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23. 失敗

俺たちは今、山の奥深く、木が生い茂り、草も生い茂り、とにかく沢山生い茂っている場所を歩いていた。


道無き道を草をかき分けて進む、これが課金する前だったら汗ダラダラですぐに息が切れていただろう。


今回のクエストのターゲット、マジックモンキーは山奥に生息しているため馬車では辿り着く事が出来ないのだ。


本当はエリーがドラゴンの姿になって山奥までひとっ飛びして欲しいが今回に限ってはそうもいかない。何百年も前の話らしいがマジックモンキーはもともと平野に住んでいた。しかしドラゴンの間でマジックモンキーの炭火焼が美味しいと評判になりドラゴンによるマジックモンキーの乱獲が始まった。結果マジックモンキーは空から発見されづらい山奥に住む様になったのだと。


そういう訳でもしエリーがドラゴンにでもなろうものならマジックモンキーはすぐに逃げ出し討伐はおろか遭遇する事すら難しくなるだろう。


俺は後ろにいるエリーに念のため忠告する。


「もしマジックモンキーを見つけても食べるんじゃないぞ。」

「……食べませんよ。私はドラゴンではありますけど人間に育てられたんです。考え方とか常識とかは人間のものです。」


後ろのエリーをチラリと見ると少し睨む様にこちらを見ていた。


俺の忠告が不本意だった様だな。


「まったく、私をなんだと思ってるんですか……。これでも常識はある方なんですからね。」


後ろでブツブツ呟いている。


俺は気を紛らわす様に先頭を進むアーサーに話しかける。


「なあ、ずっと気になっていたけどどうしてこのクエストはパーティーでしか受注できないんだろうな?」


この質問は気を紛らわせる為の物ではあるが

ずっと気になっていた事でもある。


俺はこの世界に来て沢山のクエストを見てきた。報酬が大きくても受注資格を満たしてないため受けられないものも沢山あった。だがそれらはあくまでランクが足りない事が理由であった。パーティーである事が受注資格であるなど一度も見たことがない。


おそらくだがBランクの冒険者のみで構成されたパーティーとSランクの冒険者、例えばスカーやリンナさんが勝負したら圧倒的に後者の方が強いだろう。


そう言う訳でパーティーで制限をかける意味はあまり無く、俺自身理由を思いつかない。


しかしアーサーはあっさりと俺の質問に答える。


「理由は簡単だよ。マジックモンキーは全ての個体がボスと呼ばれる個体と繋がっているからだよ。」

「ボスと繋がっている?」

「ああ、彼らは魔法を使って考えていること、経験した事をボスを仲介して共有しすぐに理解する。だから一度使った魔法や攻撃は通用しづらくなる。結果、一人で挑んでもすぐにほとんどの攻撃が対策され最後にはどんな攻撃も通用しなくなる。だから出来るだけ攻撃パターンを増やすためにパーティーでの受注を義務づけているのだよ。」


アーサーの説明でなんとなくだが俺はマジックモンキーの生態を理解する。


元の世界でいうインターネットの様に個体同士が繋がっているのだろう。個体で群れを形成するのではなく群れが一つの個体となっている、魔法がある世界ならではの生態ーーーー!



ドシンッ! ドシンッ!


「ギッギッギッギッギィィィイ!」


噂をすると現れたようだ。目の前に2メートル程の大きな猿が、これじゃ猿って言うよりゴリラだな。


形自体はゴリラのようだが全身が緑の毛で覆われており、それでも盛り上がった筋肉が見える事からそれなりに腕力がありそうという事はわかる。


「こいつがマジックモンキーだよな?」


俺はアーサーに確認をとる。


「ああ、一体しかいないからおそらく縄張りの見回りといったところだろ……!」

「ふん!」


先手必勝、俺はすぐにそのマジックモンキーをぶん殴った。


マジックモンキーはあっさりと吹っ飛び近くの木にぶつかって動かなくなる。死んでいるのか気絶しているのかは分からないがもう戦うことは出来ないだろう。


「さて、この奥にボスザルがいるんだろ? 進もうか。」

「カナメ……君はずいぶんワイルドだね。」

「すっげえ、素手で倒した。」

「……凄いです。」

「相変わらずですね。」


俺たちはさらに森の奥へ進む。


するとーーーー!



