22.暗殺ギルド始動
「おはよう、諸君。昨日はよく眠れたかい? 」
起きたばかりの俺たちにアーサーが声をかける。
エリーとメルト観光をした翌日、早朝のやっと太陽が顔を出し始めた頃俺とエリー、そしてアーサー、ダン、ルーナの五人はギルドホールに集合していた。
昨日パーティーで受けようと言っていたクエストを受けるためだ。
俺は昨日ギルド本部の宿泊施設をかりており、慣れないベットだったせいでよく眠れなかった。
そのためまだ少し眠い。大きく欠伸をする。
「カナメさん眠そうですね。」
エリーが俺の欠伸に反応する。
「昨日はなんだかよく眠れなくてな。エリーは昨日眠れたか?」
「はい、最初、ベットが固くてよく眠れなかったんですけど魔法でふかふかなベットに変化させたらよく眠れました。」
魔法でベットをふかふかにする?
「そんな事出来るのか?」
「出来ますよ? 物や人の形を変えるのは呪術系魔法の得意分野なんです。」
「なんだ、そうだったのか。」
エリーも自分の姿をドラゴンから人間に変えてるし物の形を変えることなど造作もない事なのかもしれないな。
それにしても呪術系魔法は便利だな。今度からは俺のベットもふかふかにしてもらおう。
俺はまだ眠気が取れていないため頭が回らない。エリーの魔法の話を聞いても単純な反応しか出来ない。
俺はもう一度大きく欠伸をした。
「カナメ? 眠そうだが話を初めても大丈夫かい?」
アーサーが俺の様子をうかがう。どうやら俺のことを気にかけてくれているようだ。
「大丈夫だ。話を進めてくれ。」
俺は気にするなと伝える。まさか二度寝させてくれなんて言えないしな。眠気はあっても耐えられないほどではない。
アーサーは軽く頷いて話を始める。
「今日、僕たちが受けるクエストはこれだ。みんな確認してくれ。」
そう言うとアーサーはみんなにクエストの書かれた紙を見せる。
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◉クエスト、マジックモンキーの群れ討伐
クリア条件、マジックモンキーのボスを一体討伐。
受注資格、五人以上のパーティー
報酬、パーティーに300万ペル
備考、マジックモンキーは魔法を使うので注意せよ
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「マジックモンキーの群れか。」
「たしかにこの魔獣はデルム山に生息していましたよね。」
アーサーはみんながクエスト内容を見たのを確認する。
「さあ、クエストだ! 出発だ!ついてきたまえ!」
そしてアーサーが叫ぶ。朝から元気だなー。
アーサーは意気揚々とギルドホールを出る。俺たち四人もそれに続く。
しかしーーーー
「アーサーさん、道間違えてませんか?たしか目的地は反対方向です。」
ダンがアーサーには間違っていると伝えるが……
「大丈夫だよ、ダン。僕もそれは分かっている。」
なぜかアーサーはギルド本部を出るとマジックモンキーが出現するデルム山とは反対方向に歩き始めたのだ。
しかし謎はすぐに解けた。
ギルドの角を曲がった所に一台の馬車が止められていた。
「今日の移動は歩くと時間がかかり過ぎてしまうからね。馬車を用意させてもらった。遠慮せずに乗りたまえ。」
どうやら彼は気を利かせて馬車を用意してくれていたようだ。
「おおー、凄い。」
「馬車でクエストに向かうなんて初めてです。」
みんな口々に感想を漏らす。
昨日アーサーは自分の事を王族だと言っていたがこの馬車を見るだけでもなんとなくそれを納得できる。
いや、もちろん俺は馬車の価値はよくわからないが馬車を引く二頭の馬が綺麗に手入れされた白馬なのだ。
庶民の俺にとって白馬とはそれだけで王族や貴族を連想させる。白馬に乗った王子様という言葉もあるぐらいだしな。
「カナメ。馬車は見るものではない。乗るものだよ。」
「お、おう、そうだな。じゃあ乗せてもらうよ。」
俺は細かなところまで色々な仕掛けや細工が施された馬車をつい眺めてしまっていた。
アーサーに促され俺も馬車に乗り込む。
