140 インフォさん
「う~ん、今日も1日が始まるな」
目が覚めて、自分の体を眺めながら、なんとなく少しだけ今の体になじんでいるような気がした。今日も休養日だから、特にすることがないんだよな。
ギィやアリスは昨日戻ってきていないようだ。昨日からいなかったからどこへ行っているのか全く分からない。まあ、どこかへ遊びに行っているんだろう。
この体でうろうろするときっと目立つだろうな。それに、色々と邪魔になるかもしれないしなぁ。よし、決めた。今日も寝ることにする。
「う~ん、眠れない。ずっと眠っていたから眠れないんだ。仕方ないから、インフォさんに色々と聞いてみよう」
この世界の事、自分の事、ラクーン大洞窟の事、人間の事、リポップする敵、そうでない敵、聞きたいことを考えると色々あった。だけど、聞くにしても聞き方が合っていないと、【質問の意味が分かりかねます】って答えられるはずだもんな。
とりあえず、大きなところから聞いてみよう。でもなんて聞いたらいいのかな。まあ、聞いてみたらわかるだろう。
「インフォさん、この世界について教えて?」
【ラクーン大洞窟地下1階です】
「うぉぉおお。それ知ってるけど・・・その通りだけど・・・聞き方間違っているよな。よーし、それなら、インフォさん、ラクーン大洞窟の外はどうなっているんですか?」
【ヘプタルアーキー大陸にある大洞窟の一つです】
「おお、新しい単語が出てきた。”ヘプタルアーキー大陸”か。まあ、洞窟があれば必ずその土台となる大陸があるのは当然なんだが、しかし、ここからが本領発揮だ。ここから知りたいのは人間がいるかいないかだ。ただ、人間といっても、もしかしたら、獣人かもしれないし、人間自体はいないかもしれない。そうすると、人間といってもきっとはぐらかされてしまう。では、どうするかだ。人間が人間たるのは集団を作るからだ。そして、集団とは国。そう、国があるかどうかを聞けば、人間のたぐいのものがいることになるのだぁ」
きっと今の瞬間自分が人間だったら、かなりニヤニヤしていたはずだ。しかし、蛇だからそんな表情はほとんどないのだぁ。
「インフォさん、教えてください。ヘプタルアーキー大陸には国が存在しますか?どうだ!!」
【今の私には、その質問に返答する権限がありません】
「きたぁぁぁああああ。”権限”きたぁぁぁああああ。ふぅ、仕方ないまた先々に機会があれば聞いてみよう」
かなり期待していたのに、テンションが一気に下がった。きっと、今の自分は真っ白になって体から幽体離脱しているに違いない。
「どうしよう、まだ聞きたいことあるけど・・・。まあ、あんまり気にせずに軽く聞くことにしよう。期待しすぎた後の反動が大きすぎる。インフォさん、ラクーン大洞窟について教えてください」
【ラクーン大洞窟は地下1階は毒エリア、地下2階は極寒エリア、さらに先があります】
「おっ、軽く情報が一つ手に入った。確実に地下3階もしくはそれ以上あるということか。地下2階が極寒エリアということはすでに分かっていたから、気になるのはその下がどうなっているのかだ。まあ、しかし、聞いても教えてもらえないだろう。でも、ちょっと聞いてみるか。インフォさん地下3階は灼熱エリアですか?」
具体的に教えてもらえるとは思わないから、”はい”か”いいえ”で答えられる質問にしてみた。どうだ!インフォさん。
【今の私には、その質問に返答する権限がありません】
「はいはい、やっぱり教えてもらえませんでした。とっ。まあ、めげずに聞ける質問をドンドン聞いて聞くぞ。では、インフォさん、時間で復活する敵とそうでない敵がいるのはどうしてですか?」
【ラクーン大洞窟に生息する魔物は時間で復活します。ラクーン大洞窟以外から住み着いた魔物は時間で復活しません】
「おお、これは答えてくれるんだ。それと、やっぱりリポップする敵とそうでない敵がいるのは判明した。まあ、これは、スライムやポイズンバットはリポップする敵で、キルアント族はリポップしない敵だったことからなんとなくわかっていた。しかし、インフォさんから明確にリポップする敵の事を聞いたということは、このラクーン大洞窟には何らかの特別な仕組みがあると言える。もしかして、ダンジョンマスターみたいな存在があるのかな。これは、新たな謎がまた一つ増えたな」
ラクーン大洞窟とダンジョンを同じものとして、考えた時気が付いたことがあった。
「しかし、ポイズンバットはキルアント族の食用になっていることを考えると、ライトノベルあるようなダンジョンシステムとは違うところにあるように思われる。それにしても、わからないことだらけだな。」
考えれば、考えるほど謎だらけで本当頭が痛くなってくるなと感じていた。
「あと一つ、ラクーン大洞窟以外にも魔物が生息する地域があるということも確実だ。以前、ドラゴンの首の死骸があったことを考慮すると、外の世界はこのラクーン大洞窟よりも危険な世界かもしれない。そうすると、あまり外の事ばかり気にするよりも、今は強くなることを優先させないといけないな」
結局、あのグレートリザードよりも強くなってこのラクーン大洞窟を攻略する以外に新しい情報は入ってこないと結論づけた。
あ~こんなことなら、情報を知ろうと思わずにゆっくり眠っていた方がよかったかもしれない。
「疲れた。動いていないのに、とても疲れたよ。やっぱり、眠ることにしよう」
ウトウトしていたが、不意に聞いておきたいことがあったことを思い出した。
「インフォさん、今日最後の質問です。自分はなんでこの世界に転生してきたのでしょうか?」
【生き残って、強くなる運命にあります】
「ということは、死ぬこともあるといえるのだな。それに、生き残るために強くなるのは当然だろう。ただ、それが運命だということだ。逆を言えば、強くなることをあきらめた瞬間、生き残りから脱落するということか!?」
何か、急にもやもやしたものが心の中をよぎった。ゆっくりと、最後の質問を考え直した時にふっともやもやしたものに気が付いた。それは、
「自分以外に、この世界に転生してきた存在はありますか?」
【今の私には、その質問に返答する権限がありません】
「やはり、答えてはくれないみたいだ。しかし『生き残る』は他に競争する相手がいることを表し、『運命』は使命と置き換えられる。そうすれば、自分だけの事ではなく、複数人に与えられた役割の一つとして取り組むものとなる。これは、転生者が別に存在すると考えてもおかしくないと言えなくもない。まあ、都合よく考えすぎかもしれないけれど・・・」
謎がまた一つ増えてしまった。
しかし、それは、嬉しい謎に思えた。
まだ見ぬ転生者の姿を想像していると、気が付いたら眠りについていた。