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14.あやしい二人

古今東西、昔からボスとはある程度決まった形がある。例えば海賊の船長は眼帯に片手フック、マフィアのボスなら黒スーツに葉巻。


では魔物の群れのボスの特徴と言えば?


「……わからん。」


皆目見当がつかない。


魔物の群れの上空を旋回しながら探しているのだがどれも同じに見える。


今なら両脇に某ザーボンさんや某ドドリアさんを置いていた某フリーザ様がどれだけ優秀かわかる。あれ、一目で「こいつがボスだ!」ってなるもんな。



「エリー、とりあえず強そうな奴を見つけてぶん殴ろう。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるだ。」


「テッポウ? よくわかりませんがとりあえずそれしか無さそうですね。」


何もせず飛んでいるだけでは状況は好転しない。エリーも俺の考えに賛同する。


「エリーは上空からそのままボスっぽい奴を探してくれ。俺は殴ってくる! とう!」


俺はエリーから飛び降りて魔物の群れにダイブする。


「ミー・バフ・フィジカ!」


身体能力を魔法で底上げしてーーーー!


「うぉりぁあ!」


ドッッカァァァン!



着地地点にいた大き目のオークをぶん殴る。


オークはまるで潰れた空き缶みたいになった。


ちなみに俺は返り血でベトベトにならないように体の表面に薄くバリアを張っていたので汚れてない。


強そうなオークを倒しても群れは動きを止めない。俺は近くの雑魚を倒しながら叫ぶ。


「おーい、エリー! いま殴ったのはハズレっぽい、次はどこに強そうな奴いる?」


エリーは上空から群れを監視し俺に指示を出す。


「カナメさん、次は右に少し進んだところにでっかいスライムがいます!」


「了解、右だな!」


エリーの指示通りに魔物を蹴散らしながら右に行くとーーーー!


「でっか!」


確かにめちゃくちゃでかいスライムがいた。下手すると俺よりも大きいかもしれないほどだ。


まぁ関係ないけどな。


「ふんっ!」


スライムめがけ思いっきり拳を振るう。スライムは全力で降った後の炭酸のように体液を吹き出して倒れた。


さっきから潰れたカンとか炭酸とか優しい表現してるけど割とグロいからな。いや、まじで。


その後も俺は群れの中を駆け抜けて次々と強そうな個体を倒していく。


エリーも俺に指示を出すと同時にドラゴンブレスで何体もボスっぽい奴を倒してる。


しかし……


「くそっ! またハズレか? 」


何体倒しても群れの動きは止まらない。


街に向かって進み続ける。


「エリー、群れが止まる気配がないぞ! 他に強そう奴はいないか⁈」


俺はエリーに尋ねるが……。


「もういません! 今ので最後です!」


どうやらボス候補はもう見つかりそうにない。


八方塞がりか?


俺は少し焦る。今はリンナさんとスカーが群れを食い止めているが長期戦だと持たないかもしれないと言っていた。もし二人が食い止められなくなったら街は壊滅的な打撃を受けるだろう。


せっかくエリーの孤児院を領主から守ったのに魔物のせいで街を出なきゃいけないなんてごめんだ。


俺はそんな焦る気持ちを誤魔化すかのように周りの魔物を倒していく。大局的に見ればそんなもの焼け石に水だろうがそれでも何もせずにはいられなかった。


そんなときーーーー!


「カナメさん、一旦戻ってきてください! この魔物達、少し変です!」


エリーが何かに気づいたようだった。


俺はその場で高くジャンプして空中でエリーにキャッチしてもらう。


「エリー、魔物達について何かわかったのか?」


尋ねる俺にエリーが答える。


「なんというか……魔物の群れの動きに一貫性があり過ぎるんです。」


「あり過ぎる?」


「はい、あそこをみてください。」


エリーはスカーとリンナさんと方を向く。


群れを食い止める沢山のゴーレムと後方から飛んでくる無数の火の玉が飛び交い激しい爆煙が起こっている。


「カナメさん、あそこに飛び込めって言われて飛び込めますか?」


「絶対無理。」


死んでも無理だ。魔法を使えば無傷で済むかもしれないがそれでも本能的に無理、バンジージャンプと一緒だ。


エリーは説明を続ける。


「そうなんです、普通じゃ無理です。でもこの魔物の群れは進行方向も変えずに死ぬとわかっている筈なのに進み続けています。いくら統率力のある個体がいてもこれは流石に不自然です。むしろ、この魔物の群れは誰が魔法で操っていると考える方が自然です。」


