36.偽クエスト
二、三日のペースで投稿とか言いつつまったく守れてなくて申し訳ないです。
最新話でございます。
山賊達の刃が俺の体に当たり……
ガキンッ!
折れる。
「な⁈ なんだこいつは? 」
「傷一つつかないどころか刀の方が折れるだと⁈」
山賊達はめちゃくちゃ驚いている。そりゃそうだよな。俺だってびっくりしたし。
俺はもう一度刀を抜こうとするがーー
「やっぱりダメか……、まぁいいや。とりあえずお前達を倒すとしよう。」
俺は山賊のボスめがけて走り出す。五メートル程の距離を即座に詰め腹を殴りあっという間に気絶させる。
「ひ、ひいィィィイ!」
「バケモンだぁ!」
「逃げろォォォォ!」
俺を囲んでいた山賊達はボスを助けようとするそぶりも見せず我先にと逃げ出す。
走って捕まえることも出来るが面倒だ
「スクエア・プリ・エリア」
「なんだ⁈ これは!」
「見えない壁があるぞ⁉︎」
俺を中心に展開されたバリアから山賊達は逃げられない。
俺は必死でバリアを壊そうとする山賊達に語りかける。
「おい、お前ら。」
「ひいぃぃ!」
「ここら辺で迷子になってる女の子見なかったか?」
「命だけはぁぁぁ、ってま、迷子?」
山賊達は一斉にバリアを殴るのをやめ一箇所に集まりひそひそ話をし始めた。
もちろん俺はその内容を聞き取れる。
『なあ、迷子ってもしかして冒険者ギルドに出した偽クエストのことじゃねえか?』
『あの迷子をでっち上げてそれを探しにきた冒険者を襲うってやつ?』
『んだんだ、多分だげどあいつは罠に引っかかってここにきたんだべ。』
『まさかあんな強い奴がいたなんて、俺たちもついてねえなぁ。』
偽クエスト?
山賊達のひそひそ話から少し聞き捨てならない事が聞こえてきた。
俺は山賊達に近寄る。
「おい、偽クエストってどういう事だ?」
「聞かれてたべか⁈」
山賊達はわかりやすく動揺する。
「な、なんのことですか?」
「偽クエスト? 」
そしてとぼける。
「話は全部聞こえてたんだよ。答えろ、偽クエストってどういう事だ?」
「き、聞こえてたべか⁈」
「お前の声がでかいから!」
「偽クエストつったのはおらじゃないべぇ!」
山賊達は今度は口論を始める。どうやら誰の声が大きかったかで揉めてるようだ。
「はぁ……」
俺はため息をつく。そしてーー
「いいから答えろ‼︎」
「「「ひいぃぃ! すいません!」」」
怒鳴った。
✴︎
「ーーーーーーで、つまりは俺の受けた迷子クエストを出したのはお前らで、迷子の《ラム》ちゃんとやらは存在せず、報酬の用意もしてないと、そういう事だな?」
「そ、そうです。」
俺は山賊から詳しい話を聞き出した、そこでわかったことが一つ。
俺は騙されてたようだ。
山賊達はいつもこのノーマ森林で通りすがりの旅人や商人を襲っていたらしい。この森はかなり広く全てを把握するものは少ないが危険度自体はあまり高くないためいくつかの道が整備されており、商人や旅人の中にはその道を使うものも少なくはない。
彼等は冒険者を積極的に避け、旅人や商人だけを襲い続け、これまで一度も失敗する事なく襲撃を繰り返してきた。
何度か冒険者のパーティーが彼等を捕まえに来たこともあったそうだが長年この森に潜伏してきた経験を生かして冒険者が把握していない森の奥まで逃げ、そのまま冒険者が諦めて帰るまでは動物を狩ったり、果実を食べたりして過ごしていた。
彼等の手法は完璧だった、がーー完璧故に欠点もあった。
彼等の噂が商人や旅人の間で広まりノーマ森林を通過する人間の数が激減したのだ。食べ物だけならどうにかなっても酒、煙草、武器の補充には金がかかり山賊業は行き詰まり始めていた。
今まで蓄えてきた金も底をつきはじめたある日、山賊達は一つの策略を思いつく。
誰も来ないならこちらから呼べばいいのだと。
あとは簡単だ、冒険者ギルドに迷子の捜索クエストをだし高めの報酬につられた冒険者達が来るのを待つだけ。クエストを受けてやってくる冒険者は人探しのつもりなので装備もあまり整っておらず、パーティーで来たとしても危険度の低いこの森ではいくつかに別れて探す可能性も高い。あとは個別に襲撃していくだけだ。
捜索クエストのような急を要するクエストなら報酬の支払いも後払いが認められるため実際の報酬を用意する必要もない。報酬の割に受注条件が緩かったのもBランク、Cランクの冒険者にクエストを受けてもらうためだったらしい。
まったくよく考えられた詐欺クエストだよ。
「さて、本来ならお前達をギルドに突き出すのがいいんだろうけど……」
俺は悩む。
正直、面倒くさい。
ぱっと見、二十人そこらの山賊をここからそこそこ離れたギルドまで連れて行くなんて考えなくても大変だとわかる。
頑丈なロープでもあれば話は別かもしれないが今はそれも無い。
そもそも今回のクエスト自体嘘だったため俺の報酬はゼロ。いちおう、この山賊達は賞金首らしいが全員合わせても10万ペル程度だそうで、大した額では無い。言うなれば今回は骨折り損のくだびれ儲け、いや、儲けすらないのだ。
「でもこのまま放置ってのもなぁ。」
このまま放置していたら情報に疎い旅人や商人は襲われてしまうだろう。
俺は悩みに悩んだ。
そして一つの結論を導き出した。
「お前ら、俺と取引しないか?」
「取引? ど、どんな取引で?」
山賊達は取引を持ちかけられるなど予想もしていなかったのだろう、首を傾げながら聞き返す。
「お前ら、金輪際誰かを襲ったり盗んだりするのはやめろ。そしたら今回だけは見逃してやる。」
「へ⁈ 見逃してくれるんですか?」
「ああ、ぶっちゃけお前達を捕まえるメリットはない。でも放置しとくわけにはいかないからな。改心して真面目に生きていくなら見逃す、どうだ? 取引に応じるか?」
俺は山賊達に尋ねる。
山賊達はまたひそひそ話をはじめた。
『どうすんだ? 見逃してくれるらしいぞ?』
『でも取引したとしてそのあとどうする。俺たちは読み書きも出来ねえ、山賊でもしない限り生きてけねえぞ。』
『山賊やめたら生きてけねえべ。』
『でも取引に応じないと……。』
山賊達は俺の腰にあるディセンダートを見る。取引を拒否したら殺されると思っているのだろうか。
俺は山賊達に言う。
「安心しろ、当面の働き先なら心当たりがある。」
「え? そ、それは本当ですか?」
「ああ、当面の働き先なら保証してやるよ。」
俺は答える。実は《ウロボロス》クエストの後、ラグナン領で労働力の需要が高まっている。
原因はスカーの奇襲爆破により倒壊寸前までダメージを受けたラグナン商館、リンナさんのゴーレムにより陥没したラグナン商館周辺の広場だ。現在ラグナン商館を含む周辺は修復工事のため立ち入り禁止となっている。
もちろんそこはラグナン領の商業の中心地であったため早急にな復興が求められるのだが……予定にはない工事となるためなかなか人手が確保出来ず困っているそうなのだ。そこでこの山賊達だ。読み書きができなくても力仕事でなら役に立てるはずだ。
「取引に応じるか?」
俺はラグナン領の件を教え再度尋ねる。
「もちろんです! 」
「見逃してくれるどころか仕事先まで教えてくれるなんて……」
「おらだち、真人間になれるっぺか⁈」
山賊達は快く取引を受け入れた。
「それじゃ、俺はもういくからな。お前ら、もし約束を破ったら……」
「「「絶対に守ります!」」」
「よし、ならいい。」
山賊たちが俺に向かって頭を下げる。
なんかこういうのは慣れないからやめて欲しいがせっかくいい感じに恐れられているのだ、このまま恐れて続けてもらった方が約束も守られるだろう。
俺は山賊達に背を向けて森林の外へ歩き出ーーーードンッ!
ーーーーーーそう言えばバリア張りっぱなしだったな。透明なため忘れていた。
『あいつ意外とアホじゃね?』
『自分の魔法だろ?』
『オラでもあんなことしないべ。」
山賊達が鼻で笑っているのがわかる。
せっかくいい感じに恐れられてたのになぁ……。
振り返るのも恥ずかしいのでそのまま魔法を解除して外に出ようとする。
しかしーーーーーー
バリンッ⁈
俺が魔法を解除するより早く、バリアが外部からの攻撃によって破壊された。
「破壊された? どういうことだ?」
俺には一瞬、何が起こったかわからなかった。この世界に来て、傷を負ったことなら何度かあったが俺の魔法が破られたことは一度としてなかったのだ。
「ふんっ、賊にしてはなかなかの強度ではないか。我が破壊に手こずるなど初めてだぞ。」
状況を把握する間も無く森の奥から一人の男が出て来た。
右手には剣を持ち、左手には指揮棒のような木の枝を持ち、金銀混じった髪の上にはクリスタルでできた王冠のようなものが乗っている。
その男は俺に剣を向けて言い放った。
「我は妖精王サン・ドラード。我の領域で強い魔力を感じたがお前だな? 」
ビリビリと肌に電流が走ったようだ。とんでもない殺気が放たれる。
「サン・ドラードさん? 俺、なにか気に触ることでもしましたか?」
「我が領域でそれほどの魔力を放っておきながら白々しい。お前程の力を持つものがたまたまこの森に迷い込んだとでも言いたいのか?」
「まあ、目的があったと言えばあったが……もう帰る予定なんだったんだよ。帰っていいか?」
「ならん、魔王の手先はここで始末するーーーーーふんっ!」
突然現れた男は話も聞かずに斬りかかってくる。
いい動きだが避けられないほどではない、俺は素早く回避する。
「ほう、今のを避けるか。流石は魔王の手先といったところか。」
「何ってんだ? 俺の話を……」
「ふんっ!」
聞いてくれないか。
俺は戦わざるを得ない状況に追い込まれる。
詐欺だったクエスト、一ペルにもならない盗賊、そして何故か襲ってくる自称妖精王、今日はとことんついてないーーーーーもう帰りたい。
そんな想いも虚しく戦闘ははじまるのであった。
個人的に妖精王って響きが気に入ってます。




