前書き
初めて小説というものを書いた。
自分が著者になるとは思ってもみなかった。
僕はいつも他の世界のただの傍観者で、ただ他の人が作り上げた世界を手にとっては見届け、その世界の続き等を自分ながらに夢想しては、また次の世界へと手を伸ばす。
何度繰り返してきただろうか。
数える事なんてとうに諦めている。
きっかけは君のたった一言だった。
そのためだけに僕はこの小説を書きあげた。
いや、これを小説と呼んでいい代物かどうかも分からない。
君はこんな作品を読んだことがあると思うかもしれない。
表現が稚拙で、文脈が滅茶苦茶だと言うかもしれない。
それでも僕は構わない。ただ君が読んでくれさえすれば。
これを書いている間、自分で書き続けていて、顔から火と水がともに流れ出ているような感覚に囚われた。比喩としては適切ではないかもしれないけれど、本当にそんな感覚に囚われていた。
君はそんな僕を見て笑って、馬鹿にするかもしれない。
それでも構わない。
ただ君のためだけにこれを書いた。
これは君がくれた物語だから。
遠く、遠く離れてしまった君へ。
君の言った「小説家」というものがどんなものなのかは少し曖昧で分からない。
書いたものが本になってやっとそう言えるのか。ただ書くだけでそう言えるのか。
だけど、もし何かの奇蹟で本になったなら、それを君のもとへ持っていこう。
ならなかったなら、この文章だけでも紙に写し出して、やっぱり君のもとへ持っていこう。
そして、君といつかまた、桜の樹の下で――――。