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6.ビルド・ジャガー

「うおぉぉぉぉぉぉお! すっげえぇぇえ!」


俺は今空を飛んでいた。いや、正確には空を飛んでるエリーの背中に乗せて貰っていた。


「あんまりはしゃぎすぎると落ちますよ、カナメさん。しっかりつかまってて下さいよ。」



エリーはますます高く飛ぶ。



俺たちは古代兵器「ビルド・ジャガー」の出没するトラガー遺跡に向かっていた。トラガー遺跡は俺たちのいた街からはかなり遠いため普通に陸路を行けば片道で3日はかかる。


領主との交渉では、エリーはあと一週間以内に土地を買い取らなければ行けないらしい。それに間に合わなければ再開発は始まってしまうのだ。


そんなわけで俺たちは、ドラゴンの姿に戻ったエリーの背中に乗って空から向かうことにした。


しかし、ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶというのはなんとも言い難い興奮が押し寄せる。初めて飛行機に乗った時とも、高い山に登った時とも違う。


速さに比例するように強く吹く風と遮る物のない壮大な景色。今、俺はこの世界に来て一番はしゃいでいるだろう。


「なーんか、こうやって空の中にいると日常のしがらみとか全部忘れられるよなー。」


「そうですね……。孤児院が無くなりそうだとか、せっかく貯めたお金が全額無くなったりとか、そう言ったこと全部忘れられますよね……。」


いや、その件に関しちゃほんっと申し訳ない。


俺には忘れちゃいけないこともありました。


「それにしても……、」


俺はふと抱えていた疑問を尋ねてみる。


「エリーの人間に化ける魔法ってどうやってやるんだ? 俺はそんな魔法知らないんだけど。もしかしてエリーって魔法レベルめちゃくちゃ高いのか?」


エリーはおっきな口を開けて答える。


「うーん、どうなんでしょう。最近はステータスを確認してませんが魔法能力レベルは325くらいだったと思います。冒険者の中じゃ高い方だとおもいますよ?」


「あれ、それって俺よりも低く無いか? じゃあなんで俺の使えない魔法が使えるんだ?」


エリーのレベルは思いのほか低かった。


俺の疑問に対してエリーは当然のように話し出す。


「そりゃあ、私の魔法は呪術系ですから。支援系のカナメさんじゃ使えない魔法も使えますよ。」


呪術系に支援系? 聞きなれないワードが出て来た。その後も俺はエリーに魔法についていろいろ聞いてみる。


その結果、俺はやっと魔法についての基本的なことがわかった。


どうやら魔法にはいくつかのタイプがあって、それに応じて使える魔法も異なるようなのだ。


俺の魔法は支援系らしい。俺がエリーとの戦いで使った肉体強化やバリアがそれに当たる。


対して、エリーの言う呪術系の魔法は文字通り呪いが使える。相手を呪い殺したり、幻影を見せたりすることが出来る。ドラゴンから人間に化ける魔法も姿カタチを別の動物にする呪いを自分にかけているだけらしい。


