135 最高にたのしい
でかドブネズミの胴体部分がかなり大きかったので、ウインドカッターを使用して分割してみた。地球の蛇と同じで、結構大きなものも口に入れることが出来た。
タイ焼きを頭から食べるか、尻尾から食べるか迷うタイプではなかったが、能力はやはり脳にあるのではないかと考えて、頭から捕食することにした。
【直感を獲得しました】
【狂暴化を獲得しました】
「おっ、予想的中だ!今後は大きな敵に対して、無理して食べきる必要はないな。それにしても、メッセージさんの声が、これまでよりも柔らかく聞こえたけど、気のせいかな・・・」
え~と、直感と狂暴化かぁ。あの予測能力は直感だったのか。もしかして、ランクが低い間は外れることもあるということか。オンとかオフとかあるのかな。
あと、バーサーク化かと思ったら狂暴化だった。う~んこのスキルは使いたくないな。目の色が変わって、体から光が出るのは変身みたいでカッコいいけど・・・。なんか、効果時間経過後にちょっとやばいことになりそうだもんな。
「よし、こんなもんかな」
「師匠っ!スキルの獲得出来たっすか?何か嬉しそうっすもんね」
ギィとアリスは自分が捕食中は何か楽しそうに話しをしていたように見えたから、気にしていなかったが、いつの間にか目の前に来ていた。
「おっ、わかるか?いやぁ、敵を倒してスキルを獲得したときって、本当、嬉しいんだよなぁ。後で、どんな特徴があるのかを調べて、使って、確認する。この作業もまた、たまらないんだよ」
「はぁ~、そうっすか。でも、強いスキルだったら、最高っすね!」
「お、おお、そうだな強いスキルだったら最高だ」
ちょっと、喜びすぎたかな。ギィの表情が少し驚いたようになっていたな。1つわかったのは、自分にとって新しいスキルであればなんでもよかったが、ギィにとっては強いスキルの方に興味があるのか。まあ、強さを求めるのは単純といえば、単純なんだがな。
「ところで師匠、どんなスキルを獲得したんですの?」
ギィの横で、ほほ笑みながら聞いているだけかと思った。しかし、予想外に、アリスも新しいスキルについては興味があるようだった。
「そうか、聞きたいか。獲得したスキルは2つあって、直感と狂暴化だった」
「うぇぇぇ~~~、狂暴化って、あの、おかしなことになるやつっすか?師匠はあんな風に目の色変わって、めちゃくちゃな突進をするようになるっすか」
ギィはめちゃめちゃ嫌そうな表情で、あんな風にはなってほしくないっていう思いが、完全に顔に現れていた。
「狂暴になったら、つえぇぇぞ・・・なんてな。効果時間後の反動が怖すぎて、正直使いどころが想像できないな。それに、味方を認識できずにめちゃくちゃに攻撃するなんてことになったら、まわりに迷惑をかけるから、当面封印だよ」
ギィは説明をすると、ホッとしていた。
「そうすると直感は、あの予測能力ということですわね。この能力はとても凄そうですが・・・」
アリスは凄そうといっている割には、疑問に思っているように見えた。いや、直感という能力も名称から少し疑問に感じているんだろう。
「アリスも疑問に思うか?」
「ええ、少し違和感を感じますわ」
「・・・だろうな直感というのは単なる勘に過ぎない。それは、ハズレる可能性があるということだ。ここぞという時に、ハズレを引いてしまうと・・・少し怖いな」
「そうですわね」
ただ、ランクを上げることや、さらにその上のスキルに進化することがあれば可能性は広がるかもしれないけどな・・・。
「ギィもアリスも今回の戦いは疲れただろう。一度、キルアント族の居住区に戻ることにしよう」
「そうっすね。ゆっくり休みたいっす」
「ええ、ゆっくりしたいですわ」
勝利の余韻が少し冷めて、皆の様子を見てみるとそれぞれ傷だらけだった。その状態に戦闘の激しさを今更ながら実感していた。大きな緑エノキもどきで体力を回復したとはいえ、それでも、万全であるわけではなかった。
居住区までの道は、いつも通りで、特に変わったことはなかった。
帰り道ではギィが、赤ラインドブネズミとの戦いの一部始終を、身振り手振りで事細かに説明してくれた。聞けば聞くほど、ギリギリの戦いだったことがわかった。しかし、伝達手段がない状態で行った連携は一歩間違えば、『そこに仲間はいない』といった状況になりえた。
あの広い洞窟の中で、行えた連携はギィとアリスの信頼関係があったからだ。それだけでなく、お互いがお互いの事をよくわかっている。その事の証明であるとも思えた。
「それにしても、お前たちよくそれで勝てたな?」
「う~ん。そうっすね。でも、アリスちゃんが何とかしてくれるって思ったから、まぁーーったく、問題なかったっすよ」
「そうですわ、ギィちゃんの行動はわかりやすいんですの。だから、そこに来るんだろうなぁ。とか、そこで攻撃するんだろうなぁとか簡単でしたわ」
「そっ・・・そうなのか」
信頼関係だとか、わかり合っているとか思ったが、ちょっと違ったかな。
・・・いや、これがギィとアリスにとっての信頼であり、わかり合っているということなのかもしれない。はははっ、面白いな。
危うく死にかけるといった激闘があったにもかかわらず、ギィもアリスもいつもと変わらない帰り道だった。
この世界はゲームのようだ。でも、命は一つしかない。自分がギィとアリスを守っていかないといけない。
「ははっ、蛇がトカゲとアリを守る・・・か。なんだろうな、自分達はもしかするとこの世界では異質な存在なのかもしれないな。でも、最高にたのしい」
ギイとアリスを後ろから眺めながら、一人つぶやいていた。