21.パーティーメンバー
「ウロボロス、知らない者もいるかもしれないからどんな組織か話しておこう。」
フェルナンドは話し出す。
「ウロボロスとは我々冒険者ギルドが手を出していない分野、例えば奴隷や違法な魔道書、麻薬の販売や暗殺、傭兵と言った事を請け負う闇ギルドの事だ。簡単に言うと金でどんなことでもする集団だ。」
俺は元の世界のマフィアやヤクザと言った、いわゆる反社会的組織を想像する。もっとも奴隷や暗殺などがある分こっちの方がよっぽど過激ではあると思うが。
しかしーーーー
「そんなことはわかってるよ。なんで魔王軍と戦う前にウロボロスとやり合うんだ? 」
冒険者の中から疑問の声が。
当然だろう。先程フェルナンドが言ったようにパーティーの連携を確かめるためなら他にもクエストは沢山ある。
なぜわざわざ危険そうな闇ギルド、ウロボロスと一戦を交える必要があるのだろうか、そう考えるのは自然な事だ。
その質問にフェルナンドは答える。
「それは魔王軍が攻めて来た時の方憂いを断つためだ。ウロボロスは全ての国に拠点を持っている、それはつまり奴らはこの国が侵略されても困らないという事だ。むしろ魔王軍と繋がり情報の流出、国内での要人暗殺などを起こす可能性すらある。そういう訳で魔王軍が攻めて来る前に潰しておく必要がある。」
なるほどな、確かに一理ある。
戦争中に国内の情報が漏れるのはまずい、それにフェルナンドは言及していなかったが偽の情報を流されたりされてもやっかいだ。先手を打つ必要があるのは俺でも理解出来た。
「ウロボロスの拠点の特定は既に君たち以外の、今日召集のかからなかった精鋭パーティーが行なっている。君たちには拠点への襲撃からこのクエストに参加してもらう予定だ。それまでは各パーティーで別のクエストをこなすなり、装備を整えるなり好きにしてもらって構わない。襲撃の時はこちらから各ギルド支部へ改めて通達する。では、解散。」
クエストの説明が終わる。集められた冒険者達はホールに残る者、出ていく者、様々だ。そんな中ーーーー
「みんな、時間はあるかい? 君たちさえ良ければパーティー内で親睦を深めるためにも少し話さないかい?」
金髪のイケメン、先程パーティーの仲間になったアーサーが提案してきた。
どうやら彼は即席で結成したパーティーなのでお互いに自己紹介が必要と考えているようだ。
「私は大丈夫ですよ。」
「俺もだ。」
「俺たちも大丈夫です。」
アーサーの提案を全員が受け入れ、そのまま近くのテーブルに座る。
「では、まずは僕から自己紹介をしようか。僕の名前はアーサー・メルト、18歳。今はBランクだが実力はSランクと思ってくれて構わない。武器はこれ、この弓だ。」
彼は背中に背負った弓を指差す。
「戦闘では後衛として戦うことになるだろう。みんな、よろしく頼むぞ。」
アーサーの自己紹介が終わる。それにしても彼は凄い自信家だな。自分の実力をSランクと言いきるなどなかなかなものだと思う。
それに彼の服装、とても清潔感がある。冒険者とはその職業柄服は汚れやすい。女冒険者ならば汚れを気にする者も多いが基本的に男冒険者の服は泥や血でどこかしら汚れている。しかし彼の服にはそんなものはまったくない。よっぽど几帳面なのか冒険をした事がほとんどないのか、とにかく冒険者の中では少し不思議な存在ではあるだろう。
俺がそんなことを思っているとーーーー
「アーサー・メルトって、もしかして王族の方ですか⁈ 」
エリーが驚いたように声をあげる。
アーサーは前髪を払いながらーーーー
「ふっ、やはり気づいてしまったか。出来るだけオーラを隠しているつもりだったのだが、僕の気品までは隠せなかったようだね。」
「いや、メルトって名前で気づきました。」
「え? な、なるほどな。よく気づいたな。」
アーサーは少しアホの子っぽいな。
メルト王国でメルトって名前を持っていたらそりゃ王族ってバレるよ。
どうやら彼は王族の一人、俺は彼の服装や自信家なところに納得する。
「ご、ごほん。とりあえず今は訳あって冒険者をしている。王族だからと言ってもそれを気にしないで気軽に話しかけてくれ。これからよろしく頼むぞ。」
アーサーは気をとりなおして自己紹介を終える。
今度はアーサーの隣に座る最後にパーティーに入った二人だ。
「俺はダン・グリースです。こっちはルーナ・ウォール、今までは二人で冒険をしてきました。俺は前衛でヘレナが後衛です。パーティー経験はないですがよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
ダンとルーナ、二人分の紹介をダンがする。
なんとなくだがダンはコミュニケーション能力もたかそうだがルーナは人見知りなのだろうか、口数が少ないな。
「ダンとルーナはどんな魔法が使えるんだい?」
アーサーが尋ねる。味方の能力を把握しておくことはパーティーを組む以上必要だからな。
「俺は攻撃系の魔法が使えます。攻撃は任せてください。」
ダンは力強く答える。
「ルーナは?」
「え、えと……回復系です。ごめんなさい。」
一方ルーナは何故か少し恥ずかしそうに答えた。
どうしてごめんなさいなんだ?
