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11 新たなる洞窟! そして 新たなる敵!

 どれくらいの時間がたったのだろう。


 その場で茫然としながら色々とぐちゃぐちゃになった気持ちを整理していた。


 巨大モンスターであるオオトカゲから命が助かったことに、いまさらながら安堵した。


 まだ体の震えが一向に止まらない。

 命が助かった直後に比べると体の震えは収まっている。


 とはいえ、恐怖に縛られた体が落ち着くためには今しばらくの時間が必要だろう。


 それに、これからの事も考えないといけない。


 住処の洞窟の付近にいる弱小モンスターを倒したくらいで、この世の天下を取った気になっていた。


 のぼせ上っていた。


 この洞窟にはありえないくらい巨大で強そうなモンスターがいることを知っていたはずだ。

 自分の親らしき巨大な蛇のモンスターの死骸を見ていたから・・・。

 それよりも強いということも知っていたから・・・。


 にもかかわらず、現実を忘れるために考えないようにしていたのかもしれない。


 だけど・・・これからは絶対に忘れていけない。


 だって、そいつは俺の親を、兄弟たちを食らったやつだ。


 いつか、俺が絶対に倒さないといけないんだ。


 しかし、今のままだと親兄弟の仇を打つ前に、俺も同じように餌にされてしまうことは目に見えて明らかだ。

 こんな水辺のちっぽけな主になるなんて小さな目標しかもてなかったら、俺なんかに成長なんて見えて来ない。


「そうだ!俺の冒険は今始まったようなものだ!こんなところで、うじうじしてても仕方がないんだ。目の前にある弱肉強食の世界では、弱いものは死ぬ。そう決まっているんだ!だから、強くなって俺の運が続く限り、前進あるのみだ!!」


 誰かいるわけでもない、聞いてくれる人がいるわけでもない。


 自分に言い聞かせるように、自分自身の気持ちを奮い立たせるかのように上を向いて、ひとり声に出して宣言した。


 長い道のりも1歩から。


 何かを始めるためには今出来ることをコツコツと進めていかないといけない。


 今の俺にできることはレベルを上げること、そして、この洞窟がどうなっているのかを調べることだ。


 自分の事をどれだけわかっていても、この洞窟のことをわかっていないと待っているのは死だ!


 俺は、気持ちを強くもち、そして、気持ちを切り替えるように自分自身に問いかけた。


 気が付くと、体の震えが止まっていた。


 俺は付近のモンスターに勝てるようになり、自分の弱さをだまして強くなったと錯覚していたみたいだった。


 しかし、そんな気持ちをあのオオトカゲに出会ったことで一気にぶち壊された。現実を強制的に認識させられたのだ。


 そして、よくわからないが開き直ってしまった。


 未だに本来の自分とゲームの中の自分が混ざり合って、今いるこの現実をゲームと勘違いしているのかもしれない。


 しかし、今はそれでいい。俺の気持ちのよりどころがゲームの中にあったとしてもいいのかもしれない。


 とにかく、出発だ!

 そのために、準備を整えないといけないなぁ!


 まあ、準備といっても、濡れないように地面に置いておいた緑エノキを尻尾につかむだけだけど・・・蛇だから~


 この水辺からは正面に住処の洞窟が見えた。


 そして、住処の洞窟から出て右側にある洞窟は、この水辺とつながっている大洞窟だ。


 親と思われる大蛇の死骸もそこには残っている。


 この大洞窟の奥は薄暗くなっていて、先が全く見えなかった。


 先が見えないのは、反対にある小さい左側の洞窟の入り口の方も同じだったが、オオトカゲを見た後に、大洞窟はどうしても恐怖感が先に立ってしまった。


 それゆえ、小さい左側の洞窟の入り口を次に目指す先に決めた。


「この洞窟の先には、新しい何かがあり、そして、新しいモンスターがいるんだろうなぁ!今よりも、もっと強いモンスターがいるかもしれない。だから、気を引き締めるんだぞ!俺!」


