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19.峰打ち


アリスの店で事件が起こってから数時間後。


俺とアリスはとある町の飲屋街まで来ていた。


街灯などはないが大通りに並ぶ沢山の居酒屋から漏れる光が道を明るく照らしていた。


そのうちの一件、木造建築の酒屋に入っていく。


俺はアリスに尋ねる。


「アリス、シナリオってのはあいつか?」


店の真ん中で数人で飲んでいる男達がいた。そのうちの一人、酒を飲みながら仲間と話している男を指差す。


「はい、あの人がシナリオです。でもなんで居場所がわかったんだですか?」


アリスは俺に言われるままついてきたためどうして俺がシナリオの居場所を把握できたのかまではわかっていない。


俺は説明する。


「匂いだよ。アリスのおじいちゃんの出血はひどかったからな、シナリオって奴は返り血を浴びていたんだ。だから俺はその臭いを追ってきた。」

「臭い⁈ 犬みたいな嗅覚ですね。」

「まぁな。」


アリスは驚いたような声をあげる。


とはいえ、魔法で嗅覚を鋭くしてなんとかこの街までたどり着いたって感じだけどな。この街は酒の匂いが強くて個人の特定まではできなかった。アリスを連れてきて正解だったな。


俺はそのシナリオの座っている席に近づく。


「おい、お前がシナリオか?」

「んん? 誰だお前。」


シナリオは少し威嚇するようにこちらを向く。


俺はシナリオの腰に刺さってる刀を見て確信する。こいつがシナリオだと。


その刀は明らかに俺がアリスの店で見たディセンダートと同じものだ。


「少し表に出ろ。その腰の刀について話がある。」


俺は声を落として外に出るように言う。しかしーーーー。


「なんだお前? 俺は今日は気分がいいんだ、邪魔するな。お前なんかに構ってる暇は無いんだよ。消えな。」


シナリオはあっちに行けと言わんばかりに手を振る。


それにしても人を傷つけ刀を盗んでいい気分とは、なかなかいい神経してるじゃ無いか。


俺はシナリオを挑発する。


「いいのか? 俺は仲間の前で無様な姿を晒すのは可哀想と思ってわざわざ外に出ろって言ったんだがな。」

「何か言いたいことがあるならいってみな。ただし覚悟があるならな。」


シナリオは腰のディセンダートに手をかける。


この男、バカだな。あっさり挑発に乗って来た。


俺は男を真っ直ぐ見据える。


「なら言わせて貰おうか。その腰の刀、盗んだものだろう? それは俺が買ったものだ。返せ。」


俺は奴の仲間にも聞こえるように大きな声で刀を返すように要求する。


しかし奴はまったく動揺しない。


それどころかーーーー


「はっはっは。どこに俺が盗んだって証拠がある? お前が嘘をついている可能性だってあるじゃ無いか。」


仲間からの印象を気にするのなら少しは動揺するかと思ったが……、まぁそんな小心者ならそもそもも強盗なんてしないか。


奴は証拠が無いと思っているかもしれないがそんなことは想定済みだ。


俺に変わってアリスが話す。


「シナリオさん、その刀は私が打ったものです。その鞘も私の店で作った特製品ですし貴方がおじいちゃんを傷つけて刀を奪ってことはわかっているんです。」


俺は奴がシラを切る可能性も考慮してアリスを連れてきた。ディセンダートにも、その鞘にもアリスの店のマークが彫られているそうなのだ。


「ほら、店主もそう言っているんだ。今なら刀を返せば一発殴るだけで許してやるから返せバカ。」


俺はシナリオにもう一度、刀を返すように要求する。


だがーーーー


「おい、少し店を出るか。」


シナリオは返さない。が、その代わりに店から出るように指示して、一人で店を出る。


店を出るってことなら実力行使で奪い返すことも出来るので問題ない。


俺とアリスもシナリオに続き店を出る。


そしてそのまま人通りのない路地裏まで歩いて行く。


アリスは少し不安そうな顔だ。それはそうだろう。こんなところにに連れてこられたらどうなるかは誰でも予想できるだろうからな。


シナリオは俺たちに向けて話し出す。


「さて、お前が誰かは知らないがバカな奴だな。こんなところまでノコノコとついてくるなんて。」


シナリオはディセンダートを抜く。


「どうやって俺が犯人だとわかったのかわからないが、丸腰で来るなんて甘い野郎だ。俺が素直に刀を返すとでも思ったのか?」


