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37、妖精王サン・ドラード

お久しぶりでございます、最新話です!

「さて、魔王の手先よ。貴様の名を名乗るが良い。」


妖精王を自称する男は俺に剣を向けて言い放つ。


「俺はカナメ、そんで魔王の手先でもなんでない、ただの冒険者だよ。あんたなにか誤解してないか?」


俺はため息交じりに彼の誤解を解こうとする、しかしーーーー


「ただの冒険者があれほどの魔力を発し我の一撃を避けられるわけがなかろう、我は妖精の王なのだぞ。」


彼の誤解が解ける気配はない。どうしたものか……めんどくさいな、逃げるか。


「さて、カナメとやらよ、我は慈悲深き王である。遺言があるなら聞いてや……」

「ない!バイバイ!」

「え? ちょ? 待たぬか!」


俺は自称妖精王に背を向けて一目散に駆け出す。


あの男、見た目は髭の生えたオッサンだ。妖精の要素は全くない。結構いい体をしているからどちらかというとハリウッド映画のアクション派俳優って感じ、つまりとても強そう。


てか実際俺の張ったバリアも破壊してるし強いのは間違いないだろう。何故かディセンダートが鞘から抜けないこの状況でこの男と戦うのはどう考えても得策ではない。


この森から脱出すべく俺は全力で走る、しかしーー


「力強き土の友よ、我に力を貸せ! クリエント・ウォール!」


妖精王は左手に持っていた杖を地面に向け何か呪文らしきものを唱える、するとーーーー!


ズズズズズズズズズズズズ……


「なんだよこれは⁈ 」


地面の土が盛り上がり俺の目の前に高い、高い壁が出来上がる。壁は妖精王を中心に円形に作られたようだ。高さはかなりのもので飛び越えるのは無理だろう。


どうやら妖精王の魔法のようだな。


「我から逃げようなど愚かな事は考えない事だな。この森からは逃げられぬ。」


妖精王が俺を追いかけるそぶりすら無かったのはこんな魔法が使えるからだったのか……だが!


「たかが壁くらいじゃ意味ねえよ! ふんっ!」


ドゴンッ!


俺は全力で目の前に現れた土壁を殴る。


例えどれだけ高い壁だとしても壊してしまえばどうということはな……


「嘘だろ? ……ヒビすら入ってない?


壁は無傷なままそこにあった。俺の拳を物ともせず、とても土壁とは思えない強度を誇っていた。


「だから言ったではないか。我はこの森を収める妖精の王、サン・ドラード。この森の全ては我に力を貸し与え、我はその力を持って森と妖精を守る。この森に足を踏み入れたという事は我の胃袋に自ら飛び込む事と同義、覚悟しろ、カナメとやらよ。」


妖精王はゆっくりとこちらに歩きながら近づいてくる。


逃げられない以上戦うしかないのか?


「もう一度言うが俺は本当に魔王軍の仲間じゃないんだ、信じてくれないか?」


俺はもう一度敵意のない事を説明する、がーー


「ならば剣で語るがよい、いくぞ! 」


妖精王は右手に持った刀を俺めがけて全力で振り下ろす。ディセンダートが使えない為受け止める事は出来ない、俺は妖精王の放つ鋭い斬撃を避け少し距離を取る、そしてーーーー


「ミー・バフ・フィジカ!」


自分に身体能力向上魔法をかける。


「妖精王さんよ、こっからが本番だ。俺に喧嘩売った事後悔させてやるからかかってきな。」


俺は妖精王を挑発する、別に後悔させてやろうなんて考えは微塵もない。ただ俺にムカついて攻撃が単調になってくれればいいなって程度の話だ。


結果から言うとそれは逆効果だった。


「ふんっ、若造が。ならばこちらも本気でいこうではないか。静かなる木の友よ、我と共に戦え、バインド・ツリーズ!」


妖精王は再び謎の呪文を唱える、するとーーーー


シュンッ⁈


「なっ⁈」


近くの木の枝が伸び俺の腕に巻きつく。俺は即座に自由な方の腕で枝をへし折りその場から離れる、だが枝は一本だけではなかった。


シュンッ! シュルンッ!


