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18.強盗

おそらくこの谷底の主であろう巨大なサイクロプスは怒り狂っていた。


当然だろう、わけのわからない奴に縄張りを荒らされた挙句手下を拘束されているのだから。 手下のサイクロプスのように武器は持っていないものの近くの岩を手当たり次第にこちらに投げてくる。


「このデカさじゃさっきの魔法は無理かな?」


俺は突如現れた大きすぎる相手に少し困惑していた。


一番いい方法は先ほどのように罠にかけてしまう事だ。実際俺の使う罠魔法は一度当てて仕舞えばほとんどの相手を有無を言わさず拘束できるであろう。


しかし、実戦で当てるというのはかなり難しいのだ。


多くの罠魔法は自分の周囲に設置し、そこに敵意を持った者が踏み込んできた場合に発動する。逆に言えばそこに足を踏み入れなければ何の影響も無い。さらに罠魔法の使いづらい所としては自分が罠魔法を設置した場所から離れすぎると効果を失う。手当たり次第に設置しても意味が無いのだ。


先ほどのように敵が勝手に俺の間合いに入ってきてくれたなら問題は無いのだが巨大なサイクロプスは手下がなぜやられたのかが分からず俺を警戒し遠距離からの投石に徹している。


俺自身は自分の周りに小規模のバリアを展開しているのでダメージは受けない。だがこのままでは状況は好転しない。


「しょうがないか……。極力殴りたくなかったんだけどなぁ。」


縄張りに侵入したのはこちらであるため拘束以上のことはしたくなかったがしょうがない。


俺は巨大なサイクロプス目掛けて走り出す。


加減して殴れば気絶くらいで済むだろう。


サイクロプスは突然接近していた俺を警戒して谷の崖を引っ掻く。


どうやら石の混じった大きな砂埃を起こすことが目的のようだ。。


目くらましのつもりか?


「甘いんだよ!」


別に目で見えなくても音や振動で位置の把握は出来る。


俺はサイクロプスに近づき顔面目掛けてジャンプする。


これで顔面を殴って終わりーーーー!


ドンッ!


砂埃の中から巨大な拳が現れ俺を攻撃する。


俺は地面に叩きつけられた。


「なるほどな。思ったよりもやるじゃねーか。」


俺は奴が砂埃を起こしたのは逃げるためだと思っていたがどうやら違ったらしい。


むしろ逆、攻撃を砂埃でカモフラージュし、確実に俺に一撃を当てるためだったのだ。


奴はさらにそこらかしこを引っ掻き回し砂埃をと轟音で流石の俺でも奴の位置が特定しづらくなっている。


そしてなぜか敵は俺の居場所を掴んでいるようで視界の悪い中でも的確に俺を殴ってくる。


俺は全ての攻撃を間一髪で避けるも状況は悪い。


ここまできたら最終手段だ。


とっておきの支援魔法を使ってやろうじゃないか!


「ミー・ブロ・ボディ」


俺は自分に魔法をかける。


どんな魔法かって? 見ていればわかる。


俺は砂埃の中一歩も動かずにじっとする。


その隙を逃すまいとサイクロプスはその巨大な拳を俺目掛けて振るう。



ボキッ!


「ギャルゥゥゥヴゥゥゥヴ⁈」



骨の折れる音がした。


もちろんサイクロプスのだ。奴はいま俺の硬さにびっくりしているだろう。


俺が使った魔法はただひたすら岩のように体を硬くするものだ。使用している間は身動きが取れない上他の魔法と併用できないので使い勝手はかなり悪い。


しかし今回はうまく機能したようだ。


サイクロプスはなぜ攻撃したはずの自分が怪我をしているのか分からず戸惑っている。


砂埃も落ち着いてきた。


俺は拳を抑えその大きな一つ目から涙を流すサイクロプス目掛けて大きくジャンプし、そのままーーーー!


「うぉら!」



ズッッドッーーン!



