141 サリール
~~~ ギィ・アリス ~~~ (ドブネズミ戦の翌日)
「おはよう。アリスちゃん、よく眠れた?私はすっごくよく眠れたよ」
「おはようございます。ギィちゃん、私もとてもよく眠れましたわ。こんなによく眠れたのは久しぶりといってもいいくらいですわ。どうしてなのかしら?」
「やっぱり、死にかけたからかな!」
「ははっ、ギィちゃんもそう思いますの?私も死にかけたせいではないかと思っていましたのよ」
ギィもアリスも死にかけるほどの激闘だったことを思い出しながらも、軽く笑い話にしていた。
「今日と明日と2日間ゆっくりすることになってるけど、アリスちゃんは何か用事がある?」
「特にありませんわ。このままゆっくりするのもよいと思いますわ。最近はずっと頑張りづくめでしたものね」
「でも、私は体が少しなまっちゃうな。よ~し、少しその辺を走ってくるね」
アリスはギィの有り余っている体力を感心しながら、走っているギィを眺めていた。
しばらく、小さくなっていくギィを眺めながら、少し考え事があったのを思い出した。
「ギィちゃんは、麻痺に対する耐性がありませんの。そして、私は毒に対する耐性がありませんの。これからラクーン大洞窟地下2階に進むにあたって、耐性がないまま進むことが出来るのかしら。今回のドブネズミ戦では、麻痺耐性がないことで、ギィちゃんが死にかけました。そんな景色は二度と見たくありませんの。ですが、これから、先にはそうも言ってられないはずですわ。どうしたものか・・・」
考えたところで答えが見つかるわけではなかったが、無策というのもアリスとしては許せなかった。何か考えることで答えが見つかるかもしれないと思っていた。
そんな終わりのない考えをしていると、つい、ウトウトしてきた。半分ほど瞼が落ちてきたころ、急に声をかけられた。
「アリス様、アリス様こんなところで何をしているのですか?」
「はいっ!ごめんなさい。ウトウトしていましたわ。ところで、あなたは・・・もしかして、サリールですの?」
「そうです。よくお分かりでうれしいですわ」
「でも、あなたは、キルアントだったはず・・・そうですわ。進化したのですのね」
アリスの目の前にいたサリールとなのるレッドキルアントはアリスの友人だった。小さいころからよく遊んでいたこともあり、仲良しだったのだ。一概にレッドキルアントは赤い色といわれるが、1匹1匹でその色合いは違っていた。サリールとなのるレッドキルアントは体の中心に向かって赤色が濃ゆくなっていた。
「サリール、とてもお久しぶりですわね。元気にしていましたの?」
「はい、レッドキルアントに進化して、今は王国軍に配属されています。それにしても、アリス様はバレットアントですよね。進化のスピードが凄まじいですね」
アリスといえども子供の頃はキルアントだった。サリールは同じキルアントであったアリスがあっという間に、バレットアントまで進化していたことに驚きを隠せなかった。
「そうね。バレットアントまで進化しましたのよ。でも、これだけで終わりませんわ。必ずその上を目指しますの」
「アリス様はさすがですね。今は、蛇神様とご一緒だと聞いておりますが、それほどの進化を遂げているのは、やはり蛇神様のおかげですか?」
「はい、師匠がいなければ、私の進化はありませんでしたわ。いいえ、進化どころか、生きてさえいませんでしたのよ。まあ、話すようなことではありませんが・・・」
アリスの表情が少し曇ったようにみえたので、サリールは速やかに話題を変えることにした。
「・・・アリス様は今日はお休みですか?」
「ええ、昨日はかなり厳しい戦いがありましたの。ですから、今日は休養ですわ。サリールも休養日ですの?」
「はい、久しぶりの休養日ですが、妹のリルの面倒を見ないといけないんですよ。この中央広場で待ち合わせをしていたんですが、まだ来ていないみたいですね」