シナリオはどうやら俺たちを殺すつもりのようだ。


俺もアリスも武器を持っていないため簡単に口封じができると思ったのだろう。


俺は少し本格的に腹が立ってきた。こいつは真性のクズだ。自分の利益のためなら平気で人を傷つける。


罠魔法で動きを抑えることも出来るしすぐに殴り飛ばす事も出来るがそれじゃ俺の気が収まらない。


俺はアリスを庇うように前に出る。


「シナリオ、殺すなら俺からにしろ。」

「クックック。最後くらいはカッコいいところを見せたいのか? 安心しろ。女は殺さず犯してやるから……よ!」


シナリオは刀を振り俺の首を切り落とそうとする。


しかしーーーー


「な⁈ なんでだ! なんで切れねえ!」


刀は俺の首の皮すら切れず鈍い金属音を出して止まる。


「どうした、さっさと殺れよ。」


俺は動かない。


「くそっ! 魔法か?くそっ!くそっ!」


シナリオは何度も俺を切りつける。


しかしその斬撃は俺の服を切り裂くだけでかすり傷すらつけることは叶わない。


「ハァ、ハァ、なんなんだお前は!」

「お前は知らなくていい。」


無駄と悟ったのかシナリオは攻撃をやめる。いや、単純に息が上がっただけか?


まぁ、関係ない。


次はこっちの番だ。


俺はシナリオに素早く近づきーーーー


「ふんっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁあ⁈」


俺は奴の右腕を軽く殴る。


だがそれだけでもかなりの痛みを伴うようでシナリオは刀を地面に落とす。


「ふむ、折れてはいないか。大体一割でこのくらいの威力なのか。」

「へ? 一割?」


シナリオは俺の言葉を理解出来ていない。


「次は三割くらいでいってみるか。ふんっ!」

「ぐわぁぁぁあ!」


次は奴の左腕を殴る。


今度こそ折れたようだな。シナリオは痛みのあまり倒れこみ地面で転げ回る。


「次は五割だ。歯を食いしばれ、シナリオ。」


シナリオは必死で逃げようと後ろに下がるがそこには壁が。


俺は奴の顔面めがけ拳を振るう。


そして、わざと攻撃を外してシナリオの後ろの壁を殴る。


壁は音を立てて崩れた。


シナリオはもう戦意を喪失していた。


「ず、すまねぇ! 俺が悪かった! 俺が悪かったからぁぁぁ。」

「お前はバカか? 最初っからお前が悪いなんて事はわかりきってるんだよ。ほら、これが全力の一撃……って何だよ。」


俺は振り上げた拳を下ろす。


シナリオは既に気を失っていた。


「意識を……失ってますね。」

「そうだな。気絶してる。」


俺は本気で殴るつもりはなく、寸止めで終わらせるつもりだったのだが……本当に小物だな。


拳を振り上げただけで気を失うとは思っていなかった。


ちなみに何割とかいってたのはシナリオをビビらせらための嘘だ。


本気で殴ったら一割の段階でシナリオは天に召されていただろう。


「さて。」


俺はシナリオからディセンダートを回収した後、アリスの方を向く。


「こいつ、どうする? 俺は刀を取り戻したから特にこいつに恨みはない。だがアリスはおじいさんを傷つけられたんだ。生かすも殺すもアリス次第だ。」

「私次第……ですか。」


アリスは少し考える。


そしてーーーー


「ユー・ヒール・ドライ」

「アリス?」


何故かシナリオを治療し始めた。


「どういうつもりだ? アリス。」

「少し見てて下さい。」


既におじいさんを治す時に俺がかけた魔法は解けているので回復魔法のレベルは低い。


当然、骨折などは治らない。


しかし、なんとかシナリオは意識を取り戻し始めたようだ。


「ん……んん? ひぃ⁈」


シナリオは意識を取り戻し、俺を見て怯える。


そして、目の前のアリスに懇願する。


「すまなかった! た、助けてくれ!もうこんな事はしない、金ならいくらでも渡す! だから命だけわぁあ。」


アリスが回復してくれたとわかっているからかアリスに頼めば許してもらえるとでも思っているのだろう。


俺はアリスにいわれた通り見ているだけだ。口は出さない。


アリスがどうするかを見守る。


アリスはシナリオを見て言い放つ。


「あなたは最低の人間です。おじいちゃんを傷つけた事は何があっても許せません!」


シナリオはすがるように頭を下げる。


「お願いだ! もう二度こんな事はーー!」

「えい!」


パァン!


