129 「やりましたわね!ギィちゃん」
「十分警戒していましたのに・・・っ!!」
アリスは斜め後ろから飛び込んできた黒い影の姿を視界の端にとらえて口惜しそうにつぶやいた。最高のタイミングで攻撃を合わせることができたと思ったら、赤ラインの御方に攻撃を完了させるタイミングに合わせて飛び込んできていたのだ。
ジャンプ中の為このまま黒い影をかわしてしまうと、赤ラインの御方にパラライズニードルを突き刺すことが出来なくなる。しかし、このまま攻撃を食らうと無防備な側面に直撃を受けてしまうことが否めない。
アリスは少し迷ったが、やはり、黒い影を気にしないことにした。
今、自分が出来ることは赤ラインの御方にパラライズニードルを確実に突き刺すことですわ。そうすれば、きっと後はギィちゃんが何とかしてくれる。私にできることはそれしかない。
「また、考えすぎちゃってましたわ。ほほほっ!後は任せますわ。ギィちゃぁぁん!よろしくねぇぇ!!」
アリスはギィに声が届くとは思わなかったが、赤ラインの御方を麻痺させさえすれば、リーダー格のドブネズミがいても、ギィちゃんなら大丈夫と思って声に出していた。
「ほいさっ!!」
「ほえっ!!・・・・・あっ、いや、パラライズニードルっ!!」
アリスは一瞬ギィちゃんの声が聞こえた気がした。しかし、赤ラインの御方はすぐ目の前に迫っていたので、予定通りパラライズニードルを打ち込んだ。
すると、赤ラインの御方は不意に攻撃を受けたことに対して、反撃するようにこちらを向こうとした。しかし、右側に曲がっている最中に後ろを向こうとして、さらに右側に顔を向けたため、バランスを崩してしまった。そして、前方に盛大に転倒していた。
転倒した後は、すでにパラライズニードルの効果が聞いているようで、起き上がってくることなく横になったままだった。アリスは赤ラインの御方が起き上がってこない事を確認した後、ギィちゃんの声が聞こえた方を向いた。
「ギィちゃん・・・・なん・・・なんで、そこにいるの?」
「おうえういが、いあかあ・・・・ううぇ~っぺっ!」
ギィは口にくわえていて、だら~となって息絶えていたリーダー格のドブネズミを勢いよく吐き出してもう一度、返事をし直していた。
「ドブネズミが一匹だけず~とついて来ていたのは知っていたのね。そして、予定の場所に近くなったら、勢いを上げて急に近づいてきていたので気にしていたの。そして、アリスちゃんがすぐそこで合図をくれた後、今度は一気に近づいてきていたのが見えたので、アリスちゃんが危険だと思ったのね。だから、回り込んで援護しようと思っていたら、アリスちゃんのジャンプに合わせてドブネズミもジャンプするから、私めちゃめちゃ焦っちゃったよ。ふぅぅ!でも、間に合ってよかった」
「ギィちゃん!ありがとうございますですの。・・・・・うん、そしたら、今度は残ったあの御方ですわね」
アリスは少し目が赤くウルウルなっていたが、戦いはまだ終わっていないのでこんなところで休んではいられないと思い。ギィに軽く感謝を述べていた。
「そうだね、アリスちゃん。それなら私は右側から行くね」
「わかりましたわ、では、私は左側から参らせていただきますわよ」
赤ラインドブネズミはアリスとギィにとって強敵だったとはいえ、今は、麻痺で横になって動けない状態にあった。そのため、これまでのうっぷんを晴らすかのように攻撃を加えた。
アリスは噛み付きで右側から、ギィは爪攻撃で左から攻撃を加えた。でかドブネズミが残っているので、魔法を使う大技ではなく、基本的な攻撃手段で複数回にわたって攻撃を加えて、遂に、赤ラインドブネズミは反撃することもなく息絶えた。
「やりましたわね!ギィちゃん」
「アリスちゃんもね、ふふっ!」
赤ラインドブネズミの白とげにはギィもアリスも死にかけた。そして、ドブネズミ達の奇襲挟撃にもかなり苦しめられた。しかし、結果として赤ラインドブネズミ達を倒すことが出来た。しかも、最後は思いの外あっけなかったことに、その場で喜び合った。
そして、洞窟の壁の側にあった大きな緑エノキもどきを食べて、HPとMPの回復に努めた。作戦がうまくいき、お互いにダメージがほとんどなかったので、短時間で回復が完了した。
「残るは、師匠と戦っているでかドブネズミだけですわね。ここからは遠くてあまり細かく確認は出来ませんでしたが、師匠は何かを警戒して戦っているように見えましたの。ですから、どこかで一度合流してから作戦を立て直した方がいいと思いますわ。それに、師匠もHPやMP消費が激しそうにに見えましたから、役に立つかわからないけれども、念のためにこの大きな緑エノキもどきをもっていきましょう」
「早く、師匠の所に行って、皆で、でかドブネズミを倒そうね。でもぉ~師匠は一体どこにいるのかなぁ~」
師匠が戦っている場所は、この洞窟の丁度反対側の壁の近くだった。それに、師匠は草むらの中から場所を次々と移動させて水弾丸を打っていたので、師匠の姿はまったく見えなかったのだ。