口では少しめんどくさそうに言っていたが、待ち合わせに遅れていることに内心落ち着かない様子だった。その時、後方でいきなり風が吹いたような気がした。
「ほっほっほっ、ふぅーーーー。うん、体が少し温まったかな」
サリールの後方で予期せぬ声が突然聞こえてきた。
「えっ、だれ、誰ですか?」
サリールは自分の後ろに急に現れた何かを確認するために、慌てて後ろを向いて声をかけていた。
「あれぇぇぇ、もしかして、このレッドキルアントはアリスのお友達なの?」
「そうですわ、子供のころから仲の良かったサリールですの。よろしくね。ギィちゃん」
「サリールさん、こちらこそよろしくお願いします」
サリールの後ろにいたのは、自分の倍くらいの大きさのトカゲだった。自分が気が付くことなく、この巨体が真後ろに来たことに、驚きを越えて、恐怖がにじんでいた。仮にも、自分はレッドキルアントであって、キルアント達よりもスピードも感覚も優れていると自負していたのだ。
そのため、サリールはギィのあいさつに対して、速やかに返すことが出来ないでいた。
「サリール!どうしましたの?」
固まっているサリールに対して、アリスがやさしく声をかけた。
「ごめんなさい、アリス様、それに、こちらにいらっしゃるのはギィ様ですね」
「うん、そうだよ。ギィ様なんて恥ずかしいから、ギィでいいよ」
「アリス様のお友達であられるお方を呼び捨てにはできません」
ギィは気軽に話してほしかっただけで、アリスのお友達から予想以上に厳しい返事を受けて少し戸惑っていた。
「あっあっうん、わっわかりましたっす」
ギィも何となく丁寧っぽく話すことにした。いつも、師匠と話しているようにするだけだけどと思いながら・・・。
「ギィ様のスピードはものすごく速いですね」
「お友達もわかるっすか!進化してラッシュウォークのスピードも格段に速くなったんだ。今も、ラッシュウォークでトレーニングしてきたっすよ」
「早く走る真技ということですか?」
喜びがあふれているギィに対して、少し冷静すぎる感のあるサリールが低い声で答えていた。
「サリール、その通りですわ。ギィちゃんの真技ですの。それに、見た目通り攻撃力もものすごいですわよ」
「でもねぇ、アリスちゃんにはボロ負けだったけどね。はははっ」
ギィはアリスのお友達から少し持ち上げられたものの、アリスちゃんとの模擬戦を思い出して少し恥ずかしそうだった。
「アリス様はギィ様に勝てますの?」
これほどのスピードがあるギィにどうやれば勝つことが出来るのかサリールは不思議に思った。
「うん、それはね。ギィちゃん麻痺耐性がないから、麻痺弾でバタンキューですのよ」
「アリスちゃんの麻痺弾は私がどこに行こうとしても、追いかけてくるように当っちゃうんだよね。もしも、私に麻痺耐性があっても、勝つのは厳しいんじゃないかな」
サリールはアリス様とギィ様の戦いの様子があまりにもかけ離れすぎていたので、どう頑張っても私なんかでは手も足も出ないんだろうなと思うしかなった。
「さすが、蛇神様のお仲間ということですね。サリール感服いたしました。もしよろしければいつか手合わせをお願いしたいものです」
「お友達はちょっと硬いっすね!」
「ギィちゃんサリールですわ」
「ごめんなさい。サリールはちょっと硬いっすね。もうちょっと気軽にしてもらってもいいっすよ」
「そんな、そんな気軽なんて。クイーン候補のアリス様や蛇神様のお仲間のギィ様に気軽に接することなんて恐れ多・・・・・バシッ!」
あまりにもかしこまりすぎているサリールに、アリスは平手打ちを食らわせた。突然、平手打ちを食らったサリールは茫然としていた。
「ごめんなさい。でも、サリール!あなたは私のお友達でしょ!ギィちゃんも私のお友達なの!だから、そんなこと言わずに仲良くしてよ。私も・・私も・・・おとも・・・だちでしょ。ごめんなさい」
アリスは目を真っ赤にしながらサリールに気持ちをぶつけていた。ギィもいつも冷静に見えるアリスが感情的になっている姿にどうしたらいいかわからずうろうろしていた。