「ギッギッギッギ!」

「ギィィィイ!」

「ギッギッギィィ!」


山の奥から新たに三体のマジックモンキーが現れる。


「どうやら先程倒したマジックモンキーから僕達の情報が伝わったようだね。」


アーサーが弓を構える。


「猿の攻撃は俺とダンで受ける! 後衛組は後ろからの攻撃に専念してくれ!」


「任せてくれ!」

「わかりました!」

「了解です!」


ダンが剣を抜き盾を構えて俺の横に立つ。その後ろにはアーサー、エリー、ルーナの三人。


パーティーは戦闘態勢に入る。


それと同時にマジックモンキーがこちらに向かってくる。


俺とダンは返り討ちにすべく構える。


しかしーーーー!


「ギィァァァァア!」


ズッガーン!


マジックモンキーの一体が地面を殴り砂埃を起こす。


目くらましのつもりか? そうはさせない!


「エリー!」

「はい! ドラゴンブレス!」


砂埃の中に龍の咆哮を打ち込む。エリーは人間の姿なのでドラゴンブレスの威力は落ちている、だがそれでも砂埃を払うだけなら充分すぎるほどの威力だ。


マジックモンキーの起こした砂埃は一瞬で吹き飛ぶ。


「三体のうち一体は僕が仕留める! カナメとダンも一体ずつ倒してくれ!」


弓を引きながら後ろからアーサーが叫ぶ。


「「了解!」」


俺は一番近くの一体を先程と同様ぶん殴り一撃で仕留める。


「さすがですカナメさん! 俺も! ソード・バフ・アクセル!」


俺がマジックモンキーを倒した直後ダンも魔法を唱え斬りかかる。


魔法を唱えた直後ダンの剣を薄い紫色のオーラが包む。そしてーーーー!


ザン!


「ギャルァァァァァァア!」


剣が加速してマジックモンキーを切り裂き緑色の血が吹き出した。どうやら急所を狙い一撃で仕留めたようだ。


あっさりと三体中二体が倒される。残った1匹は俺たちに背を向けて逃げ出すした。


しかしもう遅い。その一体を狙ってアーサーが弓を引く。


「逃しはしないよ! アイス・キッド・アロー!」


アーサーの弓から矢を放とうとする。


だがーーーー!


「待て、アーサー! 逃げるやつは倒すな、後をつけてボスの居場所を探る!」

「っ! わかった。」


俺はアーサーを制止する。


「みんな、俺の後をついてきてくれ!」


全員である程度の距離を保ちつつ逃げるマジックモンキーを追いかける。


前衛で体力のあるダンやドラゴンのエリーはともかく後衛のルーナやアーサーが俺の走る速度についてこれるか心配だったがそこは大丈夫なようだ。


マジックモンキーは木の枝と枝の間をその巨体に見合わない身軽さで逃げてゆく。しかし逃げるスピード自体はそこまで早くないので全力で走らなくても充分追跡出来た。


マジックモンキーはどんどん山の奥深くに逃げる、そしてーーーー!


「止まった⁈ みんな、ここら辺が奴らのアジトだ。近くにボスがいる可能性が高い、あの猿を囲みつつ周囲を警戒しろ!」

「「「「了解!」」」」


俺はみんなに指示を出しジリジリとマジックモンキーを追い詰める。


しかしーーーー!


「ギギギギギギィィィイ!」


突然マジックモンキーが叫び出した。そしてそれに呼応するように周りから鳴き声がーーーー!


