異世界トリップ
初投稿です、よろしくお願いします。
俺は高校生だ
さらに言うと私立晴嵐高校の2年生で、進路は公務員志望で、クラスに1人はいる、誰とも話さない根暗な、影の薄い人間である。
その存在感は空気よりも薄く、故に、俺の声を知るクラスメイトは恐らく1人としていないだろし、名前を覚えてる奴すらほとんどいないだろう。
さて、そんな俺ではあるが、唐突に起こったこの奇怪で摩訶不思議な現象について考えてみようと思う。
その、奇怪な現象とは。何の変哲もない日常の、いつも通りの授業中、なんの前触れもなく、クラス全員が唐突に、謎の空間に飛ばされたのだというものだ。
といっても、何が起きたのかはもうわかっている、皆様お馴染みの異世界トリップってやつだ。
「と、説明は以上だよ。それじゃ、さっそく能力の授与に移ろうか」
と、謎の声(勝手に命名した)は言った。
さっき俺は異世界トリップと言ったが、正確にはまだ異世界には行っていない。
まず俺達が飛ばされたのはのはまるで宇宙空間を思わせるような謎空間だった。
その後、どこからとも無く声が聞こえてきて、混乱の極みにあった俺たちに、色々な説明を行った、ここはどこで、何故こんな所にいて、これからどうなるのかなど、存在xは一方的に語り続けた。
こいつの話を聞く限り、どうやら俺達は、これから、元の世界とは法則すら違う、全く別の世界に飛ばされるようで、この場所は無数に存在する世界と世界の狭間のような場所らしい。
そして、異世界に行く前にここで、その世界で生き抜くための力がさずけられるらしい。
「ふざけるな!いきなりそんなこと.........、俺を元の場所に返せ!」
そう言うと青崎拓也は怒りを顕にしながら、何処にいるともしれない、声の主に、真っ向から反発した。
青崎は誰もが認める札付きの不良だ。
人間関係に疎い俺にさえ、青崎の数々の暴力事件や問題行動は耳に入っている、髪もギンギンの金髪で、耳には何個もピアスを付けていて、何よりその人相は、万人に警戒心を抱かせるほどに凶悪だ。
「ンー、それは無理だね」
「ハッ!?」
しかし、存在xはあくまでその飄々とした態度を崩さない。
「だってここで君たちを返したら、わざわざ呼んだ意味無いじゃん」
その口調は明らかに面白がっていた。
「ああん?」
こちらを舐めきったその態度に青崎はさらに怒りのボルテージを上げていく、この様子だと、今にでも暴れだしそうだ。
「青崎、落ち着け」
そう言って青崎を宥めかけたのは、
クラス委員長の加賀谷義隆である。
こちらも青崎とは真逆の方向性で有名な奴だ。
常に成績はトップ、両親は何やら世界でも有数の大企業の社長らしく、かなりのボンボンらしい、いつもクールで、女子からの人気も高いと聞いたことがある。
「この空間の中において、やつに主導権を握られていると考えるのが妥当だろう、こんな状況でやつ刺激するのはやめた方がいい、なにをしてくるか分からないからな」
加賀谷は冷静沈着に青崎を諭した。
「黙れスカシ野郎、こういう明らかに他人を小馬鹿にしているようなやつは、一発殴ってやらねーと気がすまねえ」
「おいおい、信用がないな、少なくとも君たちに危害を加える気は無いよ、誓っていい」
青崎を無視しながら存在xは、加賀谷に対し、やはり少し馬鹿にしたような口調で話しかけた。
「そんな言葉、信用出来るとでも?第一、あなたの言う事自体信じ難い、異世界?そんなもの本当に存在するのか?」
加賀谷はそう答えた。
加賀谷だけではないだろう、存在xの語った話は余りに常識を逸脱していた。
自分達のいる超常空間を鑑みても、信じることは難しい。
「おい、何無視してくれてんだ、なあ!」
さらに無視されたことで、青崎が完全に切れていた、頭の血管が2,3本は切れているだろう。
「姿を見せろよ、この透明野郎!
