10.レイ・リー
ゴゴゴゴ……
音を立てながらゆっくりと開く扉。
「君も冒険者やろ、いっしょにいかへん?」
自称「どんなパンでも食べられる男」は俺を誘う。
「そっちがいいならたすかる。」
俺はついていかないと明日までこの先には進めないのでその男についていくことにした。
階段を降り第五層に足を踏み入れる。
男は俺に気さくに話しかける。
「いやー、にいさん大変やったなぁ。あの扉はいたずら好きの精霊の仕業や、答えがいくつもあるような問題を出して気に入ったもんしか先に通さないっちゅうやっかいな奴やねん。」
なんだそれ、もしRPGゲームとかでそんな仕掛け実装したらめちゃくちゃ叩かれるぞ。
俺はお礼を言う。
「そんな奴がいるなんて知らなかったな。ありがとうあんたのおかげで助かった。俺はカナメだ、よろしくな。」
「ええよ、こんくらい。僕はレイ・リーや、よろしゅうな。」
二人で少し雑談でもしながら第五層を進む。
彼はどうやら俺のいるワンドックの街とは別の街のギルドに属してるらしい。
冒険者ランクはAで相当のやり手だ。
ダンジョンモンスターとの戦闘時もほとんど一撃で相手を仕留める。
俺やエリーは敵を「破壊する」って感じの戦い方だ。しかし彼は真逆で「殺す」って感じの、忍者とか、暗殺者みたいな動きだ。
音もなく動き、敵の隙をつき急所を刀で切り裂く。
いかに俺の戦い方が力任せかを痛感させられる。
まぁ、だからと言って武道を学ぶつもりはないけどな。今のままでも無双出来てるし。
レイ・リーがダンジョン攻略に加わったことで今まで以上の速さでは探索が進む。
そのままの勢いで第五階層、第六階層もクリアしていく。
今は第七階層だ。
「いやー、君はほんま強いなぁ。動きはてんで素人なのに不思議やわぁ。相当ステータス高いんやね。」
突然現れたゴーレムを倒したあとレイ・リーは「少し休憩せーへん?」と提案したので今はモンスターのこなさそうな場所でご飯を食べながら雑談している。
「どうなんだろうな、まあ低くはないと思うけど他の冒険者と比べた事ないからわからん。」
「ふーん、まぁ冒険者によってはステータスを聞かれるのを嫌がる奴も多いしなぁ。」
当然だろうな。公開したステータスが盗賊とか知性のある魔物に知られたら命取りになる。
「レイ・リーこそ動きが暗殺者みたいでかっこよかったぞ。なにか武術とかやってたのか?」
俺も質問してみる。
「武術ではないな、僕の家系は代々暗殺を家業にしてんねん。」
「暗殺を家業に⁈」
「そうや、僕も小さい頃いろんな戦い方を叩き込まれてなぁ、暗殺家業自体は畳んだけどその技術を生かして冒険者やってるんや。」
現代日本では考えられない話だろう。
しかしレイ・リーの動きや雰囲気を見るに本当っぽい。やはりここは異世界なのだと感じる。
一通りご飯も食べ終わったところでレイ・リーはダンジョンの先の話をする。
「僕の経験上あと二、三階層で最下層のボス部屋に辿り着くと思う。ボスはそこら辺の雑魚とは違うから出来るなら共闘したいんやがええか?」
「もちろん、その方が効率いいだろうしな。」
「よかった、じゃあお互い何ができるか教えあっとこか。」
レイ・リーはてきぱきとご飯を片付けながら話す。
「僕はステータスは身体能力と抵抗能力高めや、魔法は回復系やけど基本前衛として戦うから回復の期待はせんといてや。」
「わかった。俺は身体能力と魔法能力が高めだな。抵抗能力は低い。魔法は支援系だ。」
「へー、支援系なんや。ならお互い魔法はあまり攻撃に使えんか。」
二人で基本的な情報を交換して再びダンジョン探索を進める。
階層が下がってきたので出てくるダンジョンモンスターの数も罠の質も上がっていったが全然問題なく進んでいく。
一つの階層を30分くらいでクリアしていき探査は順調に進む。
レイ・リーの予想通りで、第九階層をクリアしたあと、第十階層への続く扉がかなり頑丈なものになっていた。
「多分この先にこのダンジョンのボスがおる。準備はいいか? 開けるで。」
刀を片手に持ち、もう片方の手でゆっくりと扉を開ける。
中は今までの迷路のような構造とは違ってだだっ広い空間が広がっていた。
俺とレイ・リーは中に入る。
少しずつ奥へ進んでいくと声がした。
ー汝、いますぐ引き返すなら見逃そう。そんでないと言うならばその肉体を引き裂こうー
ビルド・ジャガーの時と同じような声が聞こえてきた。
「もちろん引き返すつもりはない。さっさと出てこい。」
声の主に俺は叫ぶ。
するとーーーー!
