34.魔王軍対抗会議
更新が遅れて申し訳ないです。今、リアルが少しごたついているので毎日投稿は厳しそうですが2〜3日に一回くらいのペースで更新していこうと思います。
「さて、それでは魔王軍対策会議を始めようか。」
首都メルトのギルド本部には余程のことがない限りは使われないが大きめの会議室が一つある。
ラグナン商館でウロボロスが使った部屋とは雲泥の差、広い部屋に大きなテーブルと椅子を並べただけの部屋だ。
現在そこにはギルドのグランドマスター、フェルナンドをはじめとして精鋭班のまとめ役、スカーとリンナ、それにその他数人のギルドの役員、そしてカナメとエリーがいた。
「今回の議題は最近メルト国内で起こるいくつかの不審な出来事についてだ。」
フェルナンドは話し出す。
「先日、A級冒険者のアラドをはじめとする冒険者の六人がトラガー遺跡を調査しに向かい、そのうち五人が行方不明なっている。そのほかにも、急に連絡のとれなくなったSランク、Aランクの冒険者が数人いる。そして行方不明なった冒険者の周辺では必ずと言っていいほどピンクの髪の女が目撃されている。そして今回、スカーもその女を見かけたそうだ。」
全員の目がスカーの方に向く。
「ウロボロスに奇襲をかけた時ですね。ラグナン商館からツーラン領に転送された際、ピンクの女に接近戦を仕掛けられました。身のこなしからしてかなりの手練れでしょう。Sランクの冒険者でも不意を突かれれば殺されかねません。」
フェルナンドはスカーの話を聞きながら頷く。
「この話から考えられる事だが……、我々冒険者ギルドはウロボロスと魔王軍が手を結ぶことを恐れてクエストとしてウロボロスを壊滅させた。だが、手を打つのが遅かったのかもしてない。」
「それは既にウロボロスと魔王軍が手を組んでいたということかね?」
ギルドの役員が尋ねる。
「そういうことだな。魔王軍はウロボロスに依頼して有力な冒険者を暗殺していた可能性がある。それもわざわざウロボロス所属の暗殺ギルドも使わずにな。お陰でギルドの監視の目も欺かれ知らぬ間に戦力を削られていた。」
「ふーむ、それは厄介ですなぁ……。」
「魔王軍が既に動き出していたとは。」
ギルドの幹部が唸る中、フェルナンドの話は終わらない。
「もう一つ、おかしな点がある。ツーラン領での魔獣大量発生の件だ。」
「たしか、近くの山にいた魔獣を何者かが操っていたとかいうやつですな。」
「そう思っていたのだが……、ツーラン領のギルド支部からの報告によるとあの時の魔獣は普段から山に住まう魔獣とは微妙に種類が異なるらしい。つまりあの時の魔獣の群れの出所は不明だ。」
「ふーむ、わけがわかりませんな。」
冒険者は消え、魔獣は現れ、先手を取ったつもりでウロボロスに奇襲を仕掛けたが時すでに遅く、魔王軍は既に裏で動いていた可能性が高い。
ここまでくれば少しでもおかしな事があれば魔王軍の関与を疑ってしまう。
そこで、フェルナンドは真向かいに座る二人にこういった。
「そういうわけだ。カナメくん、エリーくん、絡まった情報の糸を解いてくれ。」
✴︎
いや、どういうわけだよ。
俺もエリーもどうしてこの会議に呼ばれたのかすらわかってないんだぞ。
「フェルナンドさん、いまいち話の流れがわからなんですけど……、何故ここで俺たち?」
流石に意味がわからず俺はフェルナンドさんに尋ねる。
「今回君たちに少し話を聞きたくてな。君たちはツーラン領で魔獣を操る怪しい二人を撃退したのだろう? その二人について詳しく教えて欲しい。」
ああ、なるほどそういう事か。つまり俺たちが呼ばれた理由は会議で意見を出すとかではなく情報が欲しかっただけ、納得だ。
俺はツーラン領でのことを思い出しながら話す。
「たしか……俺が戦った二人のうち一人にもピンクの髪の女がいた。名前はポニータとかだった筈だ。もう一人は男で、名前は……マキナスだった、二人とも魔王がどうのとか言っていた気がする。あと、その二人が逃げる時、ウロボロスの幹部が使っていた転送魔法を使っていた。」
ツーラン領での出来事からはそこそこ時間が経っているため記憶も曖昧になっていたが、それでもなんとか思い出した。
エリーも同じような事を話す。
「そうか……ならもう決まりだな。おそらくカナメとエリーが対峙した二人はウロボロスの幹部、マキナス・マグネットとピンクの髪の女と同一人物だろう。そしてその人物が魔王の名を口にしたということは魔王軍とウロボロスに繋がりがあった事は確定だ。ツーラン領に現れた魔獣もその二人が逃亡する際にも使用した転送魔法で召喚したと考えるのが自然だろう。」
フェルナンドは深くため息をつく、だがーー
「大丈夫ですよ、フェルナンド殿。ウロボロスはもう潰しましたし魔王軍はこれ以上何も出来ませんよ。」
楽観的な意見がどこからか聞こえてくる。
まあ、考えようによっちゃ魔王軍との戦争が始まる前に国内の憂いを取り除くことができたと解釈することも出来るからな。
しかし、それはあくまで希望的観測に過ぎない。
リンナさんが発言する。
「ウロボロスの幹部が使っていた転送魔法のことなんだけど、もしも逃げた幹部が魔王軍に協力したら魔王軍は時も場所も選ばずにメルト国内にせめこめるのよね? それって少し不味いんじゃない?」
リンナの発言に場が凍りつく。先程までの楽観的な雰囲気など跡形もなく消え去る。
みんな気づいたのだ。
リンナの言う事が現実となった場合、それはメルト国の敗北を意味すると。
転送魔法で軍を送り込めるのならどれだけ国境付近に兵力を集めても無駄だ。山脈や大河といった本来なら自然の要塞として役に立つものも意味を成さない。大軍を国王のいる首都メルトに転送してしまえばこの国はあっという間に魔王軍の手に落ちるだろう。
「リンナさんは魔法に詳しいんですよね! 転送魔法について何か対抗策とか無いんですか⁈」
エリーが尋ねる、だがーーーー
「ごめんなさい、いままで色々な魔導書を見てきだけれど転送魔法なんて見たことがない、対抗法もわからない。そもそも、私はあれが魔法かどうかも怪しいと思っているわ。」
魔法かどうか怪しい?
「それはどういうことですか? リンナさん。」
リンナさんにスカーが尋ねる。
「転送魔法にはおかしな点が二つあるの。まずはウロボロスの幹部、シュガーという男が転送魔法を使った事ね。彼は私に洗脳魔法をかけようとした、つまり呪術系の魔力の持ち主な筈なの。ひとりの人間が複数の系列の魔法を使えるのなんて話聞いたことがない。」
たしかに言われて見ればその通りだ。
この世界の人間は攻撃系、操作系、支援系、呪術系、生命系の六つの魔力のうちどれか一つを持っている。血液型のようなものだと考えてもらえればいい。
A型の血液とB型の血液を同時に持つことが出来ないように魔力も複数を同時に持つ事は出来ない。
聞いた話によると過去に1人の人間に複数の魔力を持たせようとした事もあったようだが成功例はないそうだ。
そのことからも転送魔法の特異さは際立つ。
だが、もう一つ、明らかにおかしい点があった。
「シュガーという男が転送魔法を使った時、《ワー・チン・カレル・マッド》と唱えていたの。呪文は三音節で構成される筈、四音節の呪文なんて聞いたことがないわ。」
リンナの発言を聞きスカーが思案する。
「つまり、敵は魔法とは別の、俺は達のの知らない新たな力を持っているということですか?」
「可能性は高いと思うわ。」
「そうですか……それでは対抗策の打つのは難しいですね。」
会議室の中に重たい空気が漂う。
結局、その会議では状況を打開する策は見つからず、最悪のシナリオを確認するだけに留まる。
俺とエリー以外のメンバーは今後も何度か会議を開く予定らしく、各自対抗策を考えるという事でこの会議はお開きとなった。
会議が始まる頃はまだ天高く顔を見せていた太陽は地平線に隠れ、代わりの満月が街を照らす。
「いろいろあったけど首都メルトとも一旦お別れだな。」
俺は夜でも絶えず賑わう大通りを眺める。
「そうですね、ここもいいですけど少しワンドックの街が恋しくなってきましたしね。」
エリーが、俺の横でドラゴンの姿に戻り、俺はエリーの背中に飛び乗る。
「じゃあいきますよ!」
エリーはワンドックの街をめがけて大空に飛び出した。
ウロボロス編はこれで終わりですね。思ったより長くなってしまいましたがここまで読んでくれてありがとうございます。次回から新章です。




