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104 反撃

 アリスは麻痺弾が直撃して固まったまま落下しているドブネズミを眺めていた。


「まずは1匹目ですわね!とどめは頼みましたわよ!ギィちゃん!」


 アリスは、戦っているギィがすぐ側にいるかのように語り掛けていた。そして、その口調は確信に満ちていて優しくもあった。アリスはギィと模擬戦を繰り返したからこそ、ギィの攻撃力をよくわかっていて、麻痺して動けないドブネズミを倒すことは当然であった。


 アリスは、動けなくなっているドブネズミに止めを刺そうとしているギィを見ながらこの後の動きを考えていた。


 師匠と対峙していた1匹、洞窟の右側でギィちゃんと戦っていた2匹、そして、同じく洞窟の反対側で戦っていた私の敵が2匹でしたわ。だから、ギィちゃんが麻痺で動けなくなったドブネズミにとどめを刺したことで、


「ドブネズミはあと4匹ですわね」


 アリスはドブネズミが倒された事を確認でもするかのように残りの数を声に出した。


 その後は、別のドブネズミが側にいないかを探すために周囲を見回して、側には何もいない事を確認した。周囲の安全が確認されたので、次の獲物であるドブネズミを探すために師匠の方を向いた。


 師匠は、ギィちゃんの方に別のドブネズミが割り込んでこないように、ギィちゃんに背中を向けた状態で1匹のドブネズミと対峙していた。周囲の草むらは高くなっていたが、体の大きな師匠の姿はすぐに見つけることが出来た。しかし、師匠の正面にいるドブネズミは、頭が少し見えているから気が付くことが出来たものの、まだいるはずの他の3匹のドブネズミの姿が、草むらに隠れてしまい、全く見えなかった。


 姿の見えない3匹のドブネズミを探していると師匠から声が聞こえた。


「ギィ!アリス!また1匹右側に回り込んでいるぞ!」



 ※     ※     ※



 ギィは空中で麻痺して固まっているドブネズミを見ながらアリスに聞こえるはずはないが、お礼を述べていた。


「さすが!アリスちゃん!私との約束をきちんと守ってくれたね!ありがとう!!・・・そしたら、こんどは私がアリスちゃんの支援に応える番だね!」


 ギィは草むらの中に落下中のドブネズミの姿を見逃さないようにと鋭い目つきで追っていた。そして、強力な爪攻撃を与えるために、即座に体の向きを変えて足元に力を込めた。空中で攻撃を加えた方が早くダメージを与えられるとも思ったが、確実にダメージを与えられるようにと考えなおして、落下地点でとどめを刺すことにした。


 ドブネズミはゆるやかな放物線を描くように草むらの中に落ちていった。そして、ギィは落下予想地点を見極めてドブネズミに向かって飛び込んでいった。


「もう逃げられないよ!とどめだぁあ!爪剛撃ぃぃぃいいい!!!」


 飛び込んでいった場所は完全に落下地点に一致していた。そして、ギィはジャンプの勢いに合わせて、爪攻撃よりも強力な爪剛撃をドブネズミの落下タイミングに合わせて打ち込んだ。強力な爪剛撃は、ドブネズミにとっては、幾分オーバーキル気味ではあったが、確実にとどめを刺すには間違いない攻撃力であった。


「まずは1匹目だよ!アリスちゃん!次もよろしくね!」


 アリスに声が届くはずもないが、ギィはアリスに答えるようにつぶやいていた。そして、周囲を見回してドブネズミの追撃がないかどうかを確認したが、それらしいドブネズミの姿は見えなかった。5匹のドブネズミの内の1匹を仕留めただけで、まだ4匹は師匠の先にいると考えたため、次のドブネズミを狙うために師匠の方を向いた。


 師匠は1匹のドブネズミと正面で向かい合っていた。他に3匹はいるはずだと思ったが、どこを見ても見当たらなかった。おそらくドブネズミは草むらに隠れてじっとしているんだろうと判断し、他の3匹の姿が見えなくても、とにかく見えている1匹が師匠のところにいるので、私もそこへ参戦しようと考えた。


