33.特別報酬
今回は短めです。
「おっ、やっと合流出来たな。」
「カナメさん!」
精鋭冒険者がラグナン商館に攻撃を仕掛けてから三日、ウロボロスの罠によってバラバラにされた冒険者達は首都メルトにあるギルド本部に集結していた。
ツーランに転送された俺も三日ぶりにエリー達と会えた。
この世界には元の世界のようにスマホもなければネットもない、しかしだからといって情報伝達手段がまったくないわけではない。
この世界には[音速鳥]と呼ばれるその名の通りとんでもない速度で飛ぶ鳥がおり、魔法で使役することによって手紙程度なら国の端から端まででも一日もかからず送ることはできる。
ラグナン商館からツーラン領に転送させられバラバラになった冒険者達は[音速鳥]を使ってお互いの無事を確認、ギルド本部に帰還することを決定したのだ。
「みんな、一人も欠けることなくよく戻ってきてくれた。ウロボロスの幹部九名、構成員百四十三名を捕縛した功績は大きいぞ、よくやった!」
いつものようにギルドホールの中央でギルドのグランドマスター、フェルナンドが話す。
「ウロボロスの残党については国属治安兵が引き継ぐそうだ。それも君達がウロボロスの主戦力を削ってくれたお陰だ。受け取ってくれ、クエスト報酬の1000万ペルだ!」
「「「うぇぇぇぇぇぇい!」」」
本部の受付嬢さん達が精鋭冒険者にクエスト達成認定書を手渡す。報酬はこの認定書と引き換えにいつでも貰える。
「さて、じゃあ次は特別報酬の発表をしよう。」
「待ってましたー!」
「いいぞー!」
フェルナンドの言葉に冒険者達は盛り上がる。
「なあ、エリー。特別報酬ってなんだ?」
俺はその意味がわからないためイマイチ盛り上がれない。エリーが説明してくれる。
「特別報酬っていうのは複数の冒険者が同時にクエストに参加した時に活躍した冒険者に与えられるクエスト報酬とは別の報酬ですよ。」
「へえ、そんなものがあるのか。」
そういう制度があればやる気も出るからな。なかなかいい制度かもしれない。
フェルナンドが手に持って紙を見ながら特別報酬を受け取る冒険者を発表する。
「今回は七名が特別報酬対象に選ばれた。まずは《爆炎》のスカー・フレイム!」
「うぉぉぉぉ!」
「やっぱりきたか!」
やはり一人目はスカーか。誰もが納得する結果だろうな。
「スカー・フレイムは奇襲班の指揮官を務め、さらにラグナン商館での奇襲にて幹部九名を行動不能にした。この功績を称え彼にはさらに1000万ペルを特別報酬として与えよう。」
「ありがとうございます。」
スカーは表情一つ動かさず特別報酬を受け取る。流石のポーカーフェイスだ。
「どんどんいくぞ。次は《土軍》のリンナ・ウォール!」
「ふぉぉぉぉぉぉう!」
「リンナさぁぁぁぁん!」
スカーの時とは全く別の、一部のリンナさんファンからの大きな歓声が起こる。
「リンナ・ウォールは包囲班の指揮官として活躍し、敵の要注意人物にして幹部のシュガー・ウールを徹 撤退にまで追い込んだ。この功績を称え彼女には700万ペルを特別報酬として与える。」
「私がもらっちゃっていいのかしら?」
リンナさんは驚くそぶりを見せながらフェルナンドさんから報酬を受け取る。まぁでもリンナさんが戦った跡を見た俺としては納得の人選だ。敵の幹部をあそこまで一方的に倒せる人もなかなかいないだろう。
「確か残りは五人だよな。エリーは心当たりがあるか?」
「いえ、ないですね。多分奇襲班にいた人なんじゃないですか?」
「まあ、そっか。」
リンナさんに報酬を渡した後、再びフェルナンドが話し出す。
「さて、残りの五人は一気に発表しよう。まずは《魔龍》のエリー・ブラウニー!」
「えっ? 私ですか⁈ 」
エリーが驚いて声をあげる。フェルナンドは更に発表を続ける。
「さらにAランクのダン・グリース、Bランクのアーサー・メルト、ルーナ・ウォール、カナメ・ザイゼンだ。」
「うぉぉぉぉ!」
「だれかわかんねぇがいいぞー!」
冒険者達はただただ騒ぐ。騒ぎたいだけなんだろう。
ていうかーーーー!
「残りの五人って俺たちかよ!」
流石にこの結果にはびっくりだ。まさか残りの五人が俺達のパーティーのことだったとは。
フェルナンドは続ける。
「彼らはパーティーで暗殺ギルドの幹部、タックス、リリアンヌの二名を捕縛した。彼等のランクからすればこれはかなりの功績と言えるだろう。よって特別報酬として一人二百万ペル与える。」
「あ、ありがとうございます。」
エリーが代表して五人分の報酬を受け取り、皆の元へ戻ってくる。
「まさか俺たちが特別報酬なんてびっくりっすね!」
「本当に驚きましたね。」
ダンとルーナはそうは言いつつもとても嬉しそうだ。
「ふっ、まぁ当然のことだな。報酬はありがたく受け取ろう。」
アーサーもカッコつけてはいるが微妙に口元が緩んでる。嬉しいんだろうな。
フェルナンドはしばらく場が落ち着くのを待って再び話し出す。
「精鋭冒険者の諸君、今回のクエストの目的は君達の連携を高めるためという側面も強い。あくまで本当の目的はこの国に侵攻してくるであろう魔王軍を退けることだ。一度この集まりは解散とするが魔王軍が侵攻してくれば再びあつまってもらうことになるだろう。その時まで各自力を蓄えておいてくれ。本当に今回はよくやってくれた!」
「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!」
取り敢えずこうして精鋭冒険者達で挑んだ《ウロボロス》クエストは幕を下ろした。
冒険者達は続々とギルドホールから出て行く。
その様子を見ながらダンが話す。
「次に精鋭冒険者が集められるまでどうしますか? 俺としてはこのままパーティーで冒険するのもありと思うんすけど。」
「私もそうしたいです。」
ルーナとダンはパーティーで冒険を続けたいようだがーーーー
「すまないね。僕は少し用があってね、このパーティーに参加できるのは精鋭冒険者として集められた時だけなんだよ。」
アーサーには事情があるようで出来ないようだ。そしてそれは俺たちも同様だ。
「実は俺とエリーもそろそろワンドックの街に帰ろうと思っててな、みんなとまたパーティーを組めるのは結構あとになりそうだ。」
俺とエリーはメルトに住むみんなとパーティーを組むためにギルド本部にある宿泊施設で寝泊りをしている。
ギルドの宿泊施設は一泊五万ペル、これは物価の高い首都メルトでは当たり前の値段らしいがかなり高い。宿泊施設には自炊の設備もないため食費もかさむ。いつ攻めてくるかもわからない魔王軍が来るまでここで生活をするのは金銭的にあまりよろしくないのだ。
そこで俺とエリーは《ウロボロス》クエストが終わった後はワンドックの街に戻ろうともともときめていた。
「それは残念っすけどしょうがないっすね。じゃあ次会う時までお元気で。」
「エリーさん、カナメさん、いろいろありがとうございました!」
ダンとルーナがギルドホールから出て行く。
「それじゃ僕もこの辺で、カナメ、エリー、また会おう。」
アーサーもいつものようにナルシストスマイルを振り撒きながらギルドホールを後にした。
「みんないっちゃいましたね。」
「俺たちもワンドックに帰るとするか!」
「そうですね!」
既に荷物の整理は終えているのでそのまま俺たちもギルド本部を出ようとする、しかしーーーー
「おーい、ちょっと待ってくれ。」
俺たちを呼び止めるものが。フェルナンドだ。
「どうしたんですか? フェルナンドさん。」
「なにか私達に用でも?」
振り返り訳を聞く。
「二人から少し話を聞きたくてな。魔王軍対策会議に出席してくれないか?」
「「魔王軍対策会議⁈ 」」
まさかの展開に思わず驚いたしまった二人であった。
そろそろ番外編とかで書いてみようかなと思います。