「ギギギギギギィィィイ!」

「ギギギギギギィィィイ!」

「ギギギギギギィィィイ!」


上を見上げるとそこには沢山のマジックモンキーが木々の枝にぶら下がっていた。数はゆうに百を超えているだろう。


「なるほどな、こいつは囮だったか。猿の癖になかなかやるじゃねーか。」

「どうやら僕たちは誘き出されたようだね。」

「ど、どうしましょう……。」


俺たちは完全に囲まれていた。


「どうしますカナメさん。私がドラゴンの姿になって蹴散らしますか?」


エリーが元の姿に戻ろうとする。だが俺はそれを止める。


「それじゃパーティーでこのクエストを受けた意味がないだろ? 」


あくまでこのクエストはパーティーでの連携が出来るようになることが目的だ。俺はみんなに指示を出す。


「ダン、俺と一緒に向かってくる猿どもを倒すぞ! 正面は俺が、後方はダンに任せる!」

「了解です、 カナメさん!」

「アーサーは俺とダンの援護、ルーナは万が一に備えていつでも魔法が使えるように待機!」

「わかりました!」

「任せてくれ、カナメ!」

「俺とダンだけでは全ての猿には対応出来ない、何匹かが後衛組を襲うかもしれないからエリーは後衛組が役割に専念できるように護衛しろ!」

「わかりましたカナメさん!」


全員が戦闘態勢に入る。


「くるぞ!」


高い木の枝からドンドンとマジックモンキーが襲いかかってくる。


「ミー・バフ・フィジカ!」


俺は自分に身体能力向上魔法を使い俺に向かってきた奴らを蹴散らそうとする、がーーーー!


「なんだこいつら、全然俺の方に向かってこない?」


マジックモンキーのほとんどはダンの方を攻撃しようとする。


「ダン! 大丈夫?」

「大丈夫だルーナ、アーサー、援護を頼む!」


ダンはかなり苦戦しているようだ。


「オラァ!」


俺はそこに割って入りダンに襲いかかるマジックモンキーを蹴散らす。


「ありがとうございます! カナメさん、助かります。」

「礼はいい、こいつらを片付けるぞ!」

「はい!」


今度は二人で倒していく。後方からのアーサーの弓矢での援護もありドンドンと倒していく。するとーーーー


「くそっ!今度は後衛狙いか!」


マジックモンキーは俺とダンへの攻撃をやめ代わりにエリーやアーサー達を襲い出した。


ここで俺はやっとマジックモンキーの修正を理解し、後悔する。彼等は個体同士がボスを仲介して経験したことを共有する。つまり、俺なら一撃で奴らを倒せることは奴らにとっての共通認識となっているのだ。


下手に奴らの間で俺が強いことを印象ずけてしまったせいでほとんどのマジックモンキーは俺以外を襲っているのだろう。


後衛が襲われていては前衛の存在する意味は無い。パーティーとしての戦術は崩壊していた。


一度崩壊してしまえば結成したばかりのパーティーでは持ち直すのも難しい、今はエリーが後衛を守っているがこのまま攻撃が集中したら人間の姿のままではいつまで持つかわからない。


「しょうがない、作戦変更だ! スクエア・プリ・エリア!」


俺は大きな立方体のバリアを展開する。その中にはエリーとエリーを襲っていたほとんどのマジックモンキーがおり、バリアによって隔離された形になった。


「エリー、ドラゴンの姿になれ!ぶちかませ!」

「え? いいんですか?さっきはダメって……。」

「このままじゃジリ貧だ、猿どもが逃げられないようにバリアを張っているから思う増分やれ!」

「わかりました、では!」


ムクムクムクムク。


エリーは魔法を解いてドラゴンの姿に戻る。


「……ギギ?」


マジックモンキーはポカーンとしている。


まあ今の今まで人間だと思っていた相手が天敵のドラゴンだったらびっくりするよな。


エリーの口から閃光が走る。そしてーーーー!