「師匠!私もそっちに向かうっす!」


 ギィは師匠に声をかけた。師匠からの返事はなかったが、戦闘中の為、気軽に返事はできないだろうと考えた。それでも、師匠なら必ず私の声に気が付いているはずだと期待して、1秒でも早く師匠のところに近づくことを優先事項と決めた。そして、ギィは後先考えずにまっすぐ師匠に向かって走り出した。


「ギィ!アリス!また1匹右側に回り込んでいるぞ!」


 走り出してすぐに、師匠からの声が届いたた。ギィは驚き、急停止して回り込んできているはずのドブネズミを探した。



 ※     ※     ※



 草むらの中から姿の見えているドブネズミ1匹を前にして、自分は攻撃態勢で構えていた。サーチの効果で草むらの奥に2匹のドブネズミが隠れているのは分かっていた。回り込んでいたドブネズミのことを自分が仲間へ伝えていたことに対して、正面で向かい合っていたドブネズミは動揺したのか動かないでじっとしていた。


 自分は第3の瞳により、正面のドブネズミの動向を見ながらも意識はギィとアリスの方を向いていた。おかげで、ギィとアリスの見事な連携で回り込んでいたドブネズミにとどめを刺している状況をある程度把握できていた。


 ドブネズミ達がいくら回り込んで挟撃する作戦を実行しても、ギィとアリスの連携があれば大きな危険はないだろうということがわかった。それならば、自分がすべきことは決まったと考え、目の前で動揺してじっとしているドブネズミに攻撃を仕掛けようと決めた。


「回り込んでいたやつは仲間が倒したよ!次はお前だね!」


 ドブネズミ達に自分の声が通じるかどうかはわからないが、声のトーンを下げて威嚇するように告げた。そして、正面にいるドブネズミの所までは、それほど離れていないので一気に距離を詰めるためにはジャンプが有効と考え、その場から一気に距離を詰めた。


 ジャンプ中に、立ちすくんでいるドブネズミを視界にいれると、こちらには気づいてなく、回り込んでいたドブネズミの方を見ているようだった。


 戦闘中に敵から目を離したらダメだよ!!


 心の中で声をかけながら、ドブネズミの右側に着地した。


 突如、側に現れた自分に驚いていたように見えた。


 そして、ドブネズミが状況を認識して動き出す前に、巻き付きを行い逃げられないようにした。巻き付かれたドブネズミは体を左右に振って自分からのがれようとして暴れていたが、ステータスの差が違うため自分の体はびくともしなかった。


「これで2匹目だな!!」


 巻き付いたドブネズミの首元にポイズンファングで噛み付き、とどめを刺した。ドブネズミの動きが止まったところで、後ろから元気なギィの声が聞こえてきた。


「師匠!私もそっちに向かうっす!」


 捕まえたドブネズミに止めを刺している最中も、こちらに向かってきている奥の2匹のドブネズミ達の動きから意識を外すことはできなかった。なぜなら、奥の2匹のドブネズミ達は捕まった仲間を救おうとするために自分に攻撃を仕掛けてくるはずだと思ったのだ。そして、予想通りに奥の2匹のドブネズミ達は自分に向かってきていた。


 そのため、ギィの声は聞こえていたが返事をすることはできなかった。しかし、きっとギィは近づいてきているだろうと簡単に想像できた。


 しかも、ドブネズミ1匹を倒したから、きっと意気揚々と目を輝かせながらこちらに向かってきているんだろうなぁ!


 ギィが目を見開いて笑顔でこっちに向かってきている様子を思い浮かべると、少しニヤッとしていた自分に気が付いた。


 自分っ!ちょっと余裕すぎるぞ!


 だめだ!!今は戦闘中だろ!・・・気を引き締めろ!!!