俺に殴られたサイクロプスはそのまま倒おれた。


どうやら気絶しているようだ。


俺に拘束されていたサイクロプス達も怯えている。そして逃げていった。


あくまで罠魔法は敵意を持っている間のみ発動する。罠魔法が解けたという事はあの手下のサイクロプス達はもう俺に敵意を向けてないという事だ。


おそらく俺の平和的な態度に共感して……そんなわけないよな、普通に怯えただけだな。


俺は逃げるそいつらをほっといて目的の不変石をいくつか拾いそのまま上まで戻る。


「あっ、おかえりなさい。下で凄い音してましたけど大丈夫ですか?」


俺が谷底から這い上がってきたのを見てアリスはホッとしたように声をあげる。


「ああ、問題ない。優しい巨人達がいたから少し遊んできただけだよ。」

「そうなんですか? 下の巨人達は乱暴って聞いていましたから心配でしたよ!」

「ふーん、そうだったのか。ってそんなことよりこれ。」


俺はアリスに下でかき集めてきた不変石を渡す。


「不変石ってこれであってるか?」


念のために確認する。店に着いてから間違っていたなんて言われてもめんどくさいからな。


石を渡されたアリスは目をキラキラさせる。


「凄い! こんなに大量の不変石なんて初めて見ました! これだけあれば、刀の大量生産も……ジュルリ。」

「おい、よだれでてんぞ。興奮し過ぎだ。」


てかなんで刀の大量生産ってワードで興奮してるんだよ。もしかしてアリスって武器製造オタクなのか? ドワーフの血も受け継いでいるらしいしありえない話でもないかもな……。


アリスは俺に指摘され慌ててよだれを拭い少し恥ずかしそうにこちらを向く


「す、すいません、少しびっくりしたもので。これだけあれば充分です。刀はお客さんにあげます!」

「よかった。これで交渉成立だな。」


俺はなんとか武器を手に入れることが出来たようだ。


その後、大量の不変石を手に入れて上機嫌のアリスを馬の後ろに乗せ再び武器屋に戻る。


店に帰る道中、俺は馬の上で俺の背中に掴まるアリスに尋ねる。


「なあアリス。その不変石ってのはそんなに価値のあるものなのか?」

「はい、毎年刀鍛冶界隈で「三大憧れの鍛冶道具」に選ばれてるほどなんですよ?」


そんなものがあるのかよ。しかも毎年決めてんのかよ。


アリスは話を続ける。


「不変石は一度高温にしてしまえば半永久的にその温度を保つので金属を溶かすための薪とかが必要なくなるんですよ。」

「へー、それは便利だな。てか薪で金属を溶かすほどの高温が出せるのか?」

「なかなか出せませんよ。いちおう鍛冶屋用の薪はあるんですけど値段が高くって、いつもおじいちゃんが山まで鍛冶屋用の薪を直接取りに行ってくれるんです。」


あの頑固そうなおじいさんも孫には甘いのか。まぁ無理もないか。アリスはドワーフの末裔とは思えないほどの美少女だからな。ドワーフと言えば低身長でむっくりとしているイメージだがアリスは真逆、身長は平均程度だがスラッとした体型に今も俺の背中に軽く当たるほど豊満な胸。綺麗な銀髪と雪のように白い肌は完璧にマッチしている。


そんな子がドワーフの末裔で刀鍛冶なんだから本当に人は見た目じゃないよな。


その後もアリスからいくつかの昔話を聞きながら馬を走らせ武器屋に到着した。


ちなみに、昔話といってもほとんどは今までに打ってきた刀の話で大学の卒業論文かってレベルでマニアックな話を展開してきたので後半の内容などはほとんど頭に入ってこなかった。


どんだけ武器製造が好きなんだよ。


俺はアリスを馬から降ろし、そのまま刀を受け取るために店に入る。


アリスは武器を取って来るために店の奥に入っていった。


俺はアリスが帰って来るのを待つ、しかしーーーー!


「きゃぁぁぁ!」



しかし返ってきたのはアリスではなくアリスの悲鳴だった。


「どうしたアリス大丈夫か⁈


俺は咄嗟に店の奥に飛び込む。


結果から言うとアリスは無事だった、だがーーーー


「おじいちゃん! しっかりして、大丈夫? 意識はある?」


倒れていたのはアリスのおじいちゃんだった。


床には血が流れている。どうやら頭からの出血のようだ。アリスが何度も呼びかけるが返事はない。どうやら意識を失っているようだ。


「アリス! 回復魔法は使えるか?」



俺はすぐに処置をしないとまずいと判断し、アリスに尋ねる。何年も前のことで確かには覚えてないが保険の授業で人体は血を失いすぎると意識を失いやがてしに至ると聞いた気がする。


