126 だまされてはいけませんわ!!
アリスは声を出すことにより、赤ラインの御方に気づかれるかもしれないと考えていた。しかし、ギィちゃんに気づいてもらえないと作戦自体が成り立たないと考えてもっとも単純な方法として名前を呼ぶことにした。
ただし、ギィとのハイスピードな攻防を行なっている赤ラインの御方が、そんな状態で気づくことが出来るのかわからないといった、ある種、賭けのようなところもあった。
ギィちゃん今の呼びかけで気づいてほしいですの!!
アリスは強く願いながらその場で身を潜めて出来るだけ気配を消すように努めた。麻痺の解除もかなり進んでいて、歩くことはできる状態までなっていたが、その場で動かずにギィに思いが伝わったかを期待しながら視界に映る姿を追いかけた。
ギィは赤ラインドブネズミから絶え間なく飛んでくる白とげを華麗とはいえないが、かろうじてかわしながら少しづつアリスのいる場所に向かって誘導していた。その中で少しだけ違和感を感じる姿があった。
それは、ギィの尻尾がピンと上を向いていたことだ。
時間にしてほ5秒くらいとほんのわずかではあったが、なんの攻撃も行わずにただまっすぐと天井に向かって尻尾が不自然に伸びていたのだ。そして、その後は元通りに尻尾を使って方向転換を行いながら、赤ラインドブネズミの白とげをよけていた。
やっぱりギィちゃん、とても分かりやすい返事ですわ。きっとこのまま、この場所まで赤ラインの御方を連れてきてくれるはずですわ。そしたら私にできることは、万全の体勢でギィちゃんとかわした作戦を実行するだけですの。
アリスはこの洞窟の左端の壁際で麻痺が解けるのを待っていた。草むらが深くなっていて、アリスの姿は全く見えない状態だった。ギィに救われたアリスは、この場所で体を休めていた。そんな中、いきなり飛び出したギィはこの場所から洞窟の奥に向かって走り、そして、大きく回り込むようにして、赤ラインドブネズミに攻撃を仕掛けていた。
足と尻尾を使い、赤ラインドブネズミの攻撃に対して完全に裏をかくようにして移動していた。正面から攻撃を仕掛けたと思うと、回り込んで今度は後ろから攻撃を加える。そういった攻撃を繰り返しながら、土砂降りの雨のように降り注ぐ白とげをかわして、少しづつ少しずつアリスの待機している場所まで近づいてきていた。
ギィとかわした作戦は単純なものだった。ただ、それは近くにいてタイミングを合わせて行うことができるとふんでいたからだ。しかし、予想外に早く赤ラインドブネズミが私たちを探すのをやめてしまったことにより、ギィちゃんは追加の作戦もたてずに飛び出してしまった。
どうせ、赤ラインの御方を近くまで連れてくれば、私が何とかするだろうくらいにしか考えていないというのはわかっていましたの。だから、私が、何とかするしかありませんわ。たしかに、ギィちゃんと私、それに対して赤ラインの御方だけで行う戦いだったら、何の問題もなく倒しきっている予想がつきましたわ。しかし、向こうにはあれから姿を一向に見せていないリーダー格のドブネズミが控えていますの、何かを狙っているのは間違いありませんわ。
私が死にかけた時は見事に不意打ちを食らってしまいましたわ。今の所はギィちゃんと赤ラインの御方の攻防に大きな変化はありませんですの、ですからきっとリーダー格のドブネズミは何らかのタイミングで援護が出来る隙を伺っているにちがいありませんわ。そうだとすると、同じ失敗を繰り返さないように気をつけないといけませんわ。
ですが、みてらっしゃい!同じような失敗は決して繰り返しませんわよ!!
アリスは近づいてくる赤ラインドブネズミの姿を視界に入れて、体に緊張を張り巡らしていた。そして、自分の足先の動きをみて、問題なく動いているかどうか動作の確認した。さらに、パラライズニードルも確実に行えるかの針の出し入れの確認も行った。
パラライズニードル自体は毒針を刺すわけではなく、尻尾の針の先端からパラライズニードルを射出するのだ。ただし、その射程距離は30cmほどしかない、そして、その分、相手の内部にまでパラライズニードルを差し込むことで麻痺の力は麻痺弾に比べてもかなり強力だった。
ギィちゃんと赤ラインの御方はさきほどよりも確実に洞窟の壁の近くに向かってきていた。周辺の状況を確認するために赤ラインの御方の前後左右を細かい変化がないか確かめていた。しかし、近くにいるはずのリーダー格のドブネズミの姿がまったく見ることが出来なかったのだ。まるで、でかドブネズミの方に向かってしまったのかもしれないと思わせるほど、姿を見せず、しかも、気配すら感じさせることはなかった。
アリスは一瞬、見えている状況の通りなのかと思わされた。
違いますわ!そんなことはあり得ませんの。だまされてはいけませんわ!!
アリスは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。ドブネズミ達の戦い方として奇襲を入れてくるのは基本戦術である。ほんのちょっと前に死にそうになった事を思い出して、必ず赤ラインの御方の近くにいるはずと決めて動くことにした。
ギィに誘われてこちらに向かっている赤ラインの御方はもうすぐそこまで来ていた。




