃げるか考えますの。まず、正面の大洞窟は体を隠すところがありませんの。そして、右側の洞窟は一度中に入ると外に出られなくなる可能性を考えると、水辺とイエローサンライズの影に隠れられる左側の水辺に向かうと考えられますわ」
「アリスちゃんさすが!よし、それなら左側の水辺に向かおう」
(敵がポイズンバタフライとスライムだけの場合ですが・・・)アリスはそのことをギィに伝えずにとりあえず最初の想定の左側の水辺を探すことにした。
アリスは移動する時に新しいスキルである『無音』を発動していた。
「アリスちゃん、側を歩いているのに時々存在を忘れちゃうよ。そのスキルのせいでしょ。すごいね!」
「ギィちゃんがそういうならすごいのかもしれませんわね。色々なところで役に立てられるかもしれませんね。とてもいいスキルを手に入れましたわ」
アリスは嬉しそうだった。師匠やギィの仲間であるとはいえ、ギィちゃんの進化で攻撃力に圧倒的な差を感じていたところだったので、この『無音』があれば、違った役割が果たせるのではないかと考えていた。
ギィとアリスは水辺に到着して周囲にリルの姿がないかを確認した。
「ギィちゃん、あそこ見てみて!何か、キラキラしたものがありますの!?」
水辺の端に大きな岩があり、そこに挟まるようにキラキラと光る何かがあった。ギィとアリスはその光るものに近づいて手に取ってみた。
「アリスちゃん、これは種かな!?キラキラ光ってとてもきれいだね」
「そういえば、リルちゃんはイエローサンライズの種を探すためにこの場所にやってきたと言っていましたの。そうすると、この種がそのイエローサンライズの種って事かもしれませんわ」
「じゃあ、リルはこの場所に居たっていうこと!?」
「わかりませんわ。もしかして、ここまでやってきていたかもしれませんし、ここいらのイエローサンライズから出来た種かもしれませんの」
「だけど、ここにリルがいた可能性があるならもう少し探せばどこかで休んでいるかもしれないね」
ギィは違う可能性を心配するよりも、いるかもしれないといった可能性で期待することにした。
「きゃぁぁぁぁぁ」
丁度その時、大洞窟の方から小さな悲鳴のようなものが聞こえてきた。
ギィとアリスは笑顔で見合わせた後、慌てずにゆっくりと進んだ。
水辺は洞窟の角にあり、丁度、扇形に広がっていた。そこから、水辺を覆う形でイエローサンライズが広範囲に咲き乱れていた。大洞窟は高さもこれまでの洞窟の倍以上あり、ヒカリゴケの光も地面までは届きにくくなっていて、他の洞窟に比べてかなり暗くなっていた。しかも、所々の岩が盛り上がり、行く手をさえぎっていた。
イエローサンライズの上空にはポイズンバタフライが3~4匹で群れをなして、いたるところに飛び回っていた。
ギィとアリスは気づかれないように水辺の周囲にそってゆっくり進み、水辺の次は洞窟の壁に沿ってゆっくりとポイズンバタフライに気づかれないように慎重にすすんだ。
イエローサンライズの端まで進んだところで、大洞窟の声がした方を確認した。すると、そこにはキルアントが1匹岩の上に横になっているのが見えた。手足が何がで固定されていて、身動きが取れないようになっていた。
「アリスちゃん、あそこにいるのはきっとリルだよね」
「そうかもしれませんわ。ちょっと待って、リルのいる岩の2つ奥の岩の横を見てみて」
「何あれ!薄暗くなっている所に見たことがないモンスターがいるよ。なんだろう!?でもなんだか強そうだね」
ギィは少し好戦的な雰囲気をまとっていた。もしかしたら、麻痺タイプの攻撃手段をもっているかもしれないのに、その事はすっかり忘れているようだった。
「それじゃ、ちょっと行ってくるね。アリスちゃん」
「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待って。行くの待ってよ!ギィちゃん」
アリスは慌ててギィを引き留めた。相手モンスターの能力もわからない、数も不明、どうしてリルが固定されているかも不明で飛び込むのはあまりにも危険だと思った。ギィの行動力はとても魅力的だけど、時々、無謀とも思える瞬間があるので、今後はこれも課題の1つだと考えた。
「ギィちゃん、あのね。相手モンスターの数もわからないし、見たこともないモンスターですわ。それに、どんな能力を持っているかもわかりませんのよ。いきなり飛び込んだら危険ではありませんか?」
「アリスちゃんはポイズンバタフライのうようよいるこのエリアでは十分に動けないから、とりあえず、私が突っ込んでみようと思ったんだけど、まずかったかな!へへへ」
「まあ、最終的にはそうなると思いますわ。ですが、少し状況の把握と新たな敵モンスターの様子をみてみた方がいいと思いますわ」
「うん、わかったよ。アリスちゃん、ごめんね」
「いいえ、わかっていただけてうれしいですわ」
ギィとアリスはイエローサンライズが密集している生息地の端の所でひっそりと、リルのいる岩の方を観察することにした。
しばらくすると、1匹のポイズンバタフライがふらふらとリルの方に飛んできた。
「リルが危ないよ、アリスちゃん。助けに行かなくちゃ!」
「う~ん、このままだと・・・・・リルが危険・・・ギィちゃん、頭を下げて隠れてっ!!」
アリスは、リルを助けに行こうとしたギィを慌てて引き留めた。
「見てっ!」
ギィは『リルが危ないのに』と繰り返しながらも、アリスの言う通りに頭を下げて、リルの方を見た。
リルに近づいていたポイズンバタフライがいよいよ、リルを捕まえようとしていた瞬間に、岩場の陰から飛び出た影が、一瞬にしてポイズンバタフライをつかんでそのままいわばの影に戻って行った。
「ギィちゃん、見ましたの?」
「うん、見たよ、アリスちゃん。なんかやばいモンスターだったね。細長い体に、小さな羽が生えていて、ジャンプしながら少し飛んでいたよ。手にはとげがあり、腕のギザギザの部分でポイズンバタフライをつかんで離さないようにしていたね」
「そういえば、聞いたことがありますの。たしか、マント・・マンテ・・マンテト・・マンテイ・・・そう、マンティスですわ」
アリスは思い出して、少し顔をしかめていた。マンティスに対する知識を思い出してゾッとしていた。
「ギィちゃん、やばいですわね。あの敵はグリーンマンティスといいますの。何らかの耐性を持ち、短時間飛行が可能。そして、口からは出す唾液は固定させる能力があり、特に記念なのは手の先にあるとげですわ。これは、それだけで強い攻撃力があるとのことですの。そして、今見たところを踏まえると、確実に毒耐性に手の先の大きな一本のとげからは麻痺させる何かが出ていますわね」
アリスは一度情報を整理するように目をつむった。
「うん、間違いないですわ。そして、あのグリーンマンティスはリルを餌として他のモンスターを呼び寄せている。つまり、罠を仕掛けてモンスターを取り込んでいますの」