宙を舞うカライ兵
ギャリギャリと鉄製の車輪が地面を抉る。
カライ軍が持ち出してきたのは、大口径の移動式砲台だった。
砲台は横一列に等間隔で配備され、その数はエストリアの騎士を全員照準に収めている。
兵は丸っこい砲弾ではなく、角張った、半透明の水晶を中へ詰めた。
魔石である。
カライ兵はそれをエストリア兵に向けることなく、四十五度上空へ向けた。
「なんなんでしょうか、あれ?」
タカシが不審に思ったのか、デフに尋ねた。
「大砲だね。僕の障壁は砲弾くらいだったら防げるんだけど……」
「砲口がまるっきり、見当違いの方向に向いていますね」
「ふむ……」
デフは何もしゃべらなくなると、そのまま押し黙ってしまった。
次の瞬間
ドォォォォォン!
と、火薬の爆発する音が轟いた。
大砲から射出された砲弾は上空に舞い上がると、砕けて四散し、あたりに降りそそいだ。
直後、エストリア兵から次々に叫び声があがる。
ある者は斬られて血を流し、ある者は首を刎ねられていく。
今までとはまるで逆の光景に、エストリア兵はすっかり委縮してしまっている。
「こ、これは……!?」
エストリア陣営の人間も驚きを隠せないのか、皆、開いた口が塞がらない様子だった。
「魔法障壁が……消えた……?」
「まさか、こんなことが……?」
「デフ殿、これは一体……?」
「やっぱりそうか……あれは相殺の魔石……」
デフの一言に、エストリア陣営のざわめきが大きくなる。
『タカシさん、相殺の魔石って?』
「……サキちゃん、相殺の魔石って?」
「デフっち、相殺の魔石って?」
質問はたらいまわしの様に回り、デフのところへと辿り着いた。
「相殺の魔石はね、名前の通り魔法を相殺させる効果を持った魔石なんだ。これを使われると無条件で、敵味方関係なく魔石をはじめ、すべての魔法が使用不可になるんだ」
「そんなものが……」
「でも、一番驚くべきは、なんでカライ軍がそれを、大量に持っているかってことなんだ」
「それほどまでに貴重な物なのですか?」
「そうだね。採れるとしても半年にひとつ採れるかどうかなんだ」
「そ、そんなに?」
「うん。相殺の魔石はその性質が性質なだけにね」
「じゃあもう、デフっち用無しじゃん」
「おい、サキ」
「いや、僕もそろそろ前線にでるよ」
「た、大将が……ですか」
「こうなったらこっちの数が多いとはいえ、ひとりひとりの兵力が高いカライ軍に押し戻されるかもしれないからね。それになにより、今のエストリア軍はちょっと混乱状態にある。突然のこととはいえ、これではすこしマズイ」
「たしかに、安全だと思っていた障壁がない今、エストリア騎士の心は揺れていますね」
「さらに言えば、この中で僕が一番強いからね」
「おお! 言うじゃん。……でも、サキちゃんもルーちゃんも、けっこー強いよ?」
「知ってるよ。……だけど、ルーシーさんは本気を見せてくれないみたいだしね」
「う……」
「それにポテンシャルが高いとはいえ、サキさんはまだ発展途上だしね」
「ムム……こうなるんだったら最初から、風の魔法で魅了毒を散布してたらよかったね、ルーちゃん」
「だな。もう魔法は使えねえから、地道に白兵戦やるしかねえか」
「じゃあ、行ってくるよ」
デフはそう言うと、重厚な兜をかぶり、ズンズンと前線へ向かっていった。
その後ろには、陣営にいた黄金騎士や白銀騎士らも付いていっている。
「……オレたちもでるぞ、サキ」
「りょーかいりょーかい。ぶちかましてやろうぜ!」
◇
一時、戦況はカライに傾きつつあったが、主戦力が前線に加わったことで、五分まで持ち直していた。
狼狽していたエストリア兵も徐々に戦意を取り戻し、兵力で上回るカライ相手に善戦していた。
その中でもとりわけて、デフ率いる小隊とタカシ、サキのコンビの活躍がめざましかった。
デフの小隊は中央から敵陣に突っ込み、強引に前線を押し上げている。
タカシとサキは周囲の敵をなぎ倒しつつ、押し上げた戦線を押し戻されないようにしていた。
時折、カライ国の砲撃がデフを襲うが、デフはそれを盾で、腕力で容易くはじき返していた。
その光景はまさに、暴走列車。
突っ込み、蹂躙し、跳ね飛ばす。
デフの通ったあとはもはや、力尽きたカライの兵が転がっているのみであった。
「本気じゃないとはいえ、やっぱ聖虹騎士はすげえ……な!」
剣で敵をなぎ倒しながら、タカシはその光景に感嘆をもらした。
タカシの黒剣は鎧や剣など関係なく、なんの抵抗もなく切り伏せている。
「敵さん、デフっちの体当たりくらって、宙舞ってる……よ!」
タカシの剣を剛とするなら、サキの剣は柔。
突剣で、相手の鎧の隙間を正確に狙い突いていた。
「オレらも負けてらんねーぞ」
「えー、ルーちゃんなんでそんなにやる気なのー? キャラ変わってない?」
「今回のでまた手柄立てたら、グッと白銀が近くなるからな」
「へえ? そうなの?」
「ああ、王様が言ってたって、ヘンリーが言ってた」
「ルーちゃんはそれ信用してんだ?」
「……おまえな、やる気失くすこと言うなよ」
「ごんめー、何でもするから許してー。なんでもするからぁ」
「おまえ、それが言いたかっただけだろ」
「てへぺろ。バレた? ……って、なんかでてきたよ」
サキの視線の先。
そこにはデフと同じくらいの背丈の男が、仁王立ちで、口をキュッと結び、デフを睨みつけていた。
「やあやあ我こそはカライ国、ダス――」
ドガン!