「操る? そんなことが出来るのか? 」


「はい、呪術系の魔法には他人や動物を操る魔法があります。五千もの数を同時に操るなんて聞いたことは無いですがSランククラスの実力を持つ者なら可能性はあります。」


なるほど、それならいくら魔物を倒したところで意味が無いのは当たり前か。


下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというが、的に背を向けて撃っていたのでは当たりようがない。


探すなら魔物ではなく人間だ。


「エリー、その魔物を操る魔法はどのくらいの距離までなら有効、つまり魔物を操ることが出来るんだ?」


俺は捜索範囲を絞るために質問する。


「それは人によって変わりますが、基本的には離れれば離れるほど支配力は弱くなります。これほどの数を遠くから操るのは至難の技、おそらくそう遠くない場所に居るはずです!」


俺とエリーは魔物の群れで怪しい奴を探し続けたため群れの中にいないことだけは確かだ。


しかし、ここは山の麓の平野だ。起伏が少ないため隠れられそうな場所はない。いちおう上空から平野を見渡すが人影は見当たらない。


くそっ、こうしている間にも魔物は進見続ける。どこだ、どこにいるんだ?


俺はあちらこちらを見渡す。


そして気づいた。


なんだ……あるじゃないか、隠れやすい場所なら沢山あるじゃないか。


「エリー、街だ! 街に向かってくれ!」


「街! なるほど、わかりました!」


エリーも俺の言いたい事がすぐに分かったようだ。すぐに街向け羽ばたく。


木を隠すなら森の中、人が隠れるなら街の中だ。今なら魔物の襲来で街の住人は避難している。つまりほとんどの家は空き家状態だ。魔物と戦う者も街を守るため街に背を向けているので見つかる心配も無い。


隠れるのにこれほどの好条件はなかなか無いだろう。


「エリー街の中央に降りてくれ!」


「はい!」


俺とエリーは街の中心部にある広場に降りる。


「エリー、いまから犯人を捜すから少し静かにしてくれ。」


そういって俺は街全体に魔法をかける。


「ドーム・シャット・サウン」



音が消える。



いや、正確には街の外からの音を遮断しているのだ。スカーの攻撃から鳴る爆音も、ゴーレムが稼働するときの鈍い音も聞こえない。


すでにこの街の住人の避難は完了しているため街の中では音が発生しない。街は先程までの戦場と打って変わって静まりかえっていた。


「ミー・バフ・ヒアーリ」


俺は次に聴覚を鋭くする魔法を自分にかけ、調整能力も使い極限まで聴覚を研ぎ澄ませる。


目を瞑ると聞こえてくる。


自分の鼓動。


エリーの鼓動。


小動物の動く音。


風、噴水、落ち葉の音。


そして……誰もいないはずの街に、俺とエリー以外の鼓動が二つ聞こえる。


「見つけた。 エリーこっちだ!」


「はい!」


俺とエリーはその音の元まで走りだす。


音は俺たちのいた街の中心部から少し走った場所にある薄暗い路地から聞こえていたようだ。


そこには二人の男女がいた。


一人は白衣を着た中肉中背の男だ。何やら路地でうずくまって作業をしている。もう一人の女はピンクの髪にピンクのメイド服。まるでコスプレをしているみたいな格好だ。



「そこで何をやっている! お前たちは誰だ!」


俺はその二人に声をかける。


男の方がこちらを振り返り、


「んん? 君たちこそ誰だ、街の住人は全て避難したものと思ってたんだがね。」


返事をする。


脳に絡みつくようなねっとりとした声だ。


「まぁいい、ポニータその男とドラゴンを殺しておけ。」


男はドラゴンの姿のエリーにも全く動じずに作業を続行している。


「もう、命令しないでよマキナス! いま殺そうと思ってたのに、あんたに言われたからやる気なくなっちゃったじゃない!」


ピンクの女はこっちのことを完全に無視して男に文句を言う。てかその文句、宿題やれって言われた小学生みたいだな。


俺はもう一度確かめる。


「おい、あの魔物の群れを操っているのはお前らか? そうなら……。」


「五月蝿い。」


ドンッ!