ぶっ殺してやる」
「落ち着けと言っているだろう、お前がどれほど喚いたところで奴にとってはただ、檻の向こうで猿が泣き叫んでいるのと同じことだろう、私からも今のお前は見ていて滑稽だ」
一切の淀みなく加賀谷はそう言い放った。
「なあ、今俺のこと馬鹿にしただろう」
存在xに向いていた敵意が、挑発によって、加賀谷に向きを変えた。
「あぁ、そうさ、お前は馬鹿だからな、もう1度言ってやる、何も考えず喚くしかしないその姿がとても滑稽で笑えるよ」
さらに火に油を注ぐように加賀谷は青崎をこけ下ろした。
「そうか、わかった、まずてめからぶち殺してやる」
一触即発、青崎が加賀谷の胸倉に掴みかかり、今にも拳が飛びそうだ、
止めに行くべきなのだろうけれど。
俺はとばっちりを受けるのは御免だし、クラスのほとんどは青崎にヒビって棒立ちだ、たったひとりを除いて。
「ちょっ、落ち着いてよ2人とも、今はこんなことしている場合じゃないだろう?」
クラスメイトの塊の中から、1人の男が飛び出て、二人の仲裁に入る。
こいつの名前は朝凪夕、こいつも例に漏れず校内では有名人だ。
だが、こいつの場合、前述のふたりとは異なり、一見するとどこにでもいる普通の男子高校生でしかないが、内の学校の一癖も二癖もある有力者達と懇意にしているらしく、ここまで顔の広い生徒はまずいないだろう。
ここまで来ると逆に普通過ぎることが他者の関心を誘う要素となっている。
「ちぃっ!まあ、それはそうだけどよ」
「ふんっ、ここは、朝凪君に免じて許すとしよう、感謝するといい。」
「いちいち口の減らない野郎だ」
この3人は幼なじみで、幼少の頃から常に一緒にいるらしい。
..............本当かどうかは分からないけど。
「ねえ、質問いい?」
軽く挙手をしながら、樫鈴奏は口を開いた。
「さっき言ってた能力ってなに?」
こいつも結構有名だ、確か、高校生兼プロゲーマーって話で、海外の大会では何度も優勝していて、賞金総額1億を超えるとかなんとか。
「ああ!良かった、やっとまともな質問が来たよ」
存在xはやけに芝居かかったような
話し方をする、そのせいか、やつの言葉はとても胡散臭く、感情もどこか薄っぺらいような感じがしてならない。
「君たちが送られる世界、そこは君たちの元いた世界とは全く異なる、危険で、恐ろしい場所さ。
そんな所になんの力もなく放り出されても、あっけなく死ぬだけで、それは僕としてはとてもつまらない事なんだよ。
だから力を与える。
そちらの世界生き抜き、抗うための力をね。
力は僕の独断と偏見で勝手に決めさせてもらうよ」
存在xの言葉に多くが困惑し、不満の声をあげた。
「ふざけろ、なんでそんな大事なことお前に決められなきゃ行けないんだ」
「今から放り込まれる場所って危険なところなんでしょ、なんでそんな場所に行かなきゃいけないの?家に返してよ!」
そうだそうだ!、元に戻して!
クラスの生徒達が口々に言い放つ。
今までこの異常な状況に気圧されていた奴らが、慣れてきたのか、どこかにいる存在xに怒声を浴びせる。
そんな中、加賀谷が存在xに2回目の質問をした。
「これからどうなるのかは分かった。
あなたの言う力についても。
私達を元の場所に返すきはまるで無いことも。
だが、別の世界に行ったところで、私達に何をしろと?
何よりも解せないのはあなたの目的だ、先程の言葉を聞く限り、私たちを別世界で生きさせることこそが目的であるように聞こえた。
その上、力を与える理由がつまらないからだと?