アリスはシナリオに思いっきりビンタを食らわせる。シナリオは再び気絶した。


さすがにこれは俺もびっくりした。まさか、もう一度ダウンさせるなんて誰が想像できるだろうか。


アリスはシナリオに背を向けこちらに歩いてきた。


「すいません、待たせちゃって。おじいちゃんも無事だった以上あの人に死んで欲しいとは思いません。でも、一回私の口から直接文句を言いたかったんです。」

「文句だけじゃ済まなかったけどな。」

「ああ、あの人はそれでも自分が助かることしか考えてなくて、それでついカッとなっちゃって。」


カッとなっちゃったならしょうがないか。俺もスカッとしたしな。


とにかくこれでこの男には用は無くなった。

俺も刀を取り返したし、アリスも鬱憤を晴らせだろう。


「帰るか。」

「帰りましょうか。」


俺たちは再び気絶して倒れているシナリオを放置してそのまま街を後にした。


そのまま馬に乗ってアリスを武器屋まで送る。


もう真夜中だ。 アリスの店は街のはずれにあるため先程の居酒屋街と違って真っ暗だ。


「さて、ついたぞ。」

「送ってくれてありがとうございます。」


俺はアリスを馬から降ろす手伝いをする。


「じゃあ、俺は行くから。また武器を買うことがあればくるかもしれないからよろしくな。」


俺はそのまま帰ろうとする。


今から馬を走らせれば明日の朝ごろにはワンドックの街に着くだろう。


明日は爆睡してやる。


俺がアリスを降ろしたあと再び馬に乗ろうとすると……。


「ちょっと待って下さい。店に……来て下さい。」


なぜかアリスが俺を誘う。


もしや?


俺は少し期待する。


いや、落ち着け俺。冷静に考えろ。特にフラグとかは立ってなかった筈だ。一緒に馬に乗ったり、アリスのおじいちゃんを助けたり、アリスの店に入った強盗を懲らしめたり、そんなことしか俺はしていない。


んん?


意外とこれって、ワンチャンあるんじゃね?


俺は期待をしてアリスの後について行く。


「奥に来て下さい。」


そう言ってアリスは俺を店の奥まで案内する。


俺の鼓動はヒートアップしていく。


そして、おそらく武器工房だろうか、に案内される。


「じゃあ、出して下さい。」


アリスがこちらをじっと見つめる。


まさかこんなところでやるつもりか? 流石は武器オタクだ……


「ディセンダートを。」.

「え?」



……どうやら俺は勘違いをしていたようだ。


話を聞くとアリスはディセンダートに俺の名前を彫りたいらしい。なんでもドワーフの伝統として武器には使い手の名前を彫るそうなのだ。



……ふう。



俺はディセンダートをアリスに手渡す。もちろん期待していた素振りも見せて落ち込んでいる素振りも微塵も見せない。いちおう紳士と思われたいからな。


アリスは名を彫る為の道具を持ってきて作業に入ろうとする。が、ピタっと手を止めてこちらを見て少し気恥ずかしそうに尋ねる。


「えーと、今更なんですけど……。名前、教えて貰っていいですか?」

「ああ、そういえばまだ言ってなかったな。俺は財前カナメ、カナメでいいよ。」


今まですっかり名乗るのを忘れていたな。


アリスは見たことのない文字を刃の根元に彫り込む。二文字しか無いからイニシャルだけなのかな?