次々近くの木々から枝が伸び俺を捕まえようとする。枝の動きは早くはないがが数が多い上に前後左右の全てから絶え間なく伸びてくるので完璧に避けるとなるとなかなか面倒くさい、さらにそこに妖精王の攻撃も加わる。


「全てを避けられるのなら避けてみろ! ふんっ!」


無数の枝と連携しながら俺が避けるのが難しいタイミングで剣を振るう妖精王、それでも俺は体をひねりなんとか斬撃を避けーーーー⁈


ザサザザザン!


確実に避けたはずの攻撃は俺に命中し左腕に一つ、右足に一つ、脇腹に一つ、合計三箇所に深い傷を負わせた。


「どう言う……事だ?」


痛みはないが攻撃を受けた箇所が異常に熱い。こんな感覚は初めてだ。


とりあえずこのまま立ち止まっていては再び攻撃を喰らってしまう。俺は無事な左足で地面を蹴り距離を取ろうとする、しかし……


シュンッ! シュルンッ!


「しまった⁈」


俺が動くより早く後ろから枝が絡みつき俺の足に巻きつく。すぐに枝を払いのけようとするがその間にも次々と枝は伸びてくる、俺が枝をへし折る速度より巻きつく速度の方が圧倒的に早い。俺は身動き一つ取れなくなってしまった。


「さて、やっと大人しくなったな侵入者よ。神に祈る間は与えん、ただ悔いろ。」



妖精王はゆっくりと剣を振り上げる。



急げ、急げ!