つまり、これはあなたにとってただの娯楽の一種、遊びだとでもいいたいのか!?」
「うん、そうだよ」
あっさりとそういった
「君たちにとっては自分のこれからを左右する、とても重要な所なんだろうけど、僕にとっちゃただの娯楽、エンターテインメントだね」
その時声の質が変わった、今までの小馬鹿にしたようなおちゃらけた馴れ馴れしい口調から、絶対的な壁を感じる、圧倒的上位者の気配に。
「君たちみたいななんの力もない、卑小で脆弱な存在が哀れにも生きることに執着する様は、どんなものにも勝る最高のショーなんだ」
その声は徐々に勢いを増し、歪んだ熱情をまとい始めた。
「だから、さ、君たちにお願いしたいんだ、僕のためにその命、捧げてくれないか?」
誰もが息を飲んだ、彼の狂った言動ゆえか?それもある、だがしかし、
一番彼らにプレッシャーを与えていたのは、存在としての彼我の格の差だった。
ゆうなれば肉食獣を前にした草食獣だろうか、いや、それすらも正しい表現とは言えない、存在xと彼らとの間には、越えられない壁があった、彼らは本能でそれを感じ取り、根源的な恐怖を刺激され、故に動けなかったのだ。
「あ、ああ、あの、帰る方法は、ないんですか?」
それから言葉が発せられたのはおよそ5分程たった時のことだった
「帰る方法?あるかもねー、いや多
分あったはずだよ、そんな気がする」
「そんな、曖昧な…」
清流院瑠璃子は項垂れるように腰を下ろした。
またもや有名人だ。
…………今気がついたんだか、うちのクラス有名なヤツ多すぎじゃないか?
まあ、いい、清流院家は大昔から続く有所正しき家柄で、今でも政界に絶大な権力を持つって噂だ。
清流院瑠璃子はそんな一家の跡取り娘であり、何よりもその見麗しい姿で有名だ。
うちの高校の女子はみんなしてレベルが高いが、清流院その中でも郡を抜いて美しいらしい。
よく見たことがないから分からないけど。
「さて、質問はこの程度かな?それじゃ、さっき全員に与える能力も考えたことだし、さっそく飛ばすとしよう」
「おい、待て、まだ話しは--------」
「ごめん、めんどいからパス、いってらー」
と、存在xが言った途端、光の粒子がクラスメイト全員の体にまとわりつき始め、それらは少しずつ大きくなり、やがて一人ひとりを覆い尽くすほどにまで大きくなった。
そしてその光は遥か彼方のある一点を目指すように一斉に駆け出した。
その後、謎空間には。
何故か俺一人だけが残った。
「なんでだ!」
「ん?君だれ?てゆーかいたの?」
自分自身存在感はない方だと知ってはいたが、これはいくら何でもあんまりじゃないか、こんな所で1人ハブられるとか、シャレになっていない。
「オット、ごめんごめん、どうやら本当に僕のうっかりだったようだよ」
「で、どうなるんだよ俺は」
まあ、悔やんでも仕方ないし、こう言ったことは初めてじゃない、それよりも、一体これから俺はどうなるのか?普通に異世界に行けるのだろうか?こんな場所にずっといるなんて嫌だぞ。
「心配することは無いよ、今のはただ忘れていただけだから、すぐにでもあっちに飛ばせるよ」
「それは良かった、いや、良くはなけど」
結局、忘れられようが何しようが異世界には行くのは避けられないわけか。
「てゆーかさ、なんで君たち異世界にそんな興味無いのさ、ワクワクしない?ドキドキしない?」
「する訳ないだろ、元の世界には家族がいるし、全く別の世界なんて、うまく生きていけるわけないだろ」
「家族は仕方なしとして、どんな世界だろうと、うまく生きていくための能力だろう」
存在xはまるで揚げ足とったりとでも言いたそうに語尾をあげた、その言葉遣いからはさっきの威厳は欠片も感じられない。
「それだけじゃない、能力があるって言ったって、それだけ危険な場所なんだろ?
