25.報告
今回はちょい短めです。
タックス、リリアンヌ率いる暗殺集団に襲われたあと、なんとか撃退した俺たちは首都メルトに戻っていた。
馬車は大破し運転手の死体も地面に埋まっていたところを発見し、帰る手段もなかったためルーナの魔法で回復したエリーに乗ってここまで帰ってきたのだ。
首都メルトに着くとすぐに俺たちはギルド本部へと向かった。
今回の件を報告するためだ。
受付の人にお願いするとギルドのグランドマスター、フェルナンドのいる部屋に俺たちを案内してくれた。
「どうしたんだ?急に。」
フェルナンドは俺たちをソファに座るようにいい、手に持っていた資料を脇に置いてこちらを向く。
俺が代表して、タックス、リリアンヌを名乗る者とその他大勢の暗殺ギルドのメンバーに襲われた件、馬車の運転手が殺されていた件、そもそも何故襲われたのか、どれほど敵が強かったかなどとにかく見聞きしたことの全てをフェルナンドに伝えた。
フェルナンドは時折驚いたような顔を見せるが話には口を挟まず俺の話が終わるまでしっかりと報告を聞く。
そして、報告が終わると同時に話し出した。
「さて、今回の件は災難だったな。運転手のことは残念だったが君たちが生き残ってくれてよかった。」
フェルナンドは自分の机の引き出しから何枚かな紙を取り出し俺たちに手渡す。
「これを見てくれ。」
「これは?」
「これは闇ギルド《ウロボロス》の要注意人物リストだ。三枚目の真ん中辺りを見てみろ。」
俺たちはフェルナンドに促されるままページをめくり三枚目の真ん中を見る、そこには……
「元Sランク冒険者、《黒騎士》のタックス、《驚撃》のリリアンヌ⁈ あいつらは冒険者だったのか?」
全員に衝撃が走る。
フェルナンドが説明する。
「この二人はもともと腕利きの冒険者だ。数年前に冒険者を怪我を理由に辞めていたんだが、なぜか今はウロボロスに所属する暗殺ギルドの幹部になっている。」
「元Sランク、それに幹部か……。」
どうりで強かった筈だ。二人がかりだったとは言え人間相手に全力で戦って苦戦したのは初めてだ。
「で、でもどうして怪我で引退した人が暗殺ギルドなんかにいるんでしょう?」
ルーナがポツリと呟く、がアーサーは当たり前のようにその疑問に答える。
「大方ウロボロスの奴らが怪我を治すと言って二人と接触、その時回復魔法と一緒に洗脳魔法をかけたんだろう。」
「洗脳? そんな魔法があるのか?」
俺は気になって尋ねる。少なくとも戦った印象では二人とも洗脳されているような様子はなかった気がするのだが……
「完全な洗脳で人を操る事は不可能だ。だが、例えば人を殺す事は悪いことではない、といった風に常識を改変する事は可能だ。」
「ってことはつまり……。」
「ああ、彼らは別に間違った事をしているつもりではなく、ウロボロスに所属したのも怪我を治してもらったお礼くらいにしか考えていないのだろう。」
厄介だな。タックス、リリアンヌ、二人のように元Sランクの者でさえ容易に洗脳されてしまうとは。
「でも……、魔法で治せる程度の怪我ならそもそも二人とも冒険者を引退しなかったんじゃないすか?」
ダンが不思議そうに首を傾げる。
その質問にはフェルナンドが答える。
「一時的にだが、魔法の威力を飛躍的に高める方法がある。《賢者の石》といってな、その石を使って魔法を使えば本来の倍の効果を発揮できる。ただ、石の使用者の寿命を著しく消費するため使うことは違法とされているがな。」
「つまり、ウロボロスがそれを使ったと?」
「奴らはありとあらゆる違法アイテムの販売、制作も行なっているからな。大方何も知らない下っ端に石を使わせて二人の怪我を治したんだろう。」
「なるほど……、それなら普通の魔法で治せなかった怪我を治せたのにも納得がいきますね。」
それにしても、もとSランクの洗脳、賢者の石、聞けば聞くほどウロボロスとはやばい組織のようだな。
「それにしても、よくアーサーさんは洗脳魔法なんて知っていましたね。私そんな魔法があるなんて知りませんでしたよ。」
エリーが感心したようにアーサーを見る。
「いや、大したことではないよ。昔から王族は洗脳魔法で傀儡の王とならないようにこういったことは教育として受けているんだ。」
