新山莉織は何もしない
午前6時
今日はいつもより1時間も早く起きた。
こうやって早く起きた時はいつも二度寝してしまうが今日は眠気が飛んでしまってる。
まぁたまにはこんな日があってもいいかな。
ちょっと忙しくなるからって体が緊張してるのだと思う。
まったく。
俺の仕事は情報収集だけだというのに……
なれないことをしようとするからだ。
さっさと家族の朝ごはんを作ってしまおう。
うちは朝一番早く起きた人が朝ごはんをつくるという決まりである
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俺は登校中も周囲に気を張っている。
俺が初日に振られたくせに新山の近くにいることが気に入らない連中がいるらしい。
そりゃそうだよな。
なんとなく気持ちはわかるぞ。
最近はあまり何も起きてないが少し前は不幸の手紙とか来たものだ。
一昔前のちゅうがくせいかよ。
しょうもなさすぎだろ
いじめといえるほどのことはされてないが
いつ被害が大きくなるか分からないので一応気を張っているのだ。
いちおう、な。
さてクラスについたがどうしようか。
俺ができることなんて少ないし。
選ぶ相手をミスってはいけないし。
間違ったやつに情報を与えて
敵に回されたら俺が何も出来なくなるだけではなく、そのあとに起こることにも警戒されるからな。
少し観察してみようか。
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やばい。
昼休みにもなったがまだわからない。
なんとなくの目星がついたが確信が持てない。
これじゃダメだ。
どうにかしないと。
すると新山と茎根が近づき話しかけてきた。
「どう。わかった?」
新山がそう聞いてくるが
俺は首を振ることしかできない。
「何かきっかけさえあれば.....」
俺が小さくそう呟くと茎根は歩き出した。
「お、おいそっちは」
茎根はサッカー部のグループの方に歩き出したのだ。
何をする気だ。
茎根はサッカー部のグループの中の一人を呼び出し廊下へ連れていった。
5分ほど経っただろうか。
茎根が戻ってきた。
「なにしてたの」
新山がそう聞くと
「説得? おねがいごと?」
疑問形で茎根がそういう。
「でも昨日の話だとあの人達は茎根さんたちの話を聞いてくれないんじゃなかったの?」
「ごめんね。ちょっと話盛ってたかもなの。あの中に私の幼馴染がいるからあいつだけは話聞いてくれるんだよね 」
そういうの先に言おうよ。
授業中も監視していた俺の集中力と時間返せよ。
あとそれじゃ俺いらないじゃん。
「それでなんて聞いたの?」
「少しずつでいいから柳くんの悪い噂を止めるようにしてくれない? って」
「おい、それは大丈夫なのか。立場的にそういうこと言えるものじゃないと思うぞ」
もしもそいつが
「いい加減こういうのやめようぜ」
とか言ってしまった場合どうなるか予想がつくだろう。
きっとグループから外されて厳しい状態になる。
でもそうならないようにする手段が思いついたから大丈夫だ。
俺って意外と優しいのかもな。
すると怒声が聞こえた。
「は……お前なにいってんの?」
うわマジかよ
やっぱりそうなるのか。
上手くいくことはないと思っていたが......
何が少しずつだ。
絶対単刀直入に言っただろ。
「おい、なんとか言ってみろよ、全部俺が悪いって言うのか」
「そ、そんなことはないけど……」
「じゃあ何だっていうんだよ!?」
ほら責められてんじゃん。
クラスの雰囲気が重くなった。
はぁ。
俺はこの学校で一番嫌われていると思われてる人物で、入学初日に告白するという勇気まで持ち合わせている男だぞ。
今の俺にできないことなんてない。
多分
んで、残念なことにこの学校程度の人間なら全員相手にできる自信がある。
もちろん1対1でな。
「おい、お前」
名前知らないから呼べない。
でもこういうときは勢いが大事。
「あ、んだよ逃伊崎」
あっちは俺の名前知ってるわけね。
「お前、分かってるんだろ? 世間的に考えて自分のやってることが悪いことだって。お前そんなんじゃこの先やっていけないぞ」
俺は口だけなら自信があるのだ。
劣勢になってはいけない。
「な…なんのことだよ」
「とぼけんなよ。もうみんな知ってる。お前が柳の評判を落としているのはな」
ホントはみんな知らない。
ここははったりで押しこむ。
「く……でも柳を嫌ってるのは俺だけじゃないぞ! こいつらだって言ってたんだ!」
「え、なに言ってるんだよ! 俺じゃないぞこいつからやろうって言い出したんじゃないか! 俺は違うぞ!」
「ちがうぞ! お前があいつをいじめようって俺に言ってきたじゃないか」
「俺じゃない! お前だ!」
「違う! お前だ!」
お互いに自分の責任のなすりつけあいが始まった。
あーあー醜いなー
でもこんな簡単にこうなるなんて思ってなかったな。
だって俺三言しか喋ってないんだぜ。
勝手に自爆し始めたこいつらが悪い。
ほんと内輪もめって最高。
こんなにクラスのやつが見てる中で図星をつかれたからって殴りかかってきたりは出来ないからな。
この状況は好都合。
しかもお互いに責任をなすりつけることでこいつらの関係は崩れていく。
一度崩れた関係は早々戻らないからな。
なかなか面白い。
「おい、そんなことしてないでまずは謝ってこいよ」
いつまでも言い争いしてる彼らに俺はそう言った。
「………」
言い争いがピタッと止まり彼らは俺の方を見た。
「ほら早く行けよ」
完全に勝ったつもりでいる俺は強気でいる。
すると彼らは訓練された犬のように俺の言葉に従って柳の方へ行く。
「今まですまなかった。どうか許してくれないか?」
主格のやつがそう謝ると周りのやつも次々に謝り始めた。
「いや、大丈夫。そんなに気にしてないから。それよりもこれから仲良くしてくれよな。」
柳は優しい声で包み込むようにそう言った。
こいつはこういう所があるから周りからの評判が良かったんだろうな。
柳を知らない奴がこいつらの嘘の噂を鵜呑みにしていても、きっと柳と関わったらそんな噂すぐ無くなっただろうな。
というかこいつら、自分がやってることが悪いことだっていう自覚症状があるんならほっとけば適当に収まってたんじゃないか?
俺が頑張る必要も全くなかったし。
まぁさっさと収まってくれて良かったってことでいいのかな。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■」
放課後
いつものように部室へ向かった。
ドアを開けようとすると鍵がしまっている。
まだ来てないのか。
そう思った時新山莉織はゆっくり歩いてきた。
俺と目も合わせずドアを開け中に入る。
続いて中に入りドアを閉めると
「んー」
と、彼女は背伸びをする。
「今日は疲れたわね逃伊崎君」
口調がちがう。
二人きりだからか。
「今回お前は何もしてないだろ」
「そうね、何もしてないから被害も受けてないわ。だから私は無傷よ」
意味有り気な答え方をしてくる新山に質問した。
「なんだその言い方。誰かやけどでもしたか?サッカー部のやつらは結果的に柳と仲良くなれるんだから総合的にはプラスだと思うぞ」
「彼らの事じゃないわ。あなたよニートくん」
クスリと笑いながら彼女はそう言った。
「なんで小、中の俺のあだ名知ってんだよ。てかなんで俺なんだよ」
にいさきあいと、最初と最後を合わせたらにいとって誰でもわかるけど気づいて欲しくないものなんだよ。
「『あいつなに人のことで出しゃばってんだよ。』とか『あの勝ち誇ってる顔キモくない?』とか言われてたわよ。」
冷静にその時の状況を教えてくれるが……嬉しくない。
え、なんでそんなこと言われなきゃいけないの。
解決したの俺じゃん。
褒めたたえてくれもいいと思うよ。
ほんと理不尽。
いみわかんない。
「まぁ、別に構わないさ。直接本人に言ってくる度胸がないやつなんて相手にする価値もない」
「あなたみたいなひねくれている人が人の価値を見い出すのはどうかと思うけど……」
「今回結果的に傷ついたのは俺だけってことでいいじゃないか」
「あまり納得してないけどあなたがそれでいいなら、今回は見逃すわ。初めての相談、これで達成かしらね」
俺も新山も満足はしていないが上手くいったということでいいのだろう。
いまのところは。
こんなのが何回も続くと思うと胃が痛くなってくる。
ていうかもう痛いよ。
だれか胃薬ちょうだい