101 攻撃の立て直し
「ギィ!アリス!一度集まって攻撃体制を立て直そう!」
ギィは草むらの中にいるため、ファイヤーショットの使用をためらっている。
それゆえ、今できる攻撃は高速移動と爪攻撃に限られていた。
ドブネズミが1匹であれば、ギィのスピードがあれば十分倒せそうな相手であった。
にもかかわらず、ギィは苦戦していた。
ドブネズミはギィが攻撃を仕掛けてきたとたん、回避行動をとっていた。
そして、ギィが後退しながらも、攻撃を仕掛けようとしたら、ドブネズミは死角を突いて攻撃をしてきた。
ドブネズミの連携による挟撃でギィは翻弄されていた。
「も~う!なんなんだろう!体も小さくて弱っちそうなんだけど、全然攻撃を与えられないよぉ」
ギィもドブネズミ2匹による挟撃されての連携攻撃は初めての経験だったため、攻撃が当てられない事にかなり苛立ちを示していた。
ギィは出血しながらも、少しづつ連携攻撃に対応してきていた。
対応できているといっても、死角や後方から不意にやってくるドブネズミの攻撃を受けずによけることで精いっぱいの様子だった。
ドブネズミ達もギィの爪攻撃の攻撃力を警戒しているようで、安易に攻撃を加えられないでいた。
ギィは連携攻撃に少しづつ対応しながら、後退を続けていた。
それも、ギィがドブネズミの攻撃をよけることが出来る手助けとなっていた。
草むらの高さも自分の方に近くなればなるほど、低くなっていた。
草むらの高さが低くなればなるほど、ドブネズミの頭や背中が見えやすくなっていたのだ。
ギィはさらに後退を続けて、ドブネズミ2匹とも背中まで見える位置まで後退してきた。
「ギィ!どうだ!?ここまで戻ってこれるか?」
ドブネズミも体が隠れることの出来ない低い草むらからの攻撃を仕掛ける様子もなく、ギィの後方からの攻撃をすることが出来なくなっていた。
「はいっす!師匠!」
ギィは正面と横から攻撃を仕掛けてきていたドブネズミの内、横から来ていたドブネズミに向かって高速移動で突っ込んでいった。
ドブネズミは先ほどと同じように回避して、ギィから距離をとっていた。
そして、いつの間にか横のドブネズミの後ろにいたもう一匹がギィに向かってきていた。
そのまま、もう一匹の攻撃がギィに直撃するかと思われた瞬間、ギィはジャンプをしてもう一匹のドブネズミの攻撃をかわしていた。
ギィは最初のドブネズミに攻撃をすると見せかけて、もう一匹の動きを見ていたのだ。
ギィは2匹目のドブネズミをかわした後、外側を回り込んで自分のところに向かってきていた。
アリスは前方にいる2匹のドブネズミから距離をとることに成功していた。
そして、後退しながら硫酸弾を打って牽制していた。
牽制のためとはいえ、ほとんどが至近弾になっているように見えた。
かなりの命中精度であった。
「本当にしつこいですわね!そろそろ追ってくるのをやめればいいですの!」
アリスはわがままなことを言いながらも、止まることなく後退を続けながら硫酸弾を発射していた。
仮に止まって発射すれば、直撃もできているかもしれなかった。
しかし、草むらの中を進んでいるドブネズミには当たったとしても、それほどダメージを与えることはできないだろうと考えているのだろう。
おかげで、少しづつ距離をとることにつながっていた。
そうして、アリスの方も草むらの高さが低くなるにつれて、ドブネズミ達の警戒も上がっていた。
何度か、アリスの硫酸弾を受けて動きが止まっていることがあったからだ。
ギィもアリスもドブネズミ達に多少はダメージを与えられていたのは間違いなかった。
しかし、ドブネズミ達の移動速度が落ちている様子がなかった。
何となく、ギィやアリスの動きに精悍さが薄れているような気もするが、草むらの為にかなりのダメージが軽減されているらしかった。
今回の草むらでの戦いにおいて、ドブネズミ達は草むらでの集団戦闘になれているのは間違いなかった。
逆に、ギィやアリスそれに自分も含めて、見通しの悪い場所での集団戦闘にここまで後手に回ることになるとは思わなかった。
自分やギィはこれまでスライム、ポイズンバタフライといった見通しの良いところで戦うことがほとんどだった。
しかも、アリスに至っては訓練や模擬戦以外では、ポイズンバット討伐くらいしか行っていなかった。
その割には、ドブネズミ達をうまくけん制で来ているのを見ると善戦していると言えなくもなかった。
その点、ギィは完全に草むらと挟撃に翻弄されてしまっていた。
ギィのスピードがあれば現状であれば何とかなるだろうと思っていたが、思わぬ弱点が露呈した結果となった。
だから、一度、みんなで集まって作戦を練り直した方がいいと考えた。
それにしても、正面のドブネズミはなぜ攻撃してこないのだろう。
少し、気になったが、ギィとアリスは何とか自分の側まで戻ってきた。
2名の安全が確保されたので、追撃してきたドブネズミ達に向けて、水弾丸を発射した。
水弾丸!!
ビュシュシュシューーーーン!
ビュシュシュシューーーーン!
ギィとアリスを追撃してきたドブネズミに連射で威嚇した。
当たることはなかったが、予想外のところから飛んできた魔法に警戒を見せていた。
次の瞬間、草むらの高さが低くなっていたこともあったのだろう、4匹とも草むらの奥の方に後退していった。
まずはギィのケガの心配もあるし、何か状態異常の可能性もあるので、自分を盾にして回復をした方がいいと考えた。
「ギィ!アリス!大丈夫か!?今のうちに緑エノキで回復しておくんだ!」