 なんとなく小さい左側の洞窟を新たな門出と位置付けた。


 小さな左側の洞窟は薄暗いだけでなく、しばらく続いていた。


 途中、スライムや毒蝶々の襲撃を受けたが、難なく水弾丸で切り抜けることが出来た。


 なんだ、この辺もまだ大洞窟にいるモンスターと変わらないんだな


 急激に強いモンスターがいるとなると、進み方を注意しておかないといけないと考えていたのに、思いの外変わらないモンスター達だったので安心して移動できた。


 しばらく進むと、左側の洞窟の出口が見えてきた。


「あっ、花が見える。水辺に咲いていた黄色い花と同じようだ」


 花が咲いているとなんだかうれしくなり、少し落ち着いた。


 洞窟の先には水辺に咲いていた巨大な黄色い花が咲き乱れているだけでなく、少し明るくなっていた。


 ここから見える出口から先は、全容は見えないくらい広くなっていた。


 一応、出口付近にモンスターの存在を危惧しながら、ゆっくりと注意しながら進んだ。


 左側の洞窟の出口に到着すると、そこにはやはりひときわ大きくなっている洞窟があった。


 水辺のある大洞窟ほどではなかったが、高さも幅も今通ってきた左側の洞窟の2倍位あった。天井にあるヒカリゴケが一段と輝いていたため、そこは特に明るく感じた。


 黄色い花々の上空をみると、そこには毒蝶々がヒラヒラと塊を作って飛び回っていた。


 一見すると、川の側にある菜の花畑の様相を呈していた・・・サイズは馬鹿デカいけれども・・・。


「なんだろう、ここはこれまでの洞窟よりも少し明るいようなきがする。なんでだろう?」


 そう思って、周りをよく見てみると水辺周辺と違っているところがあったのだ。


「何が違うんだろう。ヒカリゴケ、花、水・・・・あっここの地面は土砂になっているんだ」 


 これまで、水辺を除いて洞窟の地面はごつごつした岩場の様だった。


 しかし、この広くなった洞窟は一面に黄色い花が咲き乱れ、地面は土砂で覆われた場所となっていた。


 それで、ここは菜の花畑のように見えたんだな。


 地面の色だったんだ!


