32.魔王城
更新遅れてすいません!
三十二話です!
シュガーを捕まえようとして光のベールに巻き込まれた俺は気がつくと別の場所にいた。
そしてそこにはスカーを始めとして、全滅したと聞いていた奇襲班の冒険者達もいた。
「スカー、えっと、とりあえず状況を説明してくれないか? 」
俺はスカーに尋ねる。
「正直な話、俺にもわからん。おそらくここはツーラン領だと思うがどうやってここまで移動させられたのか検討もつかない」
スカーは答える。だがーー
「いや、俺が聞きたいのはそこじゃなくてだな。なんであっちこっちに縛られた人が転がっているんだ?」
そう、聞きたいのはそこだ。
奇襲班の冒険者の周りには縛られた男が散乱していた。
まるで冒険者ってより奴隷狩りを見ているようだ。男達は口には布、たしか猿ぐつわって言うんだっけ? がつけられてており、両手も後ろで固く結び、何人かは気絶させられている者もいる。
「どうしてこんなことになってるんだ?」
俺は再度スカーに尋ねる。
スカーは答えた。
「今縛られている奴らはウロボロスの構成員だ。手段はわからんが俺たちをここに強制的に移動させ待ち伏せしていたウロボロスの主戦力で潰すつもりだったらしい」
「で、今ウロボロスの奴らが縛られてるって事は勝ったのか? 」
「まぁな、敵は俺たちを舐めすぎていたようだ」
それから、スカーは詳しく教えてくれた。
スカー率いる奇襲班はここに移動させられたあと、百を超えるウロボロスの構成員に囲まれていた。
数の不利に加え、敵の幹部の中でも特に危険とされていたマキナス・マグネット、クロード・ラストフェンサーの参戦により一時はかなり押されていたらしい。
本来このような場合はスカーの広範囲爆撃魔法の出番なのだがーーーー
「戦闘が始まった瞬間、ピンクの髪の女に邪魔されてな。近接戦に持ち込まれたせいで俺はあまり活躍出来なかった。とは言ってもーー」
奇襲班の中にはスカー以外にも何人ものSランクの冒険者がいる。
結果、奇襲班は数で攻めるウロボロスに対し圧倒的な質、連携の練度で戦況を巻き返しウロボロス主戦力を打ち破ったのだ。
「それにしても凄いな、数で言えば三倍から四倍くらいの敵だったんだろ? よく勝てたな」
「敵の質は低かったからな。キメラやワイバーンと戦ってきた冒険者達なら数の不利程度で負けはしないさ」
スカーは勝って当然と思っているのか勝利に喜ぶりそぶりもない。
「勝って嬉しくないのか?」
「ふん、こんなのは勝ちじゃない。敵の幹部供には逃げられた」
スカーの言葉には僅かではあるが苛立ちが混ざっていた。
敵の幹部、マキナスとクロード、それに戦闘時にスカーに近接戦を仕掛け広範囲爆撃魔法の邪魔をした女、この三人はある程度戦った所で再び呪文を唱え光のベールに包まれ消えていったそうなのだ。
「ところで、お前の方こそどうやってここにきたんだ?」
スカーが俺に尋ねる。
「俺はシュガーって奴を捕まえようとしたらここに飛ばされて……、そう言えばあいつは?」
俺は辺りを見渡す。シュガーの姿はどこにもなかった。状況から判断するに俺はシュガーを逃してしまったようだ。
敵の幹部供は瞬間移動のような魔法が使えるようだしどこにいるかの検討もつかない。シュガーを捕まえるのは一度諦めた方が良さそうだ。
その後、俺はスカーに包囲班は無事であることを伝え奇襲班の面々と共にツーラン領にある冒険者ギルドに向かう。
奇襲班が捕らえたウロボロスの構成員達は冒険者ギルドに引き渡される。後日、裁判を行なった後に各領地の監獄に収監される予定らしい。
当初の作戦とは大分違った過程を辿りはしたものの、ウロボロスの幹部十二名のうち逃したのは三名のみ。精鋭冒険者達の勝利といっても差し支えない結果になり、こうして《ウロボロス》クエストは幕を下ろした。
✴︎
この世界にはたった一つ、唯一にして最大の大陸〔クロスシード〕が存在する。
古来よりこの世界に住むあらゆる種族はこの大陸の覇権を握ろうと争いを繰り広げていた。
個の力を極めしドラゴン、魔導兵器を生み出した古代ドワーフ王国、数と知恵と連携により魔獣を払いのけひ弱ながらも建国を成し遂げた人類。
弱肉強食、盛者必衰、いくつもの種族が栄える中、現在急速に勢力を拡大する一団がいた。
そう、魔王軍だ。
数年前、魔王と呼ばれる人物と彼の率いる様々な種族で構成された勢力が出現、最北の大国スルベーンを半年足らずで征服した。それをキッカケに魔王軍は大陸全土の国に宣戦布告を行いミスト、リーベヌ、タグナム、ジャグモ、合わせて四つの国を三年で魔王軍の支配下に置いてしまった。
現在は大陸の中央に位置する大陸最大級の大国、カナンと交戦中であり、カナンを落とせば大陸の七割は魔王軍のものとなる。
「帰ったか、マキナス、クロード、ポニータ、シュガー。」
ここは魔王軍がタグナムを征服した後に大陸統一の拠点として作り出した魔王城。
城の周りにはどこまで広がるかもわからない程深い森が広がり空にはワイバーンが飛び交う。
巨大で禍々しく、外装を黒で統一されているその城は並みの冒険者なら近づく気すら起きないだろう。
城の門をくぐると完璧に手入れされた城の庭があり、そこには警備として配置された魔人が武器を片手にただならぬ殺気を放ち、内部では城を維持するための使い魔が忙しなく行き交う。
メルト王国から戻ったマキナス、クロード、ポニータ、シュガーの四人は魔王城の最上階に位置する〔王の間〕に来ていた。
「魔王様、ただいま転送魔法により帰還いたしました。」
マキナスが四人を代表して帰還報告を行う。
マキナスの言葉の先には玉座に腰掛ける魔王がいた。
魔王・ヘルブラット・ロード、漆黒の瞳に長い髪は見るものを魅了し、芸術品の如く精巧で整った顔立ちは男ですら虜にしかねない。
魔王はマキナスの報告を聞きて尋ねる。
「マキナス、メルトでの下準備は終わったか?」
「はい、メルト国内の古代遺跡三つに対しての儀式を完了、遺跡の転送機能を起動させました。これでメルト国内にいつでも魔王軍を送り込むことが可能です。」
「そうか、よくやった。」
魔王は満足気に頷く。
しかしーーーー
「しかしながら、いくつか予定外の事態も起こりました。当初の予定としてウロボロスの戦力と精鋭冒険者をぶつけ戦力を削る予定でした。ですがーー」
「想定よりも冒険者達が強かったのか。」
「はい、所詮は犯罪者を寄せ集めただけのウロボロスでは勝負にもなりませんでした。精鋭冒険者に対しては我々、魔王様の幹部の率いる部隊が対処しなければならないでしょうね。」
マキナスは感情を交えず、ただ事実のみを淡々と伝える。
「まぁ、冒険者どもに関しては問題ないだろ。お前達はまだ奥の手も使ってないだろ?」
「もちろんです。」
「なら大丈夫だ。とりあえず目標である遺跡の起動が出来たらな計画通りだしな。よくやった、次の命令があるまでは休んでおけ。」
「「「「はっ!」」」」
マキナス、クロード、ポニータ、シュガーの四人は王の間を後にする。
「ううー! やっとウロボロスの幹部の振りも終わりね。演技とは言ってもマキナスの部下って設定は嫌だったのよねー。」
王の間を出たポニータは後筋を伸ばしながら緊張をほぐすように体をくねらせる。
「まったく、それはこちらのセリフだよ。部下の設定を無視してタメ口で喋る奴なんてこちらから願い下げだよ。」
マキナスはうんざりだとでも言いたそうだ。
「そう言えばクロードはあの国ではずっと鎧着てたじゃん? 怪しまれなかったの?」
ポニータはマキナスの嘆きを無視して隣を歩くクロードに話しかける。
「ほっほっほっ。私は見た目がこれですからなぁ、鎧で体を隠さなければ討伐されてしまいますよ。」
クロードは兜を持ち上げ鎧の下に隠れる骨の体を見せつける。彼は知性を持つスケルトンなのだ。
「目立つという意味ではポニータ殿もなかなかだと思いますが、そのような派手な髪と服ではどこを出歩いても目立つでしょう?」
「ピンクは私の一番好きな色なのよ。これだけは譲れないわね。」
「ほっほっほっ。なら仕方がありませんなぁ。」
クロードの声が鎧に反響しながら響く。
「そう言えばさ、シュガーあんたラグナン商館でボコボコにされたんでしょ? よく逃げ切れたわね。」
ポニータが思い出したようにまだ傷の残るシュガーには話しかける。
「ほんと散々だったよ。リンナさん綺麗だったのに洗脳出来なかったんだよ。」
「あんた、また敵に発情したの?」
「発情って言わないでよ。綺麗な人がいたら性奴隷にしようと思うのは全ての雄の共通点だよ。」
シュガーは恥ずかしげもなくじぶんの性癖を常識のように語る。
まぁ、もちろんそんな訳はなくーー
「一緒にするんじゃないよ。そんなものに興味はないよ。」
「ほっほっほっ。スケルトンには性別はあっても性器はありませんからなぁ、シュガー殿のようには考えられませんな。」
即座に否定する男性陣。
「ってか! そうじゃなくて、私が話していたのはよくそこまでボロボロの状態で逃げられたわねってことよ!」
ずれて行く話題をギリギリのところでポニータが元に戻す。
「正直かなりやばかったよ。転送魔法で逃げようとした時も冒険者の一人が僕に掴みかかろうとしてさ。ランダム転送に切り替えてそいつと別の場所に飛んで、そっからもう一度ここまで移動してきたんだよ。」
シュガーはカナメに捕まりそうになった瞬間を思い出す。
「じゃあ、僕はここで。傷を治しに行ってくるよ。」
「ほっほっほっ。では私も剣の手入れにでも行きますかな。」
シュガーとクロードが別れを告げ廊下の奥へと消えていった。
「私も武器の開発をしたいからね。研究室に向かうとするよ。」
二人に続きマキナスもその場を去ろうとする、がーー
「なら私も手伝ってあげるわよ!」
「断るよ。」
「即決⁈ 酷くない? 」
「私の研究においお前のようなガサツな奴は邪魔なんだよ。」
「なによー! 私だって……」
二人もまた、魔王城の奥へと消えていった。




