111 作戦名『アンダーフロア』
「師匠!こんな時に何をニヤニヤしているんですの!!」
アリスが真面目にでかドブネズミを評価したことが、自分にはとても面白かったということを、真面目なアリスに告げていいものか少し迷っていた。
しかし、そのことを告げたとしても、たいした反応はないだろうと考え、思い切って伝えてみた。
「いやな、アリスが『きっと頭が悪いのですわ』とでかドブネズミの事を評価したのが、普段のアリスからはイメージが出来なかったから、それが面白くて笑っていたんだよ」
思い切って伝えてみたが、アリスが怒ってしまうなんてことは全く見られなかった。100%何ともないとは思っていなかったが、特にこれといった反応は見られなかった。
「そうですの!頭の悪い行為に対して、頭が悪いということに何の問題がありまして!」
あれ!アリスの表情は全く変化がなかったのに、この発言はやっぱり怒ってないか!?
「アリス!わっ・・悪かったな!そうだよ!頭の悪い行為に対して、頭が悪いと言っても問題ないよな。はははっ・・・」
「師匠が謝る必要は、まっ!たっ!く!ございませんわよ」
表情は全く変わらないのに、なんだこの静かな怒り方は・・・。いや、もしかして、アリスは静かに怒る時が一番怒っている時なのかもしれない・・・・・これから気をつけよう。
「話は変わるがいいか・・・な?」
今の状態が続くのは良くないと思い、これからの作戦を立てておこうと思った。しかし、いきなり何もなかったように話しかけて、さらに怒らせたらいけないと思い。恐る恐る聞いてみた。
「ええ!構いませんわ!でかドブネズミとの対戦についてですわね」
アリスの目が優しく見えた。少し表情を表して、対でかドブネズミ戦についての話をアリスの方から振ってきた。さっきまで無表情だったので、それと較べると気持ちが落ち着いだんだなと感じた。
アリスは無表情がまずいんだな。アリスの無表情は要注意だな。
こんなことばかりしている場合ではなかったから、とにかく、でかドブネズミとのプランを話してみることにした。
「そうだ!自分達が合流したように、あいつらも合流している。現状ギィの麻痺が取れていない状況では戦力的にこちらが不利だと考える。アリスはどう思う?」
「そうですわね、普通のドブネズミは構わなくても問題はないとして、麻痺性の特質を持つ白とげが厄介ですわね。わかりましたわ!師匠!私があの頭の悪いでかドブネズミの注意を惹きますわ。その間に赤ラインドブネズミをお願いできますの?」
さすが、アリスだと思った。自分は過去のゲームの中でこう言った状況での戦闘を何度も経験してきた。だから、作戦を立てることに対して、これまでの経験を生かすことが出来ていた。しかし、アリスはそんな戦闘経験もないままに、現状での問題点を的確に把握していた。
「数の不利を何とかしようとするアリスの作戦はいいと思う。自分はそれに1つ策を入れてはと思うんだ。だから、最初はアリスが赤ラインドブネズミに向かってもらいたいんだがいいか?」
「そういうことですのね!でしたら、合図はどうしますの?」
アリスには作戦をおおむね理解できているようだった。バレットアントに進化して、頭脳の向上が著しくアップしているんだろうなと思った。
「そうだなぁ~!『アンダーフロア』でどうだ!まあ地下って事だけど・・・」
「わかりましたわ!では『アンダーフロア』で作戦開始ですわね」
あっ。いいんだ!まあ、アリスにとっては合図はなんでもいいんだろうな!言葉さえあればいいんだろう。う~ん、なんだか物足りない気もするが、作戦名も決まったし、遊んでいる時間もなさそうだな・・・。
自分達が作戦を立てている間に、でかドブネズミは赤ラインドブネズミを従えて、こちらに向かってきていた。自分達とでかドブネズミ達の間の草むらは自分のウイングカッターで切り取られて丸裸になっていた。
しかし、でかドブネズミ達はそんなこと気にせずに突撃してきた。
完全に作戦も何もなく、ガチンコ勝負に乗り出してきた感じだった。
奥に横になっているギィを見たが、まだ、麻痺が解けていないようだった。
現状では、自分とアリスでの戦いになるが仕方がない。とにかく、今出来ることに集中することにした。
「さあ!アリスっ!作戦名『アンダーフロア』を開始だ!!」
声をかけると、アリスは一気に走り出した。目標はでかドブネズミの左側にいる赤ラインドブネズミだ。
「さあ!かかってらっしゃい!赤ラインの御方!!」
でかドブネズミ達は洞窟の中央と右の壁の真ん中あたり、洞窟内ではやや右よりから向かってきていた。
アリスは大声で声をかけることで、でかドブネズミ達の注意を引いた。そして、後方から回り込むように洞窟の中央まで行き、そこから洞窟の中央をまっすぐに駆け上がった。
でかドブネズミ達はアリスが先に視界に入ってきたためか、2匹ともアリスに向かって動き始めた。
「でかドブネズミ!お前の相手は自分だ!正々堂々戦おうじゃないか!自分の言葉が聞こえているかどうかは図らないけどね!はははっ」
そして、声をかけた後にウインドカッターをでかドブネズミに向けて飛ばした。
自分は一気にアリスとは反対側の右の壁に向かって進んだ。
移動しながらウインドカッターがでかドブネズミに当たったかどうかを確認した。
しかし、でかドブネズミの右側をかすめただけで、ダメージを与えることはできなかったものの、でかドブネズミは十分自分を意識したようで、赤ラインドブネズミとは2手に分かれて自分の方に向かって来た。