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24.人質交換

「エリーさん凄いです! たった一撃でマジックモンキーの群れを蹴散らしちゃうなんてびっくりです!」


マジックモンキーとの戦闘後、ルーナが興奮気味にエリーの方に近づく。


「いえいえ、カナメさんのバリアがあったから思いっきり攻撃できたんです。むしろ私の全力の一撃をバリア内に抑え込んだカナメさんのほうが凄いです。」

「でもやっぱりエリーさんもかっこよかったですよー!」


ルーナは目を輝かせる。どうやらドラゴンブレスの迫力にやられてしまったのはマジックモンキーだけではないようだ。


あの技の見た目はめちゃくちゃカッコいいもんな。荒っぽい戦い方をする俺とは大違いだ。


「と、とりあえずルーナさんはダンさんの治療をした方が……。」


べた褒めしてくるルーナに戸惑いつつエリーはダンを指差す。


どうやらダンは何発がマジックモンキーの攻撃を喰らっていたようだ。出血はないもののアザが出来ていた。


「そ、そうですね。 すいません、治療してきます!」


ルーナは少し冷静になったようだ。すぐにダンの元へ向かう。



「ユー・ヒール・ドライ」



呪文を唱えらと手にオレンジ色の光が灯る。その光をダンのアザにかざすとすぐにアザは消えて言った。


「ほかに怪我した人はいますか? 」

「いや、僕はエリーが守ってくれたから無傷だよ。」

「俺も大丈夫だ。」


もう怪我人はいないようだ。


その後、俺たちはエリーが蹴散らしたマジックモンキーの残骸から赤い宝玉を探す。どうやらマジックモンキーのボスは頭の中に宝玉を持っているらしくそれを回収してくることがボスを倒したという証拠になるのだ。


探しだして五分もしないうちに宝玉は見つかり俺たちは山を降りる。


「うぉぉぉぉ! 高い!」

「これはなかなかスリリングだね!」

「エリーさんドラゴンの姿もカッコいいです!」


初めてドラゴンに乗った三人はかなり驚いているようだ。


行きはマジックモンキーが逃げないようにエリーは人間の姿でないといけなかった、しかし帰りはそんなことを気にしなくていいので全員がドラゴンの姿のエリーに乗り空を飛んで馬車のある地点まで向かう。


その間、ルーナはずっとエリーに喋りかけていた。エリーもそれを嫌がる様子もなく楽しげに会話している。


山は高低差があるためふつうに登山をしようとするとなかなか時間がかかる。だが空を飛ぶエリーにそんなものは関係ないので10分もせずに馬車を止めてある場所に到着した。


エリーが馬車の近くに着地し、俺たちも地面に降りる。エリーは馬車に乗り込めるようにすぐに人間の姿に戻る。


そこで一つ、異変が起こる。


「なにか、血の匂いがしないか?」


俺は尋ねる。


「そうですか?」

「僕にはまったく感じないが……。」


誰も血の匂いには気づかない。でもそれもしょうがないのかもしれない、俺の強化された嗅覚ですら微かにしか感じ取れないのだから。


「多分マジックモンキーの血がどこかについるか、気のせいですよ。」


エリーも匂いに気づいていないようだ。


俺は周辺を見渡す。


馬車が止めてある山の麓には高い木はなく平坦な地形なのでおかしなところがあればすぐにわかる。


特に異変はなかった。


気のせいか?


そう思ったがーーーー、アーサーがもう一つの異変に気づく。


「運転手がいないな。どこに行ったんだ?」


そこには待機しているはずの運転手の姿は無かった。


「多分中で休んでるんじゃないすか? 開けてみましょうよ。」



ダンが馬車の扉を開けーーーー!



