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134 捕食とスキル獲得

 メッセージさんの穏やかな声が響いていたが、内容を確認するよりも、今は勝利を喜ぶことを優先させたくて耳に入ってこなかった。


「やったぁ!ドブネズミ達をたおしたぞぉぉおお!!本当によくやった。ギィもアリスもよくやったなぁ。何度もひやひやさせられたよぉぉおお。なんだよなぁ。ここの洞窟のモンスター達って、強すぎんだろ。どうなってるんだ!?」


 ひとしおに勝利を喜んだ。体中の緊張が解けてだらけた状態になっていたかもしれないが、その点はご愛敬だ。


 すこし今回の戦いを振り返ってみた。総じて、余裕のある状況がなく、常に緊張して、やばい状況が続きまくっていたといえる。本当に大変な戦いだった。


「いや、敵が強いんじゃなくて、自分達が弱いんだ。そう考えた方がしっくりくる。今いる洞窟のモンスター達は自分が余裕で倒せるから、その強さを勘違いしていたのかもしれない。そうだ、あいつがいたんだ。この草むらの洞窟の先に進んでなお、我が物顔で移動してくる強者だ。このラクーン大洞窟の最深層にはあいつレベルの敵から生き残ることが出来るモンスターがいるって事じゃないか?」


 少し、ゾッとしたが、今回運よく勝つことが出来た。そうとらえることにした。


 結果として、自分だけでは絶対に勝利できなかっただろうことも実感できた。だからといって、チーム戦としてうまくいったかというと、そうではない。2手に分かれてからの、ギィとアリスはほとんど命を失ってもおかしくない状況の連続だったんじゃないかと思えた。


 あの相手に勝利できたのが、不思議なくらいだ。それに、ゲームで連携に慣れていたはずの自分でさえも、現実の戦闘経験が圧倒的に足りなかったと言えた。


 今回の戦闘ではドブネズミ達の連携に翻弄され続けた。それは、戦闘経験だけでなく、距離が離れた場合の伝達手段がないことも理由の一つだと思えた。でかドブネズミの時は、安易に伝えた為、危うく全滅しかかった。この点は今後連携をしていくためには改善が必要だろう。


 他にも・・・・。


「師匠っ師匠っ師匠っ師匠っ師匠っししょぉおお!!やったよぉお。ギィがんばったよぉぉおお。もうだめかと思ったけど、何とかなってよかったよぉぉおおお」


 戦闘後に少し反省しておこうと思ったが、考える間もなく、ギィが走ってやってきて、大騒ぎをしていた。

 ギィの後ろから来たアリスは幾分ゆっくりだった。だが、今回ばかりは、あのアリスでも喜びにあふれて大騒ぎするんじゃないかと思ったところ、何か神妙な顔をして、言いたいことを我慢しているような感じがした。


「どうした?アリスはうれしくないのか?」

「しっ師匠!申し訳ありませんわ。・・せっかく、立てた作戦『アンダーフロア』を・・なっ何も言わずになしにしてしまいましたの。・・師匠を混乱させてしまったのではないかと・・おっ思いましたの」


 アリスは体を小さくすぼめて、少し震えながら目も合わさずに震えた声で訴えてきた。


「そうだな。その事ではいらない心配をしたぞ。でも、アリスとギィで考えて、天敵ともいえる赤ラインドブネズミとの戦闘に勝利したことは、今後にとってとても大きな経験になったんじゃないのか。だから、アリス!今は喜べ!!」

「・・・うん・・・うん。よかっ・・・た。・・・本当によかったですわ。師匠も、ギィちゃんも本当にありがとうですわ」


 アリスから緊張の糸がほぐれたのか、その場で涙をぼろぼろと流しながら、小さな声で喜んでいた。

 皆で勝利の余韻を感じてしばらくたった後、ほてった体も少し落ち着いてきた。


「おっ、そうだ。でかドブネズミは強敵だったから、捕食しておこうかな」

「しっ師匠ぉぉぉおおおおおお。今、なんて言ったっすか?」


 これまでの経験で、受けた攻撃で【特殊スキル】を獲得することが出来た。しかし、この【特殊スキル】は対象を捕食することでも獲得することが出来るのだ。特に、捕食で獲得できるスキルば防御系統などのパッシブスキルであると想定していたのだった。


