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38.地下牢

「う……うう? 」


目を開くとそこには見知らぬ天井が広がっていた。


「ここは……どこだ?」


周囲の様子を確認しようと俺は体を起こそうとする。するとーー


「あっ、ぐっぅうう……⁈ 」


体中がとんでもない痛みに襲われる。この世界に来て長く痛覚をシャットアウトしていた俺にとっては久しい感覚だ。そしてその痛みでどうしてこうなったかを思い出す。


俺は殺されたのではなかったのか?


体が重く起き上がれない。


俺は必死で、か細い声を出す。


「誰か……誰かいないのか?」


その言葉に含まれているのは誰かいてほしいと言う願望であり人の気配を感じとったわけではない。


「あら、やっと目が覚めた?」


だが幸いにも誰か近くにいたようだ。


天井を見上げていた俺の視界にひとりの女の子の顔が現れる。


「ねえ、立てる?」

「無理だ……体中が…痛いんだ。」

「当たり前よ。そんだけ傷だらけなんだからさ。調整能力で痛覚を調整してみなさい。」

「とっくに……してる筈だ。」

「いいから、 もう一度やってみなさい。」


痛覚の調整はステータス画面を使わなくても頭の中で念じるだけで可能だ。俺は女の子に促されるまま調整能力で痛覚をオフにする。途端、体中の痛みが引いて行く。まるで最初から傷などなかったかのようだ。


痛みがなくなり俺はゆっくりと体を起こす。


「ね? 言った通りにしたら痛くなくなったでしょ?」


横を見ると俺を助けてくれた女の子がつまらなさそうに本を読みながら椅子に座っていた。


ショートカットで青い髪、身長はわからないがぺったんこな胸や脚が地面についてないことから察するに十歳前後ってところか?


「ありがとう、助かったよ。」


俺は助けてくれた女の子に礼を言う。


「どういたしまして。あなた、気絶したの初めて? 意識を失うと調整能力で調整した感覚とか元に戻る事があるから気をつけなさいよ。」

「そんな事があるのか、知らなかったよ。」


女の子は見た目とは裏腹に大人びた口調だ。


俺は話を聞きながら恐る恐る体を動かし腕や脚の動きに異常がないかを確かめる。


体にいくつかの切り傷があるがいちおう傷は塞がっており手足も正常に動く。痛覚をオフにしていれば別段、大した問題は無さそうだ。


どうやら俺が目覚めたのは薄暗い、小さな部屋らしい。俺が寝ていた灰色のベッドと、今女の子が座っている椅子、部屋の隅にある小さなテーブル以外には何もない。窓も小さく差し込む光はこの小さな部屋でさえ十分に照らせているとは言い難い。


「ここは……一体どこなんだ? それと、君は誰?」


俺は椅子に腰掛ける女の子に尋ねる。


「ここは妖精の里の地下牢よ。私はクリシュナ、あなたの見張り兼担当医ってところかしらね。」

「見張り、地下牢? どういう事だ?」

「どういうことって?」

「何で俺は地下牢にいるんだ?」

「さぁ? あなたをここに連れてきたのは妖精王様、なんで連れてきたかなんて私が知るわけないでしょ。」

「妖精王、あのおっさんか…… 」


俺の脳裏に妖精王に殺されかけた、意識が途切れる直前の記憶が蘇る。


まるで悪夢のような、しかし酷く現実味を帯びた負の記憶だ。トラウマとまではいかないがこの嫌な気分は当分どうにもならないだろう。


死んでなかったことは喜ばしいがなぜ地下牢にいるかはわからない。しかしそれよりも聞きたい事がもう一つある。


「どうして、妖精王は俺を殺さなかったんだ?」


俺はクリシュナに尋ねる。


「だらか私はそんな事知らないわよ。取り敢えずあなたがもう一度戦えるように治療してやれって言われたの。」

「治療? ってことは俺が生きているのは、えーと…クリシュナのお陰なのか?」

「そうよ、感謝なさい。それと、私はこれでも200年は生きてるの。人間如きが呼び捨てなんて数百年はやいわよ。」


クリシュナはパタンと読んでいた本を閉じその鋭い眼光で俺を睨む。顔は幼いが言葉使いや妙に鋭い目つきといいなんだか貫禄のようなものを感じる。


「わ、悪かったよ、クリシュナさん。てかそんな年上だったのか……。」

「妖精の年齢は見た目じゃ判断出来ないのよ。まぁ、いいわ。取り敢えず暫くはここで休んでなさい。あなたの傷は命に別状がない程度には回復させたけど完治ではないわ。また明日傷の具合を見に来るから大人しくしてるのよ。」


クリシュナは椅子から立ち上がり、と言うよりはピョンととび下り小部屋のドアに鍵を差し込む。地下牢と言う割に鉄格子などはなく違和感があったがどうやらここの扉は内側にも鍵穴があるタイプのようで鍵を持ったものしか出入りできない作りらしい。


「えーと、クリシュナさん。」


俺は部屋から出ようとするクリシュナに声をかける。


「何? 言っとくけど外に出たいとかはダメよ。」


面倒くさそうに振り向くクリシュナ。


「そうじゃなくって、俺の怪我、直してくれてありがとな。」


俺はまだ言えてなかった礼を言う、するとーーーー


「あなた……、ちょっと落ち着きすぎじゃない? 」


クリシュナはじとっとした目で俺を睨む。


「脱走しようとか考えてないでしょうね。念のため言っとくけどあなたの体には呪いがかけられてるから許可なくここから出たら死ぬわよ。」

「ま、まさかぁ! んなわけないだろ。」

「ならいいけど……。」

「ち、ちなみに呪いってどんなの?」

「発動したら胃酸が強力になってあなたの体内をドロドロに溶かしちゃうやつよ。呪いによる痛みは痛覚を消してても意味ないから気をつけなさいね。」


クリシュナはそう言い残し部屋を後にした。



「……バレてたか。」


どうやら俺の脱走計画は計画する前に頓挫してしまったようだ。


「それにしても……生きてたか。」


俺はベッドに倒れこむ。


一人になって、自身の脈動を感じて、生きていることを確認する。


死にかけたせいか、一時的にとは言え痛みを思い出したせいか、理由なんてわからないがこの世界に来て、いや、元の世界も含め人生で一番生きている事を実感した。


「しっかし、この部屋ほんとに薄暗いな。クリシュナもよく本なんて読めたもんだよ。」


俺はベッドから立ち上がり椅子に乗って壁の高いところにひとつだけある小窓を覗き込む。


そこには地面が広がっており遠くに何人かの足が見える。


どうやらここは半地下になっているようだ。


「そりゃ暗くもなるよな。」


そう呟きながら俺は椅子から降り今度は自分のステータスを確認する。痛覚オフの設定が意識を失った事で解除されたように何か変わった点がないか調べようと思ったのだ。


身体能力、魔法能力と自身のステータスを見ていくが特にレベルが下がった様子はない。ところが……


「そういや、俺の刀がない!」


ステータス画面からディセンダートレベルの表記消えていた。


どうやらここに運び込まれる最中に奪われたようだ。考えてみれば捕まえてる奴に武器を持たすわけはないよな。


どうせ今はあの刀は使い物にならないし構わないか、と気持ちを切り替えてその他変わった点が無いか調べる。結果、ディセンダートが取られていた以外に異常な点はなかった。


ステータスをを調べ終えた後、俺はもう一度ベッドに倒れこんで考える。



どうして俺は生かされたんだ?



たしか、あの妖精王とやらは俺を魔王の手先と勘違いして攻撃して来た。ならば殺す理由ならいくらでもあるが生かす理由などあるわけがない。


てか、そもそも俺は魔王の手先でもなんでもないし、どっちかって言うと魔王軍を倒すためにこの世界に転生した勇者ってポジションのはずだ。


……自分で自分のこと勇者って言うの妙に恥ずかしいな。何というか、「俺ってクラスの中心人物なんだ!」って自分で言っちゃう人くらい恥ずかしい気がする。


話は逸れたが、とにかく、何か誤解されてるようだしそこんとこきっちり説明してさっさとここから出してもらおう。


俺は若干の気恥ずかしさをごまかすように眠りについた。


疲れもあったのか、その日はすぐに眠れた。





✴︎



ノーマ森林の奥深く、そこには一人の魔王とその従者のドラゴンが彷徨っていた。



「なあ、魔王よ。」

「どうした、グライド。」

「妖精の住処を目指して半日以上歩いているが一向に見つかる気配が無いぞ。」



奴隷狩りの山賊達を撃退してからかれこれ数時間、彼らは未だ妖精の住処を見つけられずにいた。


「本当にこの森であっているのか?」


グライドは代わり映えのない景色にうんざりしていた。


「そもそも妖精とは数十年前まで架空の存在とまで言われていた希少種、さらに住処は魔法で隠されている筈だ。それがなぜこの近くにあるとわかるのだ?」


妖精とは十二年前にその存在が公となった種族でありそれまでは死者の霊やペガサス、ユニコーンとともに空想の中にしかいないと思われていたのだ。一部の妖精は他の種族との交流もしているが大多数は昔と変わらず魔法で隠された妖精の住処に住み続けておりそう言った理由からも未だ妖精の謎は多いのだ。


「俺の部下を何人か使って妖精の住処探させていたんだよ、魔法で常に連絡を取りながらな。」


ヘルブラットは説明を始める。


「半年以上前に、伝承とか文献を頼りに大陸各地を調べるうちにいくつか怪しい場所を見つけたらしく順番に行ってみるって言ってたんだ。」

「それでここがそうだと?」

「多分な、ここを調べるって連絡を最後に部下とは音信不通になった。少し怪しいとは思わないか?」

「つまり確証はないのか……ハァ。」


グライドは頭を抱える。魔王の部下とは言え全員が全員優れていると言うわけではない。むしろ数が多い分弱い者も大勢居るはずなのだ。まぁドラゴンである彼にしてみれば大半の者は弱者に分類されるのだが。


「そのもの達と連絡を取れなくなった理由は他にいくらでもあろうに、そこそこ強い冒険者に魔王の部下と感づかれ殺されたのではないか?」


グライドはこの無駄にも思える時間が一刻も早く終わればよいと思い、ヘルブラットの考えが思い込み、勘違いではないのか、そう問いかける。

しかしーーーー


「その可能性は低い。」


ヘルブラットはきっぱりとそれを否定する。


「俺が送った部下は幹部程とはいかないがそれなりに強い奴だった。奴らには《覚醒の石》も持たせてたしそれを使えば強さだけは幹部と遜色ないレベルにまで達した筈だ。そんな奴が音信不通になるってことは幹部クラスの奴ですら逃げることも出来ない程強い奴がいるって事だろ?」

「確かに異常な事態ではあるが……しかしそれならなおさら妖精がいるとは考えにくいのではないか?」


グライドは首を傾げる。


「数年前に一度見世物小屋で妖精を見たことがあるがとても強そうには見えなかったぞ。劣等種そのものだった。」


彼が見たときの妖精は伝承やおとぎ話にあるような羽の生えた姿ではなく痩せこけた人間のようなものであった。あの種族がどう鍛えれば魔王軍幹部クラスを倒せると言うのだろうか。


「ったく、お前は本当に無知だな。ドラゴンってのは自分以外の種族に興味がなさすぎる。いいか、よく聞け。」


ヘルブラットは説明する。


「妖精ってのはな、人間とか、ドラゴンとかと違って体内ではなく自然に溢れる魔力を使うことが出来るんだ。」

「自然に溢れる魔力?」

「ああ、そうだ。風や雨、地面や川、虫や植物。そう言った自我のないものから滲み出る微量な魔力を借りそれを自らの魔力のように使いこなす。見世物小屋と森林の中じゃ使える魔力も段違いだ。そんでこの森林は大陸全土で見ても最大級の規模だ、この場所に限って言えば妖精は無敵に近い存在になると思っていい。」

「無敵か……それなら部下達がやられたのも納得出来るな。それにしても、貴様がそこまで言うとは少し面白そうな種族やもしれんな。楽しみだ。」

「言っとくが喧嘩しに行くわけじゃないからな?」

「わかっておるさ。」


二人は妖精を探し歩き続ける。



すると、なにやら見覚えのあるものが現れた。


「魔王よ、これは……。」

「間違いないな、さっき俺が殺した奴だ。」


そこにはこの森林に降りたった際に襲ってき山賊の死体があった。


ヘルブラットが枝で撃退した山賊だ。数時間前とは違い血が地面に吸い込まれ、うっすらと死臭を放っていた。


「どっかで方向感覚を狂わされたか、それとも空間がループしてるのか? どっちにしろ妖精の住処を守ってる魔法だろうな。」


死体が偽物でないか確認しつつヘルブラットは考察する。


「俺達が気づけないレベルの魔法だ。厄介だぞ、どうやら妖精の住処はかなり強力な魔法で守られているっぽいな。」

「半日歩いたのが無駄になったわけか。」


グライドは肩を落としわかりやすく落胆する。しかしヘルブラットは真逆の反応を示した。


「なに言ってんだよ。考えようによっちゃこの魔法さえどうにかすりゃすぐにでも住処見つけられるってことだぜ? 」


目を輝かせながら死体の周囲に手がかりがないか調べる。


「どんな魔法かもわからぬと言うのに、本当に貴様は能天気だな。」

「そうじゃなきゃ魔王名乗って大陸統一なんて考えねーよ。」

「それもそうか」


二人は妖精の住処探しを再開した。


前回の更新は久々だったのにもかかわらずたくさんpvがついて嬉しかったです!


更新頻度に関してはなんとも言えませんが今後も続けて行くのでよろしくお願いします!



後、最近久々に話を書いているためキャラの口調とかに若干のブレがあるかもしれません、気づいた方は教えていただけると幸いです。

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