 違いに納得していると1つ問題があることに気が付いた。


 それは、蛇の移動の特性としてまっすぐに進むときは、お腹のところにあるウロコを地面にひっかけて体全体を伸縮みすることで前進するのだ。


 まあ、軍隊が行う匍匐前進(ほふくぜんしん)みたいな移動の仕方だ。


 そのため、この場所のように土砂だと引っかかりが少なくて岩場よりも移動しにくいのだ。


「先に進む前に、土砂での移動は少し練習が必要だな。丁度いい。ここで少し練習しておこう」 


 備えは必要だと考え、ここで少し土砂での移動の練習をしていくことにした。


「ここの地面には砂が多くて滑るんだよな。そうだ・・・その前に、え~と!まわりに見慣れないモンスターの姿は・・・ないようだな。うん・・・大丈夫だ」


 練習しないということに意識がいったから、周囲の危険を確認することを忘れるところだった。しかし、特に新しい敵の存在もなかったのでホッとした。


 まあ、仮にいたとしても、すぐに後ろにある洞窟に逃げ込めばいいだろう。


 上空をみると毒蝶々がゆうゆうと飛んでいた。しかし、周辺に他のモンスターの影は見られなかった。


 練習をしても問題ないと確認してから、前進を始めた。


 黄色い花が咲き乱れている中、花々を避けながら前に進んだり、後ろに下がったり、時にはジャンプをしながら少しづつ前に進んだ。


 途中にある広くなっているところでは、砂漠を移動する蛇のようにくねくねしながら右や左へと両サイドへの移動も練習しておいた。


 体の使い方次第で、おなかのウロコによる地面に引っかかりがなくても、岩場と遜色ないくらいの移動が出来るようになっていた。


「蛇の体は使い方次第で色んな環境に対応できそうだな。すげーな!」


 移動の練習をして、ある程度ものになってきたころに黄色い花々の群生地の終わりが見えてきた。


 そしてこの洞窟の先は右側に90度位の角度で曲がっているのが見えた。


 この黄色い花々の群生地は特に新しいモンスターはいなかったので、この先には絶対に新しいモンスターがいるに違いないと予想した。


 まあ、予想しないより予想した方が安全だしな。


 それに、移動に関して体の使い方次第で色んな環境に適応できそうだから、もしかしたら、アニメみたいに気配を消すことも出来るんじゃねっ!って、普通無理だよねぇ・・・。


 そんなことを考えながら、一応、気配を消した()()()でゆっくりと曲がり角の洞窟に向かって近づいていった。


 黄色い花の群生地から曲がり角の洞窟の入り口までは20m位距離があり、そこの間には土砂があるだけで体を隠せるものが何もなかった。


 そして、この洞窟は90度位曲がっているだけでなく、少し暗くなっていたから先が見えなくなってた。


 その事が新しいモンスターの出現の警戒と合わさって、さらに警戒心を強めさせられた。


 ゆっくりと角が見えるところまで進んでみたが、曲がり角の洞窟までの空間には特にモンスターらしきものはいなかった。


 毒蝶々すら飛んでいなかった。


 まあ、これだけ黄色い花があるのに、わざわざ花のないところを飛ぶ必要はないか。ここら辺は大丈夫だな。


 入り口までは問題なく進めそうだと思って、黄色い花の群生地から出ようとした瞬間、洞窟の入り口の下の方に黒い影が見えた。


 黄色い花の群生地から出ることをいったん中止し、洞窟の入り口の黒い影が何かを確認するためその場で待機していた。


 しばらく、眺めていると時々黒い塊が見え隠れしているのに気が付いた。


 いるっ!


 何かがそこにいる!


 黒い何かだ!


 そう思ったので、そこにいるのが何なのか確認することにした。


 動いているが飛行している様子はなかったので、飛べるモンスターではない。色は洞窟が暗いからではなく、黒い色をしている。


 そして、塊に見える・・・丸い塊!・・・何となく気づいた気がした。


「なっ!なんだ・・・あれはっ!・・・あの丸くて、黒く光ってつやつやしていて、こまごまと動いて・・・もしかして、ありんこ!?っていうか、ありんこだね!」


 曲がり角の洞窟の入り口で、動いていた黒い影は間違いなく()()()()だった。


 ありんこと分かってからしばらく観察していたら、1度はっきりと姿を現した瞬間があった。


 そして、その時にやっぱり普通の小さなありんこではないことを認識した。


 20m位離れたところからであったが、しっかりと頭にある触覚まで細部が見えたからだ!


「やっぱり、ありんこもでかいな!うん!で()()()()()()だよなぁ~~。それに、今までにいない初めてのモンスターだ!」


 しばらく見ていたが、奥に、他のありんこの様子はなかったことから、曲がり角の洞窟の入り口にいるありんこはあいつだけと判断した。


 それに、こちらの存在に気づいた様子もないので、これは絶好の先制攻撃のチャンスでもあった。


「だけどぉ、ありんこに水弾丸がどれほど効果があるかわからないから、確実に勝てるわけではないんだよなぁ」


 不安な気持ちが浮かび上がってきていた。


 だめだ!また、弱気になっている!


 さっき成長するって決めたじゃないか!


 強くなるって決めたじゃないか!


 運が続く限り成長し続けるって決めたじゃないか!


 それに、今はチャンスがある。これを活かすって決めたから、いけるところまで行く!


 弱気になった気持ちを奮い立たせて水弾丸の準備をした。最初は単発だった水弾丸も、今は5連撃が可能になっていた!


 単純な攻撃だが、連撃になるだけで威力が上がることもわかっていた。


 しっかりしろ!


 俺は強くなっている!


 絶対に強くなっているんだぁ!


 自分に言い聞かせながら、ありんこの側に別の仲間がいないかをもう一度確認した。


 そこにいるありんこは1匹だけだった。


 なぜ1匹だけなのかはわからないが、1匹だけの偵察、もしくは、仲間からはぐれているたぐいであることは間違いなかった。


 強さのわからないモンスターが1匹というのは俺にとっても強さを測るのに絶好の機会であった。


 黄色い花の群生地の中からありんこを狙って水弾丸を発射した。


「水弾丸!」


 ビュシューーーーン!