俺は気になって聞いてみる。
「なんで謝るんだ?回復系の魔法だと何かダメな事でもあるのか?」
ルーナは少しうつむきながら答える。
「後衛で回復系の魔法を使う冒険者は攻撃力も防御力も無いって事でパーティーから弾かれる事が多いんです。だから、みなさんに迷惑かけるかもしれないので……。」
「なるほどな。」
俺はルーナが申し訳なさそうにしている理由に納得する。
「で、でもルーナの回復魔法の腕は確かです。それに頭もいいし、仲間にいて損はないです!」
ダンがルーナを庇う。
まるでルーナのお兄ちゃんだな。
一連のやりとりを見てアーサーはルーナに話しかける。
「そんなこと気にかける必要は無いよ、ルーナ。回復系の魔法は戦闘中ではなく戦闘後に輝くものだ。傷を癒してくれる者がいるだけでみんなが全力で戦える。」
「そうですよ! ここにはそんなことでぐちぐち言う人もいませんよ。ねっ? カナメさん。」
エリーもルーナを励ます。
「まぁ、そうだな。よろしくな、ルーナ。」
ルーナはみんなの反応が予想外だったのか少し驚いているようだ。
俺としては回復系魔法の一般的な認識に驚いたけどな。俺はレイ・リーに腹の傷を治してもらった事があるためむしろ回復系魔法を欲しいとすら思っていたくらいだ。
ダンはルーナがパーティーに受け入れられてホッとしているようだ。本当にルーナのお兄ちゃんみたいだ。
二人の自己紹介も終わったので今度は俺とエリーの番だ。
「俺は財前カナメ、Bランクの冒険者だ。基本前衛で戦う。耐久力はある方だと思う。パーティーを組んだ経験がないから連携を取るのが下手かも知らないがよろしくな。」
「じゃあ次は私が、私はエリー・ブラウニー、今は人間の姿ですがドラゴン族です。後衛も前衛も出来ますのでよろしくお願いしますね。」
二人とも簡単な自己紹介をする。
「ふーむ、ならこのパーティーは前衛がダンとカナメの二人。後衛も僕とルーナの二人でエリーには状況に応じてどちらかに入ってもらうといった形になるのかな。」
全員の自己紹介が終わり、アーサーがパーティー構成を考える。
「どうだい? 一度なにかのクエストを受けてパーティーでの戦闘をしておきたいのだが、みんなは明日もここにこれるかい?」
アーサーがクエストを受けようと言い出す。
当然だよな。即席で作ったパーティーである以上連携の確認とかはしておきたい。敵がウロボロス、魔王軍ならなおさらだ。
特にみんなからは反対の声も出ない。
結果、明日このパーティーで一つのクエストを受けることになり、今日は解散ということになった。
アーサーにダンとルーナはギルド本部から出て行く。
俺とエリーは今日はギルド本部の宿泊施設に泊まる予定なのでそのままギルドホールに残る。明日の集合場所はこのギルド本部だからな。いちいちワンドックの街に戻るのは面倒くさい。
「それにしてもパーティー戦か、ちょっと楽しみだな。」
俺はエリーに話しかける。
俺はゲームに詳しい方ではないがそれでも何度かネットRPGでパーティーを組んでモンスターと戦ったこともあり、それはとても楽しかった。俺は明日のクエストとその記憶を重ねていた。
しかしーーーー
「カナメさんはポジティブですね。私は連携が取れるか心配ですよ。」
エリーは俺と違い少し憂鬱そうだ。
「以前パーティーを組んだ時は私の撃ったドラゴンブレスが味方に当たりかけましたから。カナメさんみたいに誤射しても大丈夫な人ならやりやすいんですけどね……。」
「まあ、エリーがドラゴンである以上多少のやりづらさはあるだろうな。でもやってみなくちゃわからないから心配するな。当たって砕けろだ。」
「当たって砕けるのが私じゃないから心配してるんですけどね。」
エリーはクスッと笑う。
でも正直ドラゴンブレスがなくても俺の攻撃で大抵の敵は倒せそうな気がするけどな。今なら新しく手に入れた刀もあるし。
「どうせ明日の朝までまで暇ですし少し街を歩きませんか?」
「いいな、それ。ついでにご飯も食だいしな。」
太陽は少し西に傾き始めている。
まだお昼を食べていない俺たちはギルド本部から出て街に繰り出す事にした。
二人で首都メルトの大通りを歩く。
流石にこの国の首都なだけあってとても賑わっている。
ワンドックと違い道路も全て舗装されており、大通りに並ぶ店の数もかなりのものだ。
何やらみたことの無いものがたくさん売られいる。
「お兄さん、ウチの名物《スライム餃子》食べたかないかい?」
「おっ、そこのお二人さん。サンガー劇団の《ドワーフ物語》のチケット買わない?まだ席空いてるよ!」
「お兄ちゃんいい刀持ってんねー。売らない?高く買うよ?」