 だから、今回でかドブネズミが使っていた予測できるような能力は何らかのパッシブスキルだと考えていたので、でかドブネズミを捕食することは当然と思っていた。


 しかし、この発言を聴いたギィはなぜか目を丸くして自分に驚いていた。


「いっいや、だから、でかドブネズミは強敵だったから捕食するんだよ」

「師匠!それっすよ。そこに横たわっている、汚らしいネズミっすよ。それを、食うっすか?だって、それ食ったら絶対に病気になるっすよ。それ、病気の塊に間違いないっす。それでも食うっすかぁあ?」


 ギィはものすごい剣幕で病気になるからやめた方がいいとまくし立ててきた。


「待て待て、食うんじゃなくて、捕食するんだ・・・」

「師匠!食うと捕食するはどう違うっすか?」


 説明しようとしても、ギィは聞き入れようとしなかった。それどころか、途中で自分の説明をさえぎって自分の質問を投げかけてきた。


「ねぇ!ギィちゃん。師匠が何か言ってますわよ。聞いてみてはいかがしら?まわ、私もあの汚らしくて、頭の悪い、病気の塊のような汚らわしい物体を食べるなんで正気だとは思えませんが、どうですの?」


 うわ~。アリスもギィと同じ意見でって、ギィよりも言い回しかきつくないか。そう思っていると、


「わかったっす。なら、師匠!聞くっす。食うと捕食とどう違うっすか?」


 師匠なんだから、もう少し敬ってくれるといいんだが・・・まあ、とにかく、説明すれば何とかなるだろう。そう思いながら説明することにした。


「うむ。一緒だ!」

「師匠ぉぉおおお!!なんかさっきといってること違うっすよっ。やっぱり違わないじゃないっすっか!?」


 ギィからあきれた顔でジト目でにらまれてしまった。しかも、アリスと合わせて4つの目で”う~痛い”よ。


「だって、食うより捕食の方がカッコいいだろ!なっ思うだろう。アリスもそう思うよな」


 ジト目がさらに深くなったような気が・・・・・。


「つまりだ!言い方は何でもいいが、自分の持っていないスキルを持っている敵と戦い、その相手を食うとそいつが使っていたスキルを獲得できるんだ」


「そうだったんすか!?さすが師匠っすね。ギィはそのすごさに改めて感動したっす」


 ギィは目をキラキラさせて自分を見つめていた。・・・いやぁ、照れるな!


「師匠!それは本当ですの?我らキルアント族にはそんな能力を持ったものはいないし、王家に伝わっている伝承の中にすらありませんわ。普通はそんな能力って・・・考えられませんわ」


 一方、ギィとは打って変わって、アリスは非常に驚いた様子訴えてきた。


「スキルを奪うスキルっていうのは聞いたことがあるんだがな。自分も食べたら相手の能力の一部を手に入れることが出来ることを知った時は、本当に驚いたよ。まあ、これも、自分の能力だからな、有効活用させてもらうってことで」


「師匠が強すぎるわけが少しだけわかりましたわ。レベルアップについてもそうでしたが、我々の知らないことを多く知っていますのね。さすが我が師匠っていうことで納得しておきますわ。ふふっ」


 アリスは俯いて大きく深呼吸をした後、自分の方を向いて答えた。ギィは相変わらず、目をキラキラさせて自分を尊敬のまなざしで見ていた。・・・”食うと捕食”の事はもう忘れているんだろうなぁ。


「とにかく、この能力についても、わかったのは最近の話なんだ。だから、どれだけ捕食すればいいのかはわかっていないんだ。それで、まずは頭から捕食しておこうと思うんだが、お前たちも食うか?」

「いいえ、結構ですわ」

「いや、無理っすよ。師匠」


 一応、聞いてみるが返事は予想通りだった。

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