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彼は自分の気持ちに鈍感である

人間というのは大きくわけて二つの部類がある。

できる奴か否かだ。

必要とされる人間は昔から努力してきたのだろう。

自分を好いてほしくて、必要とされたくて、自分がいないとダメと思われたいのだろう。

だからそういう努力をしているのだ。


だけどそれは必要とされない人間だって変わらないと思う。

ただそいつは努力が実らなくて。

自分より上がいると思っているから自分はいらないと思い込み挫折してしまったのだろう。



多分こういうのを一般的に勝ち組、負け組というのだろう。


世間が。

周りが。

この世界が。

そいつの特別で特殊な部分を見つけてあげられなかっただけなのに。


負け組の未来はどん底に落ちていく。


ということはそういう形で関わってしまった周囲の奴らは加害者と言えるのではないか?

結果的に相手の未来を壊すような形で関わった奴らは犯罪者と言っても過言ではないのでは?



どちらともスタート地点は同じなのだ。

なのに距離が開くと考えていることは変わってくる。

そこで前のやつに追いつこうとしないから負け組になるのだ。

そこで後ろのやつに手を差し伸べないから自己中心的な独裁者になるのだ。

負け組というのは基本的に自分から道を踏み外した愚か者であって。

勝ち組というのは結論的に周りを陥れ頂点に立とうとする非平和主義者である。



私が思う結論を出そう。

できる奴とできない奴の違いは周りに災いをもたらすか、自分に災いをもたらすかということである。


だから私は今勝ち組でも負け組でもなく「被害者」であることを伝えます。

 よし。

 これでいいだろう。


 満足げに作文を書き終えた逃伊崎愛人はそれを提出した。





 「逃伊崎、ちょっとこっち来い」


 帰りのホームルームが終わったあと俺は入江先生に呼ばれた。


 「なんでしょうか」


 「なんでしょうか。じゃあないだろ! なんだこの作文は! ふざけてるのか。」


 「いやいや全然ふざけてないですよ。だってこの作文のテーマは『高校生活で感じたこと』

 じゃないですか。だからそのままですよ。俺が思ったこと、感じたことをそのまま書いただけです」


 「なぜ「高校生活で感じたこと」で人生を終える人のような考え方をしているのだ?」


 「人生についてなんて知りませんが学生だって社会人のように格差社会があるんです。それについて俺は上と下を勝ち組と負け組という言い方に変えただけですよ。先生だって大人なんだからわかるでしょう?」



 「……はぁ、まったく君という奴は」


 俺が勝ち誇ったようにドヤっとしたせいか、先生はため息をこぼし呆れた。


 「普通こういうものでは、「勉強が難しくて困っているが友達がいるから大丈夫」とか「部活が楽しくて青春してます!」とかそういうことを書くものだろう?」


 「……いや俺友達いないですし、部活なんて……」



 昨日のことを思い出して口をつぐんだ。

 結構重要なこと()()()()()()()から仲よくなったってことでいいのかな?


 「ん 、どうした 、なにかあったのか?」


 「い、いや、逆に全く何も無かったです。はい。なさ過ぎて困るくらい何もなかったです」



 顔をひきつらせバレバレな嘘をついてしまった。


 「そうか。ならばよいが」


 先生はふぅ、と息を吐いてこう続けた。


 「彼女は君のようにひねくれてないし、職員からも生徒からも評判のいい生徒だ。だが人が良すぎるあたりそれが仇となることもあるのだろう。その分の彼女の苦労は耐えないだろうな。だから君は彼女を……新山莉織を救ってやってくれ」


 先生は俺の目から目をそらさずそう言う。


「…………何言ってるんですか。まったく。俺が人を救えるのならまず真っ先自分を救いますよ。こんなにかわいそうな人はそうそういませんよ。それにあいつは俺なんかの救いなんて必要としてないと思いますよ」




 そうだ…………

 俺はだれも救えない。

 だから自分だって救われない。

 だから俺は常に何かを考えている。

 考えて考えて考えて考えて俺の()()をだすんだ。



「……ふふっ。そうか。そうだな」


 何かを察したように先生は微笑した。


「じゃあもう出ていいぞ。それとこれ。明日までに書き直して再提出な」


 笑顔でプリントを渡してくる先生に少し後ずさった。



 全く笑いかけてくるとかやめてくれよ。

 あんた綺麗なんだからドキッとしちゃうだろ。

 あとこんな状況であってほしくなかった。




 職員室から出た俺は部室へと足を向けた。

 廊下ではすれ違いざまにぶつかってくるやつ。

 どこか遊びに行くか決めてるやつ。

 部活に向かうやつ。

 こいつらは自分がいま青春していると思っているんだろう。

 ま、自分でそう思いこんでるならいいんじゃないかな。


  ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 部室(相談室)に入ると新山莉織の姿はなかった。


 あれっ?

 この部屋の鍵ってあいつしか持ってないのになんで開いてるの?


 すると、ロッカーの方で

 ガタッ!! 

 っと音がした。

 急だったので俺は裏返った声で「ひっ」っと。


 そしてなかったように。

 俺は何もしてないという雰囲気を持ち出し。

 音のなったロッカーに恐る恐る近づくと。

 中から小さな笑い声が聞こえてくる。


 ロッカーのドアを開けると中には新山がいた。


 「ひっ!、って。ひっ!、って。あははははははは」



 もうみつかったから俺のことを馬鹿にするように大笑いしだした


 あーもう恥ずかしい!

 恥ずか死にそう……

 ちょっと怒ろうと思ったが、笑顔がとてもかわいかったので怒る気がうせてしまったよ。


 なんでみんな笑ったらこんなにかわいいの?

 訳が分からないよ。

 俺も笑ったら可愛くなるかな。

 あ……やめよ。

 絶対ゴミを見るような目で見られる。



 「...なにしてんだこんなところで」


 「普通の人かと思ったの! 私人気者だから一人でいるところとか見られるわけにはいかないじゃない。それくらい理解してよ」


 あ、俺普通の人じゃないんだね。

 これでドッキリ大成功!とかいわれたらときめいてたかもなのにな。

 もう最初の時の気持ちなんか無くなっちゃってるよ。


 まあ、俺が知らない一面を見れて良かったかな。



 少し幸せな一日だったかもしれない。

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