真夜中のため、工房の中には魔法で灯した淡い光しかない。


その光の中、集中して作業するアリスの姿には少しだけドキッとしてしまった。


作業は五分ほどで終了する。


「はい、出来ましたよ! カナメさんの刀です。」


アリスは笑顔で刀を渡してくれた。


「あ、ああ。ありがとう。」

「カナメさん?」

「なんでもない。ありがとうアリス。いい刀だ。」


俺は少し同様し、それを誤魔化すかのように刀を眺める。


それにしても、まるで漆で塗られたような漆黒の刃に白く彫られた白い文字。つい見とれてしまうような美しい曲線。本当にいい刀だな。


「いくらレベルをあげても手入れは必要ですからね? 刃こぼれとかしたら持ってきて下さいよ。研ぎ直しますから!」

「わかってるよ。その時はよろしくな。」


アリスは店の前まで俺を見送ってくれた。


「じゃあまたな。アリス。」

「はい、またきて下さいね。」


俺は馬に跨りそのまま店を後にする。


こうして俺は自分の武器を手に入れた。



そのあと、俺はアリスの店から少し離れた場所に馬を走らせる。


そこはちょうどアリスの店からは見えない場所にある林の奥だった。



俺にはまだやるべきことが残っている。



「よう、何してるんだ? シナリオ。」



俺は話しかける。



そこにはシナリオがいた。


シナリオのことだから俺には勝てないと考えて、復讐のためにアリスの店を襲うのは目に見えていた。


だから念のために耳を澄ましてどこかに人の気配がないか探っていたのだ。


二、三日はこの辺で様子を見ようかと思っていたのでこんなに早く復讐に来たのは予想外だったけどな。


俺は馬から降りシナリオに話しかける。


「こんなところになんでいるんだ? お友達まで一緒だし。」

「ちっ、気づいたか。おい、出て来ていいぞ。」


シナリオが声を出すと木の陰から黒ずくめの男たちが出て来た。皆、手に武器を持っている。


「なかなか愉快な仲間じゃないか。パーティーでもしてたのか? 俺も混ぜてくれよ。」

「くっくっく。必死に強がっている人間を見るのは楽しいな。いくらお前でもこいつらには敵わない。こいつらは俺が暗殺ギルドから雇った連中だ。いわば殺しのプロ、お前に勝ち目はない。」

「暗殺ギルドのくせに俺の前に姿晒してちゃダメな気もするけどな。いいよ。全員まとめてかかってこい。」

「言われなくてもやってやるさ! 全員、かかれ!」


シナリオの号令に合わせて黒ずくめの連中が一斉に俺に襲いかかる。


俺はディセンダートを抜き、


「俺の全経験値よ。ディセンダートに。」


俺が経験値の存在を知らなかったがために溜まりに溜まった俺の経験値を全てディセンダートに注ぎ込む。


そしてーーーー!


「せいっ!」


刀を振るう。



暗殺ギルドの奴らは一瞬で崩れ落ちた。


「安心しろ、峰打ちだ。」

「な、な! あり得ない! アイツらは全員Aランク並みの強さなんだぞ!」


シナリオは狼狽える。


ちなみに峰打ちにした理由だが、別に殺生を嫌ったとかではない、「安心しろ、峰打ちだ」って言いたかったからだ。


このセリフは俺の言ってみたいセリフランキング二位の憧れのセリフなのだ。


ちなみに一位はかめ◯め波だ。ぜひ言いたい。っていうか撃ちたい。


そんなことはどうでもいいか、今はシナリオだな。


俺はセリフの余韻に浸ることもなく魔法を唱える。


「ラース・ラン・メルト」


「な、何をした?」


シナリオは訳が分からず怯えている。

俺は説明する。


「今お前にかけた魔法は呪いだ。お前が俺やアリスの店に敵意を向けた瞬間お前の心臓は止まる。誰かに依頼しても無駄だ。この呪いはお前の敵意に反応するからな。」

「し、心臓? 止まる? 」


シナリオはもう死にそうな表情だ。


もちろんだがな呪い云々と言ったのは嘘だ。俺に呪術系の魔法は使えないが、シナリオはそんなことを知らない。だから実際の効果は無くても脅しとしては機能する。


「さっさとこの黒づくめどもを連れて去れ。次は呪いなんて周りくどいことしないで殺す。」


シナリオはもう俺に恨みを抱かなかった。

奴の俺に対する感情は怯えだけだ。



俺は崩れ落ちたシナリオを置いて馬に乗る。



こうしてやっと事件は解決した。



だが、この事件がきっかけでさらに面倒くさいことになることを俺は知らなかった。


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