金属と骨とがぶつかる音が響く。
男は口上を最後まで述べることなく、大空を舞った。
「容赦ねえ……」
「なんがしたかったんだろ、あの人」
『それにしても、タカシさん。なんだかおかしくないですか?』
「なにがだよ」
『お相手さんも、なんでこの程度の戦力で、戦争なんてふっかけてきたんでしょう』
「底をまだ見せてねえだけなんじゃないのか?」
『前を見てください』
「……敵の陣営が見えてきたな」
『どうなってます?』
「なんかスゲー慌ててるな」
『でしょ? あの様子は、絶対演技なんかじゃないですよ』
「だったらこっちの戦力を見誤ったとか? 聖虹騎士ひとりでここまでひっくり返されるなんて思わなかった、とか?」
『うー……ん』
「なんだおまえ? さっきから何が言いたいんだよ」
『いえ、すこし気になっているだけなんですけど、さっきの相殺の魔石しかり、なにかが引っ掛かるんですよね……』
「引っ掛かってるのはいいけど、もうすぐ、この戦争も終わりだぞ」
『そうですね。最後まで気を抜かずにガンバってくださいね』
「んー……まあ、そのつもりだったけどさ」
やがて、デフたちの小隊が敵陣営の真ん前まで進攻した。
デフは速度を緩めると、カライ陣営に立ちふさがった。
手にはカライ兵の血を吸った大盾。
カライ陣営はそれを見ると、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、デフを見たまま、固まっている。
「次は自分がやられる」
そう言いたげなカライ陣営の視線を他所に、デフは口を開いた。
「あなたが、カライの王様ですね」
デフの口調はいままでとは大きく異なっていた。
それはとても冷たい声色で、まったく相手のことを意に介していない話し方だった。
「貴様ッ、これは一体なんのつもりで……!」
「宣誓の通り、あなたの命をもらい受けに来ました」
「な……ッ!?」
「王よ! お下がりください!」
「ここは私たちに――」
ブチィ!
デフと王の間に割って入った兵士ふたりが、大盾に潰される。
「これは……こんなことは……っ!」
「最期に、ひとつだけ遺言を聞きましょう」
「ぐ……っ、ぬぬぅ……貴様……貴ッ様ァァ……!」
「遺言はなし。ということで、よろしかったでしょうか?」
「よくも! この儂を謀り――」
ドガァン!!
カライの王がおおきく宙を舞う。
王はそのまま地面に叩きつけられると、ビクンビクンと小刻みに痙攣した後、動かなくなった。
そこへタカシとサキが遅れてたどり着いた。
「デフさん、やりましたね!」
「そうだね」
「なんかぁ、遠くで見た感じだと、言い争ってなかった?」
「……いいや、そんなことはないよ」
デフはタカシたちを振り返ると、にっこりと笑ってみせた。
兜や鎧には、敵の返り血が大量に飛び散っていた。
「いやぁ、これで終戦ですね。すこし拍子抜けしたというか――」
「いや、まだだよ」
「へ?」
「まだまだ残ってるじゃないか」
「いや、でも、カライの指揮官はもう……」
「僕は宣誓どおりに、カライの兵をひとり残さず、殲滅しないとならない。もう二度とこういうことが起きないように、反乱の芽を最後まで摘まなきゃね。それくらい徹底的にやらないと」
「しかし……」
「デフっち……目が笑ってないんだけど……」
「ルーシーさん。サキさん。……手伝ってくれるね?」
「……は、はい。よろこんで……」
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