ーよかろう、ならばその喉を噛み砕こうー
部屋の奥から一体の巨大な蛇が出てきた。長さは10〜15メートルくらいはありそうだ。
体は石で出来ている。ビルド・ジャガーの大蛇バージョンといったところか。
ズルズルと音を立てながらこちらに突進してくる。
「そっちからきてくれるなんてありがたいな。粉々にしてやる!」
俺は大蛇の顔面を殴ろうとしたのだがーーーー!
「あかん、カナメ! 避けるんや!」
彼が叫ぶ。俺はその声に反応して急いで回避する。
大蛇は俺の後ろの壁に激突した。すると……
サラサラサラ……
壁の一部が壊れるのではなく砂になって崩れ落ちる。
「なんだあれ⁈ 魔法か?」
驚く俺にレイ・リーが説明する。
「多分あの蛇の体の表面には「砂の呪い」がかけられているで。奴に触れたら人間も建物も全部砂になる。」
「砂の呪い? 触ったらいけないって勝ち目あるのか、俺殴る事しか出来ないぞ。」
「攻撃魔法とかあれば倒れると思うんやけどな、僕らと相性悪いわ。」
大蛇は部屋の中を縦横無尽に動き回り部屋の壁はどんどん砂になってゆく。
スピードはそこまで早くないので簡単に避けられるが呪いのせいで攻撃が出来ない。
適当にそこら辺に転がってた人の顔くらいのサイズの石を投げてみたが当たると同時に砂になった。
「うーん、これは倒しようがないなぁ、どないしよ。一旦帰るのもありやでこれ。」
レイ・リーが撤退を提案する。
「しょうがな……、待て、おかしくないか?」
俺もその案に乗ろうとしたが少し違和感を感じる。
「体の表面に「砂の呪い」があるならなんであいつは沈まないんだ?」
よく考えてみれば体に触れるだけで人もものも砂になるなるのならばあの大蛇は地面も砂にしてしまい沈んでゆくはずなのだ。
「レイ・リー、多分あの大蛇の腹には呪いがかかってない! そこを攻めればかてる!」
彼も俺の言っていることをすぐに理解したようだ。
「ほな、やってみるか! カナメ、僕が隙を作るから全力でこの蛇を殴ってくれ。」
「わかった!」
俺は大蛇から少し離れて。
「ミー・バフ・フィジカ。」
自分には身体能力向上魔法をかける。
レイ・リーは大蛇のヘイトを取っている。
「レイ・リー、準備はいいぞ!」
「わかった、こっちやアホ!」
彼は大蛇をおちょくるように逃げ回り相当のヘイトを買っているようだった。
大蛇がぎりぎりレイ・リーに追いつきそうになった瞬間に彼は高くジャンプする。
逃しはしないとばかりに大蛇も大きく。頭を上げて空中に跳ぶレイ・リーに噛み付こうとする。
「カナメ、いまや!」
「ウッラァァァァア‼︎」
ドンッ! ガッッシャァァアン‼︎
大蛇が頭を上げたことにより腹が見えた、その隙を俺は逃さなかった。
「砂の呪い」がかかってない腹の部分を全力でぶん殴る。
元々チートクラスの身体能力+チートクラスの強化魔法から放たれた拳は一撃で大蛇の体を打ち砕くのに十分すぎるほどの破壊力を有していた。
石でできた大蛇はもはや瓦礫の山と化していた。
「いやー、流石やな。あんな攻撃力なかなかお目にかかれんで。カナメと一緒でほんま正解だったわ。」
パチパチといたずらっぽく手を叩きながら賞賛するレイ・リー。
「それはこっちのセリフだよ。レイ・リーがいなかったら最初の突進で砂になってた。それに隙を作ってもられなかったら倒す事も出来てなかった。」
俺はレイ・リーに手を伸ばす。
レイ・リーも手を伸ばし互いに握手をした。
「それで、カナメはマッピングしたらクエスト達成なんやろ? それならここでお別れやな。」