アリスは答える。


「私のレベルじゃこのケガは治せません。近くには医者もいないし……、おじいちゃんが……おじいちゃんが。」


だいぶ焦ってるようだ。


俺はアリスの背中に手を置く。


「大丈夫だ。俺が魔法でアリスのレベルを底上げする。」


俺はアリスに魔法のレベルを一時的に上昇させる魔法をかける。これは誰かのレベルを一定時間あげるかわりに俺のレベルが一定時間下がるというかデメリットはある。だが回復魔法が使えない俺のレベルが高くてもしょうがない。


アリスが回復魔法の使い手だったのは不幸中の幸いと言えるだろう。


アリスは初めて俺が何をしたのかわからなかったようだがすぐに理解したようで倒れてるおじいさんに回復魔法をかける。


「ユー・ヒール・ドライ」


アリスの右手にオレンジ色の優しい灯りがともりその光を傷口にあてる。


アリスはあまり魔法を使うことには慣れてないようで、レイ・リーが俺の傷を塞いでくれた時ほどのスピードはない。だがそれでもゆっくりとおじいさんの頭の怪我は治ってゆく。


回復魔法を使って傷を塞ぐとおじいさんはゆっくりと目を開いた。どうやら意識が戻ってきたようだ。


「んん? 俺はいきてんのか?」

「おじいちゃん!」


アリスは泣きながらおじいさんに抱きつく。無事を確認して安心したのだろう。


だが、まだ事件は何も終わっていない。


「おじいさん、どうして怪我なんかしてたの? 傷跡的に転んでできたってよりも何かに切られたって感じだったぞ。」


俺は事情を尋ねる。


今回の件、明らかにおかしいと俺の鼻が訴えている。


おじいさんは思い出したように話し出す。


「アリス達が店を出ていった直後にシナリオって奴が店に来たんだ。そして俺に刃物を突きつけてディセンダートをよこせって。俺はアリスが頑張って打った刀をあんな奴なんかに渡したくなくて抵抗したんだが……このザマだ。」


どうやら強盗に襲われたようだ。


「アリス、そのシナリオって奴に心あたりはあるか? なんでそいつはディセンダートがここにあるって知ってたんだ?」


俺は尋ねる。普通の強盗なら刀の名前ではなくこの店一番の刀というはずだし名前がわかっていると言うのもおかしな話だ。


「シナリオさんは、以前にこの店で刀を買いに来たお客さんです。ディセンダートをすごく気に入っていましたが高すぎるので諦めると言っていました。まさかこんな手段に出るなんて……。」


やっぱりただの強盗ではなかったか。


「やっぱり……ディセンダートも取られてます。」


アリスは荒らされた武器の保管庫の中からディセンダートが無くなっているのを確認する。


「すまねえアリス。お前の刀守れなかった。くそッ!」


おじいさんは悔しそうに下を向く。


「何いってるのおじいちゃん! おじいちゃんが無事だっただけで私は満足だよ!」


アリスは元気な声でおじいさんを励まそうとしている。


そして今度は俺の方を向く。


「ごめんなさい! せっかく不変石を取って来てくれたり、おじいちゃんの怪我を治す手伝いまでしてもらったのに……。これは返します。」


アリスは不変石の入った袋を俺に渡そうとする。


「刀もウチに残ってるものなら好きなの持っていっていいですから。ごめんなさい!」


アリスは俺に頭を下げる。


まったく。


馬鹿げているにもほどがある。アリスにも、おじいさんにも非はない。


俺はアリスに話しかける。


「悪いが俺は既に不変石を渡したんだ。」


アリスの体がビクッとする。俺が刀を手に入れられなくて怒っているとでも思っているのか?


まぁ、怒ってるって点は間違ってはいないが。


「既に不変石を渡した以上あの刀は俺のものだ。ディセンダートは俺がそのシナリオって奴から取り返す。」

「え? 怒ってないんですか?」

「怒ってるよ。シナリオって奴は一回ぶん殴る。だからアリス協力してくれ。」


アリスは俺の予想外の行動に驚いているようだ。


だがそれでも俺の目を見て言った。


「私に出来ることなら協力させて下さい!」


アリスの声にはたしかな怒りがこもっていた。


俺は頷きアリスにどう協力してもらうかを説明する。





それにしてもシナリオって奴は運がない。


俺はこの世界に来て一月も立っていない。


それはつまりレベルが上がって間もないため手加減の仕方がわからないと言うことだ。



いい機会だ、シナリオには俺の実験台になって貰おう。



次回、シナリオボッコボコ。

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