39.妖精の里と神樹
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「ふぁぁ……結構寝たなー」
俺は周りを見渡す。
「そう言えば……俺捕まってたんだったな。」
相変わらず薄暗い小部屋を見て昨日の事を思い出す。
不意にガチャガチャっと音がして小部屋のドアが開く。
「あら、もう起きてたの。ご飯持ってきてあげたわよ。」
そこにはクリシュナが御膳に乗ったご飯を持って立っていた。
俺はそれを受け取りご飯を食べる。昨日の晩は何も食べていないのでお腹は空いていた。
「それにしてもあなたって能天気よね。牢に入れられているのによくそんなにガツガツご飯が食えたものね。」
クリシュナは俺がご飯にがっつく様子を見て呆れたような仕草をする。
「どんな状況だろうと腹は減るからな。おかわりあるか?」
「無いわよ。」
流石におかわりはダメか。
「さて、食べ終わったなら私についてきなさい。妖精王があなたに開いたがっているわ。」
「俺に? 」
「そ、あんたによ。早くしなさい。」
クリシュナはドアを開け部屋から出るよう促す。
しかしーー
「出れるわけねーだろ。あんたらのかけた呪いで俺はこの部屋から出たら死んじまうんだぞ。」
今俺には強力な呪いがかけられているので迂闊に外には出れなーー
「ああ、あれ嘘だから。」
「ハァ⁈」
「あなたに逃げられると面倒だからね。嘘も方便ってやつよ。」
「方便じゃねーよ!結構怖かったんだからな!」
「なら次から嘘はつかないわよ、本当に呪ってあげる。」
「そういうことじゃない!」
衝撃の真実が発覚したが、それはそれとして呪いをかけられていなかったという事実はこちらにとって好都合だ。それさえなければいくらでもここから逃げる機会はあるだろう。
とりあえず今のうちは大人しくしておいて様子を見よう。
俺はその後は特に騒ぐこともなくクリシュナの後をついて行く。
やはり俺が捕まっていた牢は半地下になっていたようで薄暗い廊下の奥の階段を上るとそこには妖精の里が広がって……はいなかった。
完全に未開の森林だ。俺たちが登って階段以外に文明を感じさせる何かは無い。
「なあ、クリシュナさん。ここって妖精の里じゃなかったのか?」
俺はキョロキョロ辺りを見渡す。
「どこ見てんのよ。上よ、上。」
クリシュナが人差し指を空に向ける。
「上?」
俺はその指がさす方に視線を向ける、するとーーーーー!
「うぉっ! すっげーなこれ。」
そこには沢山のツリーハウスが並んでいた。十や二十なんてものではなくそれこそ街一つを形成出来るレベルだ。
枝と枝の間には蔦と板で作った縄ばしごが張り巡らされており、それを伝って木と木の間を行き来するものもいる。どうやら完全に木々の上だけで生活が出来るようになっているようだ。
「王宮に向かうわよ。ついて来なさい。」
そう言うとクリシュナはスルスルっと木登りをして枝の上に登っていく。特に階段はハシゴもなく登っていく様はまるで猿のようだ。
俺もその後を追って枝の上まで登り、縄ばしごの上を歩いて木々の間を移動し妖精王のいる王宮に向かう。
下から見ていた時は気づかなかったが木と木を結ぶ縄ばしごの道は何層かに分かれているようだ。一番下層は短く細かく、隣同士の木に張り巡らされており、中層はそこそこ離れた木同士を結び、一番上層はかなり遠くの大木同士を結んでいる。
「このはしごなら他の木を経由せずにすぐに王宮に着くわ、高いから落ちないように注意しなさい。」
俺とクリシュナは一番上層の長い縄ばしごの上を歩き王宮を目指す。
しかし妖精ってのは俺が思っていたよりもフレンドリーなのかも知れない。
時々下の層を歩く妖精が俺やクリシュナに話しかけてくる。
「おお、クーちゃんじゃないかい。そこに連れてるのが昨日捕まえたって言う人間かい?」