俺たちは次から次へと話しかけられる。
「凄い人ですね。ワンドックの街とは大違いです。」
「ああ、ちょっとびっくりだ。」
「でも楽しいですね。ほら、これなんか綺麗です!」
エリーはアクセサリー屋の店頭に並んだネックレスを指差す。
それは細い銀のチェーンをリボンの形に加工されたガラス細工に通した物だった。
「そうか? 俺はコッチの方がいいと思うけどな。」
エリーが選んだものより少し派手な物を見る。
「ふーん、カナメさんはそう言うのが好きなんですね。」
「そういうわけでもないがな、エリーに似合いそうと思っただけだ。」
「そうですか。」
エリーはまたクスッと笑らった。
「カナメさん、今度はあそこの店に行きましょ。」
エリーは走り出す。
「あっ、ちょっと待てよ。」
俺もエリーを追う。どうやらエリーは少しはしゃいでるみたいだ。
「おっ、お二人さん、ウチの《ファイヤートカゲのファイヤートカゲ焼き》どうだい?」
「はい! 二本下さい!」
「毎度あり、二本で6ペルだ。お嬢さんが可愛いから5ペルでいいよ!」
「ありがとうこざいます!」
《ファイヤートカゲのファイヤートカゲ焼き》? なんだその得体の知れない食べ物は。
「はい、カナメさん。私の奢りです。」
エリーは焦げ目のついたトカゲの刺さった串を手渡す。
「えーと、エリー? 何これ。」
「メルト名物の《ファイヤートカゲのファイヤートカゲ焼き》ですね。ほら、あれを見て下さい。」
エリーは先程の店を指差す。
そこでは鉄板の下に燃えているトカゲがおりまるでコンロのように鉄板を熱していた。
エリーが説明する。
「ファイヤートカゲは生きてる間、背中から火を噴射するんです。その火を利用して死んで燃えなくなったファイヤートカゲを調理したのがこれなんです。」
なるほど、ファイヤートカゲでファイヤートカゲを焼くから《ファイヤートカゲのファイヤートカゲ焼き》か。
うん、やっぱりわからん。ややこしい。
とりあえず俺はエリーから渡されたファイヤートカゲを食べて見る。
「どうです?」
「う、旨いな。」
少しグロい見た目と違ってかなり美味しい。やるな、ファイヤートカゲ。
その後も俺とエリーは街で食べ歩きをする。
ワンドックの街でも見かける物もあれば初めて見たもの、様々だ。
例えば《スライムポイズンジュース》などは名前こそ危なそうだがジュースに含まれる微量な毒が口の中を刺激してまるで炭酸のようであり、スライムを混ぜることでジェルのようでもあり、炭酸とジェルを混ぜたような不思議な食感だった。
他にも《ビックベアーのフカヒレ》《ビックベアーのジンギスカン》《ビックベアーのサラダ》など気になる食材が沢山あった。
ビックベアーが熊なのか物凄く気になるが全て絶品だった。
「もう俺お腹いっぱいかも……。」
「私もです。少し食べ過ぎました。」
大通りを半分も歩いた頃には二人ともお腹いっぱいになっていた。
「ご飯はもういいとしてもう少し街を歩きませんか?」
「いいぞ、ここは見てるだけでも面白いものが沢山あるからな。」
二人で人混みの中を立ち並ぶ店を見ながら歩ーーーー!
ドンッ!
黒いフードを被った男が俺とぶつかる。
「失礼。怪我はないか?」
「いや、大丈夫、そっちこそ大丈夫か?」
「ああ、すまないな少し急いでいたものでね。」
男はすぐに走って俺たちとは反対の方向に歩いて行った。
「今の人……どこかで。」
「どうしました?カナメさん。」
「いや、なんでもない。行こうか。」
俺はどこかであの男とあったような気がしだがまぁ気のせいだろう。
俺とエリーは再び歩き出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナメとぶつかった男はそのまま大通りを進み路地に入りそのまま地下へと続く階段を下ってゆく。
そこにはもう一人の男がいた。
「どうだ、ターゲットに追跡魔法をかけることは出来たか?」
「出来ました。これで最低でも三日間は奴の居場所を特定できます。」
彼等は《ウロボロス》に所属する暗殺ギルドの一員だ。
《ウロボロス》とは元は別々のものとして存在した様々な犯罪ギルドがまとめ上げたものであり、今では一国に匹敵する戦力を持っているとまで言われていた。
「シナリオの依頼の時はアイツにこっぴどくやられてしまいましたからね。我らのプライドにかけても奴は絶対に殺しましょう。」
「まったく、Bランクの雑魚一人に我らが負けたなど笑い話にもならんからな。ギルドでも最強クラスの奴らも参戦してくれるらしいから引き続き監視を続けるぞ。」
「了解です。」
暗殺ギルドのカナメへの復讐計画は既に始まっていた。




