人生は決していいことずくめではない
夏は嫌だな
暑い……とにかく暑いのだ。
昼夜逆転夜行性の俺はタダでさえ朝がきついというのに日差しは容赦ない。
気温30°越えとかふざけんじゃねぇぞ。
溶けるわボケェ
車の中は冷房がついて涼しいかもしれないが
満員電車だったら冷房よりも人の混雑密集で涼しさなんて感じられないだろうな。
想像したくもない。
……だが
俺は暑さや密集よりも。
なによりも!
虫が嫌なんだ!!
小さい頃はアリやカマキリ捕まえたりはしてたんだよ。
昆虫園とかいってたんだよ。
触るのだってなんら抵抗なかったさ。
でも忘れもしない中学1年夏、体育祭の練習でその思いは変わった。
100m走の練習ということで横に並ぶ数人のクラスメイトと競うというものであったのだが、不幸中の不幸と呼んでいいだろう。
横のやつのがバランスを崩し俺にぶつかり俺だけが転倒。
それだけで良かったんだ。
転んだ顔の先にはカブトムシ。
……やってしまったんだ
お前らにわかるか。
潰した時虫の体の中身の液体が顔にグチャっとつく時の感覚が。
お前らにわかるか。
潰したカブトムシの顔が目の前にあって体がないのに角と口が動いている時の恐怖が。
ごめんなカブトムシ。
お前に罪はないんだ。
こんなことを人生で経験してるのは俺だけだと思う。
あれを経験してしまった後はいろんな虫を詳しく見るようになるよね。
蝶とか何が綺麗なんだっつーの。
羽とか鱗粉撒いてんだぞ。
顔良く見てみろよ、
あの長い口と絶対近くで見てはいけない目。
マジで怖すぎるから。
みんな「虫の目」で検索。
そしてトラウマになっちまえ。
これを踏まえて俺は夏が嫌いということが分かってもらえたかな。
ということで俺はさっきから後ろで岡山君たちと虫みたいにうるさくしてる河頼美奈が苦手です。
権力者の周りにいて自分の居場所を確保するのは構わないのだが、
維持するために関係ないやつを見下すのをやめてほしい。
話が続かなくなったら必ず
「〇〇って顔面偏差値低いよねー」
「〇〇さーマジつまらんよね」
っていう風に俺が何度けなされたか。
お前ほんと人のこと言えるんかっつーの。
見ろよ話の相手してる奴らほとんど愛想笑いだぞ
井原なんかため息ついて興味もなさそうじゃんか。
「にぃさっきくん♪」
リズムの乗って話しかけてきたのは茎根だ。
「ん、なんだ。やけに明るいななんかいいことあったか」
「別にー。ていうかまた相談部に相談したいことがあるんだ!」
彼女がそういったとき俺はその時の感情を表に出してしまったのだろう。
「まぁまぁ、そんな顔しないでさ。放課後行くからね」
「いいんだけどさ。なんでそれを新山じゃなくて俺に言ったんだ? あいつの方が了承してくれやすそうだろ」
「それはね……」
そこで一度呼吸をし
「君の方が近かっただけだよ」
…………
なんだよ、ちょっと期待しちゃったじゃねぇか。
「それじゃ、またね」
それだけ言い残して茎根は戻っていった。
あーまたあんなんだったらどうしようかなー
リア充らしく恋愛話とか将来の夢についてとかなら簡単でいいんだけどなー
あーー......
はぁ......
俺はため息をついた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
そして放課後。
やることも話す人もいない俺は誰からも「じゃあね」「また明日」などと言われることなくさっそうと部室へ向かう。
すぐに向かうあたり俺はあの部屋を自分の居場所としているんだな。
扉は開いている。
中には椅子に座ってウトウトしている新山の姿があった。
椅子に座るために近づくと彼女はこちらを向いた
無言のままこちらを見つめる新山。
どうしたらよいかわからず身動きが取れない俺。
するとんーと体を伸ばし
「おはよう。逃伊崎くん」
「もう4時半だ。こんにちはの時間帯だ」
「時間なんてどうでもいいの。私は今起きたからおはようなのよ」
「んー......理屈は通ってそうだな」
「この場にはあなたと私しかいないのだからあなたが認めればそれでいいのよ」
俺達がどうでもいい会話をするのは仲がいいからではなくて似ている部分があるからだろうな。
「あ、そういえば今日、茎根がまた来るってよ。相談があるんだってさ」
「そう。別にいいんじゃないの」
「なんか冷めてんな。お前あいつのこと嫌いなの?」
「いえ別に、少し苦手なだけよ」
前来た時に一緒に帰ろうとしてたし、楽しそうに喋ったりしているから仲がいいと思っていたがきっとあれの事なんだろうな。表面柄のこと。
だから聞いてみた。
「またあれか、茎根もお前の上っ面しか見てないってことか」
「それもあるけど、あの人少し違和感の感じる人なのよね」
「はぁ、違和感ね」
確かに感じる。
一番最初は人に気を使ってばっかりの根暗だと思っていたが、わざわざ人のために相談部まできたり、意外と積極性があったり、今日のテンションだっておかしかったな。
「あの人人によって接し方変えるのよ。権力者うんぬんじゃなくて好き嫌いで分けてるわけでもなさそうなの」
「それってただあいつがマイペースなだけじゃないのか」
大した言葉が出て来ずそう言ったが
「そうなのかしら。こういう時人ってよくわからないって考えてしまうわね」
新山を余計深く考えさせてしまったようだ。
すると扉がスゥーと開けられ
「相談しに来ました」
と、茎根が入ってきた。
その後ろには小さい声で、失礼しますとい言い入ってくる河頼美奈がいた。
「今回はこの子の相談なのです!」