 レベルが上がり水弾丸の命中精度も上がっていたため、勢いのある水弾丸が逸れることなくまっすぐありんこに向かって飛んでいった。


「よし、当たれぇ!」


 勢いよくまっすぐに飛んでいった水弾丸は、ありんこの後頭部に直撃した。


 生き物にとって頭部は弱く弱点になりやすい。しかも、後頭部であれば確実にダメージを与えられるはず・・・。場合によっては、倒すことも出来るはず・・・。


「あれ、当たった・・・よね」


 ありんこは特に倒れる様子もよろめく様子もなかった。

 何らかの衝撃はあったようで、一瞬固まったように見えた。


 しかし、ありんこはすぐに周囲を見回して、攻撃をしてきた方向を、つまり、俺の方を見ていた。


「やばい、気づかれた。しかもなんだ・・・水弾丸の攻撃が全く効いてないじゃないか!?」


 水弾丸は確実に直撃していた、しかし、たいしたダメージは受けていないようだった。距離が離れていたせいで、水弾丸の攻撃力が下がっていたからかもしれない。


 ありんこは仲間を呼ぶ気配もなく、こちらに向かって動き出していた。


「向かってきている・・・しかも、速いっ!それに、あれっ!やばくない!なんか怒っている!?ように見えるんだけど・・・」


 モンスターだから、怒っているといった感情があるはずないんだが、怒っているように見えた。


 なんとなくありんこの体中から怒りがあふれて見える状態でこちらに向かって走ってきていた。


 しかも、その移動速度がものすごく速かったのだ。


 ありんこは1度水弾丸を後頭部に受けていて、多少なりともダメージを受けているはずだが、全く平気そうにしていた。


 一瞬、逃げた方がいいかと思ってしまったが、距離が近づけば水弾丸の威力も上がることを考えもう一度水弾丸で攻撃してみることにした。


 ありんこと自分との距離は10m位まで近づいてきていた。


「水弾丸!」


 ビュシューーーーン!


 ありんこはまっすぐ俺に向かってきていたので、水弾丸の狙いをつけるのは簡単だった。そして、今度はありんこの正面に直撃した。ダメージをいくらか与えたように見えた。


 ありんこは少し怯んだ様子で移動スピードも下がっていた。

 だが、すぐに体制を整え直して、再度こちらに向かって走って来た。


 ありんこはもう目前2m位の距離まで迫ってきていた。


 距離が近ければ水弾丸でダメージを与えられることがわかり、とっておきの水弾丸5連撃を打ち込むことにした。

 ありんこは俺の放つ水弾丸は平気だとでもいうように避けようともせずに、顔の前にある大きな牙を構えて突撃してきていた。


「じゃあこれはどうだ!水弾丸5連撃ぃぃぃいいい!!!」 


 ビュシュッシュッシュッシュッシュッーーーーン!


 至近距離で水弾丸5連撃を正面の頭部に向けて発射した。至近距離だったため、外れることなく全弾同じ場所に命中した。


 今回はかなりのダメージを与えられていたようで、硬い外皮から出血しているのが見えた。体の動きも止まり、フラフラしている様子もうかがえた。このまま、絶命するかと思われたがありんこの大きな目は死んではいなかった。


 ありんこはフラフラしていた足を再度踏ん張りなおすと、大きな牙を向けて噛み付こうとしてきた。


 俺も水弾丸5連撃で倒せたと油断していたため、ありんこの動きに反応が遅れてしまった。しかし、ありんこに最初のスピードはなく精神力で最後の攻撃をしてきているように見えた。それはまるでありんこの戦士のような雰囲気を出していた。


 しかし、俺も生き残らないといけない。この世界は弱肉強食の世界。強いものだけが生き残る世界だ!悪いが倒されてくれ。とどめを刺す理由を自分に言い聞かせて、水弾丸5連撃をありんこに打ち込んだ。



「悪いがとどめだ!水弾丸5連撃!!!」



 ビュシュッシュッシュッシュッシュッーーーーン! 



 至近距離で傷を負った頭部を狙って水弾丸5連撃を打ち込んだ。


 今度はさすがに硬い外皮を持つありんこをも絶命させることができた。正面で横たわったありんこは動きを完全に止めていた。



「ふうっ、なんて硬さだ!水弾丸は結構攻撃力があったはずなんだが・・・。しかも、水弾丸5連撃でも2回必要だったなんて・・・。もしも、集団で・・・例えば2匹だけであっても勝てる気がしない」



 今回使用した水弾丸5連撃は魔法操作がランク6になった時に、まとめて最高5連撃として発射できるようになっていた。そして、今の俺にとって最強の攻撃力を持つ魔法だった。


 威力だけをみれば、水弾丸(改)と水弾丸5連撃にそれほど差異はない。しかし、水弾丸(改)は発射時に形状のイメージが必要なため若干時間がかかる、緊急時に発射するには水弾丸5連撃の方が有効な魔法となるのだ。


