136 閑話 妄想の続き
自分達はキルアント族の隠れ洞窟の中にある、南の居住区に戻ってきて、そこで解散となった。
「ギィ、アリス、自分は今回の戦いで色んなことがわかった。お前たちもそうだとおもうが、休養を兼ねてこれからの事についてゆっくりと考えたいと思う。それで、2~3日はこの隠れ洞窟でゆっくりしておいてくれ。いいか?」
「わかったっす。・・・でも、なにしよっかなぁ~。ふっふふん♪」
「わかりましたわ。それに、私も気になることがありますので・・・。ゆっくりしておきますわね」
おそらく、ギィはきっと北の商業地区に行くんだろうなと思った。アリスは何か考え事があるみたいだったが、頭のいい奴の事はよくわからないから・・まあ、色々あるんだろう。
ギィ、アリスと別れてゆっくりとしたところで、レベルアップの事やこれからの事について考えようと思ったが、生活し慣れた場所に戻ってくると、疲労感がドッと押し寄せてきた。
「思いの外体にだるさが残っているんだよなぁ。これまで、こんな感じになったことはなかった・・・いや、初めて毒を受けた時は似たようなことがあったな。まあ、いいか。とにかく今日はゆっくりと休むことにしよう」
そう思っていると、すぐに眠りについていた。
※ ※ ※
「・・・ぬきっ。たぬきっ!ねえ、聞いてるの?」
「えっ、何!・・・・いっ石橋さん」
急に声をかけられて、慌てて返事をした。
校舎の3回にある渡り廊下を歩きながら、紗耶香さんが話しかけてきていたのだ。
そして、すぐに委員会が終わって、教室まで戻る途中だということに気が付いた。
ふと、まわりを見回すと、太陽が山と海の間に沈みかけていた。海に移る夕焼けがとてもきれいに見えた。
「うゎぁああ、綺麗ですね」
「そうだよ、さっきから何回もいっているのに、たぬきったら、全然気が付かなかったよね」
有須根郁呂の通う北川高校は、校舎から正面に大きな河口がありその先には海広がっていた。河口の左側には湾になていて、包むように山があった。そして、丁度、正面には海に沈んでいく、春の太陽があたり一面を赤色に染めていた。
そして、赤く染まった海に沿って、その光が、歩いている紗耶香さんの髪の間を通り抜けてキラキラと輝いていた。
「すっごい、綺麗ですね。石橋さん」
「えっ・・・私の・・・。もう、やだぁ~たぬきったら。そんなに見つめられながらそんなこと言ったら勘違いしちゃうじゃないの。・・・だけど、本当にこの景色は綺麗だね。私はこの時間の太陽の光がとぉ~っても好きなんだ。・・・あっという間に終わっちゃうけどね」
「あっ・・・ごっ、ごめんなさい。変な事言っちゃいました。ごめんなさい。」
思わず緊張してしまい、背筋を整えて小さくおじぎをしながら謝罪した。
「たぬきったら、いつでもまじめだね。はははっ!」
「それと、僕もこの瞬間が大好きなんです。なんだか、一日頑張ったことに対して、神様がねぎらってくれているような気になるんです」
紗耶香さんは自分に背中を向けて、もう一度、もうすぐ沈んでいく太陽を眺めながら小さくつぶやいた。
「たぬきって・・・・ロマンチストだね。でも・・・・・素敵だね」
紗耶香さんは何かを口に出していたけれど、自分には聞こえなかった。だけど、ゆっくりと1歩前にでて紗耶香さんの隣に並んだ。そして、太陽が沈んでいくまでゆっくりと何も言わずに眺めていた。
「・・・終わっちゃったね」
「そうですね」
「今日は忙しかったけど、楽しかったわ」
周囲の温度が下がったことで、自分の体が火照っていることに気が付いた。太陽に当たっていたから、その熱がこもっちゃったのかなと感じていた。
それとも、綺麗な紗耶香さんと一緒に夕日を見て、緊張しているのかなとも思った。
・・・しかし、ふっと、何か忘れていることに心がざわめいた。
ゲーム三昧だった中学生の時とは違い、紗耶香さんと出会えたことが、これからの高校生活をハッピーにしてくれるんだ。その、環境の急な変化に何か変な感じをしたのかなと考えた。
「遅くなったから、もう帰る時間だね。急いで教室に戻ろう。た~ぬき!」
小走りにかけていく紗耶香さんに、追いつこうと思い、自分も足を出そうとした。
しかし、足が動かない。
「ちょっと、ちょっと待って下さい。石橋さ~ん」
紗耶香さんを呼び止めるために声を出すが、そのまま走っていく。
「動け、なんで動かないんだ。僕の足だろう・・・!?・・・足!?」
不意に、足を見て違和感を感じえずにいられなかった。
「なんで!?足なんてあるはずないのに・・・・蛇だか・・ら?」
人間であるはずなのに、自分は蛇だと認識していた。
そして、一気に意識が戻ってきた。
「のぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!また、妄想だったぁぁぁあああああああ!!!」
目が覚めた後に、辺りにはキルアント達が歩いている姿が見えた。そして、人間ではなくなった事を思い出して、ドキドキワクワクの瞬間も終わってしまったことに、かなり喪失感を感じていた。
「昨日の戦いで、疲れていたのかな。でも、紗耶香さん可愛かったなぁ。また、会えるかなぁ」
現実の喪失感もあったが、夢の中でも、いや、妄想の中でもいいから高校生活での紗耶香さんと一緒に入れることがあればそれでもいいやと開き直ることにした。