「危ない!」エリーが叫びその直後。



ズッッガーーン‼︎



轟く爆音、立ち上がる土煙、粉々になる馬車と二頭の白馬、そして先程とは比べものにならない程漂う血の匂い。



「何が起こった⁈」


あまりにも突然の出来事に俺の理解は追いつかない。


煙が晴れるとそこにはーーーードラゴンの姿で背中から血を流したエリーが倒れていた。


「エリー⁈ 」

「エリーさん⁈」


俺とルーナが呼びかけるが返事はない。気を失っているようだ。


焦る俺たちの元に一人の男が近づいてきた。



「なんだ、せっかく馬車に爆発の呪いを仕掛けたのに一人、いや一匹しか殺せなかったか。なかなか頑丈なトカゲだな。」



黒髪のオールバック、低くどこか寒気を感じるような声、感情のない瞳ーーーー只者ではないのは一目でわかった。



「おい、呪いってなんだ? お前は誰だ、 エリーを傷つけたのはお前か?」


俺はゆっくりと立ち上がりその男に尋ねる。


「お前がカナメだな?」

「質問しているのはこっちだ。」

「うーん、それもそうか。俺はタックス、お前を殺すために馬車に爆発する呪いを仕掛けさせて貰った。だが、そこのドラゴンがお前達を庇ったせいで殺せなかった。これでいいか?」


タックスと名乗る男は俺に向けた冷え切った視線を固定したまま淡々と話し出す。


「俺を殺す? どういう事だ、なんでエリーを巻き込んだ!」

「そこのドラゴンを巻き込んだのはただの誤算だ。お前は前に一度暗殺の邪魔をしたことがあるだろう? 俺は今回はその報復にきた。」

「ただの誤算だと?」


俺の心に怒りが込み上げてくる。ふざけるな俺の大切な仲間を傷つけておいて誤算だと?


俺はルーナに指示を出す。


「ルーナ、エリーを頼む。治してやってくれ。」

「は、はい! ユー・ヒール・ドライ!」


ルーナがエリーの傷口に手をかざし治療を始める。


「カナメ、どうするつもりだ?」


アーサーが俺の横に並ぶ。


「決まっている。こいつを倒す、アーサーとダンはエリーを守ってくれ。」

「一人で大丈夫か?」

「もちろんだ。ミー・バフ・フィジカ」


自分に魔法をかけながら俺はは腰のディセンダートを抜き、荒っぽく地面を蹴りながら間合いを詰め斬りかかる。


だがーーーー!



「今だ! リリアンヌ!」



タックスが叫ぶ、すると足元の土が盛り上がり巨体が現れた。


「ごめんなさいね、死んでちょうだい!」


完全なる不意打ち、突然地面から現れた大男の拳は俺の腹に衝撃を与える。


だがーーーー!



「嘘でしょ⁈ 私の一撃を耐えた?」



俺はこの程度ならはビクともしない。大男は思わず後ずさりをする。



「ふん、流石は暗殺ギルドと言ったところか。不意打ちとはやってくれるな、でも相手が悪い!」


ドガッ!



今度は俺がが殴り返す。


鈍い音とともに怒りの感情がこもった一撃が大男の腹にヒットする。


そのまま大男は吹き飛ばされ大きな煙が起こった。


どうやら敵は目の前のタックスという男だけではなかったようだ。もう一人、リリアンヌと呼ばれる男がどうやって地面の中に潜んでいたかはわからないがもう少し気をつける必要がありそうだな。


俺はもう一度タックスに向けて刀を構える。


「ほう、リリアンヌと殴り合えるなんてなかなかやるじゃないか。Bランクの冒険者とは思えないな。」


奴は仲間がやられたのにもかかわらず余裕の姿勢を崩さない。


「次はお前だ。」


再度タックスに斬りかかる。完全に間合いを詰め、技術ではなく腕力で生み出す圧倒的な剣速、回避は不可能。


とった!


そう思ったのだがーーーー



キィィィン!



金属と金属が擦れる音、そこには不敵に微笑むタックスがいた。


「デタラメな剣筋だが力だけは認めてやろう。俺には届かないがな。」


タックスは俺の斬撃を避けるのでもなく受けるのでもなく流した。彼の少し短めの剣の腹を使い俺の刀の軌道をズラしたのだ。


無論、それは簡単な事ではない筈だ。俺の腕力はタックスを上回っており少しでもタイミングがずれればタックスは血にまみれ倒れていただろう。


攻撃は最大の防御とでも言わんばかりにタックスは即座に反撃に移る。


振り下ろしたばかりの俺の刀を構える暇すら与えない。俺の首に狙いを定め剣を振るう。確実に一撃で仕留められるように、相手の鼓動を刈り取る様に。


だがーーーー


俺のスピードはタックスの想定を超えていたようだ。タックスの剣は虚しく中を切る。


「今のを避けるのか。」


タックスは眉ひとつ動かさないがその声には多少の驚きが感じ取れる。不意をついたリリアンヌの攻撃はヒットすれど動じず、カウンターで絶対に決まるはずの自分の攻撃も避けられた。