ちなみに自身の系統以外の魔法は使えない。俺がエリーの使える魔法が使えない理由だ。


他にも、攻撃系、操作系、生命系などいろいろな種類があるらしく魔法能力レベルを上げるだけでは真に強い魔法使いにはなれないのだそうだ。


「魔法って言ってもいろいろあるんだな、けっこう奥が深いな!」


「むしろ、カナメさんほどの魔法能力レベルでこの程度の知識もないのが驚きです……。」


エリーは呆れたような顔を、いや、ドラゴンの表情はよくわからんけど多分そんな顔をする。



それにしても俺は支援系だったのか。言われてみれば俺が得た魔法の知識の中には攻撃魔法とかは一切ない。少し納得だ。


でも……


「エリーは俺と戦った時攻撃魔法使ってなかったか? 口からドラゴンブレスを打ってたろ。もしかしてあれも呪術に含まれるのか?」


先ほどの説明だけではエリーがドラゴンブレスを使えるのはおかしい気もするのだが……。


「あれは魔法じゃ無いですよ。ドラゴンなら誰でも使える技です。ちなみに威力も身体能力レベルに応じて上がります。」


なんだそれ、ドラゴンって種族としてみれば明らかにチートだな。


そんなこんなで他にもこの世界の事を聞きながら空を飛ぶこと3時間。やっと目的地のトラガー遺跡に到着した。


エリーは遺跡から少し離れた場所に着地する。


トラガー遺跡の周りにはまっさらな平原が広がっていた。木はなくところどころ雑草が生い茂っている。平原というより荒野といった感じか。


遺跡自体はなかなかの大きさだ。いくつもの巨大な石柱が立ち並ぶ。


「カナメさん。古代兵器「ビルド・ジャガー」は遺跡の中でしか襲って来ません。危なくなったら遺跡からすぐに出て下さい。」


エリーは一度このクエストに挑んでるだけあってある程度の情報は知っていた。


「オーケー、ところでエリーはドラゴンの姿のままで戦うのか?」


「当然です。人間の姿じゃかなり戦闘力が落ちますから。カナメさんこそ武器も無しで大丈夫なんですか?」


「いままで武器なんて使った事ない。てか使いこなせない。拳で戦う。いくぞ!」



俺とエリーは遺跡に足をふみいれる。



しばらく遺跡の中を歩くとどこからか声が聞こえてきた。


ー汝ら、いますぐ立ち去るなら許そう。帰らぬなら……


「帰んねーよ! 出てこい8億モンスター!」


俺はその声を遮り宣戦布告をする。


ーよろしい。ならば我らが相手になろう。ー


ん? 我()



ドッズーンッ! ドッズーンッ!



遺跡の奥から二体の、大理石のような材質の体をしたジャガーが現れた。


でかい。大型バスくらいの大きさ、いやもしかしたらそれ以外かもしれないほどのデカさだ。


ドラゴンの姿のエリーよりも大きいかもしれない。


「カナメさん、私は右の白い方を倒します!カナメさんは黒い方をお願いします!」


「りょーかい! 」



俺とエリーはそれぞれ一体ずつを相手にする。


ビルド・ジャガーはまるで狩りでもするようにこちらに向けて走り出す。速い。しかし、強化された動体視力なら全然捉えられる。


俺は目の前まで迫ってきた黒いジャガーに向けて拳を振るう、がーーーー⁈


「消えた? どこに行った!」


視界からジャガーが消えーーーードンッ!


違った、ジャガーは俺の目の前で急激な方向転換をしたのだ。それこそ俺でも捉えきれないほど俊敏な動きで。


真横からジャガーの爪で攻撃され吹っ飛ばされる。


幸いジャガーの攻撃は俺には全く効かなかった。これならまだタンスの角に小指をぶつけた時の方が痛い。


しかし……


「やっかいだな、早すぎだろ。」


ジャガーはかなり動きが早い、それは直線距離を走った時に発揮される速さとは別の、すばしっこいと言った感じの速さだ。


俺は自身に身体能力向上魔法をかけるがそれでも捉えきれない。野良猫を追っかけている感覚、予想外のタイミングで方向転換、急停止、加速を繰り返すため、なかなか攻撃が当たらないのだ。


どちらも決定打が出せないため勝負は硬直状態になった。


一方エリーの方はドラゴンの姿でジャガーの攻撃が届かない上空からドラゴンブレスを打ち続ける。しかし、俺と同様攻撃を当てる事は出来ていなかった。


「くっそ、なら一か八かだコノヤロー!」


俺は目をつぶり耳を澄ませる。「ビルド・ジャガーはその隙を逃さない。俺に渾身の一撃を加えようと、背後から近づく。そして、その爪で俺に攻撃を仕掛ける。


ガッ!



「さーて、これで俺の勝ちだ。化け猫野郎!」


俺はジャガーの前足を掴んでいた。ジャガーはすばしっこいが純粋な反射神経勝負なら俺の方が上だ。俺からジャガーに触れる事が出来ないならジャガーの方から触れた瞬間、つまり俺に攻撃をした時に捕まえればいい。


そのまま右前足を左手で掴んだまま右手でぶん殴る。


ジャガーの右前足は粉々に砕け散った。


俺はこのまま畳み掛ける。すかさず左前足も砕く。 両前足を失ったため落ちてきたジャガーの顔を力一杯ぶん殴る。


ジャガーはそのまま吹っ飛ばされ背後にあった石柱に叩きつけられた。


「エリー、こっちは終わったぞ。そっちはどうだ?」


俺はエリーの方に近寄るが……


「ダメです、カナメさん! ビルドジャガーは同時に倒さないと回復してしまうんです!」



へ? なにその話、俺聞いてなーー⁈



ダッシャダーン!