なんだ⁈


俺の頭に今までで一番の衝撃が走る。


そして後ろに転んでしまった。


「カナメさん! 大丈夫ですか⁈」


エリーが心配そうに声をあげた。


「ああ、大丈夫だ。不意打ちだったからびっくりしただけだ。」


倒れはしたがダメージはほとんどない。もし身体能力を強化していなかったらやばかったかもしれないけど、まぁ大丈夫だ。


むしろ問題は……


「おい、おじさん。 今何したんだ? 全く見えなかったぞ。」


男の手からは白煙が上がっており俺の足元にはビー玉ほどの金属の球があった。おそらくこれを銃のように高速で撃ち出したんだろう。


これが魔法ならなんとも思はないのだがあの男は魔法を詠唱せずに攻撃をした。この世界には魔法の詠唱破棄は存在しない。それは確認済みなので明らかに異常だ。


男は俺の質問を無視してはなしだす。


「ほう、今ので死なないとは興味深い。よし、ポニータ、こいつを生け捕りにしろ。帰って調べる。」


「だから命令しないでよ! 私は私のやり方で動きたいの!」


「これは魔王様に報告だな。」


「うぅぅぅぅ、わかったわよ! 殺せばいいんでしょ、殺せば!」


「生け捕りといったのだが……、まあいいか、大差はない。」



清々しいほど俺もエリーも蚊帳の外だな。


それよりも今男が言ったセリフ。


「おい、魔王ってどう言うことだ! この魔物の襲来は魔王の差し金なのか⁈」


俺は問い詰めるが……。


「あなた達には関係ないでしょ、これから私に殺されるんだから、フンッ!」


女の方が剣を振り回しながら突っ込んでくる。


俺は避けようとするが女の動きはかなり速く少しかすってしまった。頬から血が垂れる。


それは戦闘には全く支障のない小さな傷であったが俺はこの世界に来て初めて血を流した。


明らかに今まででの敵とは格が違う。


「エリーはあの男をどうにかして魔物の進行を止めさせろ! 俺はこの女をなんとかする!」


「わかりました! 」


俺はエリーに指示を出す。


こうして戦ったいる間にも魔物の群れは街に迫っているのだ。速く止めなければならない。


男の元へ向かうエリーを止めようと女が動くがーーーー!


「お前の相手は俺だ! オラっ!」


俺は一瞬の隙をついて女を投げ飛ばす。


「いったーい、あなた最低よ!女の子には優しくしなさいって教わらなかったの⁈」


「あいにく男女平等に接しましょうって教わったもんでね。」


「あなた、タイプじゃないかも。」


女は再び剣を振り攻撃してくる。


斬撃が速いため魔法を唱える時間がない、受け止めたら怪我をするとわかっているため全て避ける。


そしてーーーー!


「ふんッ!」


隙を突いて腹を殴る。


もちろん殺さないように加減はする。確かに彼女は速い。だがそれは今までの敵と比べての話であって捌けないほどの速さでもない。


まさかの反撃を受け、女は驚いたように俺から距離を取った。


「くっ……あなた、なかなかやるわね。名前覚えてあげるから名乗りなさい。」


「人に名前を聞くときはまず自分からって習わなかったのか?」


「あいにく名前がないのよ……。」


「いや、お前さっきポニータって呼ばれてたじゃん。確実に名前あるよね。」


「あなた……、タイプじゃないわ。」


困ったらそれ言うのやめろや。


まぁいい、名前は後で聞けばいい。


「大人しく捕まれ。 なんで魔王がこんな事してるか詳しく聞かせてもらうぞ。」


俺は女を拘束すべく近寄る。しかし……


「もう勝ったつもり? 甘いわよ。あんな殺す気のない攻撃で死ぬわけないでしょ。 」


俺に剣の切っ先を向ける。


「ソード・エクス……」


魔法を唱えるのかと思いきや途中で詠唱を止め切り掛かってくる。


女は突きを放つ。


俺はあっさりそれを避けるがーーーー!



「ブランチ!」



「なん……だと……⁈」




剣の切っ先が分岐して俺の腹に刺さる。


俺はまだこの世界の戦い方をしらなかった。




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