「ドラゴンブレス!」

「ギギギギギギィィィイ!」


断末魔が響きわたる。


放たれた咆哮はバリア内部にいたマジックモンキーを粉々に打ち砕いた。


おそらく今エリーが倒した中にボスがいたのだろう。バリアの外にいた、生き残った数匹のマジックモンキーは散り散りになって逃げていった。


「とりあえずクエストはクリアしたかな。ありがとうエリー。」


俺はエリーを囲むバリアを解除する。


「いえいえ、カナメさんの判断が早かったおかげです。でも……。」

「ああ、パーティーの連携はまったく取れなかった。クリアはしても目的は果たせなかったな。」


俺たちのパーティー、初めてのクエストは完全に成功とは言い難い結果で終わった。



✴︎



「ようやくついたわね。ザンゲちゃん、この山にカナメって奴がいるのね?」

「はい、間違いありません! 追跡魔法がここから反応しています。でも随分と山の深いところにいるようです。」


首都メルトを主発したタックス、リリアンヌをはじめとする暗殺ギルドの一団はデルム山に辿り着いていた。


目的はもちろんカナメの殺害だ。


「タックスちゃんどうする? 山の奥まで行っちゃう? 」


190センチはあろうかという巨体ながらクネクネとしながら話すのは幹部の一人、リリアンヌだ。


「いや、待機だ。おそらく奴は何らかのクエストをこなしている最中だろう。 ここで待ち伏せてクエスト帰りで疲れているところを仕留める。クラッカー、シルド、ザンゲお前達三人は奴の居場所を監視しに行け、バレるなよ。」

「「「了解。」」」


もう一人の幹部タックスは部下に指示を出す。


すると彼に話しかけるものが一人。


「もしかして冒険者の方かい? もしかしてここにクエストを受けに来たのか?」

「誰だ?」

「いやぁ、突然話しかけて申し訳ありませんな。私は馬車の運転手でして、いまわたしの雇い主のパーティーがこの山に入っとるんです。わたしはここで帰りを待ってるんですけど暇でつい話しかけてしまいました、あっはっは。」

「パーティー? ……それは何人のパーティなんだ?」

「え? ああ、確か五人だったはずだよ?」


タックスはふと考え込む。


そして再び部下に指示を出す。


「敵はパーティーで行動している可能性が高い、カナメとやらを殺す時に邪魔をするようなら容赦なく殺せ!」

「了解!」


タックスの部下達は待ち伏せできそうな場所を探しながら返事をする。


「こ、殺すってどういう事ですか? まさかあなたは冒険者じゃ無いのですかな?」


タックスの言葉を聞いて運転手は後ずさりをする。


「あんたも運が無いな。話しかけなければ死なずに済んだものを。」

「ひっ⁈ ひぃぃい!」


タックスは短刀を抜き、運転手の心臓を刺した。あまりにも素早いその一連の動作は冒険者でも無い者には避けられるはずもなくーーーー!


ドサッ


無表情で短剣についた血を拭き取るタックスの前に運転手が倒れこむ。即死だ。


「あなたも酷いことするわね。せっかくいい情報くれたのに。」

「酷いものか、一瞬で死なせてやったんだ。情報をくれたせめてものお礼だ。リリアンヌ、死体を埋めておいてくれ。」

「やーよ、服が汚れちゃうじゃない。」

「お前なら魔法ですぐに埋められるだろう。いいからさっさとやれ。」

「人使いが荒いんだから、もう! 今度なにかおごりなさいよ?」


リリアンヌは魔法で大きな穴を作った。そこに死体を無造作に蹴り入れ、再び魔法を使い埋める。もちろん供養などではない、ただの証拠隠滅だ。



「さて、やるか。」



タックスが不気味につぶやいた。


現在日刊ランキングで10位でした! なんとか週間ランキングの方にも入っておりまして読者の方には本当に感謝です。


面白い展開になるよう頑張りますので引き続きpay to win をよろしくお願いします!

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