「あっ、リンスおばさん、そうです。今から王宮に連れて行くんですよ!」
「おお、そうかい。くーちゃんは偉いねぇ、頑張ってくるんだよ。」
「はい!リンスおばさんもお元気で!」
クリシュナは可愛く笑って手を振る。
さらに
「やぁ、くーちゃん。今日も元気だねぇ。」
「あっ、ロロさん。こんにちは!」
「こんにちは。今はお仕事中かな?」
「はい!そんなんです!」
「そうかそうか、頑張ってねぇ。」
「はい!ありがとうこざいます!」
またもやクリシュナは可愛く笑って手を振る。俺と接している時の、少し無愛想な態度とは完全に真逆だ。
「さっ、行くわよ。大人しくついて来なさい。」
挨拶が終わるとすぐに無愛想モードに切り替わるクリシュナ。どうやら俺にはそういう態度を取って行くつもりらしいな。
まぁ、濡れ衣とは言え俺は囚人のような立場にいるだし別に不思議なことでは無いか。
俺とクリシュナはその後もしばらく縄ばしごの上を歩き続ける。
しばらくすると妖精の王宮が見えて来た。
「あれが妖精王様のいる神樹大宮殿よ。」
「まじかよ……。あんなの存在していいのか?」
俺は呆然として目の前に現れた巨大な木を見つめる。
もし俺がこの木に名前をつけるとしたら間違いなく世界樹ってつけてた。そういうレベルの大木だ。元の世界の建造物なんか目じゃ無い、圧倒的に高さと年月を感じさせる太さ。
「てか、ありえないだろ! なんであんなデカイ木が見えなかったんだ? あんな大きさなら森林に入る前から見えるはずだろ!」
若干興奮しつつクリシュナに尋ねる。
「あれは木じゃなくて神樹。神樹は自分の周りに認識阻害結界を張っていてかなり近づかないと認識できないの。」
「木が魔法を使ってるって事か?」
「そう言うことね。」
クリシュナは説明もほどほどに神樹に備え付けられた階段を登り神樹の上に作られた宮殿へと向かう。
神樹の中腹、と言う表現が正しいかはわからないがそこそこの高さに生えている枝、その上に妖精王の宮殿は作られていた。
宮殿と言うと広く、豪華なイメージがあるが意外と質素で落ち着いた感じだ。全て木材で作られているため宮殿といってもお城のような大きなは無く、下手すれば首都メルトにあるギルド本部よりも小さいかもしれない。
俺はクリシュナに連れられるまま王宮に入る、するとーーーー!
「人間よ。元気そうで何よりだ。」
驚いたことに王宮に入るとそこには妖精王がいた。中は和室のようになっており若干俺の知っているものと色は違うが畳が敷き詰められている。部屋の奥は一段高くなっており妖精王はそこで胡座をかいていた。
「元気そうとかよく言えたもんだ。誰のせいで死にかけたと思ってるんだ。」
「ふんっ、死にかけて萎縮したかと思ったが威勢だけは良さそうだな。」
「くっ……。」
妖精王の鋭い眼光に怯んでしまった。
「クリシュナ、ご苦労だった。我はこの人間と話すことがある。少し外せ。」
「何かあればお呼び下さい。すぐに駆けつけます。」
妖精王に命令されるままクリシュナは王宮から出て行く。
「さて、たしかカナメと言ったか? そこらに座れ。いくつか聞きたいことがある。」
「聞きたい事ってなんだ?」
俺は座りながら尋ね返す。
「まずはこれを返そう。ほれ。」
そう言うと妖精王は俺に何かを投げ渡す。それは取られたと思っていた俺の刀、ディセンダートだった。
「カナメよ、貴様は私と戦った際に一度もその刀を抜かなかったな。その理由を聞こうか。」
俺はディセンダートを鞘から抜こうとする。が、抜けない。
「こう言う事だ。何故か刀が抜けなくなってんだよ。抜けるものなら抜いていた。」
「ほう? ならば別に私の能力を警戒したわけでは無かったのか。」
「能力?」
「こっちの話だ。しかし理由は無かったか……。」
そう言いながら妖精王は立ち上がり部屋の壁に飾られていた刀を二本取る。そしてそう内の一本を俺に渡した。
「カナメよ。刀を構えろ。」
「なんのつもりだ?」
「貴様が魔王の手先かどうか調べる為に必要な事なのだ。いいから構えろ。」
「訳わかんねぇよ……。」
いまいち納得は出来ないが断る理由もない。俺は立ち上がり両手で刀を構える。
「ではゆくぞ。」
キイィーーン……
妖精王は自分の持っている刀の切っ先を俺の構える刀と軽くぶつける。部屋には金属と金属がぶつかる音が響いた。
しばらくして……
「ふむ、大体わかった。カナメ、お主は本当に魔王の手先では無いのだな。襲ってしまった事を謝ろう。」
変に納得した妖精王が俺に軽く謝る。
「どう言う事だ? 今の、ちょこっと刀をぶつけたので何がわかったんだ?」
もちろん意味がわからない俺は困惑する。
「我にはお主に説明する義務があるだろう。全て話す。座れ。」
二本の刀を元あった場所に戻しつつ妖精王は話を始めた。
「まずは我の能力について話そう。我は《剣神》と言う特殊能力を持っていてな、剣を交えた相手の心が読めるのだ。」
「心が読める? じゃあ今刀をぶつけ合ったのは……。」
「貴様の心の中を覗くためだ。覗いた限り貴様が魔王の手先では無い事はわかった。」
「そんな能力があるのか。じゃあ森の中であった時強引に戦闘を始めたのは俺に刀を抜かせる為?」
「ああ、しかしわざと隙を与え、ほどほどに追い込み刀を抜く機会を与えたのにも関わらず貴様は頑なに刀を抜かなかった。」
今さらっととんでもないことに言ってたな。あれで手を抜いてたのかよ……妖精王半端ねぇな。
妖精王は話を続ける。
「それで我はこう考えたのだ、もしや我の能力が魔王の手先にバレているのでは無いかと。心を悟られまいと刀を抜かなかったのでは無いかと。」
なるほどな。かなり強引な襲撃にも理由はあったのか。今の話を聞いて妖精王が俺を殺さなかった理由にも合点がいった。俺を生かし、今度は強制的に刀を交える事で彼の想定に間違いが無いか確かめたかったのだろう。
その後も妖精王はどうして俺を魔王の手先と考えたかも話し出す。
俺が偽クエストを受けこの森に来る少し前、二人組の男がこの森林をうろついていたようだ。妖精の里は神樹の近くにあり、認識阻害結界の恩恵を受けているためここには来れないはずなのだがどんな手を使ったのかその二人組は認識阻害結界内部に侵入し妖精の里を発見したのだ。男達は妖精を見つけると歓喜し、そして言い放った。
「我々は魔王様より遣わされた使者である。妖精どもよ魔王軍の傘下に加われ!無論、断れば妖精の未来はない!」
このあまりにも自分勝手な要求に妖精王は激怒した。
その二人の使者を原型をとどめなくなるまでボコボコにしたそうだ。
一応ボコボコとか優しい表現使ってるけどけっこうグロい殺し方をしてるからな。俺は話を聞いてるだけで吐きそうになった。
ともかく、怒りに任せてボコボコにしてしまったため妖精王はこの二人がどうやってこの里に侵入出来たかを調べることが出来なかったのだ。
それで妖精王は必要以上に妖精の里の近くで起こる事に関して敏感になっていたのだ。
俺を魔王の手先と勘違いしたのも俺が盗賊を捕まえるために魔法でバリアを出したのが原因らしい。大きな魔力を感じてその魔力の持ち主の俺を襲ったそうだ。
「本当に済まなかった。貴様、いや、カナメ殿には本当に申し訳ない事をした。」
妖精王は頭を下げ俺に謝る。
「まぁ、濡れ衣で殺されかけたのはムカついたけどさ……くそっ、わかった、わかりましたよ。じゃあこの件はもういいですよ。」
こんだけ誠実に謝られたら怒るに怒れない。結局許すことになってしまった。
「ところで、カナメ殿。貴殿の心を覗き一つ気になったものがあるのだが……。」
謝罪が済み、妖精王が頭をあげながら俺に尋ねてきた。
「貴殿は転生者なのか?」