 ちなみに、複数の敵に水弾丸で攻撃するとしたら、通常の水弾丸の方が効率的だが、単体に高い威力が必要な場合はほぼ確実に全弾命中出来る連撃が有効だった。


 正面に倒れているありんこをみて集団で襲ってきたらどうなるんだろうと考えた。


 人間だったころに見たありんこは常に集団だった。しかも、何百匹も列を作って移動しているのを見たことがある。


 今回がたまたま1匹だけだったから倒すことが出来た。今更ながら何とかしのげたことに、少しホッとして、自分の運の強さにも感心した。


 ホッとしたことで、なんだがお腹がすいていることに気が付いた。


 毒蝶々でのレベリングのはずが、巨大モンスターの出現に続き、新しい洞窟への探索、それに今のありんことの闘いと駆け足で進んできていた。


 何かに焦っていたのかもしれない。はじめてであったモンスターであるありんことの緊張感のある戦いに勝利したことが、逆に緊張感をほぐしてくれたのかもしれないと思った。


 そして、気が付くと、目の前に横たわっているありんこを見つめていた。


 それが、なぜだかわからない・・・黒い色のせいかもしれない!?・・・がチョコレートを思い出させてしまったのだ。ありんことチョコレートは全く結びつかないはずだが、むしょうに食べてみたくなったのだ。


 すると、普段であれば考えられないことだが、いつの間にか食べられるかどうかまじまじと観察していたのだ。



「あれほど攻撃を受けても耐えられるほど硬そうには見えないんだけどなぁ。色は何となくおいしそうだな。そういえばアリクイって動物がいてあいつらありんこをうまそうに食っていたもんなぁ」



 あれっ!なんか変なこと考えていないか!?


 俺が蛇になったからそんな風に考えるんだろうか!?まあ、蛇だし、胃袋は強そうだし、少しくらい問題があっても大丈夫だろう。少し気軽に考えてみた。



「かじったら硬さがわかるかな。でも~まずかったり、毒があったりしたら、やばいかな・・・。あっ毒は耐性があるから大丈夫か!でもぉ~まずいのは嫌だなぁ~」





 かじってみるかどうか迷いながら、ありんこを近くで見るとチョコレートみたいでおいしそうに見えてきた。最近は、卵の殻も食べつくしてしまい、甘いものを食べてなかったせいか、お菓子に飢えてるのかな・・・。人間だったころはチョコレートなんかいつでも食べられたのになぁ~。


 ・・・あれ!やっぱり何考えてるんだ、俺・・・すでに食べることが前提になっているじゃないか・・・。


 ここまでくると、甘いものやチョコレートのことが頭を離れなくなっていた。そして、よくわからないが気が付くと、ありんこを食べることを正当化していた。


 もう我慢するのもよくないなぁ。


 いいや!食べちゃえっ!まあ、毒だとしても、毒耐性あるし、何とかなるかな。


 そう、自分に言い聞かせて食べることにした。


 パクッ、ガジ、ガジ・・・もぐもぐ。



「うわぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!」



 ありんこを食べた後に、その味の衝撃に大声が出た!


 ありんこの住処の近くかもしれなくて、集団で攻撃を受けたらまずいというのもわかっていたが、その味の衝撃に声を出さずにはおれなかった。



「チョコレートだ!ありんこ!チョコの味がするよ!あぁーー、いっぺんに食べちゃった。もったいなかったなぁ」



 久しぶりに食べた甘みだった。強い甘みの中に、わずかなほろ苦さがアクセントになっていて、さらに甘さを引き立てる。そして、バニラエッセンスのような甘い香りに顔中が包まれた。まさにチョコレート味だった。


 しばらく、チョコレート味の余韻を楽しんでいた。


 しかし、もう一方では、あまり長くこの場にいるのは良くないという考えもあり、一度、住処の洞窟まで戻ったほうがいいだろうということにした。



「まあ、この洞窟はモンスターが何度も現れるから、きっとまた会えるさ!その時に倒せば、またチョコレートを味わうことができるだろうから、今はここまでにしておこう」



 浮ついた気持ちを、引き締めようと気持ちを切り替えた。


 それは、俺が倒したありんこが偵察だとしたら、戻ってこないありんこの事を探しに来るかもしれない。偵察ではなかったとしても、仲間を探しに来るかもしれない。


 いずれにしても、集団で襲ってくる可能性のあるありんこと準備もなく戦うことはできないので、何らかの手段を考えておく必要性をうっすらと感じていた。


 そして、住処の洞窟に向けて進むために方向転換をした直後に、



【鋼外殻を獲得しました。】



「うあっ、びっくりした!メッセージさんか!やっぱり何回聞いてもなれないな。大体なんで急に話し出すんだよ。お知らせのメロディーか何か流せばいのに」 



 メッセージさんには毎回驚かされるので、言っても仕方ないが不満を訴えてみた。



「それにしても、鋼外殻ってなんだ!?それに、なんで急にメッセージさんの声が聞こえてきたんだ!?」



 ありんこと戦ったからか?


