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第三章:円樂寺(4)


夜も更け、皆が寝静まったのを見計らったトロルは一人、外の手洗いがあるところまでやってきていた。周りをきょろきょろと見渡して自分の他に誰もいないことを確認すると、その小さな黒い手を目の前の水の中に浸した。今まで穏やかだった水面がにわかに波立ったかと思うとなんと水の中に目も覚めるような金髪と澄み渡る空のように爽やかな薄水色の瞳を持つ青年の姿が映し出された。その人物とは他でもないゲーデである。トロルはご主人様の顔を確認するとうやうやしく頭を下げた。


「トロルか。なかなか連絡がないから心配したぞ」


「すっ・・・すみません、ゲーデ様」


「何、良い。最初から厄介なことになるだろうとは予測していたからな。だが、お前がこうして私に連絡してきたということは、少しはアラティも課題達成に近づいたということか?」


「近づいたかどうかは知りませんけど、とりあえず野宿生活から脱出できたことだけは確かです」


「ほう?では今はどこに住んでいると?」


「町で知り合った小僧のところです。円樂寺とかいう神社の養子だとかでそこの離れに」


「これはこれは。次期魔王候補の住まいが神社とは…また面白い所に厄介になっているものだな」


トロルの言葉にゲーデはすっとその目を細めた。白く、細長いゲーデの指がその流れるような金髪をからめとると人差し指に巻いてはほどくという動作を繰り返す。それは彼が何か考えるところがあるときに見せる癖だった。


「言われてみればそうですね」


トロルは水面越しに覗く主人と顔を見合わせるとにやりと笑みを交わす。


「で、その小僧とはどんな人間なのだ?アラティが契約をこじつけられそうな相手なのか?」


「いや、それがですね、そいつ、なんだか変なんですよ」


「というと?」


「う〜ん、なんて言ったらいいんだろう」


「善からぬ輩なのか?」


そう言ってゲーデは少し不安そうな表情を見せる。なんだかんだ言ってはいてもやはりアラティのことは心配なのだ。


「いえいえ、そういうわけじゃないんです。善い悪いで言ったらたぶん虫も殺さぬ奴ってぐらいお人好しな人間なんです。なんてったって、あのお嬢様を『やさしい』なんて言っちゃうヒトですからね」


「へぇ。それは人間にしてはなかなか見込みがあるではないか」


「そうなんですけどね、ただ、おいらの読心術が効かないんでさ」


「何?」


「ホントなんです。お嬢様が魔界からの刺客でないか心配していたんでちょっくら頭を除かせてもらおうと思ったんですけどね、これがな〜んにも見えやしない」


「ふむ。確かにそれは気になるな」


「でしょでしょ?」


「ああ・・・。やはりそれはオシリスかその腹心が送り込んだ刺客ではないのか?」


「う〜ん。たぶんなんですけど、それはないです」


「どうして?」


「いやだって、あいつから悪魔の気配は感じられなかったからですよ。魔族ならかならず持っている気配があいつにはなかったんです」


「ふうむ。通常の魔族ならお前の術から心を守り、更に悪魔としての気配を消すことなどできるはずはない。…もし出来るとするならば高位魔族だけ・・・ということか」


トロルの説明にゲーデは弄んでいた髪から指を放すと腕を組んだ。


「その通りです。だけどあんなお人好しでそんなすごい高位魔族だとはどうしても思えないですよねぇ・・・」


「なるほど、これは少し調べて見る必要がありそうだな」


「どうしましょうか?」


「お前は今のままアラティの傍にいて彼女を守ってくれ。そしてその小僧に何か少しでもおかしなところがあったら私に連絡を。ただし、このことはアラティには内密に頼む」


「がってんで!それではおいらはこれで」


トロルはまたうやうやしく頭を垂れると何もなかったかのように手洗い場を後にした。

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