14 本当の大冒険の始まり
住処に到着して、今日の戦いの反省を行った。
「実際、ありんこ達はもはや敵ではないな。赤色ありんこですら、自分にはほとんどダメージを与えることができなかったもんなぁ」
1回の進化でこんなに強くなるなんて、もしかしてやっぱりチートなのかな。
しみじみと考えていた。
「ああ、自分強くなったな・・・・・ぐすっ、ひっく・・・あれ、おかしいな。自分どうしたのかな・・・」
スネークだったころは強くなっても、集団で来られると命の危険があった。
しかし、進化することで、防御力が驚異的に上昇した。
さらに、MPの上昇が予想外に多く魔法を使っての無双ができるまでになった。
このことは生き残る可能性を圧倒的に増やしてくれた。
「うれしいなぁ」
そんな中、今までの苦しみを思い出して、生きていることに涙があふれんばかりに出てきていたのだ。
あの巨大モンスターには今の自分では全く敵わないのはわかっていた。
しかし、これまでの自分にご褒美を上げるつもりであふれて出てくる感情の高ぶりに任せるまま涙を流した・・・。
しばらく泣き続けた後、気分も落ち着き、そろそろ睡魔が来る頃と考えた。
レベルアップの度に睡魔が来ていたので、メッセージさんの言葉の後、どれくらいで睡魔が来るのか感覚的に分かるようになっていたのだ。
「あれ、そろそろ睡魔の時間だけどまだ来ないな?」
自分の感覚が変わったのかと考えて少し待ってみた。
「もしかして進化したから睡魔の来る時間が変わったのかな!?」
睡魔が来るか来ないかは確実に確認しておかないといけない。
もしも、戦闘中に睡魔が来たら最初の頃みたいに死んでしまうリスクが跳ね上がってしまう。
今考えると、恐ろしくて寒気がするよ!
暇なので、待っている間に新しい体の身体能力に慣れる為にさらに訓練を行うことにした。
しかし、睡魔が来る気配が全くなかった。
「ねえ、これって、もしかして進化したから睡魔が来ない体になったってこと!?」
返事をしてくれる人はいないのだが、1人つぶやいていた。
「そういえば訓練に熱中しすぎて気づかなかったけど、もうかれこれ数時間は経っているはずだ。つまり、レベルアップでの睡魔は来ないと結論付けてもいいかもしれない。めっちゃうれしいぞ!!」
しばらく、睡魔がなくなった事に喜んだ。
そして、睡魔が来ないならこれからの行動方針を変えることができる。
そう考えて、これまでの戦いを振り返ってこれまでの情報をまとめてみた。
自分の生まれたこの住処の洞窟は、一部の例外(巨大モンスターの侵入)を除いてほぼこの大洞窟の中の安全地帯であると考えることが出来ていた。
さらに群生していた回復薬である緑エノキこれがあるから、睡魔が来ることがわかっていてもギリギリまで戦ってレベルアップとスキルアップが出来ていたのだ。
そういった状況のなかで特に驚いたのが、敵モンスターの攻撃を受けるとスキル獲得ができる能力だ。
ステータスのどこにもそんな記載はなかったので、最初は自分のレベルアップや経験で獲得するものだと思っていた。
ステータスの中には通常スキルと特殊スキルの2つにスキル項目が分かれていた。
はじめはそこに違和感を感じていたが、スキル技能の種類が違うのだろうとなんとなく自分を納得させていた。
しかし、赤色ありんことの闘いの最中に獲得したポイズンニードルが、自分の特徴とあまりにもかけ離れていたので、特殊スキルは敵モンスターのスキルを受けて獲得したものだと確定したのだった。
ただし、このスキル獲得は1度受けただけで獲得できるたぐいのものではなかった。
その条件はまだわかっていないが、敵モンスターの攻撃手段を手に入れるのはかなり強力な能力に違いなかった。まさにチートな能力だった。
ただし、残念なのは攻撃を受けないと獲得できないところで、文字通り痛い能力だった。
実は、この痛い能力は、攻撃スキルの獲得だけでなく敵モンスターの死骸を捕食することで防御系(もしかするとそれ以外のスキルも獲得できるかもしれないが・・・・)のスキルの獲得も可能であることが分かった。
