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31.シュガー・ウール

シュガー・ウール。


彼はウロボロス所属の暗殺ギルド幹部にして、タックス、リリアンヌと並ぶ存在である。


気品すら漂う銀色の髪に、見るものを虜にする空の如く碧い瞳、白く透き通った肌。


おそらく彼を知らない者なら彼の事をお伽話に出てくる王子様だと思うだろう。


彼は今、五人の部下とともにラグナン商館の正面玄関へと歩いていた。


現在ラグナン商館は三つの冒険者パーティーによって包囲されている。その目的はラグナン商館から逃げるウロボロス構成員を逃さないようにするためだ。だが、彼が正面玄関へと向かっているのは逃げるためではなかった。


彼は思う。


(概ね魔王様の計画通りかな。 ウロボロスって隠れ蓑は便利だよねぇ、僕等が多少派手に動いても魔王軍とは関連付けられずに疑惑の目は全部ウロボロスに向いてくれる。)


彼はそのまま正面のドアからラグナン商館を出る。


そこには……


「情報通りだね。 君がリンナ・ウォールかい?」


そこにはいたのはSランクの冒険者、《土軍》ことリンナ・ウォールだ。


「お待ちしてましたよ? ウロボロスの皆さん。大人しく捕まるのならこちらも攻撃はしませんが、抵抗するというのなら容赦はしません。」


リンナがラグナン商館から出てきたシュガーとその部下五名に投降を促す、がーー!


「リンナ・ウォール! うほぉぉぉ、聞いてた通りすごく綺麗な人だなぁ! 君、僕と付き合わない?」

「シュ、シュガー様? 今はそのような雰囲気では……」

「リンナさんさぁ、いま何歳? 僕? 僕は十八だよ、年上でも年下でもいいからさぁ、いっしょに遊ぼうよ!」


シュガーはリンナの言葉も聞かずにリンナを口説きだした。


この行動には、リンナのパーティーメンバーもシュガーの部下でさえも動揺を隠し得ない。


だが、口説かれたリンナは至って冷静だった。


「ごめんなさいね。私、もう娘がいるの。」


子持ちという事を伝えシュガーの告白をバッサリ切る。


リンナの経験上、大抵の男はこれを言うともう何もしてこない。だがシュガーは違った。


「娘⁈ 都合がいいね。僕が二人まとめて可愛がってあげるよ。君の娘ならきっとかわいいんだろうなぁ、親子で僕のを舐めさせたりしたら凄い快感だろうなぁ。」


シュガーは両手で股間を押さえながら妄想を膨らませ身をよじる。


シュガーは真性の変態なのだ。抱きたい女は抱きたい、その女に男がいるなら男を殺し、娘がいるならいっしょに抱けばいい、彼の思考回路は単純で狂っていた。


「僕はシュガー・ウォールって言うんだ、どう? 親子で僕の女にならない?」


シュガーはリンナにウインクをする。


しかしーーーー


「シュガー・ウォール、そうですか、貴方が……」


リンナは要注意人物のリストを思い出す。シュガー・ウールの名は幹部の中でも特に危険な三人に選ばれていたはずだと。


「シュガー・ウォール、貴方の発言は酷く不快です、投降しないのであれば力ずくで貴方達を拘束させてもらいます。ソイル・ドール・ソング」


リンナはこれ以上の話は無意味だと悟り地面から特大のゴーレムを三体作り出す。


しかしーーーー!



「ゴーレムの展開が遅いよ、 サイコ・オブ・メント!」


シュガーは十メートル程の距離を一瞬で駆け魔法を唱えながら右手でリンナをつかもうとする。


「リンナさん、下がってください!」

「ちっ、邪魔だな、君」


間一髪、リンナとシュガーの間にリンナのパーティーメンバーが盾を持って割り込む。


シュガーはリンナに指一本触れることは出来なかった。


「ありがとう、ミレちゃん、助かったわ」

「いえいえ、リンナさんを守るのは私の仕事ですからね」

「それにしてもあの男、厄介ね」


リンナはシュガーに対しての警戒レベルを引き上げる。


リンナはとても魔法に詳しく、そのため詠唱を聞いただけで今シュガーが使おうとしている魔法が何かわかっていた。


「敵は洗脳魔法の使い手よ。直接触れられない限りは発動しないからそこだけ気をつけて」

「了解!」


リンナの前に盾を持った仲間が立ち、シュガーには指一本触れさせまいと意気込む。


リンナの前に盾を持って立つミレという者もSランクであり、そのほか、三名のメンバーもAランクという実力の持ち主だ。


このパーティーは精鋭冒険者の中でも特に優秀な戦力を持っていた。


蟻一匹通さないと言わんばかりの鉄壁の布陣を前にシュガーは思考しーー


「うーん、俺のお目当はリンナさんだけなんだけどなぁ。よし、お前達、死ぬ気で特攻してこい。一瞬でもいいからあのパーティの隙をつくれ、その隙に俺がリンナさんを洗脳する」


一瞬で仲間を捨て駒にする選択肢を選ぶ。


「死ぬきって、シュガーさんそれはないですよ!」


当然部下達は反発するものの……


「うるさいよ、サイコ・オブ・メント」


シュガーは部下に洗脳魔法をかけて黙らせる。


洗脳魔法には二種類ある。永続的に続く代わりに常識の改変程度のことしか出来ないものと短時間しか効果はないものの相手を奴隷のようにすることができるものだ。


シュガーが使ったのは後者。


異論を唱えていた部下達は少しの間だけ、シュガーのためなら命すら捨てることも厭わない奴隷と成り果てていた。


「じゃあ、僕のためにみんな死んできて。」

「「「「「シュガー様、万歳!」」」」」


シュガーの部下達は一心不乱にリンナのパーティーへと突っ込んでゆく。


彼等の目に光はない。あるのはただシュガーの為に全てを捨てる覚悟だけだった。


シュガーは命をかけて突撃する五人の様子を伺う、一瞬でも隙があれば即座にリンナを洗脳する為に。


しかしーーーー


「少し考えがあまいわね、既にゴーレムがいる戦場で私に勝てると思ったの?」


先程リンナが作り上げた特大のゴーレム三体がシュガーの部下五人を一蹴する。


リンナのパーティーを崩すどころかパーティーに攻撃を仕掛けることすら、シュガーの部下達には出来なかった。


「さて、トドメといきましょうか。あなたにはとっておきのモノを見せてあげるわ。ソイル・ドール・ダンス」


リンナが魔法を唱える。


すると三体の特大のゴーレムが合体を始めた。ただでさえ大きなゴーレムが合体することによってその巨体をますます大きくしてゆく。


いや、それだけではない。シュガーの周りに、まるでシュガーを逃がさんとするように二メートル程のゴーレムが現れ、円陣を組む。


「やりなさい、ゴーレム。あの男に死の鉄槌を与えてあげなさい!」


ギ、グゴゴゴゴーー


巨大なゴーレムが音を立てながら両手を頭の上で結び、一気にシュガー目掛けて振り下ろす、



ズッッガーーン!



轟音、轟音、轟音、あたりにはまるで何かが爆発したかの如く激しい音が響き、巨大なゴーレムの一撃はシュガーを囲んでいた沢山のゴーレムごと地面を粉々に砕いた。



✴︎



「なあ、エリー。リンナさん……強すぎない?」

「同意です、カナメさん……あんなゴーレムと戦わなきゃいけないなんて少し敵が可哀想になります」


俺とエリーはラグナン商館の表口の方から聞こえた大きな音につられてここにやってきた。


奇襲班が全滅したとの報告を受け、リンナさんにもなにかあったのではないかと思ったのだ。


裏口の包囲はレイ・リー達のパーティー、それにダン、ルーナ、アーサーの三人に任せて俺とエリーはリンナさんを助けるつもりでここにきたのだが……


地面が陥没している。まあ、どう見てもリンナさんのゴーレムの仕業だろう。


とんでもない威力に呆然とする俺とエリー、するとリンナさんの方がこちらに気づいたようだ。


「あら、カナメくんにエリーちゃん、どうしたの? 」

「いえ、大きな音がしたから心配になって見にきたんですよ」

「ああ、そういうことね。私も大人気ないわね。あんまりにも失礼な男だったしちょっとムキになっちゃったわ」


リンナさんは可愛くウインクする。


「ちょっと……ムキ……これでか」


俺は陥没した地面を見て誓う。敵対する予定は無いがリンナさんだけは敵に回さないようにしようと。


リンナさんは陥没した地面に近づき話しかける。


「まだ意識があるんでしょう? 次は手加減しないわよ。大人しくなさい。」


するとーー


「あっはっは、バレてたか。」


土まみれの男が土の中から立ち上がった。


「今のでもまだ本気じゃないなんてまったく予想外だよ。君が手加減してくれなかったら僕は確実に死んでたね。あっはっは」


男は自身の右腕を抑えながらかろうじて立てているという感じだ。所々出血もしており、文字通り満身創痍だ。


「リンナさん、こいつは?」


俺が男の正体を尋ねる。


「彼はシュガー・ウォール。ウロボロスの要注意人物です。洗脳魔法の使い手ですので触れられないよう気をつけてくださいね。」

「こいつが……。」


洗脳魔法ということなら戦う前にアーサーが提唱した説、タックス、リリアンヌの二人が洗脳魔法をかけられていたのいうのは正解っぽいな。


俺はディセンダートを構えてシュガーに警告する。


「今からお前をつかまえる。不審な動きをしたら即切る。エリー、縄を頼む。」

「はい、どうぞ、カナメさん。」


俺はエリーから縄を受け取りシュガーに近づく、しかしーー!



「リンナさん、また会おうね。ワー・チン・カレル・マッド 」


シュガーが呪文を唱える、と同時に光のベールがシュガーを包み出した。


「なに⁈ 今のは魔法?」


突然の展開にエリーもリンナさんでさえも驚きを隠せなかった。



だが、俺にはその光に見覚えがあった。



それはツーラン領で魔物が大量に発生した時の事だ。俺とエリーは魔物を操っていたと思われる怪しい二人組を見つけた。


俺はその二人を追い詰めはしたのだがエリーを人質に取られ逃げられたのだが、その二人が逃げるときも同じ魔法を使っていた。


俺は光のベールに包まれるシュガーに突っ込む。


「同じ魔法で二度も逃げられてたまるか!」

「なっ⁈ 突っ込んでくる? 」


シュガーにとって俺の行動は予想外だったようだ。驚いたような顔をしていた。


俺が光のベールに触れた瞬間ーーーー!



「ぐっ⁈ なんだ……これは? 」


体を無理矢理ストローの中に詰め込まれたような、あり得ないほど押しつぶされたような感覚。 前が見えない、音が鳴らない、臭いが存在しない、味がしない、あるのは押しつぶされそうな圧迫感のみ。


俺は意識だけは保てていた、理解不能な感覚は体感的には三秒も無かっただろう。


次第に五感が戻ってくる。


目を開けるとそこには……!


「スカー⁈ それに奇襲班のみんなも!」

「カナメか? どうやってここに⁈」


そこには全滅した筈の奇襲班の冒険者達がいた。



31話を読んでくれてありがとうございます!


何回かちょくちょく登場してはいましたがシュガーが活躍したのはこの話が始めてだと思います。


シュガーは誰もがドン引きするレベルの変態ですが話を作ってて楽しいですね。


今回はリンナにこっぴどくやられてしましましたが今後も活躍させたいです。


多分あと一話か二話でウロボロス編は終了ですのでこの章も最後まで読んで頂けたらと思います!

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