俺がボスフロアのマップを作ってダンジョンから出ようとするとレイ・リーはそう言ってきた。
「僕はこの蛇について少し調べたい事があるからこのままもう少しダンジョンに残るわ。」
彼は大蛇の死体、というか瓦礫を注意深く見ている。
別に俺は大蛇には興味無いのでレイ・リーを残してダンジョンを後にする。
階段を登りダンジョンから出るともう既に日が沈みかけていた。
「思ったより暗いなー。」
ダンジョンに潜っていたせいで時間感覚が狂っていたようだ。
俺は再び馬を魔法で強化してワンドックの街に帰る。
ギルドには戻る頃にはすっかり日も暮れ夜になっている。
「受付嬢さーん、マッピング終わりましたよ。」
俺は10階層分のマップを受付嬢さんに手渡す。
受付嬢さんはすごく驚いた顔をしていた。
「たった1日でマッピングを終わらせるなんて、移動ですら往復2日はかかる距離ですよ⁈ 」
「いやー、そこは魔法でちょちょいっとね。」
「ふふっ、面白い冗談ですね。カナメさんは魔法ぜんぜんダメだったじゃ無いですか。」
笑顔で全否定かよ!
そういえばまだ魔法ランクはCのままだったんだ。
なんでもランク試験は半年に一回しか受けられないらしいので当分は総合Bランクのままだろう。
とりあえずクエストの報酬として1050万ペルを受け取り依頼は完了した。
「ところで……」
報酬を渡した後受付嬢さんが話しかけてくる。
「ギルド本部からの伝達で各支部で精鋭を募れって言われてるんですよ。」
精鋭?
「それがどうしたんですか?もしかして俺がそれに選ばれたとか?」
いちおう詳細を聞いてみる。
「そうですね、今候補のリストに入ってます。どうやら魔王軍との戦いに備えてのものらしいのですが、精鋭パーティーに入って貰えませんか?」
魔王軍かぁー。なんか強そうだし面倒くさそうだな。
「すいませんね。俺は一人で気ままにやって行きたいからその話は断らせてもらいます。」
「そうですか、残念ですが強制力は無いですからね。その分クエストは頑張ってくださいよ!」
受付嬢さんは話を断った俺にも笑顔で頑張れと言ってくれる。
ランク試験で性格が露呈しなければ好きになってもおかしくなかっただろうな。
俺はそのままギルドを出て近くに借りている貸し家に帰る。
この家は賃貸とは言っても一軒家なので住み心地がいい。俺は冒険の汚れを落とすべく風呂に入り、ゆっくりとご飯を食べながら書店で買ってきた本を読む。
いやー、こういうスローライフってやってみると意外といいもんだな。
元の世界にいる時はこんなのお年寄りしか望まないだろ、とか思っていたけど想像より心に余裕が出来て楽しい。
俺はご飯のあと食器洗いを終え本の続きに戻る。
しばらく本を読んでいると
ドンッ! ドンッ!
だれかが扉を叩く音が。
「どちら様ですかー?」
俺は扉を開ける。
「久しぶりね、カナメさん。あなた、なんでスローライフなんか送ってるのかしら? 」
そこには見覚えのある人物が。
そう俺を転生させてくれた女神だ。
「魔王倒すきあんのか‼︎ 」
女神はそれはもうお怒りだった。
次回、女神様ご立腹。
今でちょうど十話まで来ました。 ここで少し気になる事があるのですが、新しい登場人物の登場ペースとか、戦闘描写とか、話のテンポとか個人的に気になっていることがいくつかあります。
このままでいいとか、こうした方がいいと言うご意見があったら教えて下さい。
その通りに話を変えるわけではありませんが参考にしたいです。
あと1000pv達成しました。
十話までに達成出来ればいいなと思っていたので嬉しいです。
ありがとうございます。