最初のころにポイズンバタフライの毒入り鱗粉の攻撃をけっこう食らってたが、毒入り鱗粉を獲得することはできなかった。
これからすると何でも獲得できるわけではないということも、少しずつではあるが分かってきていた。
「そうだ!現在の自分は攻守ともにバランスよく成長できている。これなら新たなる旅立ちに向けて出発も可能だろう!」
まあ、都合よく物語を考えるのは得意だし、他の誰にも相談できる相手もいない。
これは慎重な自分を掻き立てる言葉としては最高だろうと自分を納得させた。
そして、この先、どんな新たな敵モンスターが現れるのだろう。
そして、どんな新たなスキルを獲得出来るのだろう。
これから先にある大冒険の匂いに胸を震わせた。どこが自分のむねかわからないけど・・・蛇だから。
住処の洞窟で独りニヤニヤしながらゆっくり休むことにした。
※ ※ ※
「きたきたぁ!今日は最高の朝だ!」
洞窟なのでいつもと何も変わらない朝だった。まあ、朝でもないが・・・。
それにしても気持ちが高ぶっているせいで、なんだか充実している気がした。
「準備整った。ありんこ対策も出来ている。緑エノキも持った」
自分の準備完了を確認して、時を待たずして出発した。
いつもの道であるはずが、なんだか新しい道に見えた。
気持ちが高まり、1人興奮しているせいかもしれなかった。
それでも、ありんこ洞窟の前に到着して準備を整えることにした。
外皮強化の鋼外殻と気づかれにくくする隠密をかけた。
全周囲確認ができる第3の瞳も開き準備万端の態勢を整えた。
ありんこ達は索敵能力が低いので、隠密をかけての奇襲はとても効果的だった。
もしも、奇襲できずに数の暴力を受けたとしたら、鋼外殻があっても苦戦は必至だったのだけれど・・・。
そして、黄色い花の群生地からありんこ洞窟までジャンプで距離を詰めた。
進化後のジャンプは飛距離も精度も上がっていたので、ありんこ洞窟の正面に正確に着くことができた。
尻尾をかまえて水弾丸(改)槍を発射しようとした。
しかし、そこにいたのは昨日倒したありんこの死骸だけだった。
「ありんこ達はまだ復活していなかったな。それなら、朝食代わりに・・・ぐふっ ぐふふふっ!」
パクッ、ガジ、ガジ・・・もぐもぐ。
「う~~~ん!やっぱりうまいなぁ~」
チョコレート味のありんこを捕食して、次の戦闘に対して気持ちを高めた。
ありんこ洞窟を抜けるとそこからは右に曲がっていた。
視界を全開にして警戒しつつあたりを見回したが、何かがいる気配はなく、ゆっくりと角を曲がることができた。
角を曲がるってすぐに、右に曲がっていた。
しかし、その先は真っ暗な空間になっていた。
これまで、この洞窟は壁から天井にかけて光ゴケがあり真っ暗になる場所はなかった。
だから意識を真っ暗な空間に向けて最大限警戒しながらゆっくりと近づいた。
真っ暗な洞窟の前で停止して洞窟の奥を見つめた。
そこには近寄るものをすべて拒否しているように、暗闇の中は微動だにしないくらい静まりかえっていた。
「何かの都合で光ゴケが枯れてしまった為、暗くなっている部分なのかな!?」
暗闇があるからというだけで、ここまで体に圧力をかける雰囲気を出すものだろうか?
もしかして何かの罠があるのかもしれない。
「少し危険な感じがする・・・が、大丈夫だ。戦闘態勢は出来ている。それにしてもこの感じは何だか変だな。獲得したばかりの気配察知のスキルの効果なのかな・・・」
慎重に暗闇に近づいて、頭を少し入れようとしたとたん、背筋が凍り付くような寒気を感じた。
「なんか、やばい・・・やばい・・・危険だ!!」
暗闇に対して恐怖を感じているからなのか。
それともスキルによる何かの危機察知なのか。
理由のわからない恐怖感が暗闇への突入を躊躇させているとはっきりと分かった。
それゆえ、近づけた頭を一気に下げて、1度暗闇から距離をとった。




