107 草刈り
赤ラインドブネズミとリーダー格のドブネズミはいったん後退しているのが見えた。今のうちだ!と思い、後ろにいるアリスの方をみると、ようやくギィの側に到着して介抱していた。
「アリス!ギィの様子はどうだ?無事か?」
ギィはドブネズミ達による体当たりで気絶しているだけだろうとは思っていたが、念のためアリスに確認をとった。
「ええ、大丈夫ですわ!今はもう目も覚めていますの。でも、何か麻痺しているみたいですわ。」
必死にギィの側まで走ってきていたので、アリスの呼吸は荒く、体全体を使って深呼吸をしているようだった。しかし、ギィの無事を確認して少し安心したのだろう、少し力が抜けたようにして座り込んでいたのが見えた。そして、そのままアリスは穏やかにギィの無事を答えてくれていた。
「師匠ぉお~~!ごめんなさいっす。体が動かないっすよぉ~!なんかアリスちゃんとの模擬戦の時みたいっすぅ~!」
ギィは意識をとり戻し、特に大きなダメージもない様だった。気絶していたことが恥ずかしかったのか、ギィから発せられた言葉がとても情けないものだった。それに、やはり麻痺性の白とげを受けていたようで、ギィ自身も一応それになんとなく気が付いているようだった。
「アリス!ギィの移動を頼めるか?後から来た背中に赤いラインが入っているやつは、尻尾から麻痺性のとげを発射するんだ!自分やアリスは麻痺耐性があるから何とか対応できるが、ギィはご覧の通りだ」
アリスと一緒に聞いていたギィは少しすまなそうな表情をしていた。
「移動させることはできますが・・・ごめんね!ギィちゃん!抱えるのはちょっと無理みたい。だから、引っ張るわよ」
「ありすちゃ~ん。ごめんね。よろしくおねがいします」
アリスは後ろ脚でギィの手をつかむと、そのまま歩き出した。アリスの歩いている姿をみると、ギィを引っ張っているようには見えないくらいスムーズに、そして、軽やかに移動していた。
あのぉ~!十分抱えられそうだねぇ~!って、まいっか!!
とにかく、これでギィは大丈夫そうだな!!
そして、意識をもう一度ドブネズミ達の方に向けた。一度後退していたが、草むらに隠れてこちらをうかがっているようだった。
ドブネズミ達の戦術は2方向に分かれての挟撃が基本となっているようだ。今、向こうにいるドブネズミ達は3匹、リーダー格に上位種の可能性がある。基本的な戦術で来るのか、又は、違う手段を講じるかはわからないが、アリスがギィを運んでくれている今、後顧の憂いは減っている。
「次はこちらの番だな!!草むらに隠れて出てこないなら、それでもかまわないよ。草がじゃなまなら刈り取るまでだよ!!」
ウインドカッター!!打ち放題だ!!
ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!ヒュルゥゥゥウウウウウーーーーーーーー!!・・・・・!!
自分のMPの多さには自信があったので、とにかく視界が開けるまで扇状にウインドカッターを打ちまくった。そして、サーチの効果でドブネズミ達の場所は分かっていたので、隠れている付近に向かっては特に集中してウイングカッターを打ち込み続けた。
数発は当たっているように見えたが、あまり大きなダメージにはなっていなかった。やはり距離が離れていたことと、草むらの草の効果で威力が低下してたのだろう。しかし、付近の草むらが大分スッキリして見えた。
そのため、ドブネズミ達はさらに奥に後退していった。ウインドカッターを打ちまくった為、付近は草や土ぼこりが舞い上がり、視界はとても悪い状態になっていた。赤ラインドブネズミは白とげがあるので、むやみに近づくのは得策ではない、さらに、その場に居続けるのも危険と考えて、ドブネズミ達が後退したと考えられる位置からは少し離れた場所に移動した。
しばらく、その場で待機して、視界が晴れるのを待った。そして、ちぎれて小さくなった草が落ちて土ぼこりも舞ってはいるものの、視界が良好になってきていたため周囲を見回した。洞窟の中央と左の壁の近くに2匹が分散して待機しているのが見えた。
そうすると、残りの1匹は反対の壁側か!?
そう思って、反対側の壁の方を向いたが、そこに、ドブネズミの影はなかった。
やばい、粉塵に紛れてギィとアリスのところにいかれたか・・・。
慌てて、ギィとアリスの方を向いて攻撃態勢をとった。しかし、アリスはまだギィを引きづって後退を続けていた。それに攻撃をされている雰囲気もなかった。
なら、どこに?あと1匹はどこに行ったんだ?
その時、ふっと思いついた。もしかして、また、あいつか!!
「くそっ!!また、応援を呼びに行きやがったのか!!」
3匹対自分なら何とかなるかもしれないと思っていたのに、さらに応援を呼ばれたことに苛立ちを覚えて声に出していた。