「へえー、そうなんですか。偉い人も大変ですね。」
どうやらどこの世界でも下克上を企む輩は尽きないようだ。
アーサーも大変だな。
「とりあえず、今回の件は他の冒険者にも伝えておく。タックス、リリアンヌ達を相手によく生き残ったな。報告ご苦労、もう今日は休んできていいぞ。」
報告が終わりフェルナンドは再び仕事に戻る。
邪魔しても悪いし伝えてないといけないことは伝えたので俺たちは部屋を出る。
「ああ、そうだ。ちょっと待てカナメ。」
しかし、俺が最後に部屋を出ようとした瞬間フェルナンドが俺を呼び止める。
「どうしました? フェルナンドさん。」
「少しな、報告からするに今回命を狙われたのは君なんだろ? もし寝首をかかれでもしたらいくら君でも死んだしまうだろう。ウロボロスの壊滅クエストを終えるまではここの宿泊施設に泊まるといい。ここなら流石の奴らも手が出せない。」
どうやらフェルナンドは俺のことを心配してくれているようだ。
彼の言うことはもっともだ。いくら俺でも寝ている間は魔法は使えない。ここはお言葉に甘えてギルド本部の宿泊施設に泊まる事にした。
「ありがとうございます、フェルナンドさん。しばらくはここに泊まる事にします。」
「気にするな。宿泊料金はちゃんと払ってもらう予定だしな。」
「な⁈」
金取るんかい。
てっきり空いてる部屋を貸してくれるって意味だと思っていた。まぁいいけどさ、そこまで高くもないし。
フェルナンドさんの言いたいことはこれだけのようだ。俺は部屋を出る。
部屋の前にはエリーが待っていた。
「あれ、エリー。みんなは? 」
「みんなは疲れたって言って帰っていきましたよ。」
「そうか。」
「ところでカナメさんはどんな話をされたんですか?」
俺はエリーにここに泊まる事になったと伝える。
それを聞くとエリーがーーーー
「そうですか、なら私もここに泊まりましょかね。」
と言い出した。
「パーティのみんながメルトにいるのにわたしだけワンドックにいるなんて集まる時面倒くさいですからね。」
「それもそうだな。 一緒に受付に行くか。」
「はい、いきましょうか。」
俺たちはそのままギルドホールに行って宿泊施設に泊まるための手続きをする。
「じゃあ、少し早いですけど私も休みますね。流石に今日は疲れました〜。」
エリーはそう言って自分の部屋に向かっていった。
「じゃあまた明日な。おやすみ。」
「はい、お休みです。」
俺はエリーと別れる。
「さーて、これからどうしよっかなー。」
今はちょうど日が沈んだ頃だ。この世界には元の世界のように分針、秒針まで刻む時計はないので正確な時間は分からないが一応今は七時から八時の間だ。
流石にこんな時間には眠れない、かといってメルト観光なら昨日もしたし、やることがーーーー、そう言えば晩御飯まだだったな。
なにか食べに大通りにでも行くか。
俺はギルドホールを出てそのまま大通りへと歩き出す。
「さーて、なにを食べよっかなー。」
取り敢えず歩きながら通りの店を眺める。大通りに夜来るのは初めてだが流石は首都メルト、夜でも賑わっている。仕事帰りの人々が同僚と一杯やったりしているようだ。
「ここにしてみるか。」
俺は看板に獣骨ラーメンと書かれた店選ぶ。別にラーメン好きって訳でもないがこの世界に来てから一度もラーメンを食べたことがないから味が恋しくなっている。この世界の食文化は元の世界と似ているところも多いのだ。
のれんの代わりとでも言わんばかりに垂れている植物の蔦をくぐり抜け店の中に入る。
「へいらっしゃい!へいらっしゃい!へいらっしゃい! お一人様ですか? 」
「え、ええ、一人です。」
結構店員さんの圧がすごいな。へいらっしゃい三回も言わなくていいだろ。なにかのコントかよ。
「ではこちらの席へどうぞ、こちらがウチの注文表です。お決まりでしたらお声掛けください。」
案内されたカウンター席に座りながら俺は手渡されたメニューを見る。
獣骨ラーメンしか載ってない。どうやらメニューは一つしかないようだ。
「じゃあこの獣骨ラーメンで。」
「へい、では注文の確認をさせて頂きます。獣骨ラーメン一つで間違いないですね?」
「はい、間違いないです。」
てか、一つしかメニューないくせに注文の確認もなにもないだろ。確認する必要あったか?
