変えるべき物、それは――
・2021年10月29日付
細部調整
西雲春南のプレイからしばらくが経過した午後2時――事件は唐突に起こる。ネット炎上と同様に、今回の事件も些細なきっかけから唐突に発生し――被害を発生させていた。
【ミカサ、予想外の炎上】
【あのミカサがまたもや炎上する】
【ミカサ炎上、またしても】
【助けて! ミカサがまた炎上しているの!】
【ミカサ炎上。地下アイドルの芸能事務所と密約か?】
まとめサイトの様々なタイトルを見て、我が目を疑ったのはビスマルクである。記事の内容を見る限りでは、どう考えても偽の煽り記事なのは明らかなのに――コメントでツッコミを入れた人物まで巻き添えで炎上していた。
どう考えても、これはおかしいと言及できない空気が生まれようとしている。何故、ここまでミカサは嫌われ続けているのか?
その一方で、一連の炎上を偽ニュースによる物と把握して動いている人物もいた。それは――ダークバハムートである。少し前にはバハムートを名乗っていたのだが、現在はそれを越えると言う意味でもダークバハムートを名乗る事にした。
「こちらは、これ以上動けば――逆に向こうが逃げ出すだろうな」
自分の方を見ているであろう監視カメラの方を向き、それに向かってハンドガンを撃つ。銃弾はリアルな銃弾ではなく、ARゲーム用のCGによる物だ。これが命中してもカメラが物理的に壊れる事はない。
しかし、この銃弾には――ある仕掛けを施している。監視カメラにダークバハムートの映像が表示されていないのが――その証拠だ。
その様子を偶然目撃したのは、一人の女性――いかにも自分はヲタクとは違うとアピールしている訳ではない一方で、地味な服装センスで偽装しているとも。
身長が180センチと言う段階で、周囲の女性とは違う意味で目立つのだが――当の本人は気にしていない。
「なぁるほど――ね」
メカクレと言う事であまり目の前の光景は見えないのでは――と周囲は思うが、彼女にはダークバハムートが何をしていたのか把握していた。その行動を放置しておけば危険という認識ではないと思うが、今は黙認すると言う気配かもしれない。
「とにかく、今は炎上勢力と言うよりも――」
彼女が立ち止まってタブレット端末のニュースを確認すると、そこにはあるまとめサイトの記事が表示されてた。
【ミカサ、予想外の炎上】
この記事を見た時、彼女は言葉に出来ないような憎悪を――記事をまとめた人物に向けていた。あまり、憎悪等のネガティブイメージを嫌う様な彼女が、こうした感情を抱くのはイレギュラーとも言えるだろう。
同刻には様々な動画がップされ始め、その中には西雲春南の物もあれば、黒騎士ナガトの物もあった。ナガトは瞬時で10万再生を突破したが、西雲は10分経過した辺りで10万再生――彼女は壁を破れていない。
「ナガトと言う人物――まるで、やっている事がミカサの劣化コピーにも見える」
草加駅に設置されたモニターを見ていたのは、賢者のローブを身にまとっているヴェルダンディだ。彼女の外見を見ても周囲は何も疑問に持つ事がない。草加市内ではコスプレイヤーも多くいるので、もはやそう言う街と認識した可能性もある。
それでも、観光客や初見のギャラリーからは歓声を浴びる事もあるだろう。
「劣化コピーなのは、ミカサの便乗プレイヤーなのでは?」
ヴェルダンディの隣に姿を見せたのは、赤髪セミロングのメカクレ――服装はサバゲ―でも行くかのような装備一式を連想させた。
「ウルズがあのタイミングで姿を見せなければ――」
「それを今更言っても無駄だ。向こうは同調さえも拒否していた」
「同調拒否はお前も同じだろう? スクルド――」
自分の事を突っ込まれたスクルドは他人の振りでスルーしようとしたが、それは無駄なのかもしれないのは自覚している。ヴェルダンディの言う変革には賛同しているが、三笠の出現で変えられないのは彼女も一緒だった。
「しかし、三笠の出現が全てを変えてしまった。実力者こそが全てと言う流れを作った事には――」
ヴェルダンディは、三笠と名乗る人物がARゲームの変革を阻害していると――。だからと言ってネット炎上やSNSテロで個人を貶めたりするのは、自身のプライドにも反する事だ。
彼女はあくまでもARゲームで全てを決める――。それこそかつてオケアノスでARゲームが盛り上がった時に言われていた。
「ネット炎上系やウェイ系、ニワカ、承認欲求タイプ――そうした人物がいる限り、超有名アイドル商法は繰り返される」
途中からヴェルダンディの口調も変化し、表情も真剣な物へと変わっていく。おそらく、彼女も過去にARゲームが大炎上を迎えた時代があった事を知っているのかもしれない。