 戦闘中に気がゆるむと何か不足の事態が起きた時に対処が遅れてしまう。なので、ゆるんだ気持ちを1度引き締めてドブネズミの動きを確認した。


 奥にいた2匹のドブネズミは、自分の方に向かってきていた。そのまま2匹で攻撃してくるかと思ったが、途中から、草むらの中で2方向に分裂して移動してきた。1匹はまっすぐに自分の方に来ていたが、もう一匹は、先ほどと同じように右側から回り込むように進んできた。しかも、まっすぐ進んできていたドブネズミは、もう1匹が回り込む時間を合わせるかのように減速していたのだ。



 いずれにしても、さっきと同じ戦い方なのか・・・。



 ドブネズミは常に挟撃を主体としていた。最初に奇襲をしてきたときも、そして、自分達が挟撃に気づいて、回り込んだ仲間を倒した後ですら、今も同じように挟撃しようとしてきている。


 それにギィが大きな声で叫んでいたので、ドブネズミ達はこちらに迫ってきていることに、おそらく気づいているはずだが、それでもお構いなしだ!


 もしかすると、ドブネズミ達の戦術は2匹以上いる時は、必ず挟撃するといった単純が戦術なのかもしれない。そして、それだけではなく他の戦術を使うことが出来ないといった可能性も出てきた。


 ドブネズミ達が状況に関わらず同じ戦術を繰り返すなら、自分達も先ほどと同じ戦術がもう1度使えるかもしれないと考えた。仮に自分達が同じ戦術を繰り返しているとばれたとして、ドブネズミ達が別の対処をしてきたとしても、こちらは3対2で数字の上でも有利だ。


 試してみる価値はあるかも・・・そう考えて、仲間に声をかけた。


「ギィ!アリス!また1匹右側に回り込んでいるぞ!」



「えっ!あっはい!わかったっす!」


 ギィはいきなり声をかけられて一瞬目を見開いて驚きながらも急停止した。そして、周囲を見回し、回り込んでいるドブネズミを探した。草むらのざわついている動きからドブネズミを見つけたギィは、攻撃目標に向かって高速移動で進み始めた。


 アリスも自分の方に向かって何か返事をしていたように見えた。しかし、アリスと自分まではかなり距離があったため、自分のところまでアリスの声は届かなかった。それでも、アリスはギィの動きに合わせて、麻痺弾の射線を整えるため、少しずつ前に進みながら角度を調整しているようだったので、聞こえていたのは間違いないだろうと考えた。


 ギィとアリスが回り込んでいるドブネズミに向かっているのを確認したので、おそらくそちらは大丈夫だろうと判断した。そうすれば、残りは自分の正面から向かってきているドブネズミ1匹に集中するだけだ。いなくなった1匹は気になるが、いないものを気にしても仕方がないので正面のドブネズミを倒してから考えようと思った。


 自分が攻撃する前に、もう一度ギィの様子を確認すると、回り込んでいるドブネズミを射程にとらえて攻撃を加えるために構えていた。さっきと同じように下から突き上げて、アリスの麻痺弾をくらわす作戦なんだろうと予想した。


 そして、自分は正面から向かってくるドブネズミとの距離を一気に詰めようと考えていた。相手は1匹しかいないので、ジャンプ&噛み付きで仕留めるために、体を低く構えて、ジャンプの体勢を整えた。



「ぎゃふわやぁぁああっっ!」



 瞬間、ギィの悲鳴が聞こえてきた。


 自分はジャンプをするのをやめて、ギィの方に意識を向けた。何が起きているのか状況を理解することはできなかったが、ギィの体が真横に吹き飛ばされている姿だけは理解できた。



 なんだ!何か起こったっ!どうしてギィが飛んでいるんだ!



 ギィに意識が向かっていたため、正面のドブネズミから完全に目を離していた。


 うっ!痛っぅうう!!


 腹部に痛みを感じた後に自分もドブネズミの噛みつきを食らっていたことに気が付いた。



「ギィちゃーーーーーーーーーーーーーんっっ!!!!」



 そして、アリスが叫んでいる声が聞こえてきた。

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