奴からすれば俺の身体能力は異常なものだろう。


「なるほどな、これなら部下達がやられたのも納得だ。」


タックスは一度俺から距離を取り、遠くで倒れているリリアンヌに声をかける。


「リリアンヌ、まだ動けるだろ?」

「うう、もちろんよ。まさか反撃されるなんて予想外よ、もう!」


服についた埃を払いながら立ち上がるリリアンヌ。どうやら奴も只者ではないようだ。



先程俺は全力であの大男を殴った。魔法で身体能力を強化した俺に殴られて立ち上がったものはそう多くはない。



タックスはリリアンヌに話しかける。


「計画変更だ。今回の目標をターゲットの暗殺から抹殺に切り替える。手段は問わずに俺とお前でこいつを確実に殺すぞ。」

「わかったわ、相手が剣なら私は不利だからタックスちゃんが仕留めてね。私はサポートに徹するわ。」


今度は二人がかりだ。


まずはタックスが俺は斬りかかる。


右手に握った剣でもう一度首を狙ってくるがーーーー!


「遅い!」


やはり回避できる。今度はこちらがタックスめがけ刀を振り下ろすが再び斬撃は流されてしまう。



剣速、剣圧では圧倒的に俺の方が優っている筈だったがタックスは巧みな剣さばきで俺と互角の死闘を演じていた。


勝負は膠着するかと思われたが、その時ーーーー!


ボコッ!


「っ⁈」


突如、地面に小さな穴が開く。そして俺の左足はその穴にハマり、俺はバランスを崩した。


「よくやった、リリアンヌ!」


俺に大きな隙が出来る。もちろんタックスがそれを見逃すわけもなく俺に死をもたらすべくその剣を振るう。


だがーーーー


間一髪、俺はなんとか後ろに飛んで避けることが出来た。


頬から一筋の血が垂れてくる。どうやら奴の攻撃が掠ったようだ。


「おいおい、魔法で支援とはなかなかやってくれるな。」


俺は頬からたれる血を拭う。


「ふっ、お前こそな。正直今のも避けるとは思ってなかったぞ。」


タックスは剣に微かについた血を拭き取る。


あのリリアンヌという男、思っていたよりも厄介だ。奴はおそらく魔法で地面の土を操り俺の足元に小さな穴を作ったのだろう。


その後の俺は防戦一方だ。


タックスと何度も剣を交えるも、リリアンヌによる的確な援護によりこちらのチャンスは潰され、逆にこちらがピンチにおちいる。


後ろに飛んで避けようとすれば、後ろに土壁を作られ退路を塞がれる。右に避けようとしても、左に避けようとしても、同じように邪魔をされタックスの攻撃を受け止めざるを得ない。


一か八かで反撃に出ようとしても下手に動こうものなら先程のように足が穴にハマりバランスを崩して不利になる可能性もある。


俺は全力でタックスとリリアンヌの猛攻を防ぎながら必死でこの状況を打開する方法を考える。


すでに魔法で身体能力を上げているためこれ以上は身体能力は上がらない。魔法は重ねがけは出来ないのだ。


そもそも戦闘中に新たに魔法を発動させるなど俺には出来ない。


魔法とは基本的に三つのワードを組み合わせた呪文を唱えることによって発動する。そして、敵と切り結びながら呪文を唱えるのはなかなか難しいのだ。



なかなかこの状況の突破口が見つからない。



だがここでひとつ疑問が浮かぶ。あのリリアンヌという奴はどうやって俺の邪魔をしているんだ?


俺とタックスの動きを見てから魔法を唱えるのでは魔法での援護は間に合わない筈だ。俺は二人の攻撃をしのぎながら魔法を唱えるリリアンヌの口元に注目する。


なるほどな、そういうことか。


俺は激しい動きに合わせて魔法を使う方法を理解する。



とりあえずその方法を取るには一度この攻撃の流れを止める必要があった。


俺はタックスの剣戟を掻い潜り真上にジャンプする。


「ちっ、仕留めきれないか!」


真上に逃げられては土を操るリリアンヌの魔法では邪魔出来ない。


なんとか俺はタックスたちから距離を取ることに成功する。


そしてーーーーー


「サークル・プローー」


呪文を途中まで唱える。そしてそのまま全力でタックスに斬りかかる。


「バカが、何度来てもさっきの繰り返しだ。リリアンヌ!」

「はーい、わかってるわよ!」


あと一歩というところでまた俺の足はリリアンヌの作った穴にハマる。


今度は逃がさないわよ!


