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思い描くものはそう簡単には実現しない

挿絵(By みてみん)


  上手くいくことなんてほとんど無いのだ




 雲ひとつない蒼穹(そうきゅう)

 桜が舞い散る中俺こと逃伊埼愛人は今学校に向かっている。

 そう。

 今日は財葉高校の入学式である。


 「高校では友達もたくさんできて? 彼女もできて? 運動部でエースなんかになっちゃったりして? 生徒会長までやっちゃったりして?」


 始まってもいない高校生活に大きな希望を抱いていた。


 そこで彼は


 はっ!!


 と我に返り周囲に誰もいないことを確認する。


 「ふー。よかったー。誰にも見られてないな」


 危ない危ない。

 こんなの見られてたら入学する前に高校生活ゲームオーバーだったぜ。



 そんなことをしているうちに学校につく。



 ここから俺の新しい生活は始まる!

 もう中学の時のような

 「ぼっち」

 という理由で起きた残酷なことはもう繰り返さないようにしなければ……

 失敗したことに対して弁論をし、憐れんでもらうことはできるが、()()()()という事実は残るのだ。

 そのためにもミスをしないことを決心しよう。



 待ってろ俺の青春!!




 玄関のガラスに自分の名前とクラスと書いてある紙が貼りだされている。

 自分のクラスを探すために数人が群がる中にわざと飛び込んで自分も探し出す。


「に……に……あ! あった。一年B組か」


 自分のクラス名簿を軽く見渡し安堵する。


 まあさすがにいないよな。万が一ってこともあったが心配無用のようだ。

 中学時代後半に失敗した過去を知っている人がいたら台無しになってしまう。



 だがもともと同じ中学の人のことなど大して覚えていなかったため今の行動はあまり意味がなかった。

 そうして彼は一年B組に向かう。




 教室の前で立ち止まる。

 クラスに入るのは少し抵抗があった。

 あえて誰も行かないような高校を選んだから全員が知らない人で不安と緊張で少し苦しい。

 だが!

 そんなもの乗り越えなくてどうする。

 これからの青春のために俺はやる!


 堂々とクラスに入り自分の席を探し、座る。

 周りに人がいるがあまりなれなれしく喋りかけるとウザいと思われてしまうかもしれないので今は何もしない。

 今はこれだけで精一杯なんだよ。


 8時30分ごろ担任と思われる若い先生が入ってきて教壇に立つ。


 「よーしお前ら座れよーってもう座ってるな。このあとすぐ入学式があるから私の自己紹介と出席だけとるぞ。」


 ここで


 「……んんッ…ッ…」


 と咳ばらいをし


 「まずは自己紹介から。私の名前は入江(いりえ)(すみれ)だ。在歴三年で去年の三年生を一年生のときから見ていました。担当科目は論理だ。これからよろしくお願いします。」


 そういいお辞儀をした彼女に俺たちはクラス全員で拍手をする。

 顔を上げ、ニカッ、と笑う彼女に対し俺はこの人は誰からにでも好かれるタイプの人間だと思った。

 それで俺は彼女と仲良くなりたい、同級生だったらよかったのになと思えるほど気に入ってしまっていた。


 「それじゃあ出席を確認するぞ。浅地幹太」


 「はい」


 「阿塗功」


 「はい」


 と名前が徐々に呼ばれていく。

 そろそろ名前が呼ばれる頃になると過敏になってくる。


 「…逃伊埼愛人」


 「はっ、はい!」


 「お、元気がいいな。いいぞいいぞ」


 褒められた!

 何て良い始まり方なんだろ。

 これはうまくいきそうだ。


 「それじゃもう時間だから廊下に並べよー。ほらはやく」


 入江先生全員に聞こえるようにそう伝え先導した。


 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 



 「新入生の入場です」


 マイク越しの声が掛かると廊下で待機していた俺は少し緊張してきた。

 俺のクラスは1年B組だから2番目に体育館に入ることになる。

 クラス全体で入るのに緊張するのっておかしいかな?

 でも体育館の中は年上しかいないし緊張もするよね。

 

 


「今日は日差しがよく山がきれいに見えましたね。新入生の皆さんは……………」


 〇〇式といえばやはり校長先生のお話だ。

 小学生の時から思っているがなぜこんなに話が長い。

 大体ほとんど誰も聞いてないし校長は歳食ってるから滑舌もあれなんだよな。

 聞き取りずらいし、内容もよくわからん。

 でもなんかその話ってマニュアル本あるらしいんだよね。

 前テレビでやってた。

 それをもとにしててもよくあんなに長く語れるものだよほんと。




 次は新入生代表の挨拶。


「新入生代表の挨拶です。一年B組新山莉織(あらやまりおり)さんお願いします」


「はいっ!」


 元気よく返事をしたのはうちのクラスの女子。

 遠目であったがロングヘアーの良く似合うスタイル抜群の美少女である。

 このときもっと近くで見たいと思ってしまい、ハートをつかまれたような気分だった。

 新山莉織が一番前に立ち挨拶をしてる姿から目が離せなかった。

 本当につかまれていたようだ。

 なんて単純。

 容姿だけで好きになるなんて......



 中学の時に容姿端麗でのおかげで学校のマドンナと呼ばれたやつに

 「あれは無理だねーww」

 と言われたのを忘れていたのだろう。

 告白すらしてないのに振られるとか。

 振られるというか食わず嫌いされてんだけど。

 いやあれはほんとにキツかった。

 涙が大洪水だよ。

 見た目に惑わされたのが馬鹿だった。



 忘れていたからこそこの時俺はこう考えてしまった。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と。



 この時に中学での出来事を思い出していれば先々まだ安定していたかもしれないのに。



 『今すぐにでも俺は幸せになりたい!』



 その考え方を固定してしまい、流れのまま告白しようと決めてしまった。



 入学式が終わり教室へ戻ったあと、後先考えずすぐに新山莉織のもとへ向かい

 「学校が終わったら体育館の裏に来てください」

 と伝えた。

 当然返事なんて待たない。

 伝えるだけ伝えるという相手のことを考えない自己中プレー。

 そしてすぐにその場から去る。

 全力で。



 俺は告白が成功すると思っているから内心ワクワクしている。


 ほんとに都合のいい。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 そして放課後、ホームルームが終わったあとダッシュで体育館裏に向かい、待つ。


 鼓動が早い。

 緊張している……


 すると新山莉織がこちらに誰もついてきていないか周りを確認しながらこちらへ向かってきている。


 あっやばい逃げ出したい。

 とりあえず深呼吸。


 弱気になっているともう、すぐ目の前にいた。


 「あの……何か用ですか?」



 え、いやいや察しろよ。

 流石にわかるだろ。

 異性にこんなとこ呼び出されたら告白しかないだろ。

 何この人天然なの?



 などと考えてしまっていると


 「あの……」


 「あ、ご……ごめんなさい、考え事してました。」


 「はぁ……それで何のようですか?」


 落ち着け俺。

 たった一言言うだけだろほら勇気だせ。


 自分にそう言い聞かせて深呼吸しその言葉を放った。


 「ふぅ……一目惚れしました、俺と付き合ってください!」


 「()()()()()()()()


 即答


 あーつら、ちょっとわかってたけど意外とくるなこれ


 「それだけですか? ならもう帰ります。」


 「ちょ、ちょっと待ってください」


 そう言って帰ろうとした彼女を引き止めた。


 「なんで嫌なのか聞かせてくれませんか?」


 「私にデメリットしかないからです。あなたと付き合って何かいいことがありますか?自分よりも優秀でもなく好きなわけでもない人と一緒にいたいと思えますか?私は無理です。それに入学初日から告白ということは外面しか見てないのでしょう?そんなのはもう嫌なんです……あんなことはもう……」


 と最後の方は声が小さくなっていったがちゃんと聞こえた。


 「ではもう帰らせて頂きます。さようなら」


 そういって彼女は帰ってしまった。

 唖然としてなにもいえなかった


 その場に固まること数十秒。

 俺の思考は慰めモードにはいった。



 しょうがないよな、俺みたいなやつが高嶺の花なんて狙ったからだな。

 うん。

 しょうがない。

 しょうがないんだ。

 でも俺にしては頑張ったな。

 よく勇気を振り絞った。

 えらいぞ俺。

 よくやった俺。

 ・・・・・・

 帰って寝よう。




 この後後悔した。

 なんで振られたあとのことを考えなかったんだと。

 なんで中学時代のこと忘れてしまってたんだと。

 なんで同じルート辿ってんだよ馬鹿なのか。


 と、様々なことが浮かび上がってくるが一番強く思ったことは



 自分に絶望した



 ということであった。



 俺が思い描いてた青春は自分勝手な自爆により初日から儚く散ることになったのだ。

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