 いや、それは違う・・・あっ!・・・食べたから!?


 それならつじつまが合わないこともないが・・・・。



「まっ!いいか!詳しいことはよくわからないが・・・とにかく新しいスキルだからステータスを見てみよう」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 鋼外殻ランク1(MP=100 TIME=30m)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「鋼外殻?鋼の外側の殻?あっ!もしかして、ありんこが硬かったのは、魔法なのか!?」



 そう言えば、水弾丸を受けても平気なくらい硬いのに、食べた時はそれほどの硬さがなかったことを思い出した。



「ほう!防御力が上がるのはいいな!とてもいいスキルを獲得できたぞ!それに、30分間も使える!戦闘準備の時に使用しても十分効果が得られるなぁ」



 ステータスを確認した後、住処の洞窟に戻りながら、防御力アップのスキル獲得で喜んでいるところに一つ気が付いたことがあった。



「自分の防御力もアップするが、もともとありんこのスキルだよな!あんなに硬かったとすると、1匹や2匹なら何とかなるが、集団になることを考えると何か対策を考えないといけないなぁ」



 今回は1匹だけだったが、ありんこの習性上必ず集団になると考えていた。この異世界でも日本での知識が通用するかは不明だったが・・・。



「何か対策っていってもなぁ、俺の攻撃手段って、噛みつく、締め付け、それに、水弾丸しかないんだよなぁ。何かいい手はないかなぁ・・・・・・・・・・・そうだ!」



 物理攻撃は単体には有効かもしれないけど、集団には効果が薄くなってしまう。そうすると、残ったのはスキルである魔法攻撃しかない。そして、魔法はイメージ力によってある程度修正可能になる。どの程度形を変えられるかわからないが、やってみてもいいだろうと思った。


 そして、住処の洞窟に到着した後、尻尾の先に水弾丸(改)の発射準備をした。


 尻尾の先に、水が集まり、小さな水のボールのような形から、だんだん大きくなり、次第に大きな大砲の弾のような形に形成されていった。


 尻尾の先に浮いている大砲の弾のような水弾丸(改)を眺めていた。



「形を変えられそうなスキルとして考えられるのはこの水弾丸(改)だ!もともとは広範囲の大きな塊だから、この塊を細く、長くしてみたら貫通力が上がるんじゃないか!?」



 イメージを固めて、具体的な形を想像してみた。



「え~と!細くて長くて攻撃力がありそうな武器は何があったかなぁ~とっ!そうだ、弓矢はどうだろう?」



 最初に浮かんだのは弓矢だった。しかし、弓矢は細すぎて威力にかけるし、それだったら普通の水弾丸で事足りる。



「威力を考えるなら大砲か?でも、大砲だったらそのまま水弾丸(改)で十分だよなぁ。他に武器ってあったかなぁ・・・・・・・・・槍っ!そうだっ!槍があるじゃないか!」



 そして槍をイメージしてみた。


 尻尾の先に浮かんでいた水で出来た大砲の弾がゆっくりと細くなり、さらに、先端をとがらせるイメージをすることで、少しづつ槍に近づいていた。



「あれ、なんか()()()()()みたいになってしまったな」



 大体あっているので、つまようじでもいいかとも考えたが、少し、先端を武器の短剣のようにして槍っぽくしてみた。威力は変わらないと思うが、見た目でかっこいい方にしてみた。


 それから、一度、水弾丸(改)を解除してから、もう一度水弾丸(改)の準備をした。



「尻尾の先で水弾丸(改)を出して・・・それを、さっきイメージした槍の形に変えて・・・とっ!あれ、やっぱりこうして見ると、つまようじと変わらないなぁ。ははっ!これじゃあだめかな・・・・。でも、まっいいや!とにかく発射っと!!」



 尻尾の先で作った槍(つまようじ!?)を壁に向けて方向を整えた。方向が決まれば、あとは水弾丸と同じく飛ばすだけだ!まあ、発射すれば勝手に飛んでいくからこちらで操作することはないんだが・・・。



「水弾丸(改)槍!」



 シュヒュン!