さらにバランスを崩した俺の周りに正面を除いて土の壁が出来上がる。これでとっさに避けようにも壁が邪魔して逃げられない。


「隙だらけだな。終わりだ!」


タックスが剣を振り下ろす。その剣を速は今までよりも一段と早くなっていた。


どうやらタックスは俺の決定的なタイミングで虚をつくために本気は出していなかったようだ。


避けようのないタイミング、確実に急所をつきこの一撃で決めるつもりというのが剣に込められた殺意からひしひしと伝わってくる。


だがーーーー!


「エリア!」



ガキン!



タックスの刀は空中に出現した円形のバリアで防がれる。もちろん俺の魔法で出したバリアだ。


リリアンヌの口元を見て気づいたのだが、どうやら魔法の呪文は分割して唱えても効果を発揮するらしい。


俺は斬りかかる前に呪文を構成する三つのワードのうち最初のの二つまでを唱えた。そして発動させたいタイミングで最後のワードを唱えたのだ。この方法ならとっさの防御にも魔法を使える。


「これで終わりだ。」

「なっ⁈」


俺は全力で刀を振るった。今までは刀を使って防御をしていたがそれを魔法で行ったため攻撃する余裕が出来ていた。



ドガッ!



タックスの胴体を斬りつける。



「バカ……な。この俺が? 」



タックスはゆっくりと倒れた。


俺は次にリリアンヌに刀を向ける。



「次はお前だ。覚悟しろ。」

「覚悟って、あなた相手には必要ないと思うけど。あなた、タックスちゃんを殺してないでしょ? 峰打ちなんて紳士的じゃない、もしかして不殺主義者?」

「勘違いするな、こいつを殺さなかったのはこいつを人質に取ってお前が抵抗できないようにするためだ。」


俺はいつでもタックスを切れるように倒れている奴の首元に刀を突きつけ脅しをかける。


だが、リリアンヌは動じない。それどころかとんでもないことを言い出した。


「人質ならこっちにもいるわよ?後ろをご覧なさい?」

「どういうーーいつの間に⁈」


そこには10人以上の集団に囲まれ、喉元に剣を突きつけられているみんながいた。


「あなたを殺す時に邪魔にならないように部下に捉えておくように言っていたのよ。」


くそっ、これは完全に俺のミスだ。おそらく奴らは魔法で音や光を誤魔化して俺に気づかれないようにみんなを襲ったのだろう。


「さて、あなたさえ良ければ人質交換といかないかしら? タックスが気絶した以上今の戦力じゃあなたを殺せないからね。人質交換に応じてくれたら大人しく帰るわ。」

「応じないと言ったら?」

「強がってもダメよ、敵も殺せない人間が味方を切り捨てられるわけないでしょ。」


悔しいが奴の言う通りだな。俺にみんなを切り捨てることは出来ない。おそらく俺一人でもこいつらを倒す事は出来るかもしれない。だがそうすれば確実にみんなが死ぬ。


「わかった、人質交換に応じよう。」

「よかったわ〜、交渉成立ね。」


リリアンヌは微笑む。


「みんな、撤収よ。今回の作戦は失敗、ザンゲちゃん、タックスちゃんをおぶってあげてね。」

「は、はい!」


リリアンヌ達は俺たちに背を向け去って行くがーーーー不意に振り返って一言。


「カナメちゃん、次は絶対に殺すから楽しみにしててね。」


こちらに投げキッスをしてきた。




次か……課題は山積みだな。



先程ランキングを確認したらなんと月間ランキングの方にも入ってました!


ありがとうございます!


ランキングに載ると私のモチベーションもどんどん上がって行くのでブクマや評価をお願いします!


感想、レビューもお待ちしています!


あと、投稿頻度を週三くらいにしようか迷ってます。何か意見のある人は教えて下さい!

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