「おお! 中は思ったより広いな、それにふかふかだ!」
中に入っても驚く。五人が入ってもまったく窮屈な感じがしない。
さらに、座席もふかふかで座りごごちがとてもいい。下手すれば昨日のベットよりこっちの方がふかふかかもしれない。
「気に入って貰えたようで何よりだよ。運転手さん、出してくれ。目的地はデルム山だ。」
「かしこまりました。アーサー様。」
アーサーが馬車の先頭に乗る運転手に指示を出し馬車は進み始める。
窓から見える街の景色が次々と移り変わり、気持ちのいい風が吹いてくる。
「エリーに飛んで貰うもの楽しいけどこれはこれで悪くないな! 」
「ええ、いつもと見える物も違って楽しいですね。」
初めての馬車に少しテンションが上がる。先程までの眠気などとっくにどこかへ行ってしまった。
「……」
「……」
しかし、そのテンションもすぐに下がる。
何故かって? 微妙に気まずいのだ。
ここにいる五人は昨日初めて会ったばかり、別にみんな話すことが苦手と言うわけではないと思うがなんとなく話しづらい雰囲気が漂う。
あれ、あれだ。高校に進学した直後のグループ学習みたいなもんだ。話せなくは無いが雑談はしづらいあの感じになっているのだ。
沈黙が長ければ長いほど話出すハードルはあがってゆく。
そんな様子を見かねてかアーサーが話しを切り出した。
アーサーの隣に座るダンとルーナに話しかける。
「ダンとルーナはずっと一緒に冒険をしてきたと言っていたね。君たちは今までどんな冒険をしてきたんだい?」
突然話を振られた二人は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに平常に戻り話し出す。
「えーと、そうですね。俺たちの場合は討伐系以外のクエストを中心にこなしていましたね。薬草採取とか、困ってる人の救助とか。」
「へえ、それはまたどうして。」
「私は戦闘自体にはあまり参加出来ませんから、それで私は勉強は得意だったのでダンと一緒に希少な薬草やアイテムを取りに行ったりしてたんです。」
ルーナも話し出す。心なしか昨日より明るく話す。もしかしたら昨日は緊張していたのかもな。
二人は今までの冒険を話す。
川の氾濫で溺れたり怪我をした人を助けただとか、薬草を取りに行った時に突然大きなヘビに襲われた話など。
二人とも精鋭に選ばれただけあってなかなか経験を積んでいるようだ。
「ダンさんって本当にルーナさんを大事にしてるんですね。」
エリーが楽しそうに話す二人に笑顔で話しかける。
「いや、そうでも無いですよ。ルーナとは腐れ縁です。」
「そうそう、子供の頃から家から近かったってだけですよ。」
「ふふ、二人を見ていたらまるで兄弟みたいだなって思っちゃって、つい。」
「「違います!」」
二人の声がシンクロする。からかいがいがありそうだな、この二人。
「でもそれを言うならエリーとカナメもとても仲が良いよね。もしかして二人は恋人なのかい?」
「んん⁈」
アーサーが急にこちらに話題を振ってきた。予期せぬ展開に俺はつい飲んでいた水を吹き出しそうになる。
「ち、違いますよ! カナメさんとは知り合ったのもつい最近ですから。」
「そうそう、エリーとは別にそんなんじゃない!」
とりあえず否定する。勘違いされてはめんどくさいからな。しかしーーーー
「でも昨日二人っきりで大通りを歩いていましたよね。」
「ルーナ⁈」
「ルーナさん⁈」
突然ルーナが爆弾発言を投下する。
「昨日たまたま大通りに買い物に行った時二人を見かけちゃって、私もてっきり二人は付き合っているのかと思いました。」
「へぇ、二人で大通りにねえ?」
アーサーがニヤリと微笑む。王族のくせにやたらと庶民の関係を気にする奴だなこいつ。
俺はもちろん誤解を解こうとする。
「邪推はやめろ。暇だったから観光してただけで、エリーとはそんなんじゃないよ。」
「ふうん。ならどんな関係なんだい?」
「どんな関係? うーん、なんだろ。」
アーサーに尋ねられ思わず考え込んでしまう。
エリーとの関係か。
もちろん恋人ではない。かと言ってただの冒険者仲間というのもなにか物足りない気がするな。