俺は背後から殴られる吹き飛ばされる。


俺のいた場所には完全に傷の再生した黒いジャガーがいた。


「カナメさん! 大丈夫ですか?」


「全然平気、てか、そんな大事な情報は戦う前に言えよな!」


「言い忘れてました、すいません!」


エリーはまだ戦闘中だしこれ以上は言わないでおくか。


「うーん、しかし困ったな。」


どうやらビルド・ジャガーはお互いに修復魔法を掛け合って居るようだ。一方を倒してももう一方が無事ならすぐに回復する。


一回倒すだけでもなかなか面倒くさいのに同時に倒すとか正直無理ゲーだ。


そもそも、俺とエリーだって一緒に戦うのは初めてだ。ビルド・ジャガーが相手でなくてもタイミングを合わせるのは難しい。


どうしたものか……。


そもそも、俺の魔法は支援系なんだよな。ならいっそのことエリーに身体能力向上魔法をかけて戦って貰った方がいいそかなー?


そんなこんなで倒した方を考えるうちに一つ、漫画でよくある、同時に死ぬシーンを思い出した。


「エリー、こいつらの倒し方がわかった! エリーはそのまま上空で待機、ドラゴンブレスを打つ準備をしてくれ!」


「え? わ、わかりました!」


エリーはエネルギーをチャージする。


「いくぞ! スクエア・プリ・エリア。」


俺は魔法を唱える。


これは広範囲に立方体のバリアを発生させる魔法だ。この魔法で俺とビルド・ジャガー二体をバリアの中に閉じ込める。


「まだまだ! スクエア・プリ・エリア、スクエア・プリ・エリア!」


俺は何度も呪文を唱える。一度目に作ったバリアの内側に、さらにもう一層先ほどより小さいバリアを張り、さらにもう一層、さらにもう一層とだんだん小さくしながらバリアを張ってゆく。


内側にバリアを張るたびにジャガーの動ける場所は少なくなる。10回程呪文を唱える頃にはバリアによって区切られた空間はかなり小さくなっており俺も含めて身動きが取れなくなっていた。


さて、ここからが漫画でもよくあるシーンだ。


「エリー、俺のことはいい、俺ごとやれ!」


そう、味方ごと敵を攻撃!


「わかりました!」


エリーはこの瞬間を逃さず今回の戦闘で一番強力なドラゴンブレスを放つ。


エリーのドラゴンブレスが俺の張ったバリアには触れそうになるギリギリでバリアを解除、ドラゴンブレスは俺ごと二体のビルド・ジャガーを破壊する。ジャガーは俺のバリアのせいで一箇所に拘束されていたため同時に砕け散った。


俺はジャガーを拘束するために使った魔法とは別に、俺だけをバリアで囲っていたため無傷だ。


「やりました、ビルド・ジャガー討伐です!これで孤児院を助けられます!」


復活しなくなったジャガーの残骸を見てエリーは嬉しそうに大空を舞う。


うーん、贅沢を言えば一瞬躊躇して欲しかった。エリーの奴、びっくりするぐらい迷わなかったし、全力で攻撃したぞ。ピ◯コロさんですら味方ごと攻撃する時は少し躊躇したというのに……。



少し胸にシコリは残ったがとりあえずクエストはクリアだ。


そのまま再び空を飛んで冒険者ギルドのある街に帰る。


ちなみに街の名前はワンドック。エリーが教えてくれた。


その後ギルドでクエストの報酬、8億ペルを受け取る。このクエストはギルドでも最も報酬の高いクエストだったため少しギルドは騒然となった。しかし、エリーはその整った見た目と若くしてSランクとなった実力者としてみんなに知られていたためクリアしたのが彼女と分かるとみんな納得したようだ。


あ、もちろんギルドでは人間の姿をしてた。


「さて、じゃあこれで俺の役目は終わりだな。俺は別のクエスト受けてくるから、またな。」


ギルドを後にして俺はエリーと別れようとする。このクエストの報酬は全額エリーに上げると言ったため、俺は宿代すら持ってないのだ。


まあ、ダブルヘッドウルフの討伐クエストなら多分30分もかからずクリアできる。俺は宿代のためにクエストを受けようとするが……。


「あ、あの。もしよければなんですど……。私と一緒に来ますか?」


エリーさんからお誘いがございました。


答えはもちろんイエスだ。


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