 1m位の長さでイメージされた水で出来た槍がものすごい速さで飛んでいった。スピードが速く水で出来ているので、途中、光の反射で見失ってしまうくらいだった槍が住処の洞窟の壁に完全にめり込んでしまった。



「うわっ!全部めり込んでしまったよ!これはすごいなぁ!この貫通力なら。これならあの硬いありんこの鋼外殻であっても貫けるかもしれない。いや、貫けるだろう。この岩壁よりも硬いはずがない」



 水弾丸(改)槍の貫通力にワクワクしながら想像した。



「そしたら、次は、命中精度を上げるための練習だな!」



 もともと水弾丸は狙ったところに自動で命中していた。きっとこの水弾丸(改)槍も同じだろうなかと思い狙いに丁度良かった岩壁の突起部にめがけて発射した。


 ほぼ目標に向けて命中した。ありんこは大きさがあるので多少の()()があっても問題ない。それどころか、これだけ精度があれば、戦闘では有利に立ち回れるはずだ。



 思いの外、練習に時間を必要としなかったので、ありんこが大量にいたときの対策を考えることにした。


 1匹だけだったありんこがいなくなったとしたら、必ず他のありんこが探しに来るはずだ。どの程度の数のありんこが集まってくるかは判らないが、洞窟の大きさとありんこ1匹の大きさから考えて20~30匹がいいところだろう。


 とにかく、この水弾丸(改)槍をどれだけ打ち込めるかが、勝負の分かれ目になると思う。水弾丸(改)槍は現在連続で5回まで発射することが出来た。クールタイムというわけではないが、6回目以降は急激に精度が下がってしまうのだ。それに、まだまだ水弾丸(改)槍の5連撃は出来なかった。


 まあ、今回は集団戦なので水弾丸(改)槍の5連撃は出来なくても特に問題はないと思うんだが・・・。


 多めに想定して30匹のありんこがいるとしよう。水弾丸(改)槍で20匹位倒せれば、残りは10匹程度になるから・・・噛みつきと巻きつきで何とかなるだろう。


 多少攻撃を受けたとしても、鋼外殻があればダメージを受けても大丈夫だ!と思ってもいいよね・・・。


 それでも、ダメな時は『三十六計逃げるに如かず』の心意気で切り抜けよう。あとは運を天に任すだけだ。


 進めるだけ前に進むだけだ!!



 ※     ※     ※



 住処の洞窟に戻り、水弾丸(改)槍の準備が整った後に、緑エノキを準備して休憩をとった。


 休憩が終わり、心身ともに充実した気分でありんことの戦いに臨む決意を高めながら、曲がり角の洞窟に向かって進んだ。


 黄色い花の群生地を通り、曲がり角の洞窟の入り口が見えるところまでやってきた。外側から見える範囲で確認を行ったが、そこに、ありんこがいる雰囲気はなかった。


 そこで、戦闘準備として制限時間のある鋼外殻を試してみることにした。



「まずは、鋼外殻だ!」



 どのような魔法なのかイメージはできなかったが、不思議とどういった魔法なのか自然と理解できていた。そして、鋼外殻を唱えた瞬間、体全体を薄い膜で覆われたような感覚を感じた。



「これでいいのかな!?」



 尻尾の先で背中をつついてみた。体を動かすことには大して違和感はないのだが、つついて体の表面に衝撃を加えるとタイヤのような硬いゴムのようになった。


 強い衝撃に対してどんな感覚なのかを試すために、水弾丸で体を撃ってみた。


 水弾丸が体の表面にあたるとそのまま弾けて散っていった。当たった瞬間に、当たったことは分かるが痛みや振動はほとんど感じなかった。



「鋼外殻とはすごいな!自分の力が1段階強くなった気分になるよ!」



 早速獲得した鋼外殻の準備が整ったところで、ゆっくりと音を立てないように曲がり角の洞窟に近づいてみた。


 通路の中ほどまで見える位置まで進んみ、中の様子を見た瞬間に戦慄を覚えた。


 あの巨大なありんこが通路すべてをふさぐようにびっしりと待機していたのだ。数にして、50~60匹位いるのではないかと思われた。予想していたありんこの数の2倍はいるように見えた。


 ここまで来て引き返しても、何も始まらない。強力な攻撃魔法である水弾丸(改)槍、それに、強靭な防御力アップにつながる鋼外殻この2つがある状態で戦わないならば、いつ戦うんだ!!


 予想外の多さにうろたえていた自分に今の自分の状態を確認することで落ち着かせて戦闘に臨む決意を新たにした。



「見つかれば、集団で襲われる!しかし、まだ気づかれていない、これは不意打ちのチャンスだ!!」



 ありんこは周囲の敵察知に関する能力が低い様で、近くにいるにもかかわらず気が付いていないようだった。


 鋼外殻のスキルで防御力がかなり上昇して、大抵の攻撃くらいは軽く受けられると過信してしまう。それに、集団でいることで小さなことに動揺することがないのかもしれないと思った。


 水弾丸(改)槍の試し打ちもかねて、とにかく撃てるだけ全部打ち込んでみることにした。



「よしいくぞ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍ぃぃぃいいい!!!」



 さすがに、連撃はむりなので、命中精度の高い5連続発射でとにかく打ち込んでみた。


 水弾丸(改)槍は5列縦隊で並んでいるありんこ達に向かって、5本の線を描くように、それぞれまっすぐにものすごいスピードで飛んでいった。そして、その貫通力は凄ましく、1発で2~3匹を仕留めることが出来ているように見えた。


 ありんこ達は不意に打ち込まれた魔法で混乱しているようだった。前方と奥の方で距離がある為、情報が届かない状態だったのだろう。俺に気づいだ様子がなく洞窟内で慌てているようで、キーキー音を立てて騒いでいるように聞こえた。



「まだまだチャンスだ!」



 再度、水弾丸(改)槍の5連続発射を行った。奥にいるありんこ達がどんなふうに並んでいるかは入り口から見えなかった。それに、最初5列縦隊だったありんこ達も大分ばらけてきているようにも思えた。


 しかし、あの狭い洞窟内で5列縦隊を作っていると、あまり身動きが取れないだろうと考えた。だから、最初と同じように水弾丸(改)槍を発射した。



「いけぇぇぇーー!!!!!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍っ!水弾丸(改)槍ぃぃぃいいい!!!」



 2度目の水弾丸(改)槍でも、1度目と同じ位の数のありんこを仕留めることができたように見えた。しかし、今度は俺の存在に気づき、前方に倒れているありんこ達を乗り越えて、次々とものすごい勢いで走ってくるありんこ達が見えた。


 水弾丸(改)槍の魔法攻撃で半数以上仕留めることが出来ていたように見えた。


 しかし、曲がり角の洞窟から次々とありんこ達がバラバラではあるが5匹づつのまとまりで出てきていた。


 かなり、倒していたと考えていたが、それでも、まだ30匹近くいるように思えた。


 水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!・・・水弾丸(改)槍!


 近づいてくるありんこに、とにかく打てるだけの水弾丸(改)槍を打ち続けた、その甲斐あって、最初に外に出てきていたありんこの半数を仕留めることができた。


 しかし、まとまって動いていると水弾丸(改)槍の餌食になると学習したありんこ達は洞窟から出ると左右に広がってバラバラに出てきた。


 バラバラに出てきたありんこ達は扇状に広がり迫ってきた。そのため、水弾丸(改)槍で狙うことが出来なくなった。



「ざっと!20匹位か!!洞窟から出てきているありんこはいないから、迫ってきているありんこをジャンプでかわして、後方から攻撃してやる!!」



 俺を取り囲むように迫って、すぐ近くまで来たありんこ達を、大ジャンプで飛び越えありんこ達の後方へと回り込んだ。


 前方のありんこ達はジャンプするとは思っていなかったようで、ジャンプした俺を追うように急停止した。そのため、後ろから来ていてありんこ達は前のありんこ達にぶつかっていた。


 後ろから来ていたありんこ達は状況が読めずに混乱していた。


 前方で自分がジャンプしたのを見ていたありんこ達はキーキー鳴いていたが混乱している後方のありんこ達に声は届いていないように感じた。


 混乱状態のありんこ達へ突っ込み、周囲を噛みつきで攻撃しまくった。混乱している敵を倒すのに、大した苦労なく10数匹を倒すことができた。


 前方にいて、俺がジャンプしたのを確認していたありんこ達は5匹残っていた。その5匹は噛みつき攻撃をかわして後方に下がり距離をとって隊列を整えていた。



 50~60匹位いたありんこ達の圧倒的な数の有利はもうなく、俺は勝利を確信した。



 しかし、その確信が、油断となっていたのだ。



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