「お話中失礼します。アーサー様、そろそろ目的地のデルム山に到着致します。」
俺が考え込んでいると馬車の運転手さんから声がかけられる。
「どうやらお話はここまでのようだね。みんな、こっから先は命の危険もある。気を引き締めていこう。」
なんか中途半端な所で到着したな。
運転手さんが声をかけて1分もしないうちに馬車は停止する。
俺たちは各々の荷物を持って馬車から降りる。
「アーサー様、私はここで待機しておりますのでお気をつけて。」
「ありがとう、帰りもよろしく頼むよ。」
アーサーは何やら運転手と話している。
みんなが降りて剣や防具を装備している時、エリーが俺に近づいてきた。
「カナメさん。」
「ん? なんだエリー。」
「さっきの答え、後で教えて下さいね。」
「え? っておい!」
エリーはそれだけ言うとさっさと離れていってしまった。
「なんだあいつ?」
よくわからんが、まあいいか。
俺もみんなと同じ様に冒険の準備をする。
と言っても腰に刀を挿すだけなんだけどな。
「さあ、じゃあ準備はいいかい? マジックモンキーの群れを討伐しに山に登るぞ。」
運転手と話を終えたアーサーがみんなに声をかける。
こうしてようやく俺たちのパーティー初めてのクエストが始まった。
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メルト国の首都メルトの大通りを入って路地裏に隠れる様にひっそりと存在する地下への階段を下ったところにはウロボロスに所属する暗殺ギルドの拠点の一つがあった。
そこには今、十五人ほどの男が集まっていた。
「おい、ザンゲ。今のカナメとやらの居場所はわかるか?」
拠点に三つしかない椅子のうちの一つに座る男が部下のメンバーに尋ねる。
彼の名はタックス。
暗殺ギルドの三人の幹部のうちの一人だ。
オールバックで黒いコートを着ている。
ザンゲと呼ばれた男は彼の質問に答える。
「はい、昨日大通りにて冒険者カナメと接触、追跡魔法を仕掛けました。今どうやらデルム山にいる様です。おそらくなんらかのクエストでしょう。」
「おお! あそこは確か人も少なかったはずだ。あっさりと復讐の機会が巡ってきましたな、タックス様。」
ザンゲの報告を聞いて少し興奮気味にタックスの隣に立っていた男が話し出す。
彼は一度シナリオという男の依頼でカナメを襲い、返り討ちにされた暗殺者達の一人なのだ。
彼はたかがBランクの冒険者に邪魔をされたことは彼の高いプライドに深い傷をつけた。以来彼はずっと復讐の機会を伺っていた。
しかしーーーー
「黙れ、バカ。」
そんな彼の感情などつゆ知らず、タックスは一喝する。
「俺にとってはこれは復讐でもなんでもない。お前らの尻拭いなんだよ。ったく、Bランクの雑魚一人を殺せないどころか手加減されて返り討ちなんて笑い話にもならない。」
タックスは不甲斐ない自分の部下達を見て吐き捨てる様に言い放った。
そんなタックスを隣に座るもう一人の幹部リリアンヌが諌める。
「まぁ、まぁ、タックスちゃんも冷静になりなさいよ。たしかにこれはあなたの失態ではないけどギルドの面子が潰されたのはたしかなのよ。流石にそれはほっとけないじゃないの!」
「リリアンヌ、何度も言わせるな、ちゃんずけはやめろ。このおカマ野郎。」
「あら、ひっどーい。私は乙女よ、お・と・め!」
「気色悪い、そんなムキムキの女がいてたまるか。」
タックスはうんざりしながら立ち上がる。
そして言い放った。
「とにかく、今が好機という事には間違いない。全員、デルム山に向かうぞ。カナメとやらをーーーー」
彼は 思わず近くにいた彼の部下でさえも一瞬恐れをなすほどの殺気を放ち言い切った。
「必ず殺せ。」
最近、日間ランキングに乗らせていただきましてそれがキッカケで読んで貰う機会も増えとても嬉しいです。
読んでくれた方はもちろん、ブクマや評価をしてくださった方もありがとうございございます!
これからも頑張っていくつもりですので応援よろしくお願いします!
 