ツッコミどころの多い変わった店だな。
ラーメンはすぐに出て来るというので俺は自分のステータスを見ながら、今回の件、クエストの件でも、タックスやリリアンヌ達に襲われた時に露骨に現れた問題について考えていた。
それは、パーティー間での連携不足だ。
パーティーでの連携といえば、俺やダンのような前衛が敵の攻撃を受け止め、アーサーのような後衛が攻撃する。これさえ出来れば簡単なものだと思っていた。
だが、タックスとリリアンヌの連携を見た時、一対一なら確実に勝てたであろう相手二人にかなり手こずった。
悔しいがあの二人の方がよっぽど俺たちのパーティーより連携が取れていた。
俺たちのパーティーは自分達より強いものと互角以上に渡り合う、そういった連携はお世辞にも出来ているとは言えない。
とわいえ、結成したばかりのパーティーなのでしょうがないといえばしょうがないのかもしれないけどな。
俺が少し悩んでいるとラーメンが運ばれてきた。
「へい、お待ち、《シェフの気まぐれラーメン〜獣骨を添えて〜》です!」
「やっときたか、ってこれ俺のじゃないですね。」
嘘だろ、なんでメニューが一つしかないのにこんなミスが出来るんだ?
本当に色々おかしな店だな。
俺の元に運ばれたラーメンを見て後ろの席のお客さんが店員さんを呼ぶ。
「おーい、店員さん、それ頼んだんは僕やで。」
うん? この口調は……
聞き覚えのある声がして俺は後ろを振り向く、そこにはーーーー
「おっ、カナメやん。久しぶりやなぁ。」
「レイ・リー? なんでここに⁈」
そこには冒険者仲間のレイ・リーがいた。
✴︎
メルト国の首都メルトの大通りを入って路地裏に隠れる様にひっそりと存在する地下への階段を下ったところにはウロボロスに所属する暗殺ギルドの拠点の一つがあった。
そこには昼にカナメの襲撃をしたタックス、リリアンヌを含む全員と、もう一人、爽やかなルックスで暗殺とは縁のなさそうな少年が一人。
「それで? 結局タックスもリリアンヌもそのカナメって奴にやられて帰って来たのかい?」
そう言葉を発する彼の名はシュガー、暗殺ギルドでタックス、リリアンヌに並ぶ三人の幹部のうちの一人だ。
「もう、勘違いしないでよね。やられたのはタックスちゃんだけよ。私ちゃんと頑張ったわよ。」
「うるさい黙れバカ。死んでないから俺は負けてない。」
「あなたが助かったのは私が人質交渉したからじゃない。感謝しなさいよ。」
ハァとタックスはため息を吐く。リリアンヌに借りを作ってしまったのがどうしようもなく嫌なのだ。
このままではリリアンヌに礼を言わなければいけない雰囲気になりそうなので彼は話題を変える。
「ところでシュガー、ウロボロスで緊急の会議があっただろ? どんな内容だった。」
ウロボロスとはいくつもの犯罪ギルドで構成された闇ギルド組合のようなものだ。そのためウロボロスに所属するギルド同士で協力し合えるようにたまに会議などがあるのだ。
基本的にその会議を面倒くさいと思っているタックスとリリアンヌはギルドの代表としてもう一人の幹部、シュガーにその会議に出席して貰っていた。
シュガーは今日の会議の内容を話し出す。
「今日の会議はいつもと違って面白かったよ。どうやら冒険者ギルドが僕たちウロボロスを潰そうと動いているらしい。」
タックス、リリアンヌを除いてその場にいた者に動揺が走る。
タックスが質問する。
「それで、ウロボロスとしてはどうするんだ? まさかそれに対抗しないわけないよな。」
「勿論だよ、タックス。 ウロボロスは冒険者ギルドと一戦を交えることになる。抗争が始まるから覚悟はしておいてくれよ。とりあえず冒険者ギルドを潰すための作戦を話そうか。」
シュガーは話し出す。
ウロボロスは既に動き出していた。
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