一瞬でも早くこの状況から逃げ出そうともがく。



俺はおそらくこの世界に来て初めて焦っていた。



体中に力を込めても俺に巻きつく無数の枝は少ししなるだけで折れる気配は全く無い。


動けなくとも魔法でなら使える、しかし妖精王はそれも想定済みなようで枝は俺の口の中にも侵入し呪文はおろか声を出すことさえ出来ない。



八方塞りだ。



自力ではここから抜け出せない事を理解する。




すると今度は何故か体が震えだした。



死の恐怖はいつのまにか俺に忍び寄っていたのだ。




転生した時に与えられた課金という力。それは俺から死を遠ざけたように思えた。


だが違う。


痛覚を鎖ざそうが、強靭な体を手に入れようが、死ぬときは死ぬのだ。


それは元の世界と同じ、衣食住が完備され健康と治安を維持された日本においても一度の事故で俺は死んだ。



一度死んだ筈なのに、いざ目の前にそれを突きつけられると怖い。次また転生できる保証などない、怖い、どうしようもなく、どうしようもない死の接近に俺は怯えているのだ。



なにか、なにか、奇跡でも何でもいい、死ぬのは嫌だ、嫌だ、助けてくれ、エ




無情にも剣は振り下ろされ




俺の意識は途切れた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



同刻


ノーマ森林のはるか上空、雲が漂いはじめる程の高度に黒い影が一つ現れた。


「魔王よ、ノーマ森林に着いたぞ、起きろ!」


黒い影の正体は大きなドラゴンだ。森林上空を旋回しながら背中に寝転がる人物に話しかける。



「ふわぁぁぁ、やっと着いたのか? 結構時間かかったな。」

「やかましい、貴様が寝るというから低速で飛んでやっていたのだぞ!」

「そりゃどーも、取り敢えず適当なとこに降りるか、妖精の住処を探し出すぞ。」


旋回から一転、ドラゴンは森の中めがけて急降下し、何本かの木をなぎ倒しながら着陸する。


ドラゴンの背中で寝ていた男も地面に飛び降りる。


「グライド、お前も人間の姿になりな。その図体じゃ妖精探しなんて出来ないだろう?」

「人間の姿はあまり好きでは無いのだがな、

しょうがないか。」


男に促されグライドと呼ばれたドラゴンは自身に魔法をかけ人間の姿に変化する。


黒いドラゴンだったせいか色黒で顔の彫りも深い人間の姿になる。


「妖精の住処は魔法で隠されてて普通に探していても見つからないからな。注意深くいくぞ。」


男とグライドは森のさらに奥を目指して歩き出そうとする、するとーーーー



「ちょっと待て! そこの二人組。」


二人を後ろから呼び止めるものが


「俺たちはこの森を縄張りにしてる山賊なんだが……お前、ドラゴンじゃないのか?」


そこには十人ほどの屈強な体格の男たちががいた。


「だからなんだ?」


二人は面倒くさそうに振り向く。


「簡単な話だよ、ドラゴンってのは奴隷業界じゃかなり高値で売れるんでな、大人しく捕まってくれや。」


山賊達はカナメが遭遇したのとは別の、森を通る人間を攫い奴隷として売る、いわゆる奴隷狩りのような存在であった。


この森林は危険が少なく多くを望まなければそこそこ生きて行けるため犯罪などで国を追われたものが逃げ込むことも多く、それを他国に売り付ける事で彼らは金を稼いでいたのだ。


「はっはっはー、今回の獲物は大当たりだぜ。」

「ドラゴンなら最低でも数年は遊んで暮らせるぜ?」


山賊達は既にドラゴンを捕まえた気になっていた。


しかし今回は相手が悪すぎたようだ。


「魔王よ、この馬鹿どもどうする? 」

「うーん、そうだな。目覚ましがわりのお遊びくらいにはなるかな?」


魔王と呼ばれた男は山賊どもの前に出る。


「なんだ? 一人で俺たちとやろうってのか?」

「があっはっは、どうやら狂ってるらしいな。」

「ちげえねえ、とんでもねえ馬鹿だ。」


山賊達は彼の行動を無謀とみなし笑いだす。



だが彼の無謀な行動はそれだけではなかった。



「普通にやったらお前らに勝ち目なんて無いからな、うーん、よし! 」


彼は近くに落ちていた細い枝を拾いあげる。


「俺はこの枝でしか攻撃しない、あと一撃でも俺に攻撃を当てられたらお前らの勝ちでいい、これならそこそこ面白くなるだろ?」


彼に他意はない。言葉の通り、少しでも面白くなればいいと思ってこのような提案をしているのだ。


「流石に俺らを舐めすぎじゃねえか?」

「後悔しても知らねえぞ!」

「ぶっ殺してやる!」


当然、山賊達は怒る。舐められていると思い殺気立つ。


「やっちまえェェェ!」

「ォォォォォォォォォ!」


全員同時に男に襲いかかる


それと同時に男は枝を構えーー


「そんじゃいくぞ! ホイッと!」



彼は枝で一番近くにいた男を殴る、次の瞬間、殴られた男は五メートル程離れた木に激突し血だらけになっていた。


「やっぱ、枝が折れないように調整するの難しいな。次はもうちょい弱くやんないとダメか。」


少し亀裂の入った枝を持ちながら力加減を考える。


「さて、じゃあ次だ!」


「ひいぃぃぃい⁉︎」

「ば、バケモンだ!」

「逃げろぉぉぉ⁉︎」


山賊たちは我先にと逃げ出す。


「追うか?」


一部始終を見守っていたグライドが尋ねる。


「面倒くさいしいいや。妖精の住処探すぞ。」


彼の名は魔王ヘルブラット・ロード、部下のドラゴン、グライドと共にこの地に降り立った災悪。


平和な筈のノーマ森林に厄災の影は迫っていた。



カナメ敗北は初めてですね(多分)。


今回の章は「妖精の国編」です。


今度の展開にそこそこ関わってくる章なので最後までお付き合い下さい!

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