だった俺は元の世界の方がいい」
そうして一息ついて
「死にたくは、ないからな」
そう言い切ってやった
「ほうほう、死にたくないと」
(死にたくない)その言葉を聞いた存在xは独りごちにつぶやいた。
「よし!こうしよう」
「どうした?」
唐突に明るくなった口調に少し驚きながらも、俺は存在xの様子を伺った。
すると、やつは俺にある提案を持ちかけてきた。
「忘れてしまった詫びとして、本来ひとつしか持つことの出来ない能力。
それを三つやろう」
「三つ?」
やけに大盤振る舞いだなと、しかし、余計なことをいって三つの能力が気まぐれでチャラになることを恐れて結局何も言わなかった。
「更にここで与える能力も教えてあげよう。
一つは無難なところでビルドアップ、もう一つは空踏みだ」
「なんだ?それ、ビルドアップはなんとなく想像がつくが、空踏みってのは何なんだ?」
「いや、読んで字のごとく、さ」
そういって、含みのある笑いを噛み殺した。
「なんか怪しいな、それで三つ目の能力はなんだ?」
「三つ目か、そうだな………よし、決めた、三つ目の能力は、ルーレットで、決めよう」
「る、ルーレット?」
突然何と言い出すのかと思ったら、
つまり、運で決めろと、そういいたいのか。
「なんで急に………」
「いやー、色々考えたんだけどね、なんかしっくりくるものが無くてさ、だったら、もういっその事天に任せようと思ってね」
存在xは何故か嬉しそうだった、
「そうと決まれば、さっそく準備だね」
と、同時に何も無い空間から突如として、水晶のような半透明の球体が出現した。
よく見ると球体の内部で、様々な色や形をした光が不規則に明滅や変形を繰り返しているのが分かる。
「それに触れれば、三つ目の能力が確定するよ。
何が出るかはお楽しみ、僕にもさっぱり検討がつかない」
つまり、これがルーレットか。
「と、その前に聞きたい事があるんだが」
「なんだい?」
「俺は一体どんな世界に飛ばされるんだ?異世界と言っても種類は色々あると思うんだが」
「それは教えられない」
存在xは断言した
「だって、どんな世界か知らない方が、飛ばされた時の驚きは大きいだろう、そういった反応も僕は楽しみなのさ」
なんとなく予想はついていたが、やはりそれは秘密か。
「それはそうと、早く能力を決めてしまってよ、じゃないと三つ目の能力は取り消すよ?」
「待て、今やるから少し待て」
どんな世界だろうと行くことは決まっているのだから、知ったところで大した意味は無いか。
それよりも、今は能力の方だ。
完全にランダムならば、使える能力をなんとか引き当てたいところだ。
「能力を決めたければそれに触れるだけでいい、触れた時の光の色や形によって能力が決まるんだ」
俺はその球体の前に立ち、恐る恐る手で触れてみた、そうすると、球体内の光がより一層激しく変化し、そして、数秒で光は変化は緩やかになり、最後には光の色と形は完全に固定され、変化しなくなった。は
その光は、なんと形容すればいいか。
形は星やウニのようで、中心から放射状に何本もの光が伸びている、
色は宇宙の暗黒空間を思わせるような暗色で、見ていると、魂まで飲み込まれそうなほど、深い色合いをしていた。
暗い光、矛盾しているようではあるが、こいつを形容するにはこの言葉以外存在しないだろう。
それだけ、この光は球体内で見たどの光とも異質なものだった。
「なあ、これが俺の能力か?
一体何なんだ、こいつは」
「………よりによってそれを引くのかい」
声のトーンが明らかに下がった、先程の威圧が復活し、空間が重さを持ったように、俺にのしかかった。
「別にいいか!」
が、それも数舜のことで存在xはすぐさまあの、おちゃらけた態度に戻った。
「その能力はかなり強力な物だよ、
ただ、使い方を間違えると、君自身を破滅に繋がるから、要注意だよ」
俺は何かとんでもない能力を引いてしまったようだ。
「引き直しとかは?」
「それはナシ、と、言うことで、これで準備は完了だね」
「待てよ、俺が引いた三つ目の能力
は何なんだ、それを教えてくれ」
注意しろと言われても、どんな能力か分からないと対処のしようがない。
「それも秘密、じゃ、頑張ってね!最高のショーを期待しているよ。」
そう言い切るや否や、俺の視界が光で覆い尽くされていく。
手でいくら払おうとも、すぐさま元に戻り、白い光以外何も見えなくなった。
そして、俺は何もわからないまま、遥か彼方へと飛ばされた。
「まさか、あれを引くとはねえ、そういえば彼、アイツと雰囲気似てたなー、ていうか、アイツにもこんな感じで能力を渡したんだっけ。
何だか、運命感じちゃうなー。
………出来ることなら、彼にはアイツと同じ道を辿って欲しくないな。
